財務・会計を得点源に変える。1次と事例IVをつなぐ反復のやり方
リレー連載、ふたたびみなみです。前回は育児と両立しながらの2年計画について書きました。今回はもう少し中身に踏み込んで、私が唯一「得意です」と言える科目、財務・会計の話をします。
念のため書いておくと、私は前職で中小メーカーの経理事務を12年やっていました。ですからスタート地点で有利だったのは事実です。ただ、経理をやっていたからといって自動的に得点できたわけではありません。むしろ実務の感覚が邪魔をした場面もありました。そのあたりも含めて書きます。
なぜ財務・会計に時間をかける価値があるのか
1科目分の勉強で2つの試験に効く
1次試験は7科目あります。財務・会計はそのうちの1科目にすぎません。ところが2次試験に目を移すと、事例I〜IVの4事例のうち、事例IVがまるごと財務の問題です。つまり、財務・会計に投じた時間は、1次の7分の1と、2次の4分の1の両方に効いてきます。
さらに合格の仕組みを考えると、この意味はもっと大きくなります。1次も2次も、総点数の60%以上を取り、かつ著しく点数の低い科目や事例がないことが求められます。裏を返せば、確実に得点できる科目がひとつあると、全体の設計にゆとりが生まれるということです。
私は経済学が最後まで苦手でした。経済学で40%台しか取れない可能性を想定していたので、財務・会計で稼いで全体を支える、という前提で計画を組みました。実際、その形で通りました。
事例IVは計算力が素直に点になる
2次試験の事例I・II・IIIは記述が中心で、書き方の巧拙が絡みます。それに対して事例IVは、計算問題の割合が高い。計算は、合っているか間違っているかがはっきりします。裏を返せば、練習した分がそのまま点に変わりやすいということです。
記述の力を伸ばすのは時間がかかりますが、計算は積み上げが効きます。限られた時間で確実にリターンを取りに行くなら、まず事例IVの計算だと私は考えていました。
「解き方を覚える」と「手が動く」は別のこと
ここが今回一番書きたいところです。
財務・会計の学習でよくある失敗は、解説を読んで「なるほど、そうやって解くのか」と納得して、次に進んでしまうことです。私も最初はそうでした。理解した気になっていて、1週間後に同じ問題を白紙から解こうとすると、まったく手が動きません。
理解と再現は別の能力です。試験会場で必要なのは後者だけです。
手が動く状態とは何か
私が目標にしていたのは、問題文を読み終えた瞬間に、以下が自動的に立ち上がる状態です。
- この問題はどの論点か
- 最初に紙に何を書くか(表なのか、時系列の線なのか、公式なのか)
- 与えられた数値のうち、どれをどこに入れるか
- 電卓をどういう順番で叩くか
「考えて思い出す」段階では遅いのです。試験には時間の制約があり、悩んでいる間に他の問題を落とします。逆に、手が勝手に動く論点が増えるほど、難しい問題に回せる時間が増えます。
私の回し方
具体的な手順です。1冊の問題集を、次の段階で回していました。
1周目(理解する)
解説を見ながらで構いません。むしろ、5分考えて糸口が見えなければすぐ解説を見ます。この段階で粘るのは時間の無駄です。ただし、解説を読んで終わりにせず、必ず自分の手で最後まで数字を追います。読むだけと、書きながら追うのでは残り方が違います。
2周目(3日後から1週間後)
今度は何も見ずに解きます。ここで7割は解けません。それが普通です。解けなかった問題に印を付けます。私は鉛筆で問題番号の横に「/」を書いていました。
3周目(2週間後)
印の付いた問題だけを解きます。また解けなければ「/」を重ねて「×」にします。この時点で「×」が付く問題が、自分の弱点そのものです。
4周目以降
「×」の問題を、時間を計って解きます。ここからは正解することより、詰まらずに手が動くかを見ます。答えは合っているが時間がかかりすぎた、という場合も要注意です。
仕上げ
試験の1か月前には、「×」だった問題を白紙とペンだけで再現できるかを確認します。問題文を見て、何も参照せずに、紙に解答の道筋を書き出す。ここまで来ると、その論点は得点源になっています。
回数の目安としては、重要論点は5回から7回ほど触れていました。多いと感じるかもしれませんが、2周目で解けなかった問題を3周目で解けるようになるとは限らないので、実際にはこのくらい必要でした。
1問に長く向き合うより、短く何度も
これは育児中の学習事情とも合っていました。まとまった2時間で1論点をじっくり、より、20分を6回に分けて同じ論点に触れるほうが、私には定着しました。間隔を空けて思い出す作業が入るからだと思います。
朝の80分で新しい問題に取り組み、昼休みの20分でその日の朝に解いた問題の「手順だけ」を頭の中でなぞる。この組み合わせを続けていました。
頻出論点の優先順位と勘所
限られた時間をどこに配分するか。私が実際に置いていた優先順位です。
| 優先度 | 論点 | 勘所 |
|---|---|---|
| 最優先 | CVP分析(損益分岐点) | 変動費と固定費の分解が全て。売上高ベースか販売量ベースかを毎回確認する |
| 最優先 | 経営分析(財務指標) | 収益性・効率性・安全性の3分類で、各分類から1つずつ選べるようにしておく |
| 最優先 | 正味現在価値(NPV) | 「いつの時点のお金か」を時系列の線に書く癖を付ける。年度のズレが最大の失点源 |
| 高 | キャッシュフロー計算書 | 間接法の符号の向き。増えたのか減ったのか、プラスかマイナスかを機械的に処理できるまで |
| 高 | 減価償却とタックスシールド | 減価償却費は現金の支出を伴わないが、税金を減らす。この2つの性質を分けて理解する |
| 高 | 意思決定会計(差額原価) | 「その意思決定で変わる金額だけを見る」。埋没原価を切り落とせるか |
| 中 | 企業価値・資本コスト(WACC) | 負債と自己資本の加重平均。負債コストに税率が絡む理由を説明できるか |
| 中 | セールスミックス | 制約条件1単位あたりの限界利益で並べる |
| 中 | 簿記の基本と財務諸表の構造 | 貸借対照表と損益計算書のつながり。ここが崩れると全部崩れる |
| 低 | デリバティブ、為替予約 | 出題されたら取りに行く程度。深追いしない |
CVP分析
事例IVでも1次でも顔を出します。ここでつまずく人の多くは、費用の分解でつまずいています。与えられた資料から変動費と固定費を切り分ける作業を、機械的にできるようにしておくこと。
もうひとつ、答えを求める単位に注意してください。損益分岐点「売上高」なのか、損益分岐点「販売量」なのか。式は似ていますが分母が違います。私は問題文の該当箇所に必ず丸を付けてから解き始めるようにしていました。
経営分析
事例IVでは冒頭に置かれることが多く、確実に取りたい部分です。指標を何十個も暗記する必要はありません。収益性、効率性、安全性の3つの箱を用意して、それぞれから代表的な指標を出せるようにしておく。そのうえで、与えられた財務諸表から「明らかに悪い数値」を見つける目を養います。
計算自体は難しくありません。差が出るのは、なぜその指標を選んだのかを説明できるかどうかです。
正味現在価値
私が一番失点しやすかった論点です。理由ははっきりしていて、時間軸を頭の中だけで処理しようとしていたからでした。
対策として、必ず紙の左端に横線を引き、0年目、1年目、2年目と目盛りを打ってから、そこにキャッシュフローを書き込む形に変えました。設備投資が0年目なのか1年目なのか、税金の効果がいつ出るのか、残存価額の回収がいつなのか。線の上に置くと、ズレが目に見えます。この作業に30秒かけるだけで、正答率が明らかに上がりました。
キャッシュフロー計算書
間接法は、税引前当期純利益から出発して調整を加えていく形です。ここは理屈で毎回考えるより、調整項目の符号を身体で覚えてしまうほうが早いと思います。減価償却費は足す、売上債権の増加は引く、仕入債務の増加は足す。反射で出るまで繰り返す。
ただし、丸暗記だけだと少し形を変えられたときに崩れます。「なぜ足すのか」を一度は納得しておいて、そのうえで反射化する。この順番です。
間違いノートを作りすぎない工夫
私の失敗
1年目、私は丁寧な間違いノートを作りました。問題を書き写し、解説を要約し、色ペンで整理する。作っている間は充実感がありました。
2年目、そのノートを開いた回数は片手で足ります。分厚すぎて、どこを見返せばいいか分からなかったからです。
1行だけ書く
2年目に変えたのは、「1つの間違いにつき1行だけ」というルールです。書くのは次の3つだけ。
- 問題集の番号(問題そのものは書き写さない。そこを見ればいいので)
- 何を間違えたか、10字程度
- 間違いの種類
これで1問あたり1行に収まります。A5のノート1冊で足りました。
間違いを3つに分類する
種類の分け方が大事でした。私はこう分けていました。
A. 知識がない
そもそも解法を知らない、公式が出てこない。対策はテキストに戻ること。これは正直な話、いくら問題を回しても直りません。
B. 読み違え
問題文の条件を見落とした、単位を取り違えた、聞かれていることと違う答えを出した。対策は解く手順の見直しです。私は「問題文の問われている部分に丸を付ける」「単位に下線を引く」を必ずやるようにしました。
C. 計算ミス
やり方は合っているのに数字が違う。対策は電卓の使い方と検算の習慣です。
この分類をすると、自分の傾向が見えてきます。私はBが圧倒的に多いタイプでした。そうと分かってからは、知識を増やすより手順を固めることに時間を使いました。Cが多い人は電卓の練習、Aが多い人はテキストに戻る。処方箋が変わります。
見返すタイミングは、週に1回、日曜の朝に10分だけ。全部読み返すのではなく、同じ間違いが2回以上出ている行だけを拾います。
電卓と計算ミスを減らす習慣
試験では電卓が使えますが、使用できる電卓には条件があります。必ず試験案内で確認してください。私は普段の学習からその条件に合うものを1台決めて、それだけを使っていました。
道具を1台に固定する
これはかなり効きます。キーの配置、押したときの感触、メモリキーの位置。身体で覚えてしまうと、視線を電卓に落とす時間が減ります。私は自宅用と持ち歩き用で2台買って、同じ機種にしていました。
覚えておくと楽な機能
- メモリ機能。途中結果を一時的に置いておける。複数の項目を足し合わせる計算で、いちいち紙に書き写す手間が省ける
- 定数計算。同じ数を繰り返し掛ける場面で使える。現在価値の計算で効く
- 桁区切りの表示。数字が大きくなると読み間違えるので、区切りが出る設定にしておく
機能を全部使いこなす必要はありません。自分が使う2つか3つを、確実に使えるようにするほうが実戦的です。
単位を最初に固定する
問題文が「千円」なのか「百万円」なのか。ここを取り違えると、計算過程が全部正しくても答えが違います。私は解き始める前に、問題用紙の余白に単位を大きく書いてから始めていました。地味ですが、失点が減りました。
検算のやり方
全部の計算を2回やる時間はありません。私が決めていたのは次の2つです。
桁を見る
答えが出たら、桁数が常識的かを確認します。売上高が数億円の会社の話なのに、答えが数十円になっていたらどこかがおかしい。細かい検算より先に、この大きさの確認をします。
逆算する
割り算で出した答えを、掛け算で戻してみる。10秒で終わります。時間があるときだけでいいので、この癖を付けておくと安心感が違います。
もうひとつ、答案に数字を書き写すときのミスが意外と多いです。電卓の表示を見ながら書き、書いた後にもう一度電卓を見る。この往復を1回入れるだけで、写し間違いはかなり減ります。
経理経験がない方のつまずきどころ
私は経理出身なので偉そうなことは言えませんが、勉強仲間の話を聞いていて「ここでつまずく人が多いな」と感じた場所を挙げます。
貸借対照表と損益計算書のつながりが見えていない
これが一番大きいと思います。2つの表が別々のものに見えていると、キャッシュフロー計算書で完全に迷子になります。
対策としては、簡単な数字で自分でミニチュアの財務諸表を作ってみることをおすすめします。現金100で商品を仕入れ、150で売った。このとき2つの表がどう動くか。紙に書いてみる。教材の複雑な事例より、自分で作った小さい例のほうが構造が見えます。
発生主義と現金の動きが混ざる
売上が計上されても、現金が入っているとは限りません。この当たり前のことが、頭では分かっていても計算になると混ざります。キャッシュフロー計算書の調整項目も、割引現在価値の計算も、突き詰めればこの区別の話です。
「今、現金は動いたか?」を毎回自分に問う。これを癖にすると、かなりの範囲が整理されます。
用語の意味を曖昧なまま進める
売上原価、売上総利益、営業利益、経常利益。似た言葉が並ぶので、なんとなく分かった気で進んでしまう。ところが問題では「営業利益ベースで答えよ」と指定されたりします。
最初の段階で、損益計算書の利益の並びを空で書けるようにしておくと、後々ずっと楽です。10分で覚えられて、2年間ずっと使えます。
実務経験がある人の落とし穴も書いておきます
私自身、実務の感覚が邪魔をした場面がありました。実務では自社の会計処理の型が身についているので、試験問題で違う前提が置かれていても、つい慣れた処理をしてしまうのです。試験は試験のルールで解く。この切り替えを、私は何度か失点して学びました。経理経験があっても油断しないでください。
まとめ
財務・会計は、時間をかけた分だけ返ってくる科目です。センスや文章力ではなく、反復で伸びます。そして1次と2次の両方に効くので、投じた時間の回収率が高い。
やることを整理すると、こうなります。
- 解法を理解した段階で止めず、白紙から手が動くまで回す
- 頻出論点に優先順位を付けて、重要なものから確実に固める
- 間違いノートは1行だけ。3種類に分類して、自分の傾向を掴む
- 電卓を1台に固定して、単位と桁の確認を手順に組み込む
- 財務諸表のつながりを、自分で作った小さい例で確かめる
派手なことは何もありません。ただ、地味なことを続けられる科目でもあります。
よくある質問
Q. 簿記の資格を先に取ったほうがいいですか?
必須ではありません。私は簿記の知識が下地としてありましたが、診断士試験のために簿記を新たに取りに行くのは遠回りになる場面もあります。ただ、財務諸表がどうやってできているかがまったく想像できない状態だと、勉強の効率がかなり落ちます。仕訳の基本と、貸借対照表と損益計算書の関係だけは、市販の入門書などで先に押さえておくと、その後がずいぶん楽になります。
Q. 1次の財務・会計に合格すれば、事例IVもある程度できますか?
土台にはなりますが、そのままでは足りません。1次は選択式で、限られた時間で答えを選ぶ形です。事例IVは、与えられた財務諸表と文章を読み解いて、自分で計算過程を組み立て、記述も求められます。必要な力が違います。ただ、1次で扱う論点が事例IVの部品になっているのは確かなので、1次の段階で計算を手に馴染ませておくと、2次対策の立ち上がりが速くなります。
Q. 問題集は何冊やるべきですか?
冊数より回転数だと思っています。私は基本の問題集1冊と、事例IV向けの計算問題集1冊を、それぞれ繰り返しました。何冊も手を出すと、どれも2周目で止まります。1冊を5回回したほうが、5冊を1回ずつやるより間違いなく力が付きます。手持ちの1冊で「白紙から全問再現できる」状態になってから、次を考えれば十分です。
Q. 計算ミスがどうしても減りません。どうすればいいですか?
まず、ミスを「読み違え」と「電卓の叩き間違い」に分けてください。原因が違うと対策も違います。読み違えなら、解き始める前に問題文の条件に印を付ける手順を固定する。電卓の叩き間違いなら、電卓を1台に固定して、桁の確認と逆算の習慣を入れる。それでも減らない場合は、急ぎすぎている可能性があります。私は解く速度を1割落としたら、結果的にトータルの得点が上がりました。
長くなりましたが、財務・会計の話は書き出すと止まりません。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
次回はごろーさんにバトンをお渡しします。私とはまた違う切り口の話が読めると思いますので、楽しみにしていてください。