生産物市場(財市場)の分析
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プレミアムで見る第7章もいよいよ終盤です。これまで投資 は「与えられた数字」として扱ってきましたが、現実の投資は、企業がそのつど採算を計算して決めるものです。その計算の要になるのが利子率です。
総需要のうち、投資は消費よりも金額としては小さいのですが、変動が大きく、経済に及ぼす影響が大きいため、その分析は重要なものになります。景気が急に冷え込むとき、真っ先に止まるのは企業の設備投資だからです。
この節ではケインズの投資の限界効率理論を学びます。第2節では「家計は可処分所得に応じて消費を決定する」ことを見ました。ここでは「企業は利子率に応じて投資を決定する」ことを見ていきます。この結論が、次節のIS曲線が右下がりになる理由になります。
簡単にいうと
あと1万円投資したら、いくら儲かる? その儲けの率が投資の限界効率だよ。投資するかどうかは、この率と金利を比べて決めるの!
① そもそも「投資」とは何か
投資には主に2種類あります。
| 種類 | 中身 |
|---|---|
| 物的投資 | 企業の設備投資など(工場、機械設備) |
| 金融投資 | 株や債券の購入 |
マクロ経済学でいう投資 は、工場や機械設備など企業の物的投資(設備投資)の意味です。
株を買うことは、マクロでは投資に含まれません(お金が移動するだけで、新しいモノが生まれないからです)。
② 投資の限界効率
投資水準がどう決まるかについては諸説ありますが、
ここではケインズの投資の限界効率理論を学びます。
具体例
設例
すでに100万円投資している状態から、追加的に1万円投資を増加させた場合、
その1万円分の投資からの利益が500円であるとする。
このとき、100万円の投資水準での投資の限界効率は何%となるか。
解答: 5%

投資の限界効率曲線と利子率
試験のポイント
簡単にいうと
借りたお金の利息より、その投資で稼げる率のほうが高ければゴーサイン。だから金利が下がると、やれる案件が一気に増えるの!
① 企業は何を比べているのか
企業が物的投資を行う場合、銀行などの金融機関から資金を借り入れるのが一般的です。
したがって、借入金に対する利子率は投資の判断に影響を与えます。
企業の判断基準はシンプルです。
**投資の限界効率(追加的な投資から得られる収益率)と利子率を比較し、
収益率のほうが高い場合に投資を行う。**
| 関係 | 判断 |
|---|---|
| 投資の限界効率 > 利子率 |
簡単にいうと
金利が下がれば投資は増える。この右下がりの関係が投資関数。「減少関数」という言い方、これから何度も出てくるよ!
① 投資関数
利子率と投資の関係を表したものを投資関数といいます。
前のテーマで見たとおり、利子率が下がれば投資は増え、利子率が上がれば投資は減ります。
したがって、
投資は利子率の減少関数
です。
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「限界」という言葉は、ミクロ経済学の限界費用や限界効用と同じ使い方です。
もう1単位追加したときに、どれだけ増えるかを見ています。
③ 投資の限界効率曲線
通常、一企業でも複数の投資プロジェクトを抱えているため、
数多くの企業が存在する経済全体では、数えきれないほど多数の投資プロジェクトが存在します。
これらを、投資の限界効率が大きい順に左から並べ、
それぞれを実施するのに必要な金額(投資水準)を横軸にとって描いたものが
投資の限界効率曲線です。
この曲線は右下がりの形状になります。
理由は単純です。
投資プロジェクトには収益率が高いものも低いものもありますが、
企業はより収益率の高い投資プロジェクトを優先して実行していくため、
投資が増加するほど、投資の限界効率は低下していくのです。
おいしい案件から順に手をつけるので、後になるほど旨みが減っていく、というだけの話です。
④ ミクロの限界費用曲線との対比
ミクロ経済学で学んだ限界費用曲線は右上がりでした。
作れば作るほど、1単位あたりの費用が増えていくからです。
投資の限界効率曲線は右下がりです。
投資すればするほど、1単位あたりの収益率が下がっていくからです。
どちらも「後になるほど条件が悪くなる」という同じ発想から出ています。
分母が追加した投資額(1万円=10,000円)、分子がそこから得られる利益(500円)です。
