不完全競争
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プレミアムで見る第3章までは、消費者も企業もプライステイカーであるような完全競争市場(多数の参加者が存在する市場)を想定していました。しかし現実の市場を見渡せば、価格を自分で決められる企業はいくらでもあります。この章では、価格支配力をもつ企業が存在するような市場(不完全競争市場)を分析するためのさまざまな概念を学びます。具体的には、独占市場、寡占市場、独占的競争市場がこれに該当します。この節ではまず全体像をつかみます。完全競争市場の4つの条件のうち、どれが崩れているのか。その崩れ方の違いが、そのまま3つの類型の違いになっています。
簡単にいうと
第3章までの「みんなプライステイカー」という世界から一歩出るよ。価格を自分で決められる企業がいる市場、それが不完全競争市場!身の回りのお店や企業の多くは、実はこちらに当てはまるんだ。
① 不完全競争市場の定義
不完全競争市場 → 売り手、買い手に価格支配力をもつ主体がいる市場
価格支配力とは、自分の行動によって市場価格を動かせる力のことです。第1章で学んだプライステイカー(価格受容者)とは正反対の立場です。
② この章で扱う範囲
この章では、売り手(供給者)側が価格支配力をもつケースを考えます。試験対策上、買い手(需要者)が1人(1社)しか存在しない市場については扱いません。
なお、買い手が1人しかいない市場を需要独占(買い手独占)と呼びます。企業城下町の労働市場のように、雇う側が1社しかない状況がこれにあたります。用語として知っておくだけで十分です。
③ 完全競争市場の4つの条件
完全競争市場とは、次の4つの条件をすべて満たす市場のことをいいます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 売り手、買い手ともに多数存在 | 1人ひとりの影響力が小さい |
| 財の同質性 | 財は同質で互いに代替可能 |
| 財に関する情報の完全性 |
具体例
身近な市場を、完全競争の4条件に照らして判定してみましょう。
ケース1: 地域の青果市場
| 条件 | 判定 |
|---|---|
| 売り手・買い手が多数 | ○ 多数の農家と多数の買い手 |
| 財の同質性 | ○ 同じ品種のキャベツはほぼ同質 |
| 情報の完全性 | ○ 相場が公開されている |
| 参入・退出の自由 | ○ 比較的自由 |
4条件をおおむね満たしており、完全競争市場に近いといえます。個々の農家は相場を受け入れるしかありません。
ケース2: 携帯電話の通信サービス
| 条件 |
|---|
試験のポイント
簡単にいうと
不完全競争市場は3種類!独占・寡占・独占的競争。見分け方は「売り手が何社いるか」と「商品が同じか違うか」の2つだけ。2社だけの市場を複占ということもあわせて覚えておこう!
① 3つの類型
不完全競争市場の具体的なものには、以下のような市場があります。
① 独占市場 → 売り手(供給者)が1社しか存在しない市場
② 寡占市場 → 売り手(供給者)が比較的少数しか存在しない市場
※特に2社のみで占められている市場を複占市場という。
③ 独占的競争市場 → 完全競争市場の4つの条件のうち、「財の同質性」が満たされない市場
② それぞれの特徴を押さえる
簡単にいうと
最後に、この章全体の見取り図を持っておこう!価格支配力が強い順に並べると、独占 → 寡占 → 独占的競争 → 完全競争。そして支配力が強いほど、社会的総余剰は小さくなるんだ。
① 価格支配力の強さで並べる
4つの市場構造を、価格支配力の強い順に並べてみましょう。
| 順位 | 市場 | 価格支配力 | 直面する需要曲線 |
|---|---|---|---|
| 1 | 独占 | 最も強い | 市場全体の需要曲線そのもの(右下がり) |
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| 市場への参入・退出の自由 | 出入りが自由にできる |
第1章第3節で学んだ4つの前提と同じものです。
④ 不完全競争市場とは「完全競争市場ではない市場」
そして、不完全競争市場とは完全競争市場ではない市場のことを指します。つまり、上の4条件のうち少なくとも1つが満たされていない市場、ということになります。
どの条件が崩れているかによって、市場の性質も変わります。この「どれが崩れているか」を整理するのが、次のテーマの3つの類型です。
