市場の失敗と政府の役割
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プレミアムで見る市場の失敗が生じるケースとして、まず外部効果が存在する状況があげられます。外部効果、あるいは外部性が存在するとは、個々の経済主体の活動が、市場を介さずに他の経済主体の経済活動に影響を与えることを指します。また、外部効果には他の経済主体に良い影響を与える正の外部効果と、悪い影響を与える負の外部効果があります。いずれにせよ、このような場合には最適な資源配分は行われなくなります。この節では、工場の煙が住民に被害を与えるという典型例を使って、なぜ生産が過大になるのか、どうすれば是正できるのかを追いかけます。ピグー税、排出権取引、コースの定理。環境問題をめぐる政策の考え方が、そのまま出てくる節です。
簡単にいうと
取引に関係ない第三者に、良いことや悪いことが起きてしまう。それが外部効果!良い影響なら外部経済、悪い影響なら外部不経済。環境問題はまるごと負の外部効果として捉えられるよ。
① 外部効果の定義
外部効果とは、取引当事者以外の第三者に対して便益(良い影響)や損害(悪い影響)を与えることをいいます。
| 影響 | 呼び方 |
|---|---|
| 良い影響を与える | 正の外部効果、正の外部性、外部経済という |
| 悪い影響を与える | 負の外部効果、負の外部性、外部不経済という |
呼び方が3つずつあるので、どれが出てきても同じものだと分かるようにしておいてください。
② 「市場を介さずに」という点が重要
外部効果の定義でいちばん大切なのは、「市場を介さずに」という部分です。
ふつうの取引であれば、良いものを提供すれば対価を受け取れ、損害を与えれば賠償を求められます。つまり影響が価格に反映されます。
ところが外部効果では、影響を受ける人が取引の当事者ではないため、その影響が価格に現れません。だから市場機構がうまく働かないのです。
③ 正の外部効果の例
具体例
身近な事例を、正の外部効果と負の外部効果に仕分けてみましょう。
ステップ1: 事例を並べる
| 事例 | 取引当事者 | 影響を受ける第三者 |
|---|---|---|
| 養蜂場の隣に果樹園がある | 養蜂家と蜂蜜の買い手 | 果樹園(受粉が進む) |
| 駅前に大型商業施設ができる | 施設と買い物客 | 周辺の商店(人通りが増える) |
| 工場が川に排水する | 工場と製品の買い手 | 下流の漁業者 |
| 深夜に工事をする | 工事会社と発注者 | 近隣住民(騒音) |
試験のポイント
簡単にいうと
工場が自分で払う費用と、社会全体が負担する費用は違う。その差が外部費用で、2本の費用曲線として図に出てくるよ。PMC と SMC。この2つの区別がこのテーマのすべて!
① 分析の設定
例えば、アルミニウム市場において外部不経済が生じているケースについて考えます。アルミニウム工場が排出する煙には汚染物質が含まれており、近隣住民の健康に危害を及ぼす可能性があります。
近隣住民は、アルミニウム市場における取引当事者(供給者、需要者)には該当しない第三者です。したがって、このケースでは外部不経済が生じているといえます。
このような場合には、市場に取引を任せるよりも政府が介入したほうが社会的総余剰が大きくなります。
② 2種類の限界費用
政府の介入がない(アルミニウムの取引について市場に任せる)場合、市場均衡点は需要曲線と供給曲線の交点 A となり、均衡取引量は
簡単にいうと
外部不経済がある場合の余剰分析は、1つだけ新しいことがあるよ。「外部不経済の大きさをマイナスの余剰として引く」ということ!この1行を忘れなければ、あとはこれまでと同じ計算だよ。
① 新しい要素
余剰分析について、消費者余剰と生産者余剰の考え方はこれまでと同様ですが、新たに外部不経済の大きさをマイナスの余剰として考慮する必要があります。
社会的総余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府余剰 − 外部不経済
第3章では「消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府余剰」の3つでした。外部不経済がある場合は、そこから外部不経済を引きます。
