不完全競争
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プレミアムで見るここでは不完全競争市場の典型的なケースとして独占市場を学びます。独占とは売り手(供給者)が1社しか存在しないような市場です。独占企業は、自分が生産量を変えれば価格が動くことを知ったうえで行動します。この一点が、第1章で学んだ完全競争企業との決定的な違いです。そこから「価格 > 限界収入」という関係が生まれ、利潤最大化条件も ではなく に変わります。結果として、供給量は過小に、価格は高くなり、社会的総余剰は小さくなります。この節では、その中身を図と数値の両方で確かめていきます。
簡単にいうと
独占企業は「たくさん売ろうとすると値段を下げないといけない」ことを知っている。これがプライスメイカーということ!完全競争企業の水平な需要曲線とは、まったく違う世界だよ。
① 独占市場の定義と特徴
独占市場 → 売り手(供給者)が1社しか存在しないような市場
(完全競争市場と比較した)独占市場の特徴
1. 供給量が過小となる
2. 市場価格が高くなる
3. ①②により、社会的総余剰が小さくなる
この3点が、この節を通じて確かめていく結論です。
② 独占市場はまれである
独占市場はまれにしか存在し得ないと考えられています。というのは、独占という地位を利用し高い利潤を得ることは、新しい企業の参入を招くからです。
簡単にいうと
独占企業では「価格 > 限界収入」になる。これが最大のポイント!そして限界収入曲線は「需要曲線と同じ切片で、傾きが2倍」。この描き方は絶対に覚えておこう!
① 限界収入の定義
限界収入(marginal revenue: MR) → 生産量を1単位増加させたときに増加する収入の額
収入は、収入 = 価格 × 生産量
簡単にいうと
独占企業の利潤最大化条件は「MR = MC」!完全競争の「P = MC」と違うけど、根っこの考え方は同じだよ。そして生産量を決めたあと、価格は需要曲線から読む。この順番が大事!
① 独占企業の利潤最大化条件
独占企業の利潤最大化条件 → 限界収入 = 限界費用 となるように生産量を決める
簡単にいうと
独占だと社会全体で損が出る。どれくらい?を余剰で測るのがこのテーマ!第3章の余剰分析がそのまま使えるよ。死荷重が三角形になる位置が独特だから、図でしっかり確認しよう。
① 分析の設定
完全競争市場と独占市場の余剰の違いを確認します。
需要曲線 (縦軸切片 A)、限界収入曲線 、限界費用曲線
簡単にいうと
最後は「独占の強さ」を測るものさし!ラーナーの独占度だよ。式は覚えやすくて、価格と限界費用の乖離率=需要の価格弾力性の逆数。「弾力性が低い市場ほど価格は高くなる」という結論が使いどころ!
① ラーナーの独占度とは
ラーナーの独占度は、企業の価格支配力がどれほど強いかを測る指標です。
式による証明は割愛しますが、独占企業の利潤最大化条件から次の関係式が成り立ちます。
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③ 独占企業が直面する需要曲線
完全競争企業はそのシェアが十分に小さいため、生産量を変化させても市場における価格は変化しないというものでした(プライステイカー)。
しかし、独占企業は自らの供給量の変化により価格が変化することを認識しつつ行動します(これをプライスメイカーといいます)。
たとえば生産量 から1単位生産量を増加させたとします。このとき価格は だけ低下することになります。生産量が多いほど、価格を低くしなければ売り切れなくなるからです。独占企業はこれを認識したうえで行動します(利潤最大化を目指す)。
④ 2つの需要曲線を見比べる
| 完全競争企業1社 | 独占企業 | |
|---|---|---|
| 直面する需要曲線 | 水平(市場価格の高さ) | 右下がり(市場全体の需要曲線そのもの) |
| 生産量を増やすと | 価格は変わらない | 価格が下がる |
| 立場 | プライステイカー | プライスメイカー |
独占企業は市場にただ1社なので、その企業が直面する需要曲線は市場全体の需要曲線と一致します。市場全体の需要曲線は右下がりですから、独占企業が直面する需要曲線も右下がりになる、というわけです。
