消費者行動の分析
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「GDP(国内総生産)」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る前節で、所得と価格が与えられたときに消費者がどの組合せを選ぶかが決まりました。では、その価格のほうを動かしてみたらどうなるでしょうか。価格を1つずつ変えながら最適消費点を拾っていけば、「この価格ならこれだけ買う」という対応表ができあがります。これが需要曲線です。第1章で限界費用曲線から供給曲線を導いたのと、まったく同じ組み立て方です。この節では、無差別曲線と予算制約線の図から需要曲線を取り出す手順を追い、そのうえで市場全体の需要曲線へと話を広げます。
簡単にいうと
需要曲線がどこから来たのか、ついに明かされるよ!答えは「価格をいろいろ変えて、そのつど最適消費点を拾っていく」だけ。上下2段のグラフを行き来する作業に慣れれば、もう怖くないよ。
① 需要曲線の定義
需要曲線とは、財の価格と最適な消費量の関係を表す曲線です。この節では、効用最大化行動から需要曲線を導出します。
もう少し厳密に書くと、次のようになります。
X 財の需要曲線 他の財(Y 財)の価格と所得水準を一定としたときの、X 財の価格と X 財の最適な消費量の関係を表す曲線
「他の財の価格と所得水準を一定とする」という但し書きが重要です。動かすのは X 財の価格だけであり、それ以外は据え置きます。この但し書きが崩れたときに起きるのが、後で扱う需要曲線のシフトです。
② 導出の手順
無差別曲線と予算制約線を使って、X 財の需要曲線を導出してみましょう。上下2段のグラフを思い浮かべてください。
上段(縦軸: Y 財の消費量、横軸: X 財の消費量)
X 財の価格が 、
具体例
効用関数 、所得 円、

価格消費曲線から需要曲線の導出
試験のポイント
簡単にいうと
価格を変えていくと、最適消費点が動いていくよね。その軌跡を結んだ線が価格・消費曲線!次節で出てくる所得消費曲線と対になる考え方だから、セットで覚えよう。
① 価格・消費曲線とは
価格・消費曲線とは、所得と他の財の価格を一定に保った状態で、ある財の価格のみを変化させた場合に最適消費点がたどる曲線です。
前のテーマで、価格が
簡単にいうと
1人の需要曲線がわかったら、次は市場全体!みんなの需要量を横に足すだけだよ。そして大事なのが「曲線上を動く」のと「曲線そのものが動く」の区別。ここは必ず問われるよ!
① 市場全体の需要曲線
ここまでは1消費者の需要曲線を学習してきましたが、今後は特定の市場全体における需要曲線を扱うことがあります。
市場全体の需要量は、個々の消費者の需要量の和であり、需要曲線の考え方や形状は1消費者の需要曲線と同様です。
ある価格のもとで各消費者が何単位買うかを求め、それらを横方向に足し合わせれば市場全体の需要曲線が得られます。この足し方を水平和と呼びます。第1章で市場全体の供給曲線を求めたときと同じ手順です。
消費者の数が多いほど、同じ価格変化に対する数量の動きは大きくなります。したがって市場全体の需要曲線は、1人の需要曲線より傾きが緩やかになります。
② 曲線上の移動と曲線のシフト
需要曲線を扱ううえで、絶対に区別しなければならないのが次の2つです。
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
ので、予算制約線は縦軸切片を支点として外側にシフトします。
それにつれて、無差別曲線との接点、つまり最適消費点も A、B、C と移動していきます。
下段(縦軸: X 財の価格、横軸: X 財の消費量)
最適消費点の横軸の値を読めば、そのときの X 財の消費量がわかります。
| 価格 | 最適消費点 | X 財の消費量 |
|---|---|---|
| (高い) | A | (少ない) |
| B | ||
| (安い) | C | (多い) |
この(価格, 消費量)の組合せを下段のグラフにプロットして結べば、右下がりの需要曲線が描けます。価格が と低下するにつれて、需要量が と増加していくからです。
③ なぜ右下がりになるのか
上段の図で何が起きているかを言葉にしておきましょう。X 財の価格が下がると、次の2つの力が働きます。
1. X 財が Y 財に比べて割安になったので、Y 財から X 財へ乗り換えたくなる
2. 同じ所得でより多くの財が買えるようになり、実質的に豊かになる
どちらの力も、通常は X 財の消費量を増やす方向に働きます。だから需要曲線は右下がりになります。