すでに投資している100万円は計算に使いません。
「限界」なので、追加した1単位分だけを見るからです。
もう1問
すでに500万円投資している状態から、追加的に50万円投資を増やしたところ、
その50万円分から得られる利益が1万5,000円だった。投資の限界効率はいくらか。
投資の限界効率が低下していく様子
同じ企業で、投資を増やしていったときの限界効率を並べてみましょう。
| 投資水準(累計) | 追加投資 | 追加利益 | 投資の限界効率 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 100万円 | 11万円 | 11% |
| 200万円 | 100万円 | 8万円 | 8% |
| 300万円 | 100万円 | 7万円 | 7% |
| 400万円 | 100万円 | 6万円 | 6% |
| 500万円 | 100万円 | 4万円 | 4% |
最初の100万円は、いちばん儲かる案件(たとえば老朽化した主力ラインの更新)に使われるので、
収益率が11%と高くなります。
次の100万円は、その次に良い案件に回されるので8%に下がります。
こうして、投資を増やすほど限界効率は下がっていきます。
この表をグラフにすると
横軸に投資水準、縦軸に投資の限界効率をとると、
100万円ごとに段差のある階段状の右下がりのグラフになります。
経済全体では投資プロジェクトが無数にあるので、
段差が細かくなって、なめらかな右下がりの直線(曲線)に近づきます。
これが投資の限界効率曲線です。
| 投資の限界効率 < 利子率 | 投資をやめる(利息のほうが高くつくから) |
| 投資の限界効率 = 利子率 | ちょうど採算が合う境目 |
② 利子率は資金の調達コスト
利子率のことを資金の調達コストといいます。
たとえば、利子率3%で100万円を借り入れた場合、
100万円を調達するために3万円のコストが発生する、ととらえるわけです。
だから「収益率 > 調達コスト」なら実行、そうでなければ見送り、
という判断になります。まったく普通の商売の感覚です。
③ 利子率が変わるとどうなるか
投資の限界効率曲線は右下がりでした。
そこに、利子率の水準を水平な線として書き入れてみます。
利子率の線より上にある部分は「限界効率 > 利子率」なので実行されます。
利子率の線より下にある部分は実行されません。
利子率の線を下げていくと、実行される部分(曲線と交わるまでの範囲)が広がります。
つまり、
④ 均衡投資水準
実行される投資の量は、投資の限界効率曲線と利子率の線が交わるところまで、
つまり「投資の限界効率=利子率」となる水準まで、ということになります。
ここから先は、限界効率が利子率を下回るので実行されません。
ちょうど、ミクロ経済学で「価格=限界費用」となるまで生産する、と考えたのと同じ構造です。
具体例
投資プロジェクトを並べた設定で確かめましょう。
設定
ある経済に、投資プロジェクトが5つあるとします。
それぞれ実施するのに100(億円とします)の資金が必要で、
投資の限界効率は次のとおりです。
| プロジェクト | 必要な投資額 | 投資の限界効率 |
|---|---|---|
| A | 100 | 11% |
| B | 100 | 8% |
| C | 100 | 7% |
| D | 100 | 6% |
| E | 100 | 4% |
限界効率が大きい順に並んでいるので、階段状の右下がりのグラフになります。
ケース1: 利子率 のとき
利子率10%より投資の限界効率が高いプロジェクトはどれでしょうか。
したがって、投資プロジェクトAのみが採用され、投資水準は100になります。
ケース2: 利子率
| 利子率 | 採用されるプロジェクト | 投資水準 |
|---|---|---|
| 10% | A | 100 |
| 8% | A、B | 200 |
| 7% | A、B、C | 300 |
| 5% | A、B、C、D | 400 |
| 3% | A、B、C、D、E | 500 |
利子率が下がるほど投資水準が増えることが、はっきり見てとれます。
企業は、コスト(利子率)と収益率を比べて、
コストよりも収益率が上回れば投資を実行すると考えるわけです。
日本銀行が金融緩和をする理由
この表がそのまま、金融政策の効果の説明になります。
日本銀行が金融緩和をして利子率を10%から5%に下げれば、
それまで見送られていたB・C・Dのプロジェクトが実行されるようになります。