⑤ 完全競争市場の図との対応
ここで混乱しやすい点を整理しておきます。
完全競争市場についても、市場全体の図を描けば需要曲線は右下がりです。水平になるのは1企業から見た需要曲線でした。
一方、独占市場では市場全体 = 1企業なので、両者が一致します。したがって独占企業は右下がりの需要曲線に直面することになります。
「どのレベルの図を見ているのか」を常に確認する習慣をつけてください。
⑥ 独占企業の悩み
右下がりの需要曲線に直面するということは、独占企業は次のような悩みを抱えることになります。
この「数量と価格のトレードオフ」をどう解決するか。その答えが、次のテーマで学ぶ限界収入という考え方です。
完全競争企業にはこの悩みがありません。価格は一定なので、売れば売るだけ収入が増えるからです(ただし費用が増えるので、どこかで止まります)。
具体例
独占企業が直面する需要曲線を、数値で確認しておきましょう。
設定 ある独占企業の需要曲線が次の表で与えられているとします。
| 価格 | 100 | 90 | 80 | 70 | 60 |
|---|---|---|---|---|---|
| 需要量 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
ステップ1: 価格と数量の関係を確認する
価格を10下げるごとに、売れる数量が1ずつ増えています。逆にいえば、1単位多く売るには価格を10下げなければなりません。
これがプライスメイカーの直面する状況です。「売りたいだけ売れる」わけではありません。
ステップ2: 収入を計算する
| 価格 | 数量 | 収入 = 価格 × 数量 |
|---|---|---|
| 100 | 1 | 100 |
| 90 | 2 | 180 |
| 80 | 3 | 240 |
| 70 | 4 | 280 |
| 60 | 5 | 300 |
数量を増やすと収入も増えていますが、増え方に注目してください。
| 数量 | 価格 | 追加1単位あたりの収入 |
|---|---|---|
| 2 | 90 | 80 |
| 3 | 80 | 60 |
| 4 | 70 | 40 |
| 5 | 60 | 20 |
どの行でも、追加1単位あたりの収入が価格を下回っています。これが次のテーマで学ぶ「価格 > 限界収入」という関係です。
ステップ4: なぜ下回るのかを言葉で確認する
2個目を売るとき、独占企業は価格を100から90へ下げました。このとき起きていることは2つです。
差し引き
| 数量 | 収入 | 追加1単位あたりの収入 |
|---|---|---|
| 1 | 80 | — |
| 2 | 160 | 80 |
| 3 | 240 | 80 |
| 4 | 320 | 80 |
常に80(= 価格)です。独占企業の場合と比べると、違いがはっきりします。

完全競争企業と独占企業が直面する需要曲線
試験のポイント
② 完全競争企業の場合
完全競争企業はプライステイカーであり、価格は一定と考えるため、限界収入 = 市場価格(一定)となります。生産量を1単位増加させると当該財の単価分だけ追加的に収入が得られるからです。
③ 独占企業の場合
しかし独占企業の場合、生産量を増加させるほど価格は低下するため、生産量増加による収入の増加分が、価格低下による収入の減少分を補えず、限界収入は価格よりも低くなると考えます。
ある価格 と生産量 を基準に、そこから生産量を に増加させたとき、価格は より低下します。新しい生産量における収入から元の生産量における収入を引いたものが限界収入ですが、この値は元の価格 を下回ります。
④ 2つをまとめる
| 立場 | 価格と限界収入の関係 | |
|---|---|---|
| 競争企業 | プライステイカー | 価格 = 限界収入 |
| 独占企業 | プライスメイカー | 価格 > 限界収入 |
この対比は試験で繰り返し問われます。セットで覚えてください。
⑤ 限界収入曲線
各生産量についての限界収入の値をプロットしたものを限界収入曲線といいます。需要曲線が直線の場合には、限界収入曲線は次のように描けます。
独占市場(企業)の限界収入曲線
1. 需要曲線と同じ切片を持ち、
2. 傾きが2倍の直線
つまり、縦軸切片は需要曲線と同じで、横軸切片は需要曲線の半分のところに来る、という直線です。