⑤ プライスメイカー
価格支配力をもつ企業は、自らの供給量の変化により価格が変化することを認識しつつ行動します。これをプライスメイカーといいます。
| 完全競争企業 | 不完全競争企業 | |
|---|---|---|
| 呼び名 | プライステイカー(価格受容者) | プライスメイカー(価格設定者) |
| 直面する需要曲線 | 水平 | 右下がり |
| 価格と限界収入 | 価格 = 限界収入 | 価格 > 限界収入 |
直面する需要曲線が水平か右下がりか。この一点の違いが、この章の議論をすべて動かします。第1章で「完全競争企業の需要曲線は水平」と学んだのは、この対比のための準備でもありました。
⑥ なぜ不完全競争を学ぶのか
第3章で「完全競争市場では社会的総余剰が最大になる」と学びました。では現実の市場がそうでないなら、何が起きるのでしょうか。
結論を先に言えば、供給量が過小になり、価格が高くなり、社会的総余剰が小さくなります。この章では、その中身を余剰分析で確かめていきます。
診断士の実務でいえば、競争政策や独占禁止法の考え方の土台になる内容です。企業経営理論で学ぶ競争戦略(差別化、参入障壁)とも、正面から重なります。
| 売り手・買い手が多数 | × 売り手は数社のみ |
| 財の同質性 | △ ある程度似ているが、差別化もされている |
| 情報の完全性 | △ 料金プランが複雑で比較しにくい |
| 参入・退出の自由 | × 電波の免許や巨額の設備投資が必要 |
複数の条件が崩れており、寡占市場にあたります。各社は自社の料金設定が市場に影響することを知ったうえで価格を決めています。
ケース3: 街のラーメン店
| 条件 | 判定 |
|---|---|
| 売り手・買い手が多数 | ○ 多数の店と多数の客 |
| 財の同質性 | × 店ごとに味が違う(差別化されている) |
| 情報の完全性 | ○ 口コミサイトなどで情報は得られる |
| 参入・退出の自由 | ○ 出店も閉店も比較的自由 |
崩れているのは財の同質性だけです。これが独占的競争市場にあたります。
ケース4: 地域の水道事業
| 条件 | 判定 |
|---|---|
| 売り手・買い手が多数 | × 売り手は1つだけ |
| 財の同質性 | — 1社しかない |
| 情報の完全性 | ○ |
| 参入・退出の自由 | × 二重に水道管を敷くのは非効率 |
売り手が1社しかない独占市場です。しかも設備投資の性質から、競争が起きにくい構造になっています(第5章で学ぶ費用逓減産業にあたります)。
ステップ: 判定の手順をまとめる
1. 売り手が何社いるか → 1社なら独占、少数なら寡占、多数なら次へ
2. 財が同質か → 差別化されていれば独占的競争、同質なら完全競争
3. 参入・退出が自由か → 障壁があれば競争が制限される
売り手の数と財の同質性の2つを見れば、ほとんどの場合に分類できます。
独占市場 売り手が1社なので、その企業が価格を自由に設定できます。3つのなかで最も価格支配力が強い形です。第2節で詳しく扱います。
寡占市場 売り手が少数なので、各社は他社の出方を意識しながら行動することになります。この「相手の出方を読む」という要素があるため、ゲーム理論という道具が必要になります。第3節で扱います。
独占的競争市場 売り手は多数いますが、それぞれの商品が差別化されています。そのため各社は自分の商品について小さな独占をもっている、という状態です。第4節で扱います。
③ 独占的競争という名前の由来
「独占的競争」という言葉は、一見すると矛盾しているように聞こえます。しかし中身を知れば納得できます。
つまり「多数の企業が、それぞれ小さな独占をもって競争している」という状態です。街のラーメン店やカフェを思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。
④ 複占市場
寡占市場のうち、売り手が2社だけの市場を複占市場といいます。
第3節で学ぶクールノーモデルやベルトランモデルは、この複占を前提に組み立てられています。2社なら相手の行動を1つだけ読めばよいので、分析が単純になるためです。
⑤ 分類の基準をまとめる
| 市場 | 売り手の数 | 財の同質性 | 参入・退出 |
|---|---|---|---|
| 完全競争 | 多数 | 同質 | 自由 |
| 独占 | 1社 | (1社しかない) | 障壁あり |