投資水準は100から400へ、4倍になりました。
投資は総需要の一部ですから、総需要が増え、乗数効果を通じて国民所得が増えます。
これが金融政策が実体経済に効く経路(波及経路)です。
試験のポイント
② 「減少関数」という言い方
「○○は△△の減少(増加)関数」という表現は、
これから他の場面でも何度も使われるので、ここで慣れておきましょう。
| 表現 | 意味 | グラフ |
|---|---|---|
| 投資は利子率の減少関数 | 利子率が上がると投資は減る | 右下がり |
| 消費は可処分所得の増加関数 | 可処分所得が増えると消費も増える | 右上がり |
| 貨幣需要は利子率の減少関数 | 利子率が上がると貨幣需要は減る(第8章) | 右下がり |
| 貨幣需要は国民所得の増加関数 | 国民所得が増えると貨幣需要も増える(第8章) | 右上がり |
③ 投資の利子率弾力性
利子率が変わったときに、投資がどれだけ敏感に反応するかを
投資の利子率弾力性といいます。
の絶対値
| 弾力性 | 意味 | 投資関数のグラフ |
|---|---|---|
| 大きい | 利子率が少し変わるだけで投資が大きく変わる | 緩やか(水平に近い) |
| 小さい | 利子率が変わっても投資はあまり変わらない | 急(垂直に近い) |
この概念は、次節でIS曲線の傾きを決め、
第8章では金融政策の効きやすさを決める重要な要素になります。
④ 投資が動くと総需要も動く
一国全体の財・サービスへの需要を表す総需要は でした。
投資は需要項目であるため、
総供給は45度線で一定ですから、
総需要と総供給が一致する均衡国民所得は、総需要の大きさに依存することになります。
つまり、投資の変化は国民所得に影響を与えるということです。
⑤ ここまでの流れを1本につなぐ
第7章で学んできたことが、ここで1本の線につながります。
この連鎖こそが、次節で学ぶIS曲線が右下がりになる理由です。
縦軸に利子率、横軸に国民所得をとれば、
利子率が下がるほど国民所得が増えるのですから、右下がりの線になります。
⑥ 「IS」という名前の由来
ついでに、次節の準備をしておきましょう。
IS曲線の「IS」は、Investment(投資)とSaving(貯蓄)の略です。
貯蓄は、所得のうち租税の支払いや消費に使われなかった金額です。
この貯蓄が市中銀行などの金融機関を介して、
機械設備や建物などの「投資」に回されます。
そして、経済全体で見ると、貯蓄と投資は事後的に等しくなると考えます。
だから生産物市場の均衡を表す曲線が「IS曲線」と名づけられているのです。
具体例
投資関数を具体的な式で扱ってみましょう。
設定
( は投資、 は利子率で小数表示。たとえば5%なら )
利子率ごとの投資水準
| 利子率 | 計算 | 投資 |
|---|---|---|
| 2%(0.02) | 190 | |
| 5%(0.05) |
たしかに、利子率が上がると投資が減っています。減少関数です。
利子率弾力性の違いを比べる
2つの経済を比べてみましょう。

投資関数と投資の利子率弾力性
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
A、Bのみ採用され、投資水準は200になります。
ケース3: 利子率 のとき
投資プロジェクトE以外(A〜D)が採用され、投資水準は400になります。
まとめると
| 175 |
| 10%(0.10) | 150 |
| 20%(0.20) | 100 |
利子率が5%から3%に下がったとき、投資はどれだけ増えるでしょうか。
経済A
:
:
増加は 10
経済B
:
:
増加は 40
同じ2%の利下げでも、経済Bのほうが4倍大きく投資が増えました。
投資の利子率弾力性が大きい経済ほど、金融政策がよく効くということです。
国民所得への影響まで追う
限界消費性向 とすると、乗数は5です。
同じ利下げでも、国民所得への効果は4倍違います。
現実の話として
不況が深刻なとき、日本銀行が利子率をいくら下げても投資が増えない、
という現象が起きることがあります。
先行きが暗ければ、企業は「金利が安くても、作ったものが売れなければ意味がない」と考え、
投資の限界効率そのものが低く見積もられるからです。
これは投資の利子率弾力性がほぼゼロの状態で、
投資関数のグラフはほぼ垂直になります。
このとき金融政策は効かなくなり、財政政策の出番となります。
この論点は第8章のIS-LM分析で改めて扱います。