経営法務と中小企業経営・政策を実務目線で攻略する。元銀行員が使った整理術

こんにちは、ごろーです。52歳、独学3年で診断士試験を通り、いまは独立して事業承継や経営改善の支援をしています。前職は地方銀行で、27年のうち大半を融資審査と法人営業に費やしました。

前回は3年計画の全体設計の話を書きましたので、今回はもう少し中身に踏み込みます。テーマは、私が得意科目にできた経営法務中小企業経営・中小企業政策の2つです。

この2科目は、銀行で法人相手の仕事をしていた私にとって、いちばん実務と地続きの科目でした。ただ、実務を知っていることが常に有利に働いたかというと、まったくそんなことはありません。むしろ実務の感覚が邪魔をして落とした問題が何問もあります。そのあたりも含めて、正直に書いていきます。

この2科目は、性質がまるで違う

まず押さえておきたいのは、この2つは「暗記科目」とひとくくりにされがちですが、求められるものがかなり違うということです。

経営法務 中小企業経営・中小企業政策
知識の性質 ストック型。一度理解すれば長く効く 前半はフロー型、後半はストック型が混在
求められる力 制度の趣旨を理解し、条件に当てはめる力 情報の鮮度と、整理された知識の量
学習開始の時期 早い時期から積み上げる 政策は早めでよいが、経営(白書)分野は直近の情報で
直前期の伸びしろ 中くらい。間違いの潰し込みが効く 大きい。詰め込みがそのまま点になりやすい
落とし穴 条文の暗記に走ると応用が効かない 古い年度の情報のまま覚えてしまう

経営法務は、理解が効く科目です。会社法にしても知的財産権にしても、「なぜこの制度が置かれているのか」が分かると、初見の問題でも筋道を立てて考えられます。一方で、暗記だけで押そうとすると、少し角度を変えられただけで手が止まる。

中小企業経営・中小企業政策は、大きく2つのパートに分かれます。前半の「中小企業経営」は中小企業白書などをベースにした内容で、年度によって取り上げられるデータや論点が変わります。後半の「中小企業政策」は、中小企業基本法をはじめとする法制度や支援施策の話で、こちらは比較的安定していますが、制度の新設や見直しは起こります。

ここを混同すると学習が空回りします。私は最初、古い年度の教材で白書パートを一生懸命覚えてしまい、あとで無駄になった経験があります。この科目だけは、教材の年度を必ず確認する。 これが最初のルールでした。

経営法務をどう攻めたか

出題領域の地図を先に作る

私が最初にやったのは、テキストを読む前に目次だけを写して、領域の地図を作ることでした。経営法務で問われる範囲は、おおむね次のような広がりを持っています。

  • 会社法(会社の設立、株式と種類株式、機関設計、計算、株主総会や取締役の権限など)
  • 組織再編(合併、会社分割、事業譲渡、株式交換・株式移転、株式交付)
  • 知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、不正競争防止法)
  • 民法と契約(債権、契約の成立と効力、担保、相続など)
  • 倒産法制(破産、民事再生、会社更生、特別清算といった手続の違い)
  • その他の事業関連法規(独占禁止法、消費者保護に関する法制、資本市場に関するルール、英文契約など)

年度によって配分は動きますが、会社法と知的財産権が大きな柱になっているという感覚は、私が受験した3年を通して変わりませんでした。この2つを厚くやる、というのが基本方針です。

条文を丸暗記しないための問い方

法律の勉強というと条文の暗記を思い浮かべる方が多いのですが、私はほとんど暗記していません。50代の頭で条文番号を覚えるのは無理だと早々に諦めたというのが正直なところですが、結果的にこれが良かったと思っています。

代わりにやっていたのは、ひとつの制度に出会うたびに、次の3つを自分に問うことでした。

  1. この決まりは、誰の利益を守るために置かれているのか。
  2. その人を守らなくてよい場面では、どう緩められるのか。
  3. 緩めすぎるとどんな不都合が起きるのか。

たとえば会社法の機関設計の話は、丸暗記しようとすると組み合わせの表を覚えるだけの苦行になります。でも「株主から預かったお金を経営者が勝手に使わないよう、誰が誰を監視する仕組みなのか」という視点で見ると、取締役会があれば監視する役が要る、大きな会社ほど厳しい仕組みが要る、という筋が通ってきます。逆に、株主が少なく所有と経営が一致している会社なら監視の必要性が下がるので、規制が緩む。中小企業に当てはめて考えると腹に落ちやすい領域です。

