50代から3年で受かる。科目合格制度を積み木のように使った1次突破の記録
リレー連載にお声がけいただきました、ごろーと申します。52歳です。
地方銀行に27年おりまして、融資審査と法人営業を長くやっていました。早期退職して、いまは独立診断士として、地域金融機関と組みながら事業承継や経営改善のお手伝いをしています。資格を取ろうと思い立ったのは49歳の冬でした。定年後も食べていける専門性がほしい、というきわめて現実的な動機です。
勉強は完全な独学、1次試験に3年かけ、3年目に2次試験まで通りました。ここで正直に申し上げておくと、私は「1年で駆け抜けた人」の話は書けません。書けるのは、時間も記憶力も限られた50代が、制度をどう使って3年で着地させたか、という話だけです。同じくらいの年代の方、あるいは仕事の密度が高くて時間が読めない方の、なにかの足しになれば幸いです。
なぜ最初から一発合格を狙わなかったのか
診断士試験を調べ始めてすぐ、1次試験が7科目あること、8月上旬の2日間で全科目を一気に受けること、そして合格基準が「総点数の60%以上で、かつ40%未満の科目がひとつもないこと」だと分かりました。
このとき最初にやったのは、参考書を買うことではなく、電卓を叩くことでした。
当時の私は支店の法人担当で、平日は帰宅が21時を回るのが普通。土曜も月に何度かは仕事が入る。家では義母の通院の付き添いもありました。冷静に見積もって、平日は朝1時間と通勤の細切れが30分、休日に3〜4時間取れれば上出来。週にすると12時間前後です。
7科目を1年でとなると、単純計算で1科目あたりに回せる時間は驚くほど少なくなります。しかも私は40代後半から、教科書を2ページ読むと前のページの内容が抜けている、という体験を日常的にしていました。若い頃なら一晩で頭に入ったものが入らない。これは気合いの問題ではなく、単純に、そういう年齢になったということです。
それでも一発合格を狙う道はあったと思います。ただ私が怖かったのは、失敗したときに何も残らないことでした。1年かけて7科目を薄く広くやって、総点数が届かなかったとする。翌年、またゼロからです。50代でその往復を何度もやる体力は、私にはありませんでした。
そこで方針を変えました。「1年で受かる」から「3年で確実に積み上げる」へ。 若い受験生と同じ土俵で殴り合っても勝てないなら、勝てるルールのほうに寄せる。銀行で長く与信をやってきた人間の職業病かもしれませんが、私は「上振れを狙う計画」より「下振れしても倒れない計画」のほうが性に合っていました。
科目合格制度のしくみを正確に押さえる
複数年計画を組むなら、制度の理解が土台になります。ここは曖昧なまま進めると計画そのものが崩れるので、私は受験案内を何度も読み返しました。押さえていたのは次の点です。
- 1次試験で60%以上の得点を取った科目は、その科目について科目合格となる。
- 科目合格の効力は、翌年度と翌々年度の2年間有効。つまり、合格した年を含めずに2回分の試験で使える。
- 免除を受けるかどうかは受験する側が選べる。免除を使わずに受け直すこともできる。
- 免除を使うかどうかは受験申込のときに決める。申込後に気が変わっても差し替えはききません。
- 免除科目がある場合、合否は実際に受験した科目の総点数で判定される。
- どの年も、40%未満の科目がひとつでもあると、そこで不合格になる。
最後の2点が、複数年計画では効いてきます。免除を使えば使うほど受験科目が減り、1科目あたりの重みが上がる。極端な話、残り1科目で受験すればその1科目で60%以上が必要になり、逃げ場がなくなります。得意科目で稼いで苦手科目を庇う、という総点数勝負の利点が消えるわけです。
私はこれを「積み木」だと思うことにしました。科目合格は積み上げた積み木ですが、2年で崩れる。しかも積み木を積むほど、最後に残った1個を置く手が震える。この性質を前提に、どの科目をどの年に置くかを設計しました。
3年計画の科目割り振り
実際に組んだ計画と、その理由です。
