産業財産権
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プレミアムで見る産業財産権のなかでいちばん分量があり、出題も安定して多いのが特許法です。技術を世に出させる代わりに一定の期間ひとり占めを認める、という取引の仕組みで成り立っています。この節では「何が発明か」から始めて、特許を受けられる条件、出願から登録までの道のり、権利の中身と限界、そして他社に使わせる方法までを順に見ていきます。実用新案法・意匠法・商標法はこの特許法を土台にして違いを覚えるのが効率的なので、まずここを厚めに押さえてください。
簡単にいうと
ざっくりいうと、特許法は「技術を隠さずに公開してくれたら、代わりに20年間ひとり占めさせてあげる」という取引の決まりです。
特許法の目的(特許法第1条)
発明を守り、また使えるようにすることで発明を励まし、産業の発達につなげる。これが目的です。ここには向きの違う2つの働きが同居しています。
この2つを釣り合わせて技術の進歩を促すのが狙いです。独占を認めるのはご褒美のためではなく、公開させるための対価だ、と押さえると腑に落ちます。実用新案法と意匠法も、考え方の土台は同じです。
発明とは(特許法第2条1項)
特許法でいう発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものです。言葉ひとつずつに役目があります。
発明にあたらないもの
具体例
「野球で打球が伸びる打ち方」は個人の技能なので発明にはなりません。ところが「反発係数を高めたバットの構造」であれば、自然法則を使った技術的思想の創作なので発明になります。同じ野球でも、人の腕前に宿るものなのか、物や方法として他人に伝えられるものなのかで扱いが分かれます。

特許法でいう「発明」
試験のポイント
簡単にいうと
ざっくりいうと、発明ならどれでも特許になるわけではなく、5つの関門を全部くぐる必要があります。とくに新規性と進歩性が実務でも試験でも山場です。
産業上の利用可能性があること(特許法第29条1項柱書)
特許法の目的が産業の発達にある以上、産業で使えることが前提になります。ここでいう産業には工業だけでなく、農林水産業、サービス業、運輸業のように生産を伴わないものも入ります。
産業に使えないものの例を挙げます。
新規性があること(特許法第29条1項)
創作であることが求められる以上、すでに世に出ているものは特許になりません。特許出願の前に、国内でも国外でも次のどれかにあたると、原則として新規性を失います。
1. 公然と知られた(
簡単にいうと
ざっくりいうと、出願しただけでは審査も始まりません。出願、方式審査、審査請求、実体審査、特許査定、特許料の納付、設定登録という長い道のりを通って、はじめて権利になります。
出願(特許法第36条)
特許を受ける権利をもつ人(発明者、またはその権利を譲り受けた承継人など)が、次の書類を特許庁長官に出します。
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳しい説明を書きます。
特許請求の範囲は特許の「権利書」にあたる書類です。請求項(クレーム)に分けて、発明を特定するために必要な事項を書きます。侵害の裁判で特許発明の技術的範囲を決める物差しになるのがこの書類です(特許法第70条1項)。1つの請求項に書いた発明と、それに一定の技術的なつながりがある発明は、1つの願書にまとめて出せます(
簡単にいうと
ざっくりいうと、特許権は「業として実施する権利をひとり占めできる」権利です。ただし試験研究や医師の調剤のように、独占させないほうがよい場面には効力が届きません。
効力(特許法第68条)
特許権者は、業として特許発明を実施する権利を専有します。専有するとは、第三者の侵害を退けて独占的に実施できるという意味です。「業として」なので、家庭の中で個人的に実施する行為には効力が届きません。
実施にあたる行為(特許法第2条3項)は、発明の種類によって範囲が変わります。
1. 物の発明…その物(プログラム等を含みます)の生産、使用、譲渡等(譲渡・貸渡し、インターネットを通じたプログラム等の提供を含みます)、輸出、輸入、譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含みます)
2. 物の生産を伴わない方法の発明…その方法を使う行為
3. 物を生産する方法の発明…その方法を使う行為に加えて、その方法で作った物の使用、譲渡等、輸出・輸入、譲渡等の申出
