消費に関する理論
消費、投資、金融政策に関する理論
この節では、ケインズ型消費関数の限界を克服するために提唱された消費に関する諸理論を学びます。恒常所得仮説、ライフサイクル仮説、相対所得仮説の違いを理解しましょう。
ケインズ型消費関数の課題と恒常所得仮説
簡単にいうと
ケインズのは短期にはOKだけど、長期では平均消費性向が一定になる現象を説明できない!フリードマンの恒常所得仮説がそれを解決するよ!
まず、なぜケインズの消費関数に課題があるのかを確認しましょう。
ケインズ型消費関数の課題
ケインズは消費関数を(は限界消費性向、は基礎消費)と定式化しました。この式は短期的なデータにはよく当てはまります。しかし、長期的なデータを見ると、消費は(原点を通る比例関数)の形にフィットすることがわかりました。つまり、短期と長期で消費関数の形が異なるのです。この矛盾をどう説明するかが「消費関数論争」と呼ばれる議論であり、その解決策の一つがフリードマンの恒常所得仮説です。
恒常所得仮説(フリードマン):
フリードマンは、人々の消費は一時的な所得の変動ではなく、恒常所得(長期的に期待される平均的な所得水準)に依存すると考えました。式で表すと(は恒常所得、は一定の比率)です。
この仮説のポイントは次の通りです。
① 一時的な所得増加には消費はあまり反応しない ボーナスや臨時収入のように、今後も続くとは限らない収入が入っても、人々はそれを「たまたまの臨時収入」とみなし、大部分を貯蓄に回します。消費水準は大きく変わりません。
② 恒常的な所得増加には消費が増える 昇給や昇進のように、今後も継続すると期待できる所得の増加があれば、人々は将来にわたって所得水準が上がったと判断し、消費を増やします。
③ 長期的にはとなる 長期的に見ると、所得の変動は恒常所得の変動とほぼ一致するため、消費関数は原点を通る比例関数の形になります。これにより、短期と長期の消費関数の形が異なる謎が解決されます。
具体例
年収500万円の会社員に臨時ボーナス50万円が支給された場合を考えてみましょう。
ケインズ型の予測 限界消費性向を0.8とすると、消費増加額は万円です。所得が増えた分の80%を消費に回すと予測します。
恒常所得仮説の予測 この50万円は一時的な所得であり、恒常所得(長期的な平均所得)は変わっていません。そのため、消費はほとんど増えず、臨時ボーナスの大部分は貯蓄に回されます。
実際の人々の行動を観察すると、臨時収入は貯蓄に回しやすい傾向があり、恒常所得仮説のほうが現実に近い予測をしているケースが多いのです。
試験のポイント
- ・要は「恒常所得仮説は『消費は恒常所得に依存し、一時的所得には反応しない』という理論」
- ・一時金の支給で消費が増えない理由の説明、長期消費関数が原点を通る比例関数になることの説明に使う
ライフサイクル仮説
簡単にいうと
人は「生涯を通じて消費を平準化する」ように行動する!若いときに借金、働き盛りに貯蓄、老後に取り崩すイメージ!
ライフサイクル仮説はモディリアーニが提唱した理論で、消費者は生涯全体を見通して消費を計画するという考え方です。
この仮説の核心は、人々は生涯を通じた消費の平準化を図るということです。つまり、若いときも老いたときも、できるだけ同じくらいの消費水準を維持しようとするのです。そのため、消費は現在の所得だけでなく、生涯にわたる総所得と現在保有する資産に依存します。
消費関数は(は資産、は所得、とは係数)と表されます。恒常所得仮説との大きな違いは、資産が消費関数に入る点です。
ライフサイクル仮説が描く人生のお金の流れを見てみましょう。
① 若年期(所得 < 消費) まだ収入が少ない時期です。しかし将来の所得を見込んで、ある程度の消費水準を維持するため、借入(ローンなど)をして消費します。
② 壮年期(所得 > 消費) 働き盛りで収入がピークに達する時期です。消費を上回る所得を得られるので、差額を貯蓄します。若年期の借入を返済しつつ、老後に備えた蓄えを作ります。
③ 老年期(所得 < 消費) 退職して所得が大きく減る時期です。壮年期に蓄えた資産を取り崩して生活費に充てます。
この仮説から導かれる重要な含意があります。一時的な所得変動は生涯全体で見れば小さいため、消費への影響は限定的です。また、高齢化社会では資産を取り崩す人の割合が増えるため、国全体の貯蓄率が低下するという予測が導かれます。
具体例
ライフサイクル仮説に基づいて、消費の平準化を計算してみましょう。
ある人の生涯所得が3億円、就労期間が40年、生涯(寿命)が60年だとします。
生涯を通じて消費を平準化するなら、年間消費は(毎年一定)です。
就労期間中の年収はなので、毎年の貯蓄額はになります。
40年間での貯蓄が積み上がり、退職後の20年間で毎年500万円ずつ取り崩して使い切ることになります。
試験のポイント
- ・要は「生涯所得を生涯にわたって平準化して消費するのがライフサイクル仮説」
- ・資産が消費関数に入る点が恒常所得仮説との違い
- ・高齢化→貯蓄率低下の含意も出る
相対所得仮説
簡単にいうと
人の消費は「周りの人の消費水準」や「過去の自分の消費水準」に影響される!一度上がった生活水準はなかなか下げられないよね!
相対所得仮説はデューゼンベリーが提唱した理論で、消費は絶対的な所得水準ではなく、相対的な所得水準に依存するという考え方です。ここでいう「相対的」とは、「過去の自分と比べて」と「周りの人と比べて」の2つの意味があります。
① 時間的相対所得仮説(ラチェット効果・歯止め効果)
人々の消費は、過去に経験した最も高い所得水準の影響を強く受けます。一度高い生活水準を経験すると、所得が減少してもその生活水準をなかなか引き下げられないのです。「ラチェット」とは機械の逆回転防止装置のことで、消費水準が一度上がると下がりにくいことを例えています。
たとえば、景気が良いときに年間600万円の消費をしていた人が、景気後退で所得が減ったとしても、すぐには消費を500万円に切り下げません。貯蓄を取り崩してでも、以前の消費水準を維持しようとします。この効果により、景気後退期でも消費の落ち込みに歯止めがかかります。
② 空間的相対所得仮説(デモンストレーション効果)
人々の消費は、同じ社会階層や近隣に住む他の家計の消費水準にも影響されます。周りの人が高級車に乗ったり、おしゃれなレストランに通ったりしていると、自分もそれに合わせて消費を増やそうとする傾向があるのです。「見せびらかし消費」に引きずられるイメージです。
具体例
ラチェット効果を具体的な数値で考えてみましょう。
年収800万円で年間消費600万円だった人の年収が600万円に下がったとします。
ケインズ型の予測 限界消費性向0.8として、のように所得に比例して消費が減少します。
相対所得仮説の予測 この人は過去に年間600万円の消費を経験しています。所得が600万円に減ったとしても、過去の消費水準600万円を維持しようとします。貯蓄を取り崩してでも消費をあまり減らしません(ラチェット効果)。
これが景気後退期に消費が急激に落ち込まない理由の一つです。マクロ経済にとっては、消費の急落を防ぐ安定装置のような役割を果たしています。
試験のポイント
- ・要は「ラチェット効果=過去の消費水準を維持しようとする下方硬直性、デモンストレーション効果=周囲の消費に影響される」の2つ
- ・ラチェット効果の正誤問題が特に頻出
まとめ
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