⑥ 数式で確かめる
この関係は数式から導くことができます。需要関数が次のように与えられたとします。需要関数(曲線)は、縦軸が価格、横軸が需要量です。
この価格と需要量で独占企業が財を供給した場合、この企業の収入関数は
と表すことができます。さらに、限界収入関数は、収入関数を で微分することで求めることができます。
需要曲線 と見比べると、切片 は同じで、傾きが から へ2倍になっていることがわかります。
導出過程を覚える必要はありませんが、「切片は同じ、傾きは2倍」という結論は必ず使えるようにしておいてください。
⑦ 限界収入は逓減する
限界収入曲線が右下がりであるということは、生産量を増やすほど限界収入が小さくなる、つまり限界収入は逓減するということです。
しかも、限界収入は途中でマイナスになります。 が横軸と交わるのは
限界収入がマイナスの領域では、生産量を増やすと収入がかえって減ります。値下げによる損失が、数量増加による利益を上回るためです。当然ながら、独占企業がこの領域で生産することはありません。
⑧ 需要の価格弾力性との関係
第2章第6節で「直線の需要曲線では中点で弾力性が1になり、そこで売上が最大になる」と学びました。
売上が最大になるということは、そこで限界収入がゼロになるということです。実際、 となる は需要曲線の中点にあたります。
独占企業は となるところで生産するので、必ず需要が弾力的な領域で生産することになります。この性質は応用問題で問われることがあります。
具体例
需要曲線から限界収入曲線を求める練習をしましょう。
問題 独占企業が直面する需要曲線が で与えられている。限界収入曲線を求めよ。
ステップ1: 公式を使う
需要曲線と同じ切片、傾きは2倍です。
ステップ2: 数式で検算する
収入関数を書きます。
これを で微分します。
一致しました。
ステップ3: 横軸切片を確認する
確かに半分になっています。グラフを描くときは、この2点を結べばよいので簡単です。
ステップ4: 価格と限界収入を数値で比べる
| 数量 | 価格 | 限界収入 |
|---|
どの数量でも が成り立っています。しかも数量が増えるほど差が広がっています。
で限界収入がゼロになり、それより右ではマイナスになります。この は需要曲線の中点(横軸切片400の半分)にあたります。
ステップ5: 収入で確かめる
限界収入がゼロのところで収入が最大になっているか、確かめてみましょう。
| 数量 | 価格 | 収入 |
|---|---|---|
| 150 | 125 | 18,750 |
| 200 | 100 |
確かに で収入が最大になっています。第2章第6節で学んだ「弾力性1の点で売上が最大」という性質と、完全に一致しています。
ステップ6: よくある誤りを確認する
誤り1: 傾きを2倍にせず、切片だけ変える
のようにしてしまう誤りです。正しくは切片はそのまま、傾きを2倍にします。
誤り2: 需要曲線が数量の式で与えられたときに混乱する

価格と限界収入の関係(独占企業)
試験のポイント
※完全競争企業の場合と異なり「価格 = 限界収入」が成立しませんが、「限界収入 = 限界費用」という条件は同じです。
② なぜこの条件になるのか
独占企業の利潤最大化条件の解釈は、完全競争企業の場合と同じです。限界収入は生産量を1単位増加させたときの収入の増加分を、限界費用は生産量を1単位増加させたときの費用の増加分を表します。
限界収入 > 限界費用となっているときには、もう1単位生産量を増加させることで得られる収入の増加分が費用の増加分を上回っているので、生産量を増加させることで利潤が増加します。よって、利潤が最大化されている状態にはなっていないことになります。
限界収入 < 限界費用のときには逆に考えればよいことになります。したがって、限界収入 = 限界費用が成り立っている場合に利潤が最大化されていると考えることができます。
第1章第3節で を導いたときと、まったく同じ論法です。完全競争では だったので と書けただけで、本質は でした。
③ 数式による確認
利潤関数は、 で与えられます。利潤を最大化する(限界利潤がゼロとなる) は、
で与えられます。つまり、 です。
④ 独占均衡の図示
需要曲線 、この需要曲線から導かれた限界収入曲線 、および限界費用曲線 が描かれた図を考えます。