この2つの力を分けて分析する方法が、第7節で学ぶスルツキー分解です。いまは「価格が下がれば買う量が増える」という当たり前の事実の裏に、性質の違う2つの力が隠れている、とだけ覚えておいてください。
④ 供給曲線の導出と見比べる
第1章で供給曲線を導出したときと、手順がそっくりであることを確認しておきましょう。
| 供給曲線 | 需要曲線 | |
|---|---|---|
| 主体 | 企業 | 消費者 |
| 目的 | 利潤最大化 | 効用最大化 |
| 最適化条件 | ||
| 価格を変えると | 曲線上を移動 | 予算線が回転し接点が移動 |
| 得られる曲線 | 右上がりの供給曲線 | 右下がりの需要曲線 |
どちらも「価格をパラメータとして動かし、そのつどの最適解を拾い集める」という同じ作業をしています。
ステップ1: 最適消費点の条件を立てる
、価格比は なので
ステップ2: 予算制約と連立させる
に を代入します。
これが X 財の需要関数です。
ステップ3: 価格ごとの需要量を計算する
| 300円 | 2 |
| 200円 | 3 |
| 150円 | 4 |
| 100円 | 6 |
| 60円 | 10 |
価格が下がるほど需要量が増えており、確かに右下がりの需要曲線になっています。
ステップ4: 上段の図で何が起きているかを確かめる
円のとき: 予算線の横軸切片は 、最適消費点は
円のとき: 予算線の横軸切片は 、最適消費点は
縦軸切片は で、どちらの場合も変わりません。横軸切片だけが4から12へ伸びており、予算線が外側に開いていることがわかります。
興味深いのは、Y 財の消費量が で変わっていないことです。これはコブ・ダグラス型の性質によるもので、X 財の価格が変わっても Y 財への支出額( 円、所得の半分)は一定に保たれるためです。
ステップ5: 需要関数の形を確認する
は反比例のグラフです。この場合、X 財への支出額は
で、価格にかかわらず一定になります。第6節で学ぶ言葉でいえば、需要の価格弾力性がちょうど1の需要曲線です。
② 需要曲線との関係
この2つは混同しやすいので、しっかり区別しておきましょう。
| 価格・消費曲線 | 需要曲線 | |
|---|---|---|
| 縦軸 | Y 財の消費量 | X 財の価格 |
| 横軸 | X 財の消費量 | X 財の消費量 |
| 描かれる場所 | 無差別曲線の図(上段) | 価格と数量の図(下段) |
| 表すもの | 最適消費点の軌跡 | 価格と需要量の対応 |
価格・消費曲線は上段の図の中の話、需要曲線は下段の図の話です。そして下段の需要曲線は、上段の価格・消費曲線から横軸の情報だけを取り出して、縦軸を価格に置き換えたものにあたります。
③ 価格・消費曲線の形から読み取れること
価格・消費曲線の形は、2財の関係によって変わります。
右上がりの場合 X 財の価格が下がると、X 財の消費量だけでなく Y 財の消費量も増えます。この場合、X 財の価格低下によって生じた実質的な豊かさが Y 財の購入にも回っている、ということです。
水平の場合 X 財の価格が下がっても Y 財の消費量は変わりません。コブ・ダグラス型の効用関数( など)はこのケースにあたります。Y 財への支出額が一定に保たれるためです。
右下がりの場合 X 財の価格が下がると Y 財の消費量が減ります。X 財のほうが割安になったので、Y 財から X 財へ乗り換えが進んでいる状態です。2財が代替的な関係にあるときに起こります。
④ 需要曲線の傾きとの対応
価格・消費曲線の形は、需要曲線の傾き(第6節で扱う需要の価格弾力性)と結びついています。
| 価格・消費曲線 | X 財への支出額 | 需要の価格弾力性 |
|---|---|---|
| 右上がり | 価格低下で減少 | 1より小さい(非弾力的) |
| 水平 | 変わらない | ちょうど1 |
| 右下がり | 価格低下で増加 | 1より大きい(弾力的) |
いまは無理に覚える必要はありませんが、第6節を学んだあとでここに戻ってくると、2つの図が1つにつながって見えるはずです。
具体例
効用関数の型によって価格・消費曲線がどう変わるかを、数値で確かめてみましょう。所得 円、 円で共通とします。
ケース1: コブ・ダグラス型 (水平になる)
前のテーマで求めたとおり、最適消費点は次のようになります。
| Y 財への支出 | |||
|---|---|---|---|
| 300円 | 2 | 3 |
が3で一定なので、価格・消費曲線は水平です。X 財への支出額も 円で一定になっています。
ケース2: の場合も同じ
指数の比が
| 300円 | 3.0 |
が増えると も増えているので、価格・消費曲線は右上がりです。2財を必ず一定比率で組み合わせるのですから、当然の結果といえます。
