労働市場とAS曲線(総供給曲線)
雇用と物価水準
労働市場の仕組みを学び、そこからAS曲線(総供給曲線)がどのように導かれるかを理解しましょう。古典派とケインズ派でAS曲線の形状がまったく異なる理由を、名目賃金の調整メカニズムから丁寧に解説します。
労働市場
簡単にいうと
労働市場は「企業が労働者を雇いたい量(需要)」と「人々が働きたい量(供給)」で決まる市場!実質賃金率がカギだよ!
① 労働市場とは何か
労働市場とは、労働力が取引される市場のことです。労働の需要者は企業(雇う側)であり、労働の供給者は家計(働く側)です。労働市場の分析では、名目賃金そのものではなく、物価水準で割った実質賃金率が重要な役割を果たします。なぜなら、企業も労働者も「お金の額面」ではなく「そのお金で実際にどれだけのモノが買えるか」を基準に意思決定を行うからです。
② 労働需要曲線(右下がり)
企業は利潤を最大化するために、「もう1人雇ったときの追加的な生産(限界生産物)」と「その人に支払う実質賃金」を比較して雇用量を決めます。実質賃金が低いほど、追加雇用のコストが小さくなるため企業は多くの労働者を雇おうとします。逆に実質賃金が高いと、コストに見合わない雇用を控えます。したがって、労働需要曲線は実質賃金の減少関数であり、グラフでは右下がりの曲線となります。
③ 労働供給曲線(右上がり)
家計は「働くことで得られる所得」と「余暇を楽しむこと」を天秤にかけて労働時間を決めます。実質賃金が高いほど、働くことの見返りが大きくなるため、より多くの人が労働市場に参加し、また1人あたりの労働時間も増える傾向があります。したがって、労働供給曲線は実質賃金の増加関数であり、グラフでは右上がりの曲線となります。
④ 均衡実質賃金と完全雇用
労働需要曲線と労働供給曲線が交わる点で均衡実質賃金が決まり、そのときの雇用量が均衡雇用量です。物価水準が変化したとき、均衡実質賃金を維持するように名目賃金が調整されるかどうかが、古典派とケインズ派の分岐点となります。
具体例
実質賃金率と雇用量の関係を、具体的な数値で考えてみましょう。
ある経済で、実質賃金率のとき、企業の労働需要が100人、家計の労働供給が100人だったとします。需要と供給が一致しているので、この状態が労働市場の均衡です。
ここで物価水準が上昇した場合を考えてみましょう。名目賃金がすぐには変わらないとすると、実質賃金は低下します。すると企業にとっては「安く雇える」状況になるため労働需要は100人を超えて増加します。一方、労働者にとっては「同じ給料でも買えるモノが減った」状況なので、働く意欲が減って労働供給は100人を下回ります。
この結果、労働市場には超過需要(人手不足)が生じます。名目賃金が上昇圧力を受け、やがて新しい均衡実質賃金に向かって調整が進みます。このとき、名目賃金の調整が「すぐに行われる」と考えるのが古典派、「下方には硬直的で時間がかかる」と考えるのがケインズ派です。
試験のポイント
- ・要は「労働需要は実質賃金の減少関数(右下がり)、労働供給は増加関数(右上がり)で、交点が均衡」
- ・実質賃金率の定義と、物価変化時に名目賃金がどう調整されるかが古典派・ケインズ派の違いにつながる
古典派のAS曲線
簡単にいうと
古典派は「賃金も物価も自由に動くから常に完全雇用!」と考える。だからAS曲線は垂直になるの!