独占市場(企業)における価格と生産量の見方
1. 独占企業の利潤最大化条件「限界収入 = 限界費用 」となる点 C をもとに市場(企業)の生産量が決定される
2. 独占市場(企業)の生産量:
3. 独占市場(企業)の価格: (価格は市場の需要曲線によって決定する)
※独占企業は、利潤最大化条件により生産量を決定し、市場に見合った価格を決定します(プライスメイカー)。
⑤ 価格は需要曲線から読む
ここが手順のうえで最も大切なところです。
の交点の高さが価格ではありません。 交点から真上に上がって需要曲線にぶつかったところの高さが価格です。
理由を考えておきましょう。生産量 に対する供給者価格( 曲線の高さ、点 E)と需要者価格(需要曲線の高さ、)には乖離があります。この場合、需要者が という価格を支払う意思があるのに、供給者はわざわざそれよりも低い価格には設定しないでしょう。したがって、取引価格は となります。
このように、市場価格は供給者側ではなく需要者側主導で決定される、というのは第3章第2節で学んだ需要者価格の考え方そのものです。
⑥ 完全競争市場の場合と比べる
同じ図に、完全競争市場として行動した場合の結果も描き込んでみましょう。
完全競争企業として利潤最大化行動をとった場合の価格と生産量の見方
1. 需要曲線 と供給曲線(限界費用曲線) の交点(市場均衡点)である点 F をもとに市場均衡価格と生産量(均衡取引量)が決定される
2. 完全競争市場の価格:
3. 完全競争市場の生産量:
※完全競争企業は、市場価格を受容し(プライステイカー)、生産量を決定します。
⑦ 2つを比べて特徴を確認する
| 独占市場 | 完全競争市場 | |
|---|---|---|
| 決定の起点 | の点 C | と の交点 F |
| 生産量 | ||
| 価格 |
そして 、 が成り立ちます。つまり、前述の独占市場の特徴である供給量が過小となり、市場価格が高くなることが確認できます。
⑧ 関係式のまとめ
| 関係式 | |
|---|---|
| 独占企業 | 価格 (生産量を増やすごとに低下する)> 限界収入 = 限界費用 |
| 完全競争企業 | 価格 (市場均衡価格で一定)= 限界収入 = 限界費用 |
独占企業では価格だけが外れて高くなる、という形です。
⑨ 計算問題の手順
独占市場の計算問題は、次の手順で確実に解けます。
1. 需要曲線を の形に直す
2. 切片そのまま・傾き2倍で を求める
3. 費用関数を微分して を求める
4. を解いて生産量 を求める
5. その を需要曲線に代入して価格 を求める
5番目で に代入してしまう誤りが非常に多いので、注意してください。
具体例
問題 ある独占企業の直面する需要曲線が 、費用関数が で与えられている。独占企業の利潤最大化行動における生産量、価格、利潤を求めよ。また、完全競争市場であった場合の生産量と価格も求めよ。
ステップ1: 限界収入を求める
需要曲線と同じ切片、傾き2倍です。
ステップ2: 限界費用を求める
費用関数 を で微分します。
限界費用は一定です。
ステップ3: 利潤最大化条件を立てる
より
独占企業の生産量は180です。
ステップ4: 価格を求める
生産量180を需要曲線に代入します。
独占価格は110です。
( に代入すると となってしまいます。これは限界収入であって価格ではありません。)
ステップ5: 利潤を求める
ステップ6: 完全競争市場だった場合を求める
完全競争では です。
価格は です。
ステップ7: 2つを比べる
| 独占市場 | 完全競争市場 | |
|---|---|---|
| 生産量 | 180 | 360 |
| 価格 | 110 | 20 |
生産量は独占市場のほうが半分、価格は5.5倍です。独占市場の特徴である「供給量が過小、市場価格が高い」が、数値ではっきり確認できました。
ステップ8: 限界費用が一定の場合の性質
限界費用が一定()で需要曲線が直線()の場合、独占生産量はいつも完全競争生産量のちょうど半分になります。

限界収入曲線の描き方
試験のポイント
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 点 F | と の交点(完全競争の均衡点) |
