貨幣市場とIS-LM分析
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「GDP(国内総生産)」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る前節で、マネーサプライはマネタリーベースより大きいと述べました。日本銀行が世の中に出したお金の何倍ものお金が、私たちの手元にあるのです。
なぜそんなことが起こるのでしょうか。答えが信用創造です。銀行が預金を受け入れ、その一部を残して残りを貸し出す。貸し出されたお金がまた別の銀行に預けられ、またその一部を残して貸し出される。この連鎖によって、もとのお金の何倍もの預金が生まれます。
第7章の乗数効果とよく似た構造をしています。あちらは「支出と所得の連鎖」でしたが、こちらは「預金と貸付の連鎖」です。そして、何倍になるかを表すのが貨幣乗数(信用乗数)です。令和元年第6問、令和3年第7問で問われている頻出論点です。
簡単にいうと
銀行が貸したお金が、また別の銀行に預けられて、また貸される。このくり返しで、世の中のお金がどんどん増えていくの!
信用創造とは、**預金と貸付の連鎖により、
日銀が世の中に直接的に供給したお金(マネタリーベース)の何倍ものお金(マネーサプライ)が
生まれる現象**のことです。
① 連鎖の流れ
具体的な金額を置いて、順を追ってみましょう。準備率を1%とします。
① 中央銀行がX銀行に1,000万円の現金を供給する。
② 現金を供給されたX銀行は、取引先A社に1,000万円を融資する。
(X銀行が受け取った1,000万円は預金ではないため、準備預金は不要です。)
A社はそのうちの一部(100万円)を手元に残し、残り(900万円)をY銀行に預金する。
③ Y銀行は受け入れた預金900万円の一部(9万円)を準備預金にあて、
残り(891万円)を取引先B社に融資する。
④ B社はそのうちの一部(91万円)を手元に残し、
残り(800万円)をZ銀行に預金する。
⑤
具体例
信用創造を、いちばん単純なケース(手元現金を残さない場合)で追ってみましょう。
設定: 準備率10%、企業は融資を受けたお金を全額そのまま銀行に預けるとします。
第1ラウンド
中央銀行がX銀行に1,000万円を供給します。
X銀行はこれをA社に全額融資し、A社は全額をY銀行に預金します。
第2ラウンド

信用創造のメカニズムと貨幣乗数

信用創造の連鎖
試験のポイント
簡単にいうと
マネーサプライがマネタリーベースの何倍になるか、それが貨幣乗数。式は (c+1)/(c+r) 。分子と分母で1とrの位置が違うだけだよ!
貨幣乗数(信用乗数ともいう)とは、
マネーサプライがマネタリーベースの何倍になるかを表した数値です。
① 定義から出発する
記号を次のように置きます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
簡単にいうと
準備率が下がると乗数は大きくなる。みんなが現金を持たずに預金するようになっても大きくなるよ!
貨幣乗数 を動かすのは、
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
残り(792万円)を取引先C社に融資する。
⑥ C社はそのうちの一部(92万円)を手元に残し、
残り(700万円)を他の銀行に預金する。
……という具合に、当初、中央銀行から供給された通貨(マネタリーベース)の
何倍ものお金が新たに発生することがわかります。
② 2か所で「漏れ」が起きている
この連鎖は無限には続きません。2つの理由でだんだん細っていきます。
| 漏れ | どこで | どれだけ |
|---|---|---|
| 手元現金 | 企業が融資を受けたお金の一部を手元に残す | 現金預金比率で決まる |
| 準備預金 | 銀行が預金の一部を中央銀行に預け入れる | 準備率で決まる |
どちらも「次の銀行の貸出しに回らないお金」です。
この2つの漏れが大きいほど、信用創造の連鎖は早く終わり、
マネーサプライの増え方は小さくなります。
③ マネタリーベースはどこへ行ったのか
最初に中央銀行が供給した1,000万円は、連鎖の途中で消えたわけではありません。
図の右端にあるとおり、次の2つに姿を変えています。
A社が残した100万円、B社が残した91万円、C社が残した92万円……を足したものが手元現金。
Y銀行が積んだ9万円、Z銀行が積んだ8万円……を足したものが準備預金。
両方を足すと、ちょうど最初の1,000万円になります。
マネタリーベースは増えていないのに、預金が増えている。
これが信用創造という言葉の意味です。
④ 第7章の乗数効果との比較
構造がそっくりなので、並べて見ておきましょう。
| 乗数効果(第7章) | 信用創造(第8章) | |
|---|---|---|
| 何の連鎖か | 支出と所得の連鎖 | 預金と貸付の連鎖 |
| 何が増えるか | 国民所得 | マネーサプライ(預金) |
| 漏れるもの | 貯蓄()、租税、輸入 | 手元現金、準備預金 |
| 倍率 | 乗数 など | 貨幣乗数 |
どちらも「漏れが大きいほど倍率が小さくなる」という性質を持っています。
