失業
雇用と物価水準
この節では、マクロ経済学における失業の理論を体系的に学びます。失業の3分類を整理したうえで、フィリップス曲線によるインフレ率と失業率のトレードオフ、そしてフリードマンの自然失業率仮説を理解しましょう。
失業の種類
簡単にいうと
失業には「仕事を探し中(摩擦的)」「産業構造の変化(構造的)」「景気が悪い(循環的)」の3種類があるよ!
①完全失業率と労働力人口の定義 --- 完全失業率はで計算されます。15歳以上人口は労働力人口(就業者+完全失業者)と非労働力人口(学生・専業主婦など)に分かれます。完全失業者の3条件は、(1)仕事がない、(2)仕事を探している、(3)仕事があればすぐ就ける、です。分母が15歳以上人口全体ではなく「労働力人口」である点が計算問題での引っかけポイントです。
②失業の3分類 --- 摩擦的失業は、転職活動中や新卒の就職活動中に一時的に発生する失業です。労働市場が正常に機能していても、求職者と求人のマッチングには時間がかかるため必ず一定量存在します。構造的失業は、産業構造の変化やスキルのミスマッチにより発生する失業です。例えば技術革新で不要になった職種の労働者が新しい職種に移行できない場合に起こり、長期化しやすい特徴があります。循環的失業(需要不足失業)は、景気後退による総需要の不足から発生する失業です。景気が回復して総需要が増えれば解消されます。
③自発的失業と非自発的失業 --- 非自発的失業とは、現行の賃金水準で働く意思と能力があるにもかかわらず仕事が見つからない状態を指します。循環的失業がその中心です。ケインズ経済学が最も問題視する失業類型であり、有効需要の不足が原因です。一方、自発的失業は現行賃金では働きたくないために自ら選んでいる失業状態であり、古典派はこの概念に基づいて失業を説明します。
| 種類 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 摩擦的失業 | 転職・就職活動中 | 労働市場が正常でも存在 |
| 構造的失業 | 産業構造の変化・スキルのミスマッチ | 長期化しやすい |
| 循環的失業 | 景気後退による総需要不足 | 景気回復で解消 |
具体例
完全失業率の計算を実際にやってみましょう。
ある国の15歳以上人口が1億人、就業者が6,600万人、完全失業者が200万人、非労働力人口が3,200万人だとします。
まず労働力人口を求めてみましょう。労働力人口 = 就業者 + 完全失業者 = 6,600万 + 200万 = 6,800万人です。
次に完全失業率を計算してみましょう。完全失業率 となります。ここで分母は15歳以上人口(1億人)ではなく労働力人口(6,800万人)であることに注意しましょう。
試験のポイント
- ・要は「摩擦的=転職中、構造的=スキル不一致、循環的=景気悪化の3種類」
- ・完全失業率の計算で分母は15歳以上人口ではなく「労働力人口」である点、完全失業者の3条件、非自発的失業の概念(ケインズの有効需要不足)が頻出
フィリップス曲線
簡単にいうと
失業率が低いと賃金が上がってインフレに!失業率とインフレ率のトレードオフ関係を描いたのがフィリップス曲線!