| 年次 | 受験した科目 | 置いた理由 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 経営法務/中小企業経営・中小企業政策/経営情報システム/運営管理 | 独立性が高く、細切れ時間で積み上げやすい科目群。得意になりそうな2科目で足場を作る。苦手な情報システムをあえて初年度に置き、失敗しても再挑戦の機会を2回残す | 法務◯/中小◯/運営◯/情報× |
| 2年目 | 財務・会計/企業経営理論/経済学・経済政策/経営情報システム | 積み上げに時間がかかる「理解型」の重量級をまとめて配置。財務は2次にも直結するので早めに手をつける | 財務◯/情報◯/企業経営理論×/経済× |
| 3年目 | 企業経営理論/経済学・経済政策/中小企業経営・中小企業政策 | 残り2科目だけでは総点数の逃げ場がないため、得意科目を1つあえて受け直して得点の余裕を作る | すべて通過し1次合格。同年の2次も合格 |
科目の並べ方には、私なりの理屈がありました。
1年目に苦手科目を置く。 これがいちばん意識した点です。私にとっての鬼門は経営情報システムでした。銀行員生活でシステムには散々触れてきたはずなのに、試験に出てくる用語がまったく頭に残らない。アルファベット3文字の略語が全部同じ顔に見えるのです。こういう科目は、1回で決まる保証がありません。だからこそ最初に置きました。初年度に置けば、落ちても2年目、3年目と2回の再挑戦が効きます。これを最終年に残していたら、間違いなく詰んでいました。
得意になりそうな科目も1年目に置く。 経営法務と中小企業経営・政策は、前職の内容と重なる部分が多く、勉強していて素直に面白かった。1年目に手応えのある科目を置くと、「自分にもできる」という感覚が持てます。3年計画で最も枯れやすいのは知識ではなく気力なので、初年度の成功体験は投資だと思っていました。
重量級は2年目にまとめる。 財務・会計と企業経営理論と経済学・経済政策は、暗記でどうにかなる科目ではありません。理解の積み上げに時間がかかるぶん、1年目に手を出して中途半端に終わるより、体制が整った2年目に固めたほうがよいと判断しました。結果として経済と企業経営理論は落としましたが、2年目に触れておいたおかげで3年目はゼロからではありませんでした。
免除を「使わない」という判断について
3年目の申込時、私は少し悩みました。
1年目に取った経営法務・中小企業経営政策・運営管理の科目合格は、3年目まで有効です。2年目に取った財務・会計と経営情報システムも当然有効。ですから、免除を全部使えば、3年目の受験科目は企業経営理論と経済学・経済政策の2科目だけになります。
一見、身軽で良さそうです。でも、この2科目はどちらも私が一度落としている科目でした。2科目だけで総点数60%ということは、片方が沈んだらもう片方で相当な高得点が必要になる。しかも40%未満を出せばその時点で終わりです。私はこの綱渡りに耐えられる自信がありませんでした。
そこで、中小企業経営・中小企業政策を、免除を使わずにもう一度受けることにしました。
選んだ理由は単純で、私にとっていちばん学び直しのコストが低い科目だったからです。銀行の法人担当として、支援制度や政策の動きは日常的に目を通していました。仕事の延長で情報が入ってくるぶん、ゼロから積み直す感覚がなかった。
逆に、経営法務は免除を使いました。自信のある科目ではありましたが、年度によって手応えがずいぶん変わる印象があり、「得点の貯金になるはず」という前提が崩れたときのダメージが大きい。得点源として計算するなら、計算が読める科目を選ぶべきだと考えました。
この判断が正解だったかは、正直わかりません。ただ、免除は「使える権利」であって「使うべき義務」ではないという視点は、複数年計画を組むなら必ず持っておいたほうがいいと思います。受験科目が減れば負担は減りますが、同時に総点数という緩衝材も減ります。どちらのリスクを取るかは、残った科目の顔ぶれを見て決めることです。
複数年計画のリスクと、その備え
3年計画には固有のリスクがあります。私が意識していたのは3つでした。
期限切れの管理
科目合格が効くのは翌年度と翌々年度の2年間です。当たり前のようですが、3年計画では「1年目に取った科目は3年目が最後」という締切が発生します。私は手帳の最初のページに、科目名と有効な年度を書いた小さな表を貼っていました。頭で覚えようとせず、目に入る場所に置く。年を取ってから覚えたコツのひとつです。
