総需要-総供給分析(AD-AS分析)の基礎
雇用と物価水準
この節では、IS-LM分析を土台として導かれるAD曲線(総需要曲線)と、労働市場から導かれるAS曲線(総供給曲線)の基礎を学びます。両曲線の形状・シフト要因を理解し、AD-AS均衡による物価水準と国民所得の同時決定を把握しましょう。
総需要曲線(AD曲線)
簡単にいうと
AD曲線は「物価が下がるとGDPが増える」関係を描いた曲線!IS-LM分析から物価を変化させて導き出すよ!
①AD曲線(総需要曲線)の定義 --- AD曲線とは、生産物市場と貨幣市場の両方が同時に均衡するような国民所得と物価水準の組み合わせを描いた曲線です。IS-LM分析を土台にして、物価水準を変化させることで導出されます。縦軸に物価、横軸に国民所得をとると右下がりの曲線になります。
②AD曲線が右下がりになる理由 --- 物価が下落すると、名目貨幣供給量は一定なので実質貨幣供給量が増加します。実質的なお金の量が増えるとLM曲線が右にシフトし、均衡利子率が低下します。利子率が下がると企業の投資が活発になり、乗数効果を通じて総需要(国民所得)が拡大します。つまり↓ → ↑ → ↓ → ↑ → ↑ という因果の連鎖が、AD曲線を右下がりにしているのです。
③AD曲線のシフト要因 --- AD曲線はIS曲線やLM曲線を動かす要因によってシフトします。政府支出の増加や減税はIS曲線を右にシフトさせ、すべての物価水準で均衡が大きくなるため、AD曲線全体が右にシフトします。名目貨幣供給量の増加はLM曲線を右にシフトさせ、同様にAD曲線を右にシフトさせます。逆に、政府支出の削減・増税・貨幣供給量の減少はAD曲線を左にシフトさせます。なお、物価そのものの変化はAD曲線上の移動であり、シフトではありません。
具体例
名目貨幣供給量のケースで、物価水準を変えながらAD曲線を描いてみましょう。
まず物価のときを考えてみましょう。実質貨幣供給量はです。この条件でIS-LMの均衡を求めると、均衡国民所得はとなります。
次に物価に下がった場合を見てみましょう。実質貨幣供給量はに倍増します。LM曲線が右にシフトするので、均衡国民所得はに増加します。
さらに物価まで下がると、実質貨幣供給量はと大幅に増加します。LM曲線がさらに右にシフトし、均衡国民所得はに拡大します。
このように、物価が下がるほど国民所得が増えるという関係が確認でき、右下がりのAD曲線が描けることがわかります。
試験のポイント
- ・要は「物価↓→実質貨幣供給↑→LM右シフト→GDP↑だからAD曲線は右下がり」
- ・導出メカニズム(→→LMシフト→均衡変化)を一連の流れで押さえる
- ・シフト要因はIS・LMを右シフトさせるもの→AD右シフト、左シフトさせるもの→AD左シフト
- ・物価の変化はAD曲線上の移動であってシフトではない点に注意
総供給曲線(AS曲線)
簡単にいうと
AS曲線の形は古典派とケインズ派で全然違う!古典派は垂直、ケインズ派は右上がり。賃金の考え方がカギだよ!