| 寡占 | 少数 | 同質の場合とない場合がある | 障壁あり |
| 独占的競争 | 多数 | 差別化されている | 自由 |
独占的競争市場は売り手が「多数」であるという点に注意してください。「少数」としているのは寡占市場のほうです。ここは正誤問題で頻繁に入れ替えられます。
⑥ 独占市場がまれである理由
なお、独占市場はまれにしか存在し得ないと考えられています。というのは、独占という地位を利用し高い利潤を得ることは、新しい企業の参入を招くからです。
言い換えれば、仮にある市場で独占という状態が長く持続している場合には、きわめて高い参入障壁が存在している、あるいは当該市場が自然独占(第5章第5節)となっているなどの特殊な理由が存在すると考えられます。
参入障壁の例としては、特許、免許制、巨額の初期投資、原材料の独占などが挙げられます。企業経営理論で学ぶ参入障壁の議論と同じ内容です。
具体例
問題 完全競争と不完全競争における市場の特徴に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを選べ。
(令和4年度 第17問)
〔解答群〕
ア a: 正 b: 正 c: 正 / イ a: 正 b: 誤 c: 誤 / ウ a: 誤 b: 正 c: 正 / エ a: 誤 b: 正 c: 誤 / オ a: 誤 b: 誤 c: 正
ステップ1: a を判定する
a は誤り。 独占的競争市場では売り手が多数です。「少数」なのは寡占市場のほうです。
独占的競争市場で満たされないのは「財の同質性」だけであり、売り手の数については完全競争市場と同じく多数である、という点を押さえてください。
ステップ2: b を判定する
b は正しい。 完全競争市場の売り手はプライス・テイカー(価格受容者)、不完全競争市場の売り手はプライス・メイカー(価格設定者)です。
価格支配力をもつかどうかが、両者を分ける基準でした。
ステップ3: c を判定する
c は誤り。 寡占市場の一部と独占的競争市場の場合では、財の同質性が満たされていません。
不完全競争市場のなかでも、財が同質な場合(同質財寡占)と差別化されている場合(差別化財寡占、独占的競争)があります。「同質財のみを生産する」と言い切ってしまうのは誤りです。
ステップ4: 答えを選ぶ
a: 誤、b: 正、c: 誤 なので、答えはエです。
ステップ5: 分類表で確認する
| 完全競争 | 独占 | 寡占 | 独占的競争 | |
|---|---|---|---|---|
| 売り手・買い手ともに多数存在 | ○ | ×(1社) | ×(少数) | ○ |
| 財の同質性 | ○ | —(1社しかない) | ○×(ある場合とない場合がある) | ×(ある程度の差別化) |
| 財に関する情報の完全性 | ○ | ○ | ○ | ○ |
この表を頭に入れておけば、この種の問題は確実に処理できます。注目すべきは次の2点です。
一方、独占と寡占では、売り手の数と参入・退出の自由の両方が崩れています。
ステップ6: 情報の完全性はどの市場でも○
表を見てわかるとおり、財に関する情報の完全性はどの市場でも○になっています。情報が不完全な場合は、第5章で学ぶ「情報の不完全性」という別の論点として扱われるためです。
「不完全競争市場では情報が不完全である」といった記述は誤りになります。市場構造の問題と情報の問題は、別々に整理しておいてください。

市場構造の比較
試験のポイント
| 2 | 寡占 | 強い | 右下がり(他社の行動に依存) |
| 3 | 独占的競争 | 弱い | 右下がりだが緩やか |
| 4 | 完全競争 | なし | 水平 |
独占企業が直面する需要曲線は、市場全体の需要曲線そのものです。売り手が1社しかいないのですから当然です。
独占的競争企業も右下がりの需要曲線に直面しますが、代わりになる商品がたくさんあるため、需要の価格弾力性は大きく、曲線は緩やかになります。値上げすれば多くの客が他店へ流れてしまうからです。
② 社会的総余剰の大きさで並べる
第3章で「完全競争市場では社会的総余剰が最大になる」と学びました。価格支配力が強くなるほど、この状態から遠ざかります。
| 市場 | 供給量 | 価格 | 社会的総余剰 |
|---|---|---|---|
| 完全競争 | 最も多い | 最も低い | 最大 |
| 独占的競争 | やや少ない | やや高い | やや小さい |
| 寡占 | 少ない | 高い | 小さい |
| 独占 | 最も少ない | 最も高い | 最小 |