気力の維持
これがいちばん厄介でした。3年は長い。特に「今年は3科目だけ」という年は、周囲から見れば勉強しているのかどうかも分かりません。誰も褒めてくれないし、進捗も見えにくい。
私がやったのは、進捗を点数ではなく回数で管理することでした。「問題集を1周した」「間違いノートに10項目追加した」という、その日のうちに達成が確定するもので数える。合格という遠い一点だけを見ていると、50代の心はけっこう簡単に折れます。
制度の見直し
試験制度は永久に同じではありません。私は毎年、申込の時期に必ず公式の受験案内を自分の目で最初から最後まで読むようにしていました。ネットのまとめ記事は便利ですが、私の場合は3年がかりですから、途中で前提が変わっていたら計画そのものが狂います。1年に1回、30分読むだけの手間で防げるリスクは、防いでおくに越したことはありません。
記憶力の衰えと、どう折り合いをつけたか
これは書いておきたいところです。50代の勉強で最大の障害は、時間ではなく記憶でした。
若い頃の私は、テキストを繰り返し読めば覚えられました。50歳の私にはそれが通じません。読んでいる最中は分かった気になるのに、翌朝には輪郭しか残っていない。最初の半年は、この落差に一番苦しみました。
やり方を変えて、いくらか楽になった点を挙げます。
理解を優先し、暗記は理解の後に置く。 意味の分からないものを覚える力は、明らかに落ちていました。逆に、筋の通った話を覚える力はそこまで落ちていない。だから「なぜそうなっているのか」が腹落ちするまでは、無理に覚えようとしないことにしました。遠回りに見えて、結局これがいちばん速かったと思います。
手を動かして覚える。 読むだけでは残らないので、A5のノートに図を描きながら進めました。表にする、矢印でつなぐ、自分の言葉で言い換える。きれいなノートを作るのが目的ではなく、手を動かしている間だけ集中が切れないという、極めて実利的な理由です。
反復を先に予定に書く。 「余裕があったら復習する」では絶対に復習しません。私は、新しい範囲をやった日の3日後と2週間後に、その範囲を見返す日をあらかじめカレンダーに書き込んでいました。間隔をあけて何度も戻る。1回で覚えられないのは当然のこととして、設計の側で吸収する考え方です。
朝に寄せる。 夜の1時間より朝の30分のほうが、私の場合は圧倒的に頭に入りました。就寝を早め、5時に起きて、始業前に1時間。これは3年間ほぼ崩しませんでした。
体調を勉強の一部として扱う。 睡眠を削って勉強した翌日は、明らかに定着が悪い。若い頃の「削れば進む」という感覚は、この年齢では通用しませんでした。歩く、寝る、酒を減らす。地味ですが、答案の質に直結していたと思います。
2年目の秋、心が折れかけた話
きれいごとばかり書いても仕方がないので、いちばん苦しかった時期のことも書きます。
2年目の8月、企業経営理論と経済学・経済政策を落としました。財務と情報システムは通ったので、客観的には計画どおりです。でも私の中では違いました。2年やって、まだ終わっていない。周りの受験仲間はいないし、家族は「まだやってるの」という顔をする。9月から10月にかけて、机に向かってもテキストが開けない日が続きました。
このとき効いたのは、根性ではなく、目標を思い切り小さくしたことです。「1日1問でいい」と決めました。1問だけ解いて、間違いノートに1行書いて、終わり。これなら10分で済みます。実際にはやり始めると30分くらいはやるのですが、それは結果であって義務ではない、という形にしました。
もうひとつ効いたのは、目的を思い出す作業でした。私は診断士になりたかったのであって、試験に受かりたかったわけではありません。当時の支店で、後継者がいないまま高齢の社長が踏ん張っている取引先を何社も見ていました。融資の話しかできない自分がもどかしかった。あの感覚を紙に書き出して、机の前に貼りました。合格発表の日付を見るより、そちらを見ているほうが手が動きました。
50代の受験で折れるのは、能力の限界ではなく、たいてい「意味を見失ったとき」です。意味さえ戻ってくれば、机には戻れます。
3年目、1次と2次を同じ年に
3年目は、1次の残り科目と並行して2次試験の準備を始めました。