ステップ: 需要曲線の形を比べる
| コブ・ダグラス型 | 完全補完財 | |
|---|---|---|
| 需要関数 |
同じ価格低下に対して、コブ・ダグラス型のほうが需要量の増え方が大きくなっています。つまり需要が価格に対してより敏感、ということです。価格・消費曲線の形の違いが、需要曲線の性質の違いとして表れているわけです。
試験のポイント
| グラフでの動き |
|---|
| 需要量の変化 | その財の価格 | 同じ需要曲線上を移動 |
| 需要の変化 | 価格以外の要因 | 需要曲線そのものがシフト |
需要曲線は「他の財の価格と所得水準を一定としたとき」の関係でした。この「一定とした」ものが動けば、曲線そのものを引き直さなければなりません。
③ 需要曲線を右にシフトさせる要因
需要曲線が右(外側)にシフトするのは、同じ価格のもとでより多く買われるようになる場合です。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 所得の増加 | 上級財であれば需要が増える |
| 代替財の価格上昇 | 乗り換え先としてこちらが買われる |
| 補完財の価格下落 | セットで使う財が安くなり需要が増える |
| 好みの変化 | 流行や広告で人気が高まる |
| 人口の増加 | 買い手の数そのものが増える |
| 将来の値上がり予想 | 買いだめが起こる |
逆向きの変化が起これば、需要曲線は左(内側)にシフトします。なお、所得が増えたときに需要が減る財(下級財)については、所得の増加が左方シフトを引き起こす点に注意してください。
④ シフトの向きの覚え方
右へのシフトは「同じ価格でもっと買われる」ことを、上へのシフトは「同じ数量にもっと高い価格を払ってもよい」ことを意味します。右下がりの曲線では、右へのシフトと上へのシフトは同じ動きを別の角度から言っているだけです。
供給曲線のときは、右へのシフトと下へのシフトが同じ動きでした。曲線の傾きの向きが違うため、こうしたずれが生じます。「同じ価格での数量がどう動くか」を基準に考えると混乱しません。
⑤ 市場均衡への接続
需要曲線と供給曲線がそろったので、次章ではこの2本を重ねて市場均衡を分析します。
2本の交点で価格と数量が決まる、という第3章の議論は、ここまで積み上げてきた個々の最適化行動の上に乗っています。需要曲線が単に「右下がりの線」ではなく、消費者1人ひとりの選択の集積であることを意識しておくと、余剰分析の意味もつかみやすくなります。
具体例
2人の消費者がいる市場を例に、市場全体の需要曲線を求めてみましょう。
設定
ステップ1: 価格ごとの需要量を計算する
| 価格 |
|---|
ステップ2: 式で水平和をとる
価格が6未満のときは両者とも購入するので
| 原因 | 扱い |
|---|---|
| 価格が4から3.33に下がった | 需要曲線上を右下に移動(需要量の変化) |
| 消費者が2人から3人に増えた | 需要曲線が右にシフト(需要の変化) |
問題文が「価格が変わった」と言っているのか「価格以外が変わった」と言っているのかを必ず確認してください。この読み分けが、第3章の均衡分析でそのまま得点差になります。

市場需要曲線の水平和と、曲線上の移動・曲線のシフト
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
| 200円 | 3 | 3 | 600円 |
| 100円 | 6 | 3 | 600円 |
ケース3: 完全補完財 (右上がりになる)
角の条件は です。予算制約 に を代入すると
| 1.5 |
| 200円 | 4.0 | 2.0 |
| 100円 | 6.0 | 3.0 |
| が300→100のとき | 2 → 6(3倍) | 3.0 → 6.0(2倍) |
| 価格・消費曲線 | 水平 | 右上がり |
| 2 | 8 | 6 | 14 |
| 4 | 4 | 4 | 8 |
| 6 | 0 | 2 | 2 |
| 8 | 0 | 0 | 0 |
つまり市場需要曲線は、価格6のところで傾きが変わる折れ線になります。
ステップ3: 傾きを比べる
市場全体のほうが、同じ価格変化に対する数量の動きが大きくなっています。グラフでは傾きが緩やかな線になります。
ステップ4: シフトの例を考える
消費者の数が3人に増え、新たに加わった消費者 C の需要関数が だったとしましょう。価格6未満での市場需要は
価格4のときの需要量を比べると、 へ増えています。同じ価格のもとで需要量が増えたので、市場需要曲線は右にシフトしました。
ステップ5: 曲線上の移動と区別する
同じ「需要量が8から10に増えた」でも、原因によって扱いがまったく違います。