簡単にいうと
ざっくりいうと、特許は自分で使うだけのものではありません。売る、貸す、担保に入れる、という3つの使い道があります。試験でいちばん問われるのは貸すほう、つまり専用実施権と通常実施権の違いです。
移転(特許法第98条1項1号)
特許権(および特許を受ける権利)は財産権なので、他人に譲り渡せます。ただし請求項ごとに分けて移すことはできません。相続や合併による承継の対象にもなります。移転の効力は、相続その他の一般承継の場合を除いて登録によって生じます。なお特許を受ける権利には登録の仕組みがありません。
専用実施権と通常実施権
他人に特許発明を使わせる権利を実施権といい、専用実施権と通常実施権の2つに分かれます。通常実施権はさらに3種類に枝分かれします。
専用実施権(特許法第77条、98条1項2号)
設定した範囲(期間・地域・実施の内容)のなかで、その発明をひとり占めして
簡単にいうと
ざっくりいうと、会社の仕事から生まれた発明を誰のものにするか、複数人で作った発明をどう扱うか、先に使っていた人をどう守るか。この3つです。
職務発明(特許法第35条)
職務発明とは、従業者等(従業者、法人の役員、国家公務員または地方公務員)がした発明で、その性質上その使用者等(使用者、法人、国または地方公共団体)の業務の範囲に属し、かつその発明に至った行為が現在または過去の職務に属するものをいいます。企業の製品開発の一環として生まれた発明が典型です。
反対に、従業者等の発明であっても職務によらない、私生活のなかで生まれた発明(自由発明)は職務発明にあたりません。
権利は誰のものになるか
契約や勤務規則などであらかじめ、企業に特許を受ける権利を取得させると決めてあったときは、その権利は生まれた時から企業のものになります。裏を返せば、定めがなければ発明者である従業者のものです。ここが引っかけどころです。
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発明の分類(特許法第2条)
発明は物の発明と方法の発明に分かれ、方法の発明はさらに2つに枝分かれします。
1. 物の発明…機械、器具、装置、医薬、化学物質、コンピュータプログラムなど
2. 物を生産する方法の発明…医薬の製造方法、食品の加工方法など
3. 物の生産を伴わない方法の発明…測定方法、分析方法など
発明者と特許を受ける権利
発明を完成させた人が発明者であり、原則としてその人に特許を受ける権利が生まれます(特許法第29条)。これは国(特許庁)に対して特許権を与えるよう求められる権利で、出願から審査請求、登録までの手続きを進められる立場だと考えておけば足ります。なお出願できるのは自然人と法人で、組合契約などによる法人格のない団体は出願できません。
2. 公然と実施された(公用)発明。店頭で売った、製造工程を不特定の人に見学させたなど
3. 頒布された刊行物に載った、またはインターネットなどの電気通信回線を通じて公衆が見られるようになった発明
進歩性があること(特許法第29条2項)
その分野の技術者が効果をたやすく見通せてしまうものには、進歩性が認められません。すでに知られた技術を寄せ集めただけのもの(公知のナイフとハサミを一本にまとめた多機能ナイフ)や、部品のひとつを別の公知の発明に置き換えただけのもの(椅子用のキャスターを机に付け替えただけ)が典型です。誰でも思いつくものに20年の独占を与えては、かえって産業の邪魔になるからです。
先に出願した発明であること(特許法第39条)
日本は先願主義をとっており、同じ発明について複数の出願があったときは、いちばん先に出願した人に特許を与えます。
1. 違う日に2つ以上の出願があったとき…いちばん先に出した人だけが特許を受けられます
2. 同じ日に2つ以上の出願があったとき…時刻の前後は問いません。出願人どうしの協議で決めた1人だけが受けられ、協議がまとまらなければ誰も受けられません
反社会的な発明でないこと(特許法第32条)
公序良俗または公衆衛生を害するおそれのある発明は、特許を受けられません。
新規性を失っても救われる場合(特許法第30条)
学会で発表したり展示会に出したりして先に世に出してしまうと、原則として新規性を失います。ただし救いの道があり、公表した日から1年以内に、例外の適用を受けたい旨の書面を特許出願と同時に出し、さらに出願の日から30日以内(原則)に公表の事実を証明する書面を出せば、新規性を失っていないものとして扱われます。