①AS曲線(総供給曲線)の定義 --- AS曲線とは、労働市場の均衡から導かれる、物価水準と総供給量(国民所得)の関係を描いた曲線です。労働市場における実質賃金の調整メカニズムが、AS曲線の形状を決定します。古典派とケインズ派で名目賃金の調整速度に対する考え方が異なるため、AS曲線の形状が大きく異なります。
②古典派のAS曲線(垂直) --- 古典派は名目賃金が伸縮的に調整されると考えます。物価が変化しても名目賃金がすぐに追随するため、実質賃金は常に均衡水準に保たれ、労働市場は常に完全雇用を達成します。その結果、物価水準が変わっても生産量は完全雇用国民所得から動かず、AS曲線はの水準で垂直になります。AD曲線がシフトしても国民所得は不変で、物価のみが変化します。
③ケインズ派のAS曲線(右上がり) --- ケインズ派は名目賃金に下方硬直性があると考えます。物価が上昇すると名目賃金はすぐには上がらないため、実質賃金が低下し、企業にとって雇用コストが下がるので雇用が増え、生産量が拡大します。この結果、AS曲線は右上がりになります。不完全雇用の領域では緩やかな右上がりですが、完全雇用に近づくと急傾斜になり、完全雇用を超えると古典派と同じく垂直に近づきます。ケインズ派のAS曲線では、AD曲線のシフトによりもも両方変化します。
AS曲線のシフト要因
| シフト方向 | 要因 | 具体例 |
|---|---|---|
| 右シフト(供給拡大) | 技術進歩・生産性向上・原材料価格低下 | IT革命による効率化 |
| 左シフト(供給縮小) | 原材料価格上昇・自然災害・生産性低下 | 原油価格高騰 |
具体例
古典派とケインズ派で政府支出を増やした場合の違いを考えてみましょう。
まず古典派のケースを見てみましょう。政府支出が増加するとAD曲線が右にシフトします。しかしAS曲線が垂直なので、交点は上に移動するだけです。結果としてはのまま不変で、のみが上昇します。財政政策は国民所得に影響を与えないのです。
次にケインズ派のケースを考えてみましょう。同じくAD曲線が右にシフトしますが、AS曲線が右上がりなので交点は右上に移動します。が増加すると同時にも上昇します。ただし、完全雇用に近いほどの上昇が大きく、の増加は小さくなっていきます。
試験のポイント
- ・要は「古典派AS=垂直(賃金伸縮的・完全雇用)、ケインズ派AS=右上がり(賃金下方硬直的・不完全雇用あり)」
- ・古典派ではADシフトで物価のみ変化、ケインズ派ではGDPも物価も変化する
- ・AS曲線のシフト要因(技術進歩→右シフト、原材料費高騰→左シフト)も出題される
AD-AS均衡と物価水準の決定
簡単にいうと
AD曲線とAS曲線の交点で、GDPと物価水準が同時に決まる!AS曲線の左シフトで起きるスタグフレーションも超重要テーマ!
①AD-AS均衡の決定メカニズム --- AD-AS分析では、AD曲線(総需要曲線)とAS曲線(総供給曲線)の交点で均衡国民所得と均衡物価水準が同時に決定されます。IS-LM分析が利子率と国民所得を決めるのに対し、AD-AS分析は物価と国民所得を決める点が異なります。古典派のAS曲線(垂直)のもとではADがシフトしてもはのまま不変でのみが変化しますが、ケインズ派のAS曲線(右上がり)のもとではADのシフトによりもも変化します。
②AS曲線のシフトとスタグフレーション --- 原材料価格の高騰などでAS曲線が左にシフトすると、均衡点は左上に移動し、↓かつ↑という現象が同時に発生します。景気後退(stagnation)とインフレーション(inflation)が同時に起きるこの現象をスタグフレーションと呼びます。1970年代のオイルショックが典型例であり、原油価格の急騰がAS曲線を大きく左にシフトさせました。
③供給ショックへの政策対応のジレンマ --- スタグフレーションに対する政策対応は深刻なジレンマを伴います。拡張的政策(AD曲線を右シフト)を採ればは回復しますががさらに上昇してインフレが悪化します。緊縮的政策(AD曲線を左シフト)を採ればは抑制できますががさらに低下して不況が深まります。どちらを選んでも一方の問題が悪化するため、供給ショックへの対処はマクロ経済政策の最も難しい課題の一つとされています。
具体例
1973年の第1次オイルショックの流れを追ってみましょう。
まず原油価格が急騰し、企業の生産コストが大幅に上昇しました。これによりAS曲線が大きく左にシフトします。
次にAD-ASの均衡がどう変わるか見てみましょう。AS曲線の左シフトにより、交点は左上に移動します。GDP(国民所得)が減少すると同時に、物価水準が上昇するスタグフレーションが発生しました。
そこで政府は拡張的財政政策(AD右シフト)で対応しました。GDPは一定程度回復しましたが、物価がさらに上昇してインフレが悪化するというジレンマに直面したのです。

AS曲線の左シフト(スタグフレーション)
試験のポイント
- ・要は「AD-ASの交点でとが同時に決まり、AS左シフト→GDP↓かつ物価↑=スタグフレーション」
- ・古典派(AS垂直→不変・のみ変化)とケインズ派(AS右上がり→もも変化)の政策効果の違いが最頻出
- ・供給ショックへの政策対応のジレンマ(拡張策→インフレ悪化、緊縮策→不況悪化)も出る
まとめ
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