①短期フィリップス曲線(右下がり) --- フィリップス曲線は、失業率と賃金上昇率(またはインフレ率)の間のトレードオフ関係を示す曲線です。短期のフィリップス曲線は右下がりであり、失業率が低い状態では労働力が不足して賃金が上昇しやすくなるため、インフレ率が高くなります。逆に失業率が高い状態では賃金上昇圧力が弱まり、インフレ率が低下します。このトレードオフは、政策当局が「失業率を下げたいならインフレを許容しなければならず、インフレを抑えたいなら失業率の上昇を受け入れなければならない」というジレンマに直面することを意味します。
②長期フィリップス曲線(垂直) --- フリードマンは、長期的にはフィリップス曲線が自然失業率の水準で垂直になると主張しました。短期的には拡張的政策でインフレ率を高めて失業率を下げることができますが、やがて人々がインフレを予想に織り込むようになると、短期フィリップス曲線自体が上方にシフトします。その結果、失業率は元の自然失業率の水準に戻り、インフレ率だけが高止まりします。長期的にはインフレ率と失業率のトレードオフは成立しないのです。
③自然失業率の定義 --- 自然失業率とは、摩擦的失業率と構造的失業率の合計であり、循環的失業がゼロの状態における失業率です。労働市場が「完全雇用」とされる状態でも摩擦的失業と構造的失業は存在するため、自然失業率はゼロにはなりません。長期フィリップス曲線はこの自然失業率の水準で垂直になります。
具体例
拡張的金融政策の短期・長期の効果を、フィリップス曲線で追ってみましょう。
まず短期を考えてみましょう。中央銀行がマネーサプライを増やすと、総需要が拡大して企業の雇用が増え、失業率が低下します。同時に需要増加により物価が上昇し、インフレ率が高まります。短期フィリップス曲線上を左上方向に移動したことになります。
次に長期の動きを見てみましょう。やがて労働者がインフレを予想に織り込み、名目賃金の引き上げを要求します。すると短期フィリップス曲線自体が上方にシフトし、失業率は自然失業率に戻りますが、インフレ率は高いままです。これが「長期フィリップス曲線は垂直」の意味です。

フィリップス曲線(原型と物価版)

短期・長期フィリップス曲線
試験のポイント
- ・要は「短期フィリップス曲線は右下がり(失業率↓ならインフレ率↑のトレードオフ)、長期フィリップス曲線は自然失業率で垂直(トレードオフ不成立)」
- ・短期と長期の違い、自然失業率=摩擦的+構造的失業率の定義、予想インフレ率の織り込みによる短期曲線の上方シフトが頻出
自然失業率仮説
簡単にいうと
フリードマンは「どんな政策をやっても、長期的には失業率は自然失業率に戻る!」と主張した。オークンの法則も一緒に理解しよう!
①自然失業率仮説の内容 --- 自然失業率仮説とは、フリードマンが提唱した理論で、長期的には失業率は政策によらず自然失業率の水準に収束するという主張です。短期的には拡張的政策で失業率を自然失業率以下に引き下げることが可能ですが、それは人々の予想インフレ率を上回るインフレを起こしている間だけ続きます。やがてインフレが予想に織り込まれると、実質賃金は元の水準に調整され、失業率は自然失業率に回帰します。
②マネタリストの政策観 --- マネタリスト(フリードマンの立場)は、短期と長期で政策効果が異なると考えます。短期では拡張的政策により物価が上昇し、実質賃金が低下するため企業は雇用を増やして失業率が下がります。しかし長期では労働者が物価上昇に気づき名目賃金の引き上げを要求するため、実質賃金は元の水準に戻り、失業率も自然失業率に回帰します。したがって、長期的にはインフレが加速するだけで雇用は改善しないのです。
③オークンの法則 --- オークンの法則は、GDPと失業率の間に負の相関関係があるという経験則です。失業率が下がれば生産活動に従事する労働者が増えてGDPが増加し、失業率が上がれば生産が減少してGDPが低下します。数式ではと表され、はオークン係数(正の値)、は実際の失業率、は自然失業率です。失業率が自然失業率を1%ポイント上回ると、GDPが完全雇用GDPを%下回ることを意味します。
具体例
オークンの法則を使って具体的に計算してみましょう。
オークン係数、自然失業率の経済を想定します。実際の失業率がだった場合を考えてみましょう。
オークンの法則の式に代入すると、 となります。つまり実際のGDPは完全雇用GDPよりも4%低い水準にあることがわかります。
逆に、自然失業率仮説の観点から考えてみましょう。政府が拡張的政策で失業率をに引き下げたとします。短期的にはでGDPが完全雇用水準を2%上回りますが、長期的にはインフレが予想に織り込まれて失業率はに戻ります。
試験のポイント
- ・要は「自然失業率仮説=長期的には失業率は自然失業率に回帰し、拡張的政策はインフレを加速させるだけ」
- ・オークンの法則(失業率↑→GDP↓の負の相関)の計算問題、マネタリストの短期・長期の政策効果の違いも出題される
- ・自然失業率=摩擦的+構造的(循環的はゼロ)の定義を再確認
まとめ
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