| 、 | 完全競争市場の生産量と価格 |
| 点 C | と の交点 |
| 独占市場の生産量 | |
| 点 B | における需要曲線上の点 |
| 独占価格 | |
| 点 E | における 曲線の高さ(供給者価格) |
② 完全競争市場の場合の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | (四角形 − 四角形 ) |
| 生産者余剰 | 図形 (四角形 − 図形 |
| 社会的総余剰 | 図形 |
③ 独占市場の場合の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | (四角形 − 四角形 ) |
| 生産者余剰 | 図形 (四角形 |
| 社会的総余剰 | 図形 |
④ 死荷重
以上より、独占市場の特徴である社会的総余剰が小さくなることが確認できます。
⑤ 死荷重の形に注意
独占による死荷重は、次の3点を結んだ図形になります。
曲線が直線であればこの図形は三角形になります。曲線であれば曲線で囲まれた図形になりますが、考え方は同じです。
⑥ なぜ死荷重が生じるのか
から までの区間を考えてください。この区間では
が成り立っています。つまり、この区間の取引はどれも社会全体の余剰を増やすはずのものです。
ところが独占企業は で生産を止めてしまいます。価格を高く保つために、あえて生産を絞っているからです。その結果、本来行われるべき取引が行われず、余剰が失われます。
これが独占による死荷重の中身です。第3章で学んだ課税の死荷重と、まったく同じ構造をしています。
⑦ 生産者余剰は増えていることに注意
独占によって社会的総余剰は減りますが、生産者余剰は増えています。消費者余剰の減少分のうち一部が生産者へ移転し、残りが死荷重として失われる、という形です。
| 完全競争 | 独占 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| 消費者余剰 | 大きい | 小さい | 大きく減少 |
| 生産者余剰 | 小さい | 大きい | 増加 |
| 社会的総余剰 | 最大 | 小さい | 死荷重の分だけ減少 |
だからこそ企業は独占を目指すわけです。社会全体では損でも、その企業にとっては得だからです。競争政策が必要とされる理由がここにあります。
⑧ 平均収入との関係
図の問題で「平均収入」が問われることがあります。
つまり平均収入は価格と一致します。限界収入とは別物なので注意してください。
| 概念 | 値 |
|---|---|
| 平均収入 | 価格 に等しい(需要曲線の高さ) |
| 限界収入 | 価格より低い( 曲線の高さ) |
需要曲線は平均収入曲線でもある、と言い換えることもできます。
具体例
問題 下図によって独占企業の利潤最大化を考える。 は独占企業の市場需要曲線、 は独占企業の限界収入曲線、 は独占企業の限界費用曲線である。需要曲線の縦軸切片を A、 曲線の縦軸切片を B とし、 と の交点を E(そのときの価格 、数量 )、 と の交点を G(そのときの数量 、価格の高さ )、 における需要曲線上の点を F(その高さ )とする。この図に関する記述として、最も不適切なものを選べ。
(令和3年度 第19問)
ステップ1: 独占均衡を確認する
独占企業は「(限界収入)= (限界費用)」となるように生産量を決定します。本問では、独占企業は点 G の水準である に生産量を決定します。価格は需要曲線により決定され、生産量
ステップ2: 余剰を整理する
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 価格 | |
| 生産量 | |
ステップ3: 選択肢を判定する
ア は正しい。 社会的に望ましい生産量は、社会的総余剰が最大となる生産量 で実現します。そのときの総余剰は、需要曲線と 曲線に挟まれた三角形 です。
イ は正しい。 平均収入は「総収入 ÷ 生産量」であり、価格(
| 完全競争 | 独占 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| 消費者余剰 | 32,400 | 8,100 | |
| 生産者余剰 | 0 | 16,200 | |
消費者が失