① 古典派の基本的な考え方
古典派経済学では、名目賃金は伸縮的(フレキシブル)であると仮定します。つまり、物価水準が変化すれば、それに応じて名目賃金もすぐに調整され、実質賃金は常に均衡水準に保たれると考えます。その結果、労働市場は常に均衡し、経済は常に完全雇用の状態にあるとされます。
② なぜAS曲線が垂直になるのか
物価が上昇した場合を考えてみましょう。古典派の世界では名目賃金もすぐに同じ割合で上昇するため、実質賃金は変化しません。実質賃金が変わらなければ企業の雇用量も変わらず、生産量(国民所得)も完全雇用国民所得のまま変化しません。物価が下落した場合も同様に、名目賃金が下がって実質賃金は一定です。
このように、物価がどのように変化しても生産量は常にで一定なので、縦軸に物価、横軸に国民所得をとると、AS曲線はの位置で垂直な直線になります。
③ 古典派AS曲線のもとでの政策効果
AS曲線が垂直であるため、AD曲線がいくら右にシフトしても(財政政策でも金融政策でも)、均衡点は垂直なAS曲線に沿って上下に動くだけです。国民所得はから動かず、物価のみが変化します。これは「古典派の二分法」と呼ばれる考え方と整合的で、貨幣量の変化は名目変数(物価・名目賃金)だけに影響し、実質変数(実質GDP・実質賃金)には影響しないという「貨幣の中立性」が成り立ちます。
具体例
古典派の世界で政府支出を増やした場合の効果を追ってみましょう。
ステップ1 政府支出の増加により、IS曲線が右にシフトし、AD曲線も右にシフトします。
ステップ2 AD曲線が右にシフトすると、一時的に総需要が総供給を上回り、物価に上昇圧力がかかります。
ステップ3 しかしAS曲線はで垂直なので、均衡点はAS曲線に沿って上に移動するだけです。国民所得はのまま変わらず、物価だけがからに上昇します。
つまり、古典派の世界では財政政策は「物価を上げるだけで実質的な経済効果はない」ということになります。金融政策(マネーサプライ増加)の場合も同様に、AD曲線の右シフトは物価上昇だけをもたらし、実質GDPには影響しません。
試験のポイント
- ・要は「古典派のAS曲線は垂直(完全雇用)で、AD曲線がシフトしても物価だけ変わりGDPは不変」
- ・古典派=賃金伸縮的=完全雇用=AS垂直=貨幣の中立性のセットで覚える
ケインズ派のAS曲線
簡単にいうと
ケインズ派は「短期では賃金は下がりにくい(下方硬直性)」と考える。だからAS曲線は右上がりで、不完全雇用もあり得る!
① ケインズ派の基本的な考え方
ケインズ派は、名目賃金には下方硬直性があると考えます。労働組合の交渉力や最低賃金制度、労働者の心理的抵抗などにより、名目賃金は上がることはあっても容易には下がりません。そのため、物価が変化しても名目賃金がすぐには追随せず、実質賃金が変動します。この結果、労働市場は必ずしも完全雇用を達成せず、非自発的失業(働きたいのに仕事がない人)が存在しうるとケインズ派は主張します。
② なぜAS曲線が右上がりになるのか
物価が上昇した場合を考えましょう。名目賃金はすぐには上がらない(下方硬直性により固定に近い)ため、実質賃金は低下します。企業にとっては「労働者を安く雇える」状況になるため、雇用を増やし、生産量が拡大します。逆に物価が下落しても名目賃金は下がりにくいので、実質賃金が上昇して企業は雇用を減らし、生産量が縮小します。
このように物価↑ → 生産量↑、物価↓ → 生産量↓ という正の関係が生まれるため、AS曲線は右上がりになります。
③ AS曲線の形状の詳細
ケインズ派のAS曲線は一様な傾きではなく、経済の状態によって形が変わります。不完全雇用の領域(がより小さい)では緩やかな右上がりで、物価が少し上がっただけで生産量が大きく増えます。これは遊休設備や失業者が多く、すぐに生産拡大が可能だからです。完全雇用に近づくと、余剰の生産資源が少なくなるためAS曲線は急傾斜になり、完全雇用を超えると古典派と同じくほぼ垂直になります。
④ ケインズ派AS曲線のもとでの政策効果とシフト要因
ケインズ派のAS曲線が右上がりであるため、AD曲線の右シフト(財政・金融政策)によりもも両方増加します。つまり政策が国民所得に影響を与えることができます。ただし、完全雇用に近いほどの上昇が大きくの増加が小さくなる点に注意が必要です。
AS曲線自体もシフトします。
| シフト方向 | 要因 | 具体例 |
|---|---|---|
| 右シフト(供給拡大) | 技術進歩・生産性向上・原材料価格低下 | IT革命、原油安 |
| 左シフト(供給縮小) | 原材料価格上昇・自然災害・生産性低下 | オイルショック |
具体例
ケインズ派の世界で金融緩和(マネーサプライの増加)を行った場合の効果を考えてみましょう。
ステップ1 中央銀行が買いオペでを増加させると、LM曲線が右にシフトし、それに伴いAD曲線も右にシフトします。
ステップ2 AS曲線が右上がりなので、AD曲線との交点は右上に移動します。均衡国民所得はからに増加し、均衡物価もからに上昇します。
ステップ3 ただし、もし経済がすでに完全雇用に近い状態であった場合、AS曲線が急傾斜になっているため、の増加幅は小さく、の上昇幅が大きくなります。
このように、ケインズ派の世界では金融政策・財政政策ともに国民所得を増加させる効果がありますが、完全雇用に近いほどインフレを招きやすくなるというトレードオフが存在します。
試験のポイント
- ・要は「ケインズ派のAS曲線は右上がり(名目賃金の下方硬直性が原因)で、ADシフトによりGDPも物価も変わる」
- ・古典派(垂直)との違いを「賃金の調整速度」で説明できるようにする
- ・AS曲線のシフト要因(技術進歩→右、原材料高騰→左)も出題される
まとめ
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