救われるのは次の2つの場合です。
1. 特許を受ける権利をもつ本人の行為による公知・公用・刊行物への記載など
2. 本人の意に反する公知・公用・刊行物への記載など。この場合は、適用を受けたい旨の書面も証明書も要りません。本人が望んで出したわけではないからです
具体例
新素材を使ったフライパンを開発した会社が、特許出願より先に展示会へ出してしまったとします。このままでは公用にあたり新規性を失いますが、出品から1年以内に、例外の適用を受けたい旨の書面を出願と同時に出し、出願から30日以内に出品の事実を証明する書面を出せば、特許を受ける道が残ります。締切が二重にかかるので、気づいたらすぐ動く必要があります。

特許要件と新規性喪失の例外
試験のポイント
方式審査
出された書類が手続きの形を満たしているかが調べられます。足りなければ補正が命じられ、却下されることもあります。
出願審査請求(特許法第48条の3)
出願しただけでは中身の審査は始まりません。審査請求があってはじめて実体審査が行われます。
実体審査(特許法第47条・49条ほか)
審査官が特許要件を満たしているかを調べます。拒絶の理由があると判断されれば出願人に通知され、出願人は意見書で反論するか、特許請求の範囲を狭めたり削ったり、誤記を直したりして応じます。ただし新しい事項を付け足すことはできません。
理由が解けなければ拒絶査定になります。不服があるときは、拒絶査定の謄本が届いた日から原則3月以内に拒絶査定不服審判を請求でき、さらに知的財産高等裁判所へ審決取消訴訟を起こす道もあります。
出願公開と補償金請求権(特許法第64条〜65条)
出願の日から1年6月が過ぎると、出願の中身が特許公報に載って世に出ます。第三者が同じ研究に重ねて金と時間を投じる無駄を防ぐためですが、出願人からすれば真似されるおそれを負うことになります。そこで、公開されたあとに第三者がその発明を業として実施した場合、出願人はその第三者に補償金を請求できます。
出願公開について押さえるところ。
1. 出願の日から1年6月で、いやおうなく特許公報に載ります
2. 1年6月を待たず、出願人だけが早く公開するよう請求できます
3. 出願公開の請求は取り下げられません
補償金請求権について押さえるところ。
1. 実施している第三者に対して、原則として書面での警告が要ります
2. 出願公開をしていないかぎり、書面での警告はできません
3. 第三者が悪意で実施していた場合は、書面での警告は要りません
4. 公開後に出願が放棄・取下げ・却下になれば、補償金請求権ははじめから生じなかったものとみなされます
5. 実際に請求できるのは、特許権の設定登録のあとです
6. 補償金請求権を使ったあとでも、特許権そのものを行使できます
7. 請求できる額は実施料に見合う額です
特許査定と設定登録(特許法第51条・66条・108条)
拒絶の理由がない、または解けたときは、審査官が特許査定をします。査定の謄本が届いた日から原則30日以内に特許料(初回にかぎり第1年から第3年分をまとめて)を納めると設定登録がされ、特許公報に載ります。
国内優先権を使った出願(特許法第41条)
すでに済ませた自分の特許出願や実用新案登録出願(先の出願)を土台にして新しく出願する場合、先の出願の日から1年以内であれば、その出願に基づく優先権を主張できます。改良した発明をまとめて出し直したいときに使う仕組みです。
これが置かれているのは特許法と実用新案法だけで、意匠法と商標法にはありません。
登録されたあとに特許を消す2つの道
どちらも特許権の効力を失わせる点では同じですが、いつまでと誰がが違います。
具体例
ある会社が4月1日に特許出願をしたとします。翌年10月1日に中身が公開され、そこでライバル社が同じ技術で製品を売り始めました。この会社は書面で警告しておけば、設定登録のあとにその期間分の実施料相当額を補償金として請求できます。なお出願から3年以内に審査請求をしなければ、この出願そのものが取り下げられたものとみなされ、権利になる道が閉じてしまいます。

特許出願から権利取得までの流れ
試験のポイント
制限(特許法第69条)
次の行為には効力が届かず、侵害にもなりません。
存続期間(特許法第67条)
特許権は登録によって生まれ、原則として特許出願の日から20年で満了します。生まれるのは登録のとき、数え始めるのは出願の日。この組合せに注意してください。