株式の譲渡制限も同じです。「知らない人が株主として入ってきては困る会社がある」という発想が先にあれば、なぜ承認の仕組みが要るのかが分かる。事業承継の現場で株の分散に苦しむ会社を見てきた身としては、この分野はむしろ実感のある話でした。

組織再編も、手続の細かい違いを表で覚える前に、「何が包括的に移るのか、それとも個別に移すのか」「対価は何か」「債権者を保護する必要があるのはどの場合か」という軸で捉えると整理がしやすくなります。合併と事業譲渡の違いを、契約や許認可、従業員がどう扱われるかで比べてみると、実務の話と結びついて記憶が定着しました。

倒産法制については、清算するのか再建するのか、法的手続か私的整理か、経営者が残るのか外れるのか、という大きな分岐で押さえます。私は融資の現場で再生案件に関わったことがあり、この分野は苦になりませんでした。

民法と契約は「原則と例外」で切る

民法は範囲が果てしないので、深追いしないと決めていました。診断士試験で問われる範囲は限られていますから、まずは頻出のテーマに絞り、それぞれ「原則はこうで、例外はこういう場合」という形で整理する。この形にしておくと、選択肢を読んだときに「これは例外の話をしているな」と気づけるようになります。

知的財産権は横断整理の表を1枚作る

知的財産権は、経営法務のなかでも投資対効果がはっきり高い分野でした。理由は、4つの権利を横に並べて比較する問い方が多く、比較の軸さえ持っていれば得点しやすいからです。

私はノートに次のような表を作り、3年間ずっと見返していました。

特許権 実用新案権 意匠権 商標権
保護の対象 発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの) 考案(物品の形状、構造または組合せに係るもの) 意匠(物品等の形状、模様、色彩等で視覚を通じて美感を起こさせるもの) 商標(文字、図形、記号、立体的形状、色彩、音など、商品や役務を識別する標識)
守っているもの 技術のアイデア 物品の形状などの小さな工夫 デザイン 業務上の信用や出所の目印
実体審査 あり(出願審査請求が必要) なし(方式面などの確認のみで登録) あり あり
存続期間 出願日から20年 出願日から10年 出願日から25年 設定登録日から10年
更新 なし なし なし 更新登録により何度でも更新できる

表にしてみると、性格の違いがはっきりします。

商標だけが更新できるのは、商標が守っているのが「アイデア」ではなく「使い続けることで積み上がった信用」だからです。信用は使い続けるかぎり価値がありますから、期限を切って消す理由がない。逆に特許や意匠は、一定期間の独占と引き換えに社会に公開させる制度ですから、いつかは誰でも使えるようにする必要があります。この対比を押さえておくと、更新の可否を丸暗記しなくても答えが出せます。

実用新案だけ実体審査がないのも同じで、小さな工夫を素早く保護するための制度です。ただし審査を経ていないぶん、権利を行使する場面では別の手当てが求められる、という発想につながります。

こうやって「なぜそうなっているのか」で結びつけていくと、細かい数字も落ちにくくなります。私のように暗記力が落ちてきた人間には、この理屈のフックが命綱でした。

なお、著作権と不正競争防止法も出題されます。著作権は登録なしに権利が発生する点が産業財産権との大きな違いで、ここは対比で覚えるのがよいと思います。

中小企業経営・中小企業政策をどう攻めたか

前半と後半を、別の科目だと思って扱う

先に書いたとおり、この科目は性質の異なる2つのパートでできています。私は勉強のやり方も分けていました。

**中小企業経営(白書ベースの部分)**は、年度で内容が変わります。ですから、ここに関しては直近の年度に対応した教材を使うのが大前提です。古い年度の資料でいくら覚えても、その年の試験には効きません。私はこのパートを「消費期限のある知識」と呼んで、直前期に一気に詰め込むと決めていました。早くやっても忘れるだけですし、そもそも早い時期には最新の教材が出そろっていません。

中小企業政策のほうは、制度の枠組みを扱うので、比較的長持ちします。中小企業基本法の考え方や、支援制度の体系は、早い時期から着手して構いません。私はこちらを1年目から進めていました。

中小企業の定義は最初に固める

政策分野の入口として、中小企業基本法における中小企業者と小規模企業者の定義は、繰り返し確認しておく価値があります。業種によって基準が違うところが引っかけどころです。