② 取引を市場に任せた場合の余剰
需要曲線の縦軸切片を E、
簡単にいうと
外部不経済をどう直す?方法は4つ!直接規制、ピグー税、補助金、排出権取引。とくにピグー税は「SMCとPMCの差だけ課税する」という、きれいな答えだよ。
① なぜ是正が必要か
以上のように、外部性が存在する状況では市場での自由な取引に任せていては社会的に望ましい状態(社会的に望ましい生産量、パレート最適な状態)は実現できません。そこで、以下のような手段で外部性を是正する必要があります。
② 政府による直接規制
これは、外部性を生む財の生産量を規制する方法をいいます。アルミニウムの例でいえば、
簡単にいうと
政府が出てこなくても、当事者どうしの話し合いで解決できる!というのがコースの定理。しかも「どちらに権利を与えても、行き着く生産量は同じ」というのが驚きのポイント。所有権をはっきりさせることの大切さを教えてくれる考え方だよ。
① コースの定理とは
コースの定理とは、
(a) 当事者間の交渉に費用がかからない(容易に交渉ができる)という前提においては、
(b) 当事者間の所有権(財産権)の設定だけ行えば、
(c) 自発的な交渉が行われる結果として、
(d) パレート効率的な資源配分が実現し、かつ
(e) 所有権の設定の仕方は、所得分配を変更するだけで、実現する資源配分には影響を与えない
というものです。
② 前提と結論を分けて押さえる
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開発した企業は特許料などで一部の対価を得ますが、その技術が社会にもたらす便益のすべてを回収できるわけではありません。周りの人々も恩恵を受けます。
フラワーガーデンの開園 → 園外からも花が見えることで近隣住民など利用者以外の人が癒し効果を得られる。
入園料を払った人だけでなく、通りがかりの人も楽しめます。園の経営者はその分の対価を受け取れません。
このほかにも、教育(教育を受けた人が周囲に良い影響を与える)、予防接種(接種した人以外も感染しにくくなる)などが挙げられます。
④ 負の外部効果の例
大気汚染 → 工場の有害な排煙が住民の健康や自然に悪影響を与える。
ガソリンの消費 → 地球温暖化を通じて、人々の生活環境に悪影響を与える。
このように、環境問題全般は負の外部効果が生じているととらえることができます。
ほかにも、騒音、交通渋滞、受動喫煙などが典型例です。
⑤ 供給量がどうなるか
外部性をもたらす財に関しては、以下の関係が成り立ちます。
| 財 | 供給量 |
|---|---|
| 外部経済をもたらす財 | 供給は過少になる |
| 外部不経済をもたらす財 | 供給は過大になる |
どちらの場合でも市場での自由な取引に任せていては、パレート効率的な状態は実現されない(社会的総余剰は最大化されない)ことになります。
⑥ なぜそうなるのか
直感的には次のように考えられます。
外部経済の場合 社会全体にとっての便益は、取引当事者が受け取る便益より大きいはずです。ところが生産者は自分が受け取れる対価しか考えないので、社会的に望ましい水準ほどはつくりません。だから過少になります。
外部不経済の場合 社会全体にとっての費用は、生産者が負担する費用より大きいはずです。ところが生産者は自分が負担する費用しか考えないので、社会的に望ましい水準を超えてつくってしまいます。だから過大になります。
覚え方としては「良いことは足りなくなり、悪いことは多すぎになる」と整理しておくとよいでしょう。
⑦ 対応する政策
供給量が過少か過大かによって、必要な政策の向きも変わります。
| 供給量 | 必要な政策 | |
|---|---|---|
| 外部経済 | 過少 | 補助金などで増やす |
| 外部不経済 | 過大 | 課税や規制で減らす |
研究開発に補助金が出るのは外部経済があるから、公害に規制や税が課されるのは外部不経済があるから。こう理解しておけば、政策の向きを取り違えません。
| 家の庭を美しく手入れする |
| (取引ではない) |
| 通行人(景観) |
| 予防接種を受ける | 接種者と医療機関 | 周囲の人(感染リスクの低下) |
ステップ2: 仕分ける
| 事例 | 分類 |
|---|---|