価格支配力をもつ企業は、あえて供給量を絞ることで価格をつり上げ、自社の利潤を増やします。その結果、社会全体で見ると取引が過小になり、死荷重が生じます。
③ 独占市場の3つの特徴
第2節への橋渡しとして、独占市場の特徴を先に示しておきます。完全競争市場と比較したものです。
1. 供給量が過小となる
2. 市場価格が高くなる
3. ①②により、社会的総余剰が小さくなる
この3点が、この章を通じての基本的な結論です。寡占市場でも独占的競争市場でも、程度の差はあれ同じ方向の結果になります。
④ 政策との関係
価格支配力が社会的総余剰を減らすなら、政府はどう対応すべきでしょうか。
| 政策 | 内容 |
|---|---|
| 独占禁止法 | カルテルや不当な取引制限を禁止する |
| 企業結合規制 | 合併によって市場が独占に近づくのを防ぐ |
| 参入規制の緩和 | 新規参入を促して競争を活発にする |
| 価格規制 | 自然独占の場合に価格を規制する(第5章) |
日本では公正取引委員会がこれらを担っています。中小企業政策でも、下請取引の適正化や優越的地位の濫用の防止といった形で、価格支配力の問題が扱われます。
⑤ 差別化という経営戦略
一方、企業の側から見ると、価格支配力をもつことは望ましいことです。価格競争から抜け出せるからです。
企業経営理論で学ぶ差別化戦略は、経済学の言葉でいえば「完全競争から独占的競争へ移ろうとする戦略」にあたります。自社の商品を他社と違うものにすれば、その商品についての小さな独占が手に入ります。
診断士として中小企業に助言する場面では、まさにこの方向を示すことが多くなります。価格で戦えば体力のある大企業に勝てないので、差別化によって価格支配力を得る。経済学の理論と実務の助言が、ここでつながります。
⑥ この章の構成
最後に、この章で学ぶ内容を確認しておきましょう。
| 節 | 内容 |
|---|---|
| 第1節(この節) | 不完全競争市場の全体像と分類 |
| 第2節 | 独占市場(限界収入、独占均衡、厚生の損失、ラーナーの独占度) |
| 第3節 | 寡占市場(クールノー、ベルトラン、ゲーム理論、屈折需要曲線) |
| 第4節 | 独占的競争市場(製品差別化、長期均衡) |
分量としては第2節と第3節が中心です。特にゲーム理論は近年の出題が多い論点なので、時間をかけて取り組む価値があります。
具体例
同じ商品市場が、市場構造の変化によってどう変わるかを追ってみましょう。
設定 ある地域のガソリンスタンド市場を考えます。需要曲線は 、各社の限界費用は50で一定とします。
ケース1: 完全競争市場(多数の業者が競争)
完全競争では が成り立ちます。
、
ケース2: 独占市場(1社に統合)
独占では が成り立ちます。需要曲線 に対する限界収入曲線は、傾きが2倍の
価格は需要曲線から です。
ステップ: 2つを比べる
| 完全競争 | 独占 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| 価格 | 50 | 125 | 上昇 |
| 数量 | 300 | 150 | 減少 |
| 消費者余剰 | 22,500 | 5,625 | |
独占市場の3つの特徴が、そのまま数値に表れました。
1. 供給量が過小(300 → 150)
2. 市場価格が高い(50 → 125)
3. 社会的総余剰が小さい(22,500 → 16,875)
ステップ: 誰が得をして誰が損をしたか
消費者は16,875を失いました。そのうち11,250は生産者へ移転していますが、残りの5,625はどこにも行かずに消えています。これが独占による死荷重です。
三角形として計算しても確かめられます。

4つの市場構造と価格支配力
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
| ○ |
| × |
| × |
| ○ |
| 0 |
| 11,250 |
| 社会的総余剰 | 22,500 | 16,875 |
一致しました。
ステップ: 中間の市場構造ではどうなるか
寡占市場(たとえば3社のクールノー競争)であれば、価格は50と125のあいだ、数量は150と300のあいだに落ち着きます。企業数が増えるほど完全競争に近づいていく、というのが第3節で学ぶ内容です。
市場構造は「完全競争か独占か」の二択ではなく、その間に連続的に広がっている、と捉えておくとよいでしょう。