業種 中小企業者(資本金または従業員数) 小規模企業者(従業員数)
製造業その他 資本金3億円以下 または 従業員300人以下 20人以下
卸売業 資本金1億円以下 または 従業員100人以下 5人以下
サービス業 資本金5,000万円以下 または 従業員100人以下 5人以下
小売業 資本金5,000万円以下 または 従業員50人以下 5人以下

「または」であって「かつ」ではない点、小規模企業者は従業員数だけで見る点、製造業その他だけ20人である点。この3つは、私も何度か取り違えました。声に出して読む、手で書く。地味ですが、これが効きます。

支援制度は「誰を・何で・どう」の型で並べる

政策分野でいちばん苦しいのは、支援制度の名前と中身が頭のなかで混ざってしまうことです。似た名前の制度がいくつも並び、どれがどれだか分からなくなる。

そこで私が使ったのが、制度をひとつ知るたびに、次の3点だけをカードに書く方法でした。

  1. 誰を支援するのか(創業しようとしている人か、既にやっている小規模事業者か、承継を控えた会社か、再生が必要な会社か)
  2. 何で支援するのか(資金なのか、信用保証なのか、税制上の措置なのか、情報や人材の提供なのか、専門家による助言なのか)
  3. どう届くのか(どこに相談し、誰が窓口になり、どんな根拠で動く制度なのか)

この3点だけに絞ると、制度の輪郭が驚くほどくっきりします。そして書き溜めたカードを「支援の目的別」に並べ替えると、政策の全体像が浮かび上がってきます。創業支援、経営基盤の強化、事業承継、経営革新、再生支援、取引の適正化、といったまとまりです。

大事なのは、個々の制度の細かい要件や金額を覚えにいかないことでした。そこは年度によって見直されますし、覚えても持ち歩けません。それより「この課題を抱えた会社には、どういう性質の支援が用意されているか」という対応関係を頭に入れておくほうが、試験でも実務でも役に立ちます。

私はいま、実際に事業承継の相談を受けたときに、この「誰を・何で・どう」の枠組みで頭のなかを検索しています。受験勉強でつくった整理が、そのまま仕事の引き出しになった数少ない例です。

実務経験が活きた場面と、邪魔をした場面

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。

活きた場面

活きたのは、イメージが湧くことでした。

会社法の株式の分散という話も、実際に「先代が兄弟に株を配ってしまって、いま社長が身動きが取れない会社」を何社も見ていれば、譲渡制限や種類株式の意味が肌で分かります。倒産法制も、再生に入った取引先の現場を知っていれば、手続の違いが単なる用語ではなくなる。中小企業政策も、融資の相談を受けるなかで支援制度に触れていましたから、制度の存在理由が想像できました。

抽象的な概念を、具体的な会社の顔で覚えられる。これは実務経験のある受験生の大きな強みだと思います。年齢を重ねてきたぶん、引き出しの数は若い方より多い。ここは遠慮なく使うべきです。

邪魔をした場面

一方で、実務知識に足を引っ張られた場面も、はっきりありました。

ひとつ目は、「うちの銀行ではこうだった」を一般則だと思い込んでいたこと。 融資や担保の実務には、法律上の原則に加えて、慣行や社内ルールが層になって乗っています。私はその区別が最初つきませんでした。試験が問うのは法律上の原則です。実務の運用を根拠に選択肢を切ると、きれいに外します。

ふたつ目は、専門家に投げていた論点を、自分では説明できなかったこと。 銀行員時代、細かい法律論は顧問弁護士や本部に確認するのが普通でした。だから「知っている」と思っていた論点も、いざ条文の建て付けを問われると答えられない。知っていたのは結論だけで、理屈は知らなかったのです。得意科目のつもりで油断していた1年目、これで何問か落としました。

三つ目は、支援制度の情報が古かったこと。 実務で触れていたぶん、私は制度に詳しいつもりでいました。ところが制度は見直されます。数年前の記憶のまま答えて間違える、ということが起きました。実務経験は、必ずしも情報の新しさを保証しません。

結論として、実務経験は理解を速くする触媒にはなりますが、答えそのものにはならない。この線引きができてから、私の得点は安定しました。同じように社会人経験の長い方は、「知っている」と感じた瞬間こそ立ち止まって、テキストで裏を取ることをおすすめします。