きっかけは、2年目に財務・会計の科目合格を取れたことです。2次筆記試験は10月で、事例Iから事例IVの4事例。このうち事例IVは財務の色が濃く、1次の財務の力がそのまま効きます。せっかく財務が仕上がっている状態なので、そこから離れたくなかった。2年目の秋から、週に1回だけ事例IVの計算問題に触れる習慣を作りました。
事例Iから事例IIIについては、本格的に手をつけたのは3年目の1次が終わってからです。ただ、2年目のうちに過去問を眺めて「こういう文章が来て、こういう問われ方をするのか」という肌感覚だけは入れておきました。50代の頭は、初見のものを短期間で処理するのが苦手です。だから「初見でなくしておく」ことに時間を使いました。
結果として、3年目に1次を通り、その年の2次まで抜けることができました。
同年代の受験生に伝えたいこと
最後に、40代後半から50代、60代で挑もうとしている方に、いくつか。
- 年齢を言い訳にもハンデにもしない。 記憶力は確実に落ちています。それは事実として認めたうえで、落ちていない能力、つまり「話の筋を理解する力」「実務と結びつける力」「長期の計画を守る根気」で戦えばいい。若い人と同じやり方をなぞろうとした時期の私は、いちばん効率が悪かった。
- 計画は下振れを前提に組む。 3年計画は「3年かける」計画ではなく、「途中で1科目落としても壊れない」計画です。余白のない計画は、1回の失敗で全部が無駄になります。
- 家族には早めに宣言する。 私は最初の1年、こっそりやっていました。これが良くなかった。宣言してからのほうが、朝の時間も土曜の時間も、はるかに取りやすくなりました。
- 仕事の経験は武器になるが、そのままでは使えない。 実務を知っていると理解は速いのですが、実務の常識で選択肢を切ると外します。この話は次の記事で詳しく書きます。
- 3年は思ったより短い。 始めてしまえば、です。悩んでいる期間のほうが長く感じます。
私は50歳を目前にして始めて、53歳で診断士になりました。いま振り返って、あの3年が遅すぎたとはまったく思っていません。むしろ、銀行で27年かけて溜めた経験に名前をつけてもらった感覚に近い。同じような立場の方には、ぜひ一度、電卓を叩いて自分の可処分時間を測るところから始めてみてほしいと思います。
よくある質問
Q1. 科目合格はいつまで有効ですか。
科目合格の効力は、合格した年度の翌年度と翌々年度の2年間有効です。つまり、その後2回の試験で免除を受けられます。3年計画を組む場合、1年目に取った科目合格は3年目が使える最後の年になりますので、期限の管理は必ず紙に書いて見える場所に置いておくことをおすすめします。
Q2. 免除できる科目は必ず免除したほうがよいのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。免除を使うかどうかは受験する側が選べます。免除科目がある場合、合否は実際に受験した科目の総点数で判定されるため、免除を使えば使うほど受験科目が減り、1科目あたりの重みが増します。残った科目が苦手科目ばかりというときは、あえて得意科目を受け直して総点数の余裕を作る選択も検討する価値があります。ただし、どの年も40%未満の科目があれば不合格になる点は変わりませんので、受け直す科目で大きく崩れないことが前提です。
Q3. 苦手科目は何年目に置くのがよいですか。
私は初年度に置くことをおすすめします。苦手科目は一度で決まる保証がありません。初年度に置けば、仮に届かなくても2年目、3年目と再挑戦の機会が残ります。逆に最終年に苦手科目だけが残る形になると、逃げ場がなくなります。
Q4. 働きながら独学で、1日どれくらい勉強していましたか。
平日は朝1時間と通勤時間の細切れが30分ほど、休日に3〜4時間で、週12時間前後でした。決して多くはありません。そのぶん、複数年に分けること、反復をあらかじめ予定に書き込むこと、朝の時間に寄せることで、限られた時間の密度を上げるようにしていました。
次回にバトンを渡します
次は、みなみさんです。私とはまた違った環境で、違う戦い方をされてきた方だと聞いています。私のような「時間で押せない人間の設計図」とは別の景色が見えるはずですので、どうぞ楽しみにお待ちください。