片方を理解していれば、もう片方も同じ理屈だと納得できるはずです。
第3ラウンド
全部足すと
預金の合計は、
初項1,000、公比0.9の無限等比級数なので、
1,000万円のマネタリーベースから、1億円の預金が生まれました。10倍です。
準備預金の合計を確かめる
ちょうど最初のマネタリーベース1,000万円と一致します。
マネタリーベースは増えておらず、姿を変えただけであることが確認できました。
準備率を変えてみる
| 準備率 | 預金の合計 | 倍率 |
|---|---|---|
| 5% | 2億円 | 20倍 |
| 10% | 1億円 | 10倍 |
| 20% | 5,000万円 | 5倍 |
| 25% | 4,000万円 | 4倍 |
準備率が低いほど、信用創造は大きく働きます。
この単純化したケースでは、倍率は になります。
手元現金がある場合
先ほど見たように、企業が融資を受けたお金の一部を手元に残す場合は、
連鎖が早く細るので倍率は小さくなります。
たとえば、A社が1,000万円のうち100万円を手元に残せば、
Y銀行に預けられるのは900万円です。
このぶん、次のラウンドに回る金額が小さくなります。
この「手元に残す割合」を織り込んだ正確な倍率が、次のテーマの貨幣乗数です。
信用創造が止まるとき
現実には、この連鎖は理論どおりには進みません。
不況で貸出先が見つからなければ、銀行は法定準備を超えて日銀当座預金に積むしかありません
(超過準備)。
このとき信用創造は働かず、マネタリーベースを増やしてもマネーサプライは増えません。
日本の長期にわたる金融緩和期に実際に起きたことであり、
「中央銀行が直接コントロールできるのはマネタリーベースまで」
という前節の話が、現実に表れた場面です。
| マネーサプライ |
| マネタリーベース(ハイパワードマネー) |
| 流通現金(Cash) |
| 預金(Deposit) |
| 法定準備預金額(Reserve) |
(マネタリーベースとマネーサプライでは流通現金の示す範囲が異なりますが、
ここでは金融機関の保有する現金はないものとして、
マネーサプライにおける流通現金の定義で考えます。)
前節の定義を思い出すと、
したがって、
② マネーサプライの式に直す
「マネタリーベース × 貨幣乗数 = マネーサプライ」という関係が見えます。
③ 比率の形に直す
さらに、貨幣乗数の分母と分子を預金 で割ります。
ここで、
| 記号 | 名前 | 定義 |
|---|---|---|
| 現金預金比率 | ||
| 準備率 |
以上により、貨幣乗数は次の式で表されます。
④ 式の形を覚えるコツ
分子と分母で違うのは、 と の位置だけです。
なので、分子のほうが必ず大きくなります。
したがって貨幣乗数は必ず1より大きく、
マネーサプライはマネタリーベースより大きくなります。
⑤ なぜこの形になるのか(意味の面から)
分子の は、預金1単位あたりのマネーサプライ(現金 +預金1)。
分母の は、預金1単位あたりのマネタリーベース(手元現金 +準備 )。
つまり、預金1単位を基準にして、マネーサプライとマネタリーベースを比べているわけです。
定義そのままの比を、単位をそろえて書き直しただけなのです。
⑥ 覚えるべき関係式
そして、逆に見れば、
この割り算の形も、そのまま出題されます。
具体例
貨幣乗数を数字で計算してみましょう。
例題1: 基本の計算
現金預金比率が0.2、準備率が0.05のとき、貨幣乗数はいくらか。
マネーサプライはマネタリーベースの4.8倍になります。
例題2: マネーサプライを求める
マネタリーベースが500兆円、現金預金比率が0.1、準備率が0.02のとき、
マネーサプライはいくらか。
例題3: 逆算する
マネーストックが1,600兆円、マネタリーベースが650兆円のとき、信用乗数はいくらか。
設例(令和元年第6問 改題)
問: 貨幣に関する記述として、下記の文章の正誤判定をせよ。
c マネーストックをマネタリーベースで除した値は「信用乗数」と呼ばれる。
d 準備預金が増えると、信用乗数は大きくなる。
解答: c ○ / d ×
c ○: マネーストックとマネタリーベースの関係を単純化すれば、
です。よって、
となります。定義そのままです。
d ×: 準備預金が増えると準備率 が上昇し、信用乗数は小さくなります。
式で確かめましょう。 の分母に があるので、
が大きくなれば分数全体は小さくなります。
意味のうえでも納得できます。
準備預金を多く積めば、銀行が貸出しに回せる金額が減るので、
信用創造の連鎖が細り、生まれるお金が少なくなるからです。
数字で確かめる
| 準備率 | 貨幣乗数 |
|---|---|
| 0.02 | 5.45 |
| 0.05 | 4.80 |
たしかに、準備率が上がるほど貨幣乗数は小さくなっています。
計算を速くするコツ
と の値が与えられたら、
1. 分子に を書く
2. 分母に を書く
試験のポイント
それぞれの向きを確認しましょう。
① 準備率 の影響
**準備率 が小さいほど、市中銀行は貸出しに回せる金額が大きくなるため、
貨幣乗数は大きくなります。**
式でも確認できます。 は分母にしかないので、
| 準備率 | 貸出しに回せる金額 | 貨幣乗数 | マネーサプライ |