直前期の詰め方

最後に、8月上旬の試験に向けた詰め方です。2科目で扱いを変えていました。

経営法務

法務は、直前に新しいことを入れる科目ではないと考えていました。やっていたのは次の2つです。

  • 間違いノートを何周もする。 3年かけて、間違えた論点だけを1冊に集めていました。直前期はこれだけを回します。新しい教材に手を出すより、自分が落ちた場所を潰すほうが確実です。
  • 知財の横断表を毎日1回書き直す。 白紙に、記憶だけで表を再現する。3分で終わりますが、これを続けると本番で手が勝手に動きます。

法務は範囲が広いので、直前期に全体を舐め直すのは現実的ではありません。柱である会社法と知的財産権に絞って、確実に取れるところを固めました。

中小企業経営・中小企業政策

こちらは真逆で、直前期こそが本番でした。

白書ベースの部分は、早くやっても忘れます。私は試験の6週間前くらいから本格的に取りかかり、直前の2週間は毎日この科目に触れていました。詰め込んだ量がそのまま点数に反映されやすい科目なので、ここで手を抜くのはもったいない。

政策分野は、カードにまとめた「誰を・何で・どう」を、通勤の行き帰りにひたすら回しました。歩きながら頭のなかで唱えるだけでも、けっこう定着します。

3年目の私は、この科目をあえて免除を使わずに受け直しました。前の記事にも書きましたが、残った科目が苦手科目ばかりだったので、得点の余裕を作るためです。直前期に詰められる科目だからこそ、得点源として計算が立ちました。科目の性質を知っていることが、戦略の選択肢を増やすという一例だと思っています。

2次試験との関係について

経営法務の知識が2次試験にそのまま出てくることは、あまりありません。ただ、無関係かというとそうでもない、というのが私の実感です。

2次筆記は10月で、事例Iから事例IVの4事例。このうち事例Iは組織や人事を扱うことが多く、事業承継や組織の形の話が背景に置かれることがあります。会社の器の仕組みを理解していると、与件文の読み方に落ち着きが出ます。中小企業政策の学習も同じで、中小企業がどんな制約のなかで経営しているかという前提の理解につながります。

直接得点になるわけではないのですが、1次の勉強を「試験を通るためだけの作業」にしないでおくと、2次で効いてくる部分がある。これは3年かけたからこそ得られた感覚かもしれません。

よくある質問

Q1. 経営法務は条文を暗記する必要がありますか。

条文番号を覚える必要はほとんどないというのが私の実感です。それよりも、その制度が誰の利益を守るために置かれているのか、どういう場合に緩められるのか、という趣旨の理解を優先したほうが、初見の問題に対応できます。ただし、頻出領域である会社法と知的財産権については、制度の要件や期間といった数字レベルの知識も問われますので、そこは表にして繰り返し確認するのがよいと思います。

Q2. 中小企業経営・中小企業政策の勉強は、いつから始めるのがよいですか。

科目のなかでも性質が分かれます。政策分野は制度の枠組みが比較的安定しているので早めに着手して構いませんが、白書をベースにした経営分野は年度によって内容が変わるため、直近の年度に対応した教材で学ぶ必要があります。私は白書パートを直前期に集中して詰め込む方針にしていました。古い年度の教材で覚えてしまうと無駄になりますので、教材の対象年度は必ず確認してください。

Q3. 知的財産権はどう整理すればよいですか。

特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを縦に並べ、保護対象、実体審査の有無、存続期間、更新の可否といった軸で横に比較する表を1枚作るのがおすすめです。そのうえで、なぜ商標だけ更新できるのか、なぜ実用新案だけ実体審査がないのか、といった理由まで理解しておくと、暗記に頼らずに答えを出せるようになります。私は白紙に表を再現する練習を毎日していました。

Q4. 実務経験があると、この2科目は有利になりますか。

理解の速さという点では有利です。具体的な会社の姿を思い浮かべながら学べるので、抽象的な制度が頭に入りやすくなります。ただし、実務の慣行と法律上の原則は別物ですし、実務で身についた制度の知識が最新とは限りません。「知っている」と感じた論点ほど、テキストで裏を取る習慣を持ったほうが安全です。私は得意科目のつもりで油断して、初年度に何問も落としました。

次回にバトンを渡します

今回はここまでです。次は、たけさんにバトンをお渡しします。私とは違う専門と違う経歴をお持ちの方ですから、同じ試験でもまた違う攻め方が聞けるはずです。どうぞお楽しみに。