| 養蜂場と果樹園 | 正の外部効果(外部経済) |
| 駅前の商業施設 | 正の外部効果(外部経済) |
| 工場の排水 | 負の外部効果(外部不経済) |
| 深夜工事の騒音 | 負の外部効果(外部不経済) |
| 庭の手入れ | 正の外部効果(外部経済) |
| 予防接種 | 正の外部効果(外部経済) |
ステップ3: 供給量がどうなるか判定する
| 事例 | 分類 | 市場に任せた場合 |
|---|---|---|
| 養蜂 | 外部経済 | 蜂の数が社会的に望ましい水準より少ない |
| 工場の排水 | 外部不経済 | 生産量が社会的に望ましい水準より多い |
| 予防接種 | 外部経済 | 接種者数が社会的に望ましい水準より少ない |
ステップ4: なぜそうなるかを言葉で確かめる
養蜂の場合 養蜂家が受け取るのは蜂蜜の代金だけです。隣の果樹園の収穫が増えたぶんの対価は受け取れません。したがって養蜂家は「社会にとっての便益」ではなく「自分にとっての便益」を見て蜂の数を決めます。その結果、社会的に望ましい水準より少なくなります。
工場の排水の場合 工場が負担するのは原材料費や人件費だけです。下流の漁業者の損害は負担しません。したがって工場は「社会にとっての費用」ではなく「自分にとっての費用」を見て生産量を決めます。その結果、社会的に望ましい水準より多くなります。
ステップ5: 政策の向きを考える
| 事例 | 政策の向き | 具体例 |
|---|---|---|
| 養蜂 | 増やす | 補助金、果樹園からの受粉料の支払い |
| 工場の排水 | 減らす | 排水規制、排水量に応じた課税 |
| 予防接種 | 増やす | 公費負担、無料化 |
日本で予防接種の一部が公費負担になっているのは、まさに外部経済があるためです。「自分のため」だけを考えると接種者が少なくなりすぎるので、政府が後押しして社会的に望ましい水準に近づけている、という理屈になります。
ステップ6: 分類のコツ
迷ったときは、次の2つを確認してください。
1. 取引の当事者は誰か(売り手と買い手)
2. その取引に関係ない誰かに影響が及んでいるか
2の答えが「はい」なら外部効果です。あとは影響が良いか悪いかで分類するだけです。
しかし、外部不経済が発生する場合には第三者が被る被害も考慮すべきです。この被害を費用として捉えたものが外部費用です。
アルミニウムの生産に伴って社会全体が負担する費用は、アルミニウムを生産するために必要な私的限界費用 だけでなく、限界外部費用を加えた社会的限界費用 と考えるべきであるとされます。
社会的費用 = 生産に必要な費用 + 外部不経済(外部費用)
社会的限界費用 = 私的限界費用 + 限界外部費用
③ 2本の曲線の関係
| 曲線 | 内容 | 図での位置 |
|---|---|---|
| (私的限界費用線) | 生産者が実際に負担する費用。供給曲線 にあたる | 下側 |
| (社会的限界費用線) | 社会全体が負担する費用 | 上側 |
| 2本の縦の差 | 限界外部費用 | 一定(線分 ) |
限界外部費用が一定であれば、 は を垂直方向に平行移動させたものになります。第1章第5節で学んだ従量税による供給曲線のシフトと、まったく同じ形です。
④ 社会的に望ましい生産量
市場均衡点 A は、需要曲線と の交点です。生産者は自分が負担する費用だけを見ているからです。
一方、社会的に望ましい生産量は、需要曲線と の交点 B で決まります。社会全体が負担する費用を考慮するなら、こちらが正しい水準だからです。
このときの生産量は となり、これが社会的に望ましい生産量となります。
したがって、取引を市場に任せると均衡取引量は社会的に望ましいとされる生産量よりも過大となります。
⑤ なぜ過大になるのか
から までの区間を考えてください。この区間では
となっています。つまり、社会全体で見れば「つくるだけ損」な生産が行われています。
にもかかわらず生産されるのは、生産者が見ているのが だけであり、 より需要曲線の高さのほうが高いからです。生産者にとっては儲かるが、社会全体では損をする。この食い違いが外部不経済の本質です。
⑥ 外部経済の場合
外部経済の場合は、費用ではなく便益の側で同じことが起こります。
| 外部不経済 | 外部経済 | |
|---|---|---|
| ずれるもの | 費用() | 便益(私的限界便益 < 社会的限界便益) |
| 市場の結果 | 生産が過大 | 生産が過少 |
| 望ましい水準 | 需要曲線と の交点 | 社会的限界便益曲線と供給曲線の交点 |
試験で頻出なのは外部不経済のほうですが、外部経済でも「私的なものと社会的なものがずれる」という構造は同じです。
⑦ 図を読むときの手順
1. (供給曲線)と需要曲線の交点 → 市場均衡(、)
2. と需要曲線の交点 → 社会的に望ましい水準(、)
3. と の縦の差 → 限界外部費用
4. を確認する
この4段階を踏めば、どんな図でも読み解けます。
具体例
外部不経済がある市場を数値で分析してみましょう。
設定 アルミニウム市場について、需要曲線 、私的限界費用 とします。また、生産1単位につき30の外部費用(近隣住民の被害)が発生するとします。
ステップ1: 市場に任せた場合の均衡を求める
需要曲線と の交点です。
価格は です。
ステップ2: 社会的限界費用を求める
ステップ3: 社会的に望ましい生産量を求める
需要曲線と の交点です。
このときの価格(需要曲線上)は です。
ステップ4: 過大であることを確認する
| 生産量 | 価格 | |
|---|---|---|
| 市場に任せた場合 | 90 | 110 |
| 社会的に望ましい水準 | 75 | 125 |
市場に任せると90つくられますが、社会的に望ましいのは75です。15だけ過大に生産されています。
ステップ5: なぜ過大なのかを数値で確かめる
生産量が80のときを考えてみましょう。

外部不経済の厚生損失
試験のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | (四角形 − 四角形 ) |
| 生産者余剰 | (四角形 |
| 外部不経済 | 四角形 |
| 社会的総余剰 | ※死荷重 |
③ 社会的に望ましい状態の余剰
社会的に望ましい生産量を 、そのときの価格を (需要曲線上の点 B)、 における 上の点を C とします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | (四角形 − 四角形 ) |
| 生産者余剰 | 四角形 (四角形 |
| 外部不経済 | 四角形 |
| 社会的総余剰 |
④ 外部性による死荷重
以上より、取引を市場に任せた場合の社会的総余剰は 、社会的に望ましい生産量の場合の社会的総余剰は となり、取引を市場に任せた場合のほうが、 だけ社会的総余剰が小さくなります。
この の部分を、外部性による死荷重とよびます。
⑤ 死荷重の位置に注意
外部性による死荷重は、次の3点を結んだ三角形です。
第3章で学んだ課税の死荷重が「取引量が減ることによる損失」だったのに対し、こちらは「取引量が多すぎることによる損失」です。三角形の位置が市場均衡点の上側に来る点が特徴です。
⑥ なぜこの三角形なのか
から までの区間では、 が需要曲線を上回っています。つまり社会全体の費用が消費者の評価を上回っている状態です。
この区間で生産が行われるたびに、その差額だけ社会全体が損をします。差額を から まで積み上げたものが、三角形 の面積にあたります。
⑦ 生産者余剰は増えていることに注意
市場に任せた場合、生産者は まで生産しているので、生産者余剰は社会的に望ましい状態より大きくなっています。消費者余剰も、価格が低く数量が多いので大きくなっています。
つまり、取引当事者から見れば市場に任せたほうが得なのです。損をしているのは第三者であり、社会全体で見るとその損が両者の得を上回っている、という構図です。
だからこそ当事者に任せておいても是正されず、政府の介入が必要になります。
⑧ 計算の手順
外部不経済がある場合の余剰計算は、次の手順で進めます。
1. 需要曲線と の交点 → 市場均衡(、)
2. 需要曲線と の交点 → 社会的に望ましい水準()
3. 消費者余剰・生産者余剰をこれまでどおり計算する
4. 外部不経済(限界外部費用 × 生産量)を引く
5. 2つの状態を比べて死荷重を求める
具体例
前のテーマの設定で、余剰を計算してみましょう。
設定 需要曲線 、、限界外部費用30(したがって )。
ケース1: 取引を市場に任せた場合()
消費者余剰
生産者余剰
外部不経済
社会的総余剰
ケース2: 社会的に望ましい生産量の場合()
この場合、価格は需要曲線上の になります。
消費者余剰
生産者余剰
生産者が受け取る価格は125、 の切片は20なので
計算しやすいように整理しましょう。 のときの なので、生産者余剰は台形になります。
外部不経済
社会的総余剰
ステップ: 2つを比べる
| 市場に任せた場合 | 社会的に望ましい水準 | |
|---|---|---|
| 生産量 | 90 | 75 |
| 消費者余剰 | 4,050 | 2,812.5 |
| 生産者余剰 | 4,050 | 5,062.5 |
| 外部不経済 |
社会的に望ましい水準のほうが225だけ大きくなっています。
ステップ: 死荷重を三角形で確かめる
外部性による死荷重は、 から までの区間で が需要曲線を上回る部分の面積です。

外部不経済がある場合の余剰分析
試験のポイント
わかりやすい方法ですが、政府が社会的に望ましい生産量 を正確に知っている必要があります。実務上はこれが難しく、また企業ごとに費用構造が違う場合には非効率になります。
③ 政府による課税(ピグー税)
これは、個々の生産者、消費者が社会的な費用も考慮に入れて行動するように、社会的限界費用と私的限界費用の乖離分だけ、税金を課すという方法です。
生産するアルミニウム1単位につき限界外部費用(線分 )の長さだけの従量税を課すと、私的限界費用曲線は 分だけ上にシフトし、需要曲線と私的限界費用曲線は点 B で交わることになります。よって、税が課せられているもとでは社会的に望ましい という水準を実現することができます。
このように、外部不経済を発生させている主体に社会的な費用を負担させる(これを外部性の内部化という)ために課す税をピグー税とよびます。
④ 外部性の内部化
外部性の内部化とは、外部にあった費用(または便益)を、取引当事者が負担する(または受け取る)ものに変えることをいいます。
ピグー税を課せば、工場は住民の被害に相当する額を税として支払うことになります。つまり、これまで外部にあった費用が工場の費用として内部に取り込まれます。その結果、工場は社会的な費用を考慮したうえで生産量を決めるようになります。
⑤ 政府による補助金
ピグー税は、外部不経済をもたらす経済主体の生産活動に懲罰的な課税を行うことを考えたものです。一方、そのような経済主体が外部不経済をもたらす生産を削減することに対して補助金を交付しても同様の効果が期待できます。
たとえば、アルミニウム1単位の削減につき の長さの補助金を交付するとしましょう。このとき、アルミニウムの生産量を1単位減らせば の長さの補助金がもらえるにもかかわらず、逆にアルミニウム1単位生産量を増加させると、その都度、 の長さの補助金が失われることになるため、この分が機会費用となります。
(機会費用とは、利益が得られるある選択(この場合、生産量を削減し補助金を得ること)を行わず、他の選択(生産量を維持すること)を行うことで得られなくなる利益のことです。)
このとき、私的限界費用曲線が の長さだけ上にシフトし(限界費用の上昇と同じ効果をもつ)、結果として、ピグー税を課した場合と同一の効果が生じることになります。
⑥ 排出権取引
汚染物質等の排出量を規制するための方法の1つで、排出量の上限は決めるが、誰が排出するかは排出権(排出する権利)を市場で取引させることで決めさせるという規制です。この例としては、二酸化炭素の排出権取引があります。
排出権取引は、外部不経済に価格をつけることで、市場の調整メカニズムに乗せるための取組みと解釈できます。
直接規制との違いは、「誰がどれだけ減らすか」を市場に委ねる点にあります。削減費用が安い企業が多く削減し、高い企業は排出権を買う。その結果、社会全体で見れば最も安い費用で目標を達成できます。
⑦ 4つの手段の比較
| 手段 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 直接規制 | 生産量を規制する | 単純だが、最適水準を知る必要がある |
| ピグー税 | 乖離分だけ課税する | 外部性の内部化。政府に税収が入る |
| 補助金 | 削減に対して補助金を出す | ピグー税と同一の効果。政府は支出する |
| 排出権取引 | 総量を決めて権利を売買させる | 削減費用の安いところから削減が進む |
ピグー税と補助金が「同一の効果」をもつ、という点は試験で問われます。どちらも限界費用を同じだけ引き上げるからです。ただし政府の収支は逆向き(税収が入るか、支出するか)である点は異なります。
⑧ 外部経済の場合
外部経済(供給が過少になるケース)では、逆向きの政策が必要になります。
| 外部不経済 | 外部経済 | |
|---|---|---|
| 問題 | 供給が過大 | 供給が過少 |
| 政策 | 課税(ピグー税)・規制 | 補助金(ピグー補助金) |
研究開発への補助金、教育の公費負担、予防接種の無料化などは、いずれも外部経済に対する政策として説明できます。
具体例
前の設定にピグー税を課して、社会的に望ましい水準が実現することを確かめましょう。
設定 需要曲線 、、限界外部費用30。
ステップ1: ピグー税の額を決める
ピグー税は「社会的限界費用と私的限界費用の乖離分」なので、税額は限界外部費用と同額の30です。
ステップ2: 課税後の私的限界費用を求める
これは と一致します。つまり、工場が直面する費用曲線が社会的限界費用と同じになりました。
ステップ3: 課税後の均衡を求める
社会的に望ましい生産量75が実現しました。
消費者が支払う価格は 、生産者が受け取る価格は です。
ステップ4: 課税後の余剰を計算する
消費者余剰
生産者余剰(受取価格95で計算)
政府余剰(税収)
外部不経済
社会的総余剰
ステップ5: 比較する
| 市場に任せた場合 | ピグー税を課した場合 | |
|---|---|---|
| 生産量 | 90 | 75 |
| 消費者余剰 | 4,050 | 2,812.5 |
| 生産者余剰 | 4,050 | 2,812.5 |
| 政府余剰 | 0 | |
| 外部不経済 |
ピグー税によって社会的総余剰が225増えました。これは前のテーマで求めた死荷重とちょうど同じ額です。つまり死荷重が完全に解消されたことになります。
ステップ6: 誰が得をして誰が損をしたか
| ピグー税 | 補助金 | |
|---|---|---|
| 生産量 | 75 | 75 |
| 限界費用の変化 | (機会費用) | |
| 政府の収支 |
ステップ8: 排出権取引の考え方
排出権取引では、まず政府が総排出量の上限を決めます。たとえば「この地域全体で75単位まで」と定めます。
そのうえで、75単位分の排出権を企業に配分し、売買を認めます。
| 企業 | 1単位あたりの削減費用 | 行動 |
|---|---|---|
| A社 | 10 | 自社で削減し、余った排出権を売る |
| B社 | 50 | 排出権を買って生産を続ける |
排出権の価格が20だとすると、A社は10の費用で削減して20で売るので10の利益、B社は50かけて削減するより20で買うほうが安いので30の節約になります。
結果として、削減費用の安いA社が多く削減し、社会全体では最も安い費用で目標を達成できます。直接規制で「全社一律に20%削減」と命じるより効率的だ、というのが排出権取引の利点です。

ピグー税による外部性の内部化
試験のポイント
| 内容 | |
|---|---|
| 前提 | 交渉費用がかからないこと、所有権が明確に設定されていること |
| 結論1 | 当事者間の自発的な交渉でパレート効率的な資源配分が実現する |
| 結論2 | 誰に権利を与えるかは、資源配分に影響しない(所得分配だけが変わる) |
とくに結論2が意外性のあるところです。加害者に権利を与えても被害者に権利を与えても、最終的な生産量は同じになります。
③ 具体例で考える
生産のたびに海に汚染物質を流出させる工場と、その海で漁をする漁師を考え、汚染物質という負の外部効果を工場が漁師に対し与えているとします。
このとき政府が、漁師に権利を与え工場から権利を剥奪するという解決もあり得ます。
しかし、コースの定理は当事者間による自発的な交渉により解決できるということを示しています。
④ 工場(負の外部効果を発生させている者)に権利がある場合
工場側に汚染物質を流出させる権利があるので、漁師は工場に減産して汚染物質を減らしてもらうよう頼むしかありません。そのためには、漁師は工場に補償金を支払い生産を削減してもらうことになります。
工場側は生産量を減らすほど 分の補償金が得られます。逆にいえば、生産量の増加に伴い機会費用が生じることになります。
このように、漁師が工場に1単位生産量を減らすごとに 分の補償金を支払えば、これは、政府の補助金と実質的には同じです。工場は1単位生産を増やすことによって 分の補償金を失うので、失った補償金分が機会費用となり、工場の負担する限界費用である は 分だけ上昇し、社会的限界費用()と同じになります。
その結果、工場の供給曲線が上方にシフトして と同じになり、市場は点 B で均衡します。したがって最適資源配分が実現します。
⑤ 漁師(被害者)に権利がある場合
漁師側に生産量を減らして汚染物質を減少させるよう主張する権利があるため、工場側は漁師に対して補償金を支払うことで生産の許可を得ることになります。
そこで工場は1単位生産するたびに 分の補償金を支払い、これは、ピグー税と同様の効果が生じます。工場の限界費用は から 分だけ上昇し、 と同じになります。その結果、工場の供給曲線が上方にシフトし
⑥ どちらでも同じ結論になる
| 権利をもつ者 | 補償金の流れ | 工場から見た効果 | 実現する生産量 | |
|---|---|---|---|---|
| ケース1 | 工場 | 漁師 → 工場 | 補助金と同じ(機会費用) | |
| ケース2 | 漁師 | 工場 → 漁師 | ピグー税と同じ |
どちらの場合も、工場が直面する限界費用は と一致し、生産量は社会的に望ましい になります。
違うのはお金がどちらからどちらへ流れるかだけです。つまり所得分配は変わりますが、資源配分(生産量)は変わりません。これが結論2の意味です。
⑦ この定理が教えること
コースの定理が示唆しているのは、「政府がやるべきことは所有権をはっきりさせることであって、直接に生産量を決めることではない」という考え方です。
当事者は自分たちの費用や便益を最もよく知っています。政府が最適な生産量を計算するより、当事者に任せたほうがうまくいく可能性がある、というわけです。
環境権や日照権といった権利の議論、あるいは知的財産権の設定なども、この考え方とつながっています。
⑧ 前提が崩れる場合
ただし、コースの定理には強い前提があります。
| 前提 | 現実に成り立ちにくい場合 |
|---|---|
| 交渉費用がかからない | 当事者が多数いる(大気汚染で数万人が被害者) |
| 所有権が明確 | 誰に権利があるか法的に定まっていない |
| 情報が十分にある | 被害額が正確にわからない |
とくに当事者が多数の場合には交渉費用が大きくなり、この定理は成り立ちにくくなります。地球温暖化のように世界中が当事者である問題では、自発的交渉による解決は現実的ではありません。
そのため、現実の政策ではピグー税や規制、排出権取引といった手段が併用されます。コースの定理は「当事者が少数で交渉しやすい場合には有効な考え方」と位置づけておくとよいでしょう。
具体例
工場と漁師の交渉を、数値で追ってみましょう。
設定 工場の生産量を とし、
(つまり工場にとっての限界的な利益が 、限界外部費用が30です。)
ステップ1: 社会的に望ましい生産量を求める
社会全体の純便益が最大になるのは、限界的な利益と限界的な損害が一致する水準です。
社会的に望ましい生産量は20です。
ステップ2: 市場に任せた場合を求める
工場は自分の利益だけを考えるので、限界的な利益がゼロになるまで生産します。
市場に任せると50まで生産されます。社会的に望ましい20より過大です。
ステップ3: ケース1(工場に権利がある場合)を分析する
工場には汚染する権利があるので、放っておけば50まで生産します。漁師は補償金を払って減らしてもらうしかありません。
生産量を50から1単位減らしてもらうと
漁師は30の利益を得るために、0より少し多い額を払えば工場は応じます。したがって取引が成立します。
生産量を21単位目まで減らすと
まだ漁師のほうが得なので、交渉は成立します。
生産量を20単位目まで減らそうとすると
ちょうど釣り合うので、ここで交渉は止まります。
結果: 生産量は20(社会的に望ましい水準)
ステップ4: ケース2(漁師に権利がある場合)を分析する
漁師には汚染を止めさせる権利があるので、放っておけば生産量はゼロです。工場は補償金を払って生産の許可を得ます。
1単位目を生産するには
工場は49の利益のために30より多い額を払えるので、交渉は成立します。
20単位目では
ちょうど釣り合うので、ここで止まります。
結果: 生産量は20(社会的に望ましい水準)
ステップ5: 2つのケースを比べる
| ケース1(工場に権利) | ケース2(漁師に権利) | |
|---|---|---|
| 出発点 | 生産量50 | 生産量0 |
| お金の流れ | 漁師 → 工場 | 工場 → 漁師 |
| 最終的な生産量 | 20 | 20 |
どちらに権利を与えても、最終的な生産量は20で同じになりました。これがコースの定理の結論2です。
ステップ6: 所得分配は変わる
生産量は同じでも、お金の流れは正反対です。
つまり、誰に権利を与えるかは所得分配を変えるだけであり、資源配分(生産量)には影響しません。
ステップ7: 前提が崩れる場合を考える
もし漁師が1人ではなく1,000人いたらどうなるでしょうか。
この場合、自発的交渉による解決は難しくなります。だから大気汚染や地球温暖化のような問題では、政府による規制や課税が必要になるのです。
コースの定理は「交渉費用がかからない」という前提のもとでの話である、という点を必ず確認してください。

コースの定理
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
生産者から見れば、120で売れるものを100でつくれるので、20の儲けが出ます。だから生産します。
しかし社会全体から見れば、120の価値しかないものに130の費用をかけているので、10の損失です。つまりこの1単位は、社会的にはつくらないほうがよかったことになります。
ステップ6: 生産量75では損得がゼロになることを確認する
ちょうど一致しました。ここが社会的に最適な水準です。これより増やせば損が出て、減らせば得られるはずの余剰を逃すことになります。
ステップ7: 外部費用の総額を計算する
市場に任せた場合()の外部不経済の総額は
社会的に望ましい水準()なら
生産を減らせば外部費用も減ります。ただし外部費用をゼロにするのが最適なのではありません。生産を完全に止めれば外部費用はゼロになりますが、消費者余剰も生産者余剰も失われてしまいます。
「外部不経済をゼロにするのが最適」ではなく、「社会的総余剰が最大になる水準が最適」である、という点は誤解しやすいところです。次のテーマで余剰を実際に計算して確かめます。
| 社会的総余剰 | 5,400 | 5,625 |
三角形の面積は
計算結果と一致しました。
ステップ: 消費者は損をしていることに注意
表を見ると、社会的に望ましい水準では消費者余剰が4,050から2,812.5へ減っています。価格が上がり数量が減るので、消費者にとっては不利です。
つまり、外部不経済の是正は「消費者にとっても良いこと」ではありません。社会全体(第三者を含む)で見れば望ましい、というだけです。
環境規制に対して消費者から反発が出ることがあるのは、この構図によります。規制の便益は薄く広く分散し、費用は価格上昇という形ではっきり感じられるためです。
ステップ: 外部不経済をゼロにするのが最適ではない
もし生産を完全に止めれば、外部不経済はゼロになります。しかし
5,625より大幅に小さくなってしまいます。外部不経済を減らすことと、取引の利益を確保することのバランスを取った水準が最適である、ということです。
| 社会的総余剰 | 5,400 | 5,625 |
取引当事者は損をし、政府と第三者が得をしました。合計すると225のプラスです。
ステップ7: 補助金でも同じ効果になることを確かめる
生産を1単位減らすごとに30の補助金を出すとしましょう。
工場にとっては、1単位生産することで30の補助金を失います。これが機会費用となり、実質的な限界費用は
課税の場合とまったく同じです。したがって生産量も75になります。
違いは政府の収支だけです。
| 支出(削減量に応じる) |