延びる場合もあります。農薬や医薬品のように行政庁の許可を得るのに時間がかかるものは5年を限度に延長でき、また審査に手間取って、出願から5年または審査請求から3年を過ぎた日のいずれか遅いほうより後に登録された場合にも延長が認められます。
消える事由
1. 存続期間の満了(第67条)
2. 特許料を納めなかったこと(第112条4項〜6項)
3. 特許無効の審決の確定(第125条)、異議申立てによる取消しの決定(第114条3項)
4. 放棄(第97条)
5. 相続人がいないこと(第76条)
具体例
大学の研究室が他社の特許技術を使って性能を確かめる実験をしても、試験研究のための実施なので侵害になりません。ところがその結果をもとに、同じ技術を組み込んだ製品を作って売れば、業としての実施にあたり侵害になります。同じ技術に触れていても、確かめるためか、商売にするためかで結論が分かれます。

特許権の効力・制限・存続期間
試験のポイント
強さの裏返しとして、設定した範囲では特許権者自身も実施できなくなります。自分で使う道を手放す代わりに、高めのロイヤリティを得る、という取引です。
通常実施権
通常実施権は専用実施権と違って登録が要りません。生まれさえすれば、登録しなくても対抗要件を満たします(当然対抗制度。特許法第99条)。おかげで、特許権が他人に譲られたり専用実施権が設定されたりしたあとでも、通常実施権者は使い続けられます。
ただし通常実施権者には、特許権を侵害する第三者に対する差止請求も損害賠償請求も、原則として認められていません。
仮専用実施権と仮通常実施権(特許法第34条の2・34条の3)
特許権が生まれる前、まだ出願の段階でのライセンスを守るための仕組みです。特許を受ける権利をもつ人は、これから取得するはずの特許権について、仮専用実施権の設定や仮通常実施権の許諾ができます。設定登録がされると、その特許権について専用実施権の設定や通常実施権の許諾があったものとみなされます。大学のように自分では事業化しない主体が、権利の発生を待たずに早くライセンス料を得られるようにするためのものです。
質権(特許法第95条・96条)
特許権や実施権には質権を設定できます。民法の質権と違って質権者に物を渡す必要はなく、特許権者は質権を設定したあとも発明を実施できます。逆に質権者のほうは、特約がなければ実施できません。
なお抵当権は原則として不動産にしか設定できないので、知的財産権に抵当権を設定することはできません。
具体例
A社が自社の特許について、B社に東日本にかぎった専用実施権を設定し登録したとします。この場合、A社自身も東日本ではその発明を実施できなくなります。自社の工場を動かし続けたかったのであれば、専用実施権ではなく通常実施権を許諾すべきだった、ということになります。契約の型を選び間違えると、自分の首を絞めることになります。

専用実施権と通常実施権
試験のポイント
なお職務発明以外(自由発明など)について、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させると定めた契約や勤務規則の条項は無効です。仕事と関わりのないところまで会社が取り上げることは認められません。
共同発明(特許法第38条)など
複数の人が力を合わせて完成させた発明を共同発明といいます。社内のチームで発明をすれば、特許を受ける権利はメンバー全員の共有になります。
他人が入ってくる行為には同意が要り、自分の中で完結する行為には要らない。この線で整理できます。
先使用権(特許法第79条)
他人の特許出願にかかる発明の中身を知らないまま(善意で)自分でも同じ発明をし、あるいは善意の発明者から知り、その特許出願の時点で現に日本国内でその発明を実施する事業をしている人(またはその準備をしている人)を守る仕組みです。
こうした人には、実施や準備をしている発明と事業の目的の範囲内で、特許権が生まれたあとも引き続き業として実施できる無償の通常実施権が認められます。先に使っていた人が、あとから出願した人の権利で突然締め出されるのを防ぐためです。
具体例
研究員が業務として新しい電池材料を発明したとします。勤務規則に「職務発明にかかる特許を受ける権利は会社が取得する」と書いてあれば、権利は生まれた時から会社のものになり、研究員は相当の利益を受け取ります。書いていなければ権利はまず研究員のものになり、会社が得られるのは無償の通常実施権にとどまります。規則を整えてあるかどうかで結論が入れ替わります。

先使用権
試験のポイント
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