生産物市場(財市場)の分析
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プレミアムで見る前節までで、政府支出を増やせば乗数倍だけ国民所得が増えることを確かめました。では、その道具を政府はどう使うのでしょうか。
ケインズは、現実の経済では市場の価格調整メカニズムがうまく作用しないため、市場に任せていては不均衡(売れ残りや供給不足)が生じると考えました。そこで打ち出したのが有効需要の原理であり、需要を政府が意識的に調整するという発想、すなわち総需要管理政策です。
この節では、有効需要の原理から総需要管理政策の全体像を押さえ、財政政策を裁量的財政政策とビルト・イン・スタビライザーの2つに分けて見ていきます。令和6年第8問では自動安定化装置としての働きが強い税の組合せが問われました。用語の暗記だけでなく、なぜそれが自動的に働くのかまで理解しておきましょう。
簡単にいうと
「買いたいけど買えない」は需要じゃない。お金を払える需要だけが経済を動かすの。それが有効需要だよ!
① なぜ政府が出ていくのか
ケインズは、現実の経済では市場の価格調整メカニズムはうまく作用しないため、
市場に任せていたのでは不均衡(売れ残りや供給不足)が生じると考えました。
ミクロ経済学では、売れ残りが出れば価格が下がり、やがて需給は一致するはずでした。
しかし現実には、賃金も価格もそう簡単には下がりません(価格の硬直性)。
その結果、調整は価格ではなく数量の側で起こり、生産が減り、失業が生まれます。
そこでケインズは、どうすればこのような不均衡を解消して
望ましい経済に導けるかを考え、有効需要の原理を説きました。
② 有効需要とは
有効需要とは、貨幣支出を伴う需要のことです。
大事なのは「貨幣支出を伴う」という部分で、
「買いたいけれど買えない」という需要は含みません。
100万円の車が欲しいと思っている人が100万人いても、
実際に払えるお金がなければ、その需要は経済を動かしません。
欲しいという気持ちではなく、実際に支出される金額だけが有効需要です。
③ 有効需要の原理
具体例
有効需要の考え方が、現実の政策判断にどう表れるかを見てみましょう。
場面: 不況で失業が増えている
工場は動いておらず、働きたい人は職を見つけられません。
モノを作る能力(供給力)は十分にあるのに、生産が行われていない状態です。
セイの法則に立つ人の処方箋
「供給はそれ自身の需要を創り出す」のだから、
問題は供給の側にある。賃金が高すぎて企業が雇えないのだ。
だから賃金を下げれば雇用が増え、生産が増え、失業は解消される。
ケインズの処方箋
国民所得を決めるのは需要のほうだ。
賃金を下げれば家計の所得が減り、消費が減り、需要はさらに縮む。
問題は供給力ではなく有効需要の不足にある。
だから、民間が支出しないなら政府が支出をつくるしかない。
ダムを造り、道路を造り、人を雇う。
そこで支払われた賃金が消費に回り、乗数効果で国民所得が拡大していく。
具体的な政策の選択肢

総需要管理政策の体系
試験のポイント
簡単にいうと
不況なら政府がお金を使い、減税する。景気が過熱したら逆にブレーキ。そのつど判断して打つのが裁量的財政政策だよ!
裁量的財政政策とは、そのときどきの景気状況を見て、
政府が判断して発動する財政政策のことです。
① 拡張的財政政策
景気が悪く、需要が不足しているときにとる政策です。
| 手段 | 記号 | 効果 |
|---|---|---|
| 政府支出の拡大 |
簡単にいうと
誰かが判断しなくても、景気が良くなれば自動でブレーキ、悪くなれば自動でアクセル。制度そのものに組み込まれた安定装置だよ!
ビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)とは、
現行の制度の中に組み込まれている有効需要の調整機能のことであり、
自動的に経済を安定化させるよう働くものです。
① どう働くのか
好況時には民間から政府へ、不況時には政府から民間へ、所得移転が生じます。
| 局面 | 起きること | 結果 |
|---|
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有効需要の原理とは、
経済の大きさ(国民所得)を決定するのは、売り手の供給量ではなく買い手の需要量である
という考えです。
これはそれまでの主流の考え方をひっくり返すものでした。
それまでは「供給はそれ自身の需要を創り出す」(セイの法則)と考えられており、
作れば売れる、だから供給能力が経済の大きさを決める、とされていたのです。
ケインズは逆に、買い手が支出しなければ、いくら作る力があっても意味がないと考えました。
第3節の45度線分析で と置けたのは、この発想があったからです。
④ 総需要管理政策
ケインズは、有効需要を調整するために国が積極的に介入すべきだとしました。
財政政策や金融政策を行い、
総需要を増加または抑制して国民所得の水準をコントロールすることを
総需要管理政策といいます。
総需要管理政策は、大きく2つに分かれます。
| 政策 | 実施主体 | 手段 |
|---|---|---|
| 財政政策 | 政府 | 政府支出 の増減、租税 の増減 |
| 金融政策 | 中央銀行 | 貨幣供給量の調節(公開市場操作など) |
金融政策については第8章で扱います。この節では財政政策を見ていきます。
⑤ 財政政策の分類
財政政策は、さらに2つに分かれます。
この「そのつど判断する」ものと「自動的に働く」ものの対比が、
次の2つのテーマの中身です。
| 状況 | とるべき財政政策 | 具体策 |
|---|
| 不況・失業が多い(需要不足) | 拡張的財政政策 | 公共投資の拡大、減税、給付金 |
| 景気過熱・物価上昇(需要過多) | 緊縮的財政政策 | 公共投資の縮小、増税 |
「買いたいけれど買えない」は需要ではない
有効需要の定義が効いてくる場面を考えてみます。
不況で所得が減った家計は、本当は新しい車が欲しいかもしれません。
しかしお金がないので買いません。この「欲しい」は有効需要ではありません。
ここで政府が10万円の給付金を配ったらどうなるでしょうか。
家計の手元にお金が来るので、その一部が実際の支出に変わります。
潜在的な欲求が、有効需要に変わったわけです。
ただし、限界消費性向が0.8なら、給付されたお金のうち需要に変わるのは8割です。
残りの2割は貯蓄に回ります。
だからこそ前節で見たように、減税や給付より政府支出のほうが乗数が大きいのです。
試験での問われ方
貨幣支出を伴う需要だけを指します。
需要量が決定する、が正しい向きです。
| 総需要が直接増える |
| 減税 | 可処分所得が増え、消費が増える |
どちらも総需要曲線を上方にシフトさせ、均衡国民所得を増加させます。
前節の乗数を使えば、効果の大きさも計算できます。
同額なら政府支出の拡大のほうが効果が大きい、というのが前節の結論でした。
② 緊縮的財政政策
景気が過熱し、需要が多すぎて物価が上がりそうなときにとる政策です。
| 手段 | 記号 | 効果 |
|---|---|---|
| 政府支出の縮小 | 総需要が直接減る | |
| 増税 | 可処分所得が減り、消費が減る |
どちらも総需要曲線を下方にシフトさせ、均衡国民所得を減少させます。
③ 裁量的であることの意味
「裁量的」とは、政府がそのつど判断して決めるということです。
裏を返せば、次のような手順を踏まなければ発動できません。
1. 景気が悪化していることを統計で把握する
2. 政策を立案し、予算案をつくる
3. 国会で審議し、議決する
4. 実際に事業を発注し、支出する
5. 支出が民間の所得になり、消費に回る
この一つひとつに時間がかかります。
「不況だと分かったときには、もう景気は回復し始めていた」
「予算が執行されるころには、逆に景気が過熱していた」ということが起こりえます。
この時間のずれが裁量的財政政策の弱点であり、
だからこそ、判断を待たずに自動的に働く仕組みが重視されるのです。
それが次のテーマのビルト・イン・スタビライザーです。
④ 総需要管理政策の全体像
ここまでを整理しておきます。
【総需要管理政策】
この分類そのものが問われることがあるので、
どこに何がぶら下がっているかを図の形で覚えておくと安心です。
具体例
拡張的財政政策と緊縮的財政政策を、数字で比べてみましょう。
設定: 限界消費性向 、現在の均衡国民所得 兆円。
ケース1: 不況なので政府支出を20兆円増やす(拡張的財政政策)
均衡国民所得は 兆円になります。
ケース2: 不況なので20兆円の減税を行う(拡張的財政政策)
均衡国民所得は 兆円になります。
同じ20兆円でも、政府支出のほうが20兆円分だけ効果が大きくなっています。
ケース3: 景気が過熱しているので増税する(緊縮的財政政策)
10兆円の増税を行うと、
均衡国民所得は 兆円に減ります。
ケース4: 政府支出を減らす(緊縮的財政政策)
10兆円の政府支出削減なら、
均衡国民所得は 兆円です。
「同額なら政府支出のほうが効く」はブレーキでも同じ
景気を冷やしたいときも、政府支出を減らすほうが増税より強く効きます。
乗数の大小関係は、アクセルでもブレーキでも変わりません。
時間のずれの問題
数字のうえでは100兆円の効果があると計算できても、