|---|---|---|---|
| 下げる | 増える | 上昇 | 増加 |
| 上げる | 減る | 低下 | 減少 |
これが、前節で見た準備率操作が金融政策の手段になる理由です。
② 現金預金比率 の影響
**現金預金比率 が小さいということは、
通貨を現金で保有せずに預金で保有しようとする人が多いということを意味し、
これは市中銀行が貸出しに回せる金額が大きくなることにつながるため、
貨幣乗数は大きくなります。**
手元に現金を置いておく人が多ければ、そのお金は銀行に届かず、貸出しの原資になりません。
逆に、みんなが銀行に預けるようになれば、銀行はそれを元手に貸出しを増やせます。
| 現金預金比率 | 銀行に届くお金 | 貨幣乗数 |
|---|---|---|
| 小さい(預金志向) | 多い | 大きい |
| 大きい(現金志向) | 少ない | 小さい |
③ 式では少しややこしい
は分子と分母の両方に出てくるので、式だけ見ると向きが分かりにくくなります。
数値で確かめてみましょう( とします)。
| 現金預金比率 | 貨幣乗数 |
|---|---|
| 0.05 | 10.50 |
| 0.10 | 7.33 |
| 0.20 | 4.80 |
| 0.50 | 2.73 |
| 1.00 | 1.90 |
が大きくなるほど貨幣乗数は小さくなっています。
(数学的には、 である限り が増えると は1に近づいていきます。
が無限に大きければ、乗数は1に限りなく近づきます。
みんなが現金だけで暮らせば、信用創造は起こらないということです。)
④ まとめ
| 変化 | 貨幣乗数 | マネーサプライ |
|---|---|---|
| 準備率 の低下 | 上昇 | 増加 |
| 準備率 の上昇 | 低下 | 減少 |
| 現金預金比率 の低下 | 上昇 | 増加 |
| 現金預金比率 の上昇 | 低下 | 減少 |
どちらも「小さくなると乗数は大きくなる」という同じ向きです。
も も「貸出しに回らないお金の割合」を表しているので、
小さいほど信用創造がよく働く、と理解しておけば取り違えません。
⑤ 中央銀行がコントロールできるもの・できないもの
| 変数 | 中央銀行の操作 |
|---|---|
| マネタリーベース | 公開市場操作で直接動かせる |
| 準備率 | 準備率操作で動かせる(現在の日本では使われていない) |
| 現金預金比率 | 動かせない(人々の行動で決まる) |
が中央銀行の手の届かないところで決まる、というのが重要です。
だからこそ、マネーサプライは「間接的にしかコントロールできない」のです。
不安が高まって人々が現金を手元に置くようになれば、
中央銀行が何もしていなくても が上がり、貨幣乗数が下がり、マネーサプライが減ります。
金融危機のときに信用収縮が起きるのは、この経路によるものです。
具体例
貨幣乗数が動く場面を、具体的に考えてみましょう。
ケース1: 中央銀行が準備率を5%から2%に引き下げた
現金預金比率を0.2、マネタリーベースを500兆円とします。
引き下げ前
引き下げ後
マネタリーベースは変えていないのに、マネーサプライが327兆円増えました。
準備率操作が金融政策の手段になるのは、こういう効果があるからです。
ケース2: 金融不安で人々が現金を手元に置くようになった
現金預金比率が0.2から0.5に上がったとします(準備率は0.05のまま)。
変化前: 貨幣乗数
変化後: 貨幣乗数
マネタリーベースが500兆円のままなら、
マネーサプライが1,000兆円以上減りました。
中央銀行は何もしていないのに、です。
これが信用収縮とよばれる現象です。
このときの中央銀行の対応は、マネタリーベースを大量に供給して、
乗数の低下を量で埋め合わせることになります。
ケース3: マネタリーベースを増やしても効かない場合
不況で貸出先が見つからず、銀行が法定準備をはるかに超える残高を
日銀当座預金に積んでいるとします。
このとき、実質的な準備率(法定準備ではなく実際に積んでいる割合)が
非常に高くなっているのと同じ状態です。
中央銀行が買いオペでマネタリーベースを増やしても、
その分が日銀当座預金に滞留するだけで貸出しに回らないので、
マネーサプライはほとんど増えません。
日本の量的緩和期にくり返し観察された現象で、
「マネタリーベースは増えたのに、マネーストックは増えなかった」と言われるのは、
貨幣乗数が下がっていたということです。
選択肢問題での問われ方
貨幣乗数自体が変わりうるので、倍率は一定ではありません。
向きの覚え方
も も、「貸出しに回らないお金の割合」です。
割合が小さいほど、お金が銀行を通って貸出しに回り、信用創造がよく働きます。
小さくなれば乗数は大きくなる。 どちらも同じ向きなので、片方を覚えれば十分です。
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
| 0.10 | 4.00 |
| 0.20 | 3.00 |
これだけです。難しいのは式を覚えることだけで、計算そのものは割り算1回です。
を と逆にしてしまう誤りが多いので、
「分子が大きい(1 > r だから)→ 乗数は1より大きい」
と確認する癖をつけておくと安全です。