権利と能力
民法に関する基礎知識
民法では、権利や能力について細かく規定しています。『そもそも誰が権利の主体になれるのか』『どんな種類の権利があるのか』『意思を表示する能力が不十分な人はどう保護されるのか』といった基本的な仕組みを学びます。
権利能力と権利の主体
簡単にいうと
簡単にいうと、民法の世界で『人』と呼ばれるのは生身の人間(自然人)だけでなく、会社のような法人も含まれます。どちらも権利や義務の主体になれます。この地位のことを権利能力(私権の享有)と呼びます。
民法でいう『人』には、自然人(生身の人間)と法人(会社など)が含まれます。これらの『人』は売買契約における代金請求権や目的物引渡義務といった法律関係の中心になります。
こうした権利・義務の主体となれる者を権利・義務の主体(権利の主体)といい、権利・義務をもつことができる地位を権利能力(私権の享有)といいます。
具体例
たとえば、鈴木さん(自然人)がA株式会社(法人)から製品を購入した場合、鈴木さんには製品の引渡しを請求する権利が、A社には代金の支払いを請求する権利が、それぞれ生じます。どちらも権利の主体です。
試験のポイント
- ・・自然人と法人がいずれも権利の主体になれることを押さえましょう
- ・・権利能力=私権の享有という用語を覚えましょう
私権の分類
簡単にいうと
簡単にいうと、私人に与えられた権利(私権)は『何についての権利か』(内容による分類)と『どんな働きをする権利か』(作用による分類)の2軸で整理できます。
私権とは、私法に基づいて私人に与えられた権利のことです。
【内容による分類】
- 財産権:財産を目的とする権利。物権・債権・知的財産権などがあります。
- 身分権:夫婦や親子といった親族法上の特定の地位に基づく権利。相続権・監護教育権・同居請求権などがあります。
- 人格権:人が個人としての人格の尊厳を維持するうえで不可分の権利の総称。自由権・名誉権・プライバシー権などがあります。
【作用による分類】
- 支配権:権利の客体(対象のこと)を直接に支配できる権利。物権・知的財産権などがあります。
- 請求権:他人の行為(作為または不作為)を請求できる権利。債権が代表的です。作為とは『金銭を支払え』のような行動の要求、不作為とは『権利侵害行為をやめよ』のような差止め請求です。
- 形成権:権利者の一方的な意思表示で法律関係を変動させる権利。取消権・解除権などがあります。
- 抗弁権:相手方が請求権を行使した場合に、その効力の発生を阻止して請求を拒絶できる権利。同時履行の抗弁権・保証人の催告の抗弁権・検索の抗弁権などがあります。
具体例
AさんがBさんにカメラを売る契約をした場合、Bさんは『カメラを引き渡せ』と求める請求権をもち、引渡しを受けた後は『このカメラは自分のもの』という支配権(所有権)をもちます。もしBさんが未成年者で保護者の同意なく契約していたなら、保護者は取消権(形成権)を行使して契約を取り消せます。

私権の分類
試験のポイント
- ・・内容による分類(財産権・身分権・人格権)と作用による分類(支配権・請求権・形成権・抗弁権)を区別しましょう
- ・・形成権の具体例(取消権・解除権)は頻出です
- ・・作為と不作為の違いも押さえておきましょう
私権の制限(基本原則)
簡単にいうと
簡単にいうと、権利は何でも自由に使えるわけではなく、『公共の福祉に反しない』『信義に従い誠実に行使する』『濫用してはならない』という3つの制約があります。
私権の行使は絶対無制限ではなく、以下の3つの原則による制限を受けます。
❶ 公共の福祉の原則(民法第1条1項)
権利を行使するには、公共の福祉に適合しなければならないというものです。
❷ 信義誠実の原則(信義則)(民法第1条2項)
権利を行使し義務を履行するにあたっては、信義に従い誠実に行わなければならないというものです。信義則は民法の最も重要な一般原則とされています。
❸ 権利の濫用の禁止(民法第1条3項)
たとえ正当な権利であっても、それを濫用してはならないというものです。
具体例
たとえば自分の土地に高い塀を建てる権利があっても、隣の家への日照を完全に遮るだけの目的で建てた場合は権利の濫用に該当する可能性があります。また、契約違反を理由に損害賠償を請求する際も、信義則に反するような過大な請求は認められません。
試験のポイント
- ・・3つの制限原則の名称と条文番号を覚えましょう
- ・・信義則が最も重要な一般原則であることを押さえましょう
意思能力と行為能力
簡単にいうと
簡単にいうと、法律上の行為をするには『正常な判断ができる能力(意思能力)』と『自分ひとりで有効に法律行為ができる能力(行為能力)』が必要です。これらが不十分な人は、民法で保護される仕組みがあります。
❶ 意思能力
すべての人は生まれながらにして権利能力をもっています。しかし赤ちゃんや酩酊状態にある人は、物事についての正常な判断力(=意思能力)がないといえます。意思能力のない者を意思無能力者といいます。
意思無能力者が行った法律行為は無効です。つまり、はじめから法律行為としての効力がまったく発生しません。
- 有効:効力・効果があること。
- 無効:法律上、はじめからまったく効力が生じていないこと。最初からゼロの状態です。
- 取消し:いったん有効なものとして扱いつつ、取り消すと行為時に遡って無効になるものです。取消権者が選べます。
❷ 行為能力
法律行為を自分ひとりで有効に行える能力を行為能力といいます。行為能力が不十分な者を制限行為能力者といい、以下の4種類があります。
- 未成年者