現実の経済ではそう単純にはいきません。
たとえば2020年のように、急に景気が落ち込んだとします。
合計すると1年近くかかることもあります。
そのころには景気が自力で回復していて、
かえって物価を押し上げてしまう、ということが起こりえます。
この弱点を補うために、判断を必要としない仕組みが制度のなかに組み込まれています。
試験のポイント
| 好況(所得が増える) | 税収が自動的に増え、給付が自動的に減る | 可処分所得の伸びが抑えられ、過熱を防ぐ |
| 不況(所得が減る) | 税収が自動的に減り、給付が自動的に増える | 可処分所得の落ち込みが和らぎ、底割れを防ぐ |
誰かが「今は不況だから給付を増やそう」と判断しなくても、
制度が最初からそう設計されているので、自動的にそうなります。
② 具体例1: 累進課税制度
所得が高くなるほど税率が高くなる制度です。
好況で所得が増えると、より高い税率が適用されて税収が大きく増えます。
そのぶん可処分所得の伸びが抑えられ、
国民所得の増加を抑制して景気の過熱を防ぎます。
不況で所得が減れば、適用される税率が下がり、税負担が軽くなります。
可処分所得の落ち込みが和らぎます。
③ 具体例2: 社会保障制度
たとえば失業保険給付です。
不況で失業者が増えると、失業保険の給付が自動的に増えます。
失業者に一定の給付を行うことで、可処分所得の低下に歯止めをかけます。
好況で失業者が減れば、給付は自動的に減ります。
④ なぜ「自動」であることが重要か
前のテーマで見たように、裁量的財政政策には時間のずれがあります。
ビルト・イン・スタビライザーには、この問題がありません。
所得が変われば、その瞬間に税額が変わり、給付が変わります。
国会の議決も、予算の執行も待つ必要がないからです。
ただし、効果の大きさを状況に合わせて調節することはできません。
仕組みが決めた分だけしか働かないので、
大きなショックには裁量的な政策と組み合わせる必要があります。
⑤ 乗数との関係
前節で、定率税があると乗数が から
これは「政策の効果が弱まる」という悪い話でもありますが、
裏返せば外からのショックの影響も小さくなるということです。
たとえば輸出が急減しても、
定率税のもとでは所得の落ち込みに応じて税負担も軽くなるので、
可処分所得と消費の落ち込みが和らぎます。
乗数が小さい経済は、政策も効きにくいが、ショックにも強い。
ビルト・イン・スタビライザーの本質は、この乗数の縮小にあります。
⑥ 自動安定化装置になる仕組み/ならない仕組み
| 仕組み | 自動安定化装置として | 理由 |
|---|---|---|
| 累進的な所得税・法人税 | 強く働く | 所得が増えるほど税率が上がり、変動を強く抑える |
| 一定額までの所得に課税を免除する個人所得税 | 働く | 所得が下がれば免除範囲に入り、負担が自動的に消える |
| 失業保険などの社会保障給付 | 働く | 不況時に自動的に給付が増える |
| 全員に同額を課す定額税 | 働かない | 所得が変わっても税額が変わらない |
| 生活必需品への消費税 | ほとんど働かない | 必需品の消費は景気に左右されにくく、税収も変動しにくい |
見分け方は単純です。
景気が変わったときに、税収や給付が自動的に大きく変わるかどうか。
変わるなら自動安定化装置として働き、変わらないなら働きません。
具体例
令和6年第8問の設例を解いてみましょう。
問題
財政の自動安定化装置(ビルト・イン・スタビライザー)としての機能が
比較的強いと想定される税の仕組みとして、最も適切な組合せはどれか。
〔解答群〕
ア a と b / イ a と c / ウ a と d / エ b と c / オ b と d
解答: ウ(a と d)
a ○: 利潤に対して累進的に課せられる法人所得税
好況で企業の利潤が増えると、累進的なので税率が上がり、税収が大きく増えます。
その結果、自動的に景気の過熱を防ぎます。
不況で利潤が減れば、税負担が軽くなって落ち込みを和らげます。
b ×: 全ての人に同額が課せられる定額税
所得が増えようが減ろうが、税額はいつも同じです。
景気に応じて何も変わらないので、安定化の機能を持ちません。
乗数の観点でも、定額税の乗数の分母は のままで、縮小効果がありません。
c ×: 生活必需品に対して課せられる消費税
生活必需品は、景気が良かろうが悪かろうが買わなければならないものです。
消費量が景気にあまり左右されないので、税収も変動しにくく、
安定化の機能はほとんど働きません。
(これは第2章で学んだ「必需品は需要の所得弾力性が小さい」という性質と同じ話です。)
d ○: 一定額までの所得には課税を免除する個人所得税
不況で所得が下がり、免除される水準まで落ちれば、税負担がゼロになります。
自動的に可処分所得の低下に歯止めをかけることになります。
好況で所得が上がれば課税対象となり、伸びが抑えられます。
選択肢の組合せを確認する
○が a と d なので、正解は ウ です。
この問題から学べる見分け方
「自動安定化装置として働くか」を判断するときは、次の2点を確認してください。
1. 景気が変われば税額(給付額)が変わるか
変わらないもの(定額税)は働かない
2. 変わり方が景気の振れ幅より大きいか
累進課税は所得の伸び以上に税収が伸びるので、とくに強く働く
関連する引っかけ
発動の判断を必要としないのが特徴です。
乗数は小さくなります。安定化と政策効果はトレードオフの関係にあります。

ビルトイン・スタビライザー
試験のポイント
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