- 成年被後見人(精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者)
- 被保佐人(精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者)
- 被補助人(精神上の障害により判断能力が不十分な者)
後者3つは障害の重い順に成年被後見人→被保佐人→被補助人と分かれます。民法は、制限行為能力者が行った法律行為は原則として取り消すことができるとし、これらの者を保護しています。
なお、取り消されたときは無効となります。取消権は追認(事後的に認める行為)をすることができる時(たとえば法定代理人等が行為を知った時)から5年間行使しないとき、または行為の時から20年が経過したときに消滅します。
具体例
たとえば17歳の高校生が保護者の同意なく高額なパソコンを購入した場合、未成年者は制限行為能力者なので、保護者はこの売買契約を取り消すことができます。取り消した場合、契約は最初から無効だったものとして扱われ、代金と商品を返還し合うことになります。
試験のポイント
- ・・無効と取消しの違いは超頻出です:無効=最初からゼロ、取消し=取り消すと遡って無効(取消権者が選べる)
- ・・制限行為能力者4類型(未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人)の名称と障害の程度の順序を覚えましょう
- ・・取消権の行使期間:追認可能時から5年、行為時から20年(民法第126条)
- ・・診断士試験では意思無能力者が問われる可能性は極めて低いとテキストに記載あり
意思表示
簡単にいうと
簡単にいうと、意思表示とは『法律上の効果を発生させたい』という気持ちを外に表すことです。しかし、本心と表示がズレていたり、だまされたりして意思表示した場合、どこまで有効なのかが問題になります。民法はこのズレのパターンごとにルールを用意しています。
意思表示とは、一定の法律効果の発生を欲してそれを外部に表示することです。売買契約の例でいえば、AとBがそれぞれ『売ろう』『買おう』と意思を表明し、互いに伝えることがこれにあたります。
問題となるのは意思の不存在、つまり心の中にある意思と外部の表示との間に食い違いがある場合です。民法では以下の3つのケースについてルールを定めています。
❶ 心裡留保(民法第93条)
冗談のように、表意者が自分の内心の意思と外部に表示したものとが食い違いを知っている場合です。原則として有効ですが、相手方が表意者の真意ではないことを知り(悪意)、または知ることができたとき(有過失)は無効です。ただし心裡留保による無効は、善意の第三者に対しては主張できません。
❷ 虚偽表示(通謀虚偽表示)(民法第94条)
AとBがそれぞれ売る意思・買う意思がないのに、相手方と示し合わせて(通謀して)行った虚偽の意思表示です。当然に無効となりますが、善意の第三者に対しては無効を主張できません。
❸ 錯誤(民法第95条)
表示行為に対応する内心の意思が欠けていること、つまり勘違い(間違い)をしていることです。
錯誤には2種類あります。
- 1)意思表示に対応する意思を欠く表示の錯誤
- 2)表意者が法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する動機の錯誤
錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取り消すことができます。ただし、表意者に重大な過失があった場合は原則として取り消せません。
善意かつ無過失の第三者に対しては、取消しを主張できません。
❹ 瑕疵ある意思表示(民法第96条)
詐欺・強迫による意思表示のことです。
- 詐欺による意思表示は取り消すことができます。ただし第三者に対しては、善意かつ無過失の第三者に対して取消しを主張できません。
- 強迫による意思表示は取り消すことができ、善意の第三者に対しても取消しを主張できます。これは強迫の場合は表意者の保護が最優先されるためです。
なお瑕疵とは法律上の欠点・キズという意味です。
意思表示の効力発生時期
民法では、意思表示の効力発生時期について到達主義を採用しています。つまり、意思表示の通知が相手方に到達した時に効力が発生します。
具体例
Aさんが1,000万円の土地を売ろうとして、書類に誤って『100万円で売る』と記載してしまった場合(表示の錯誤)、この錯誤が重要なものであればAさんは契約を取り消せます。ただしAさんの不注意(重過失)が原因であれば、原則として取消しはできません。
また、BさんがCさんに『この土地は駅前開発で値上がりする』とウソをつかれて土地を購入した場合(詐欺)、Bさんは契約を取り消せます。ただし、すでにCさんがその土地を善意無過失のDさんに転売していた場合、Bさんは取消しをDさんに主張できません。
試験のポイント
- ・・心裡留保・虚偽表示・錯誤・瑕疵ある意思表示の4パターンの効果(無効or取消し)と善意の第三者への対抗可否が超頻出です
- ・・特に重要:詐欺は善意無過失の第三者に対抗不可、強迫は善意の第三者にも対抗可能
- ・・錯誤は重大な過失がある場合は原則取消不可ですが、例外あり(①相手方悪意、②相手方も同一の錯誤)
- ・・到達主義(意思表示は相手方に到達した時に効力発生)も押さえましょう
- ・・善意=事実を知らないこと、悪意=事実を知っていること(日常語の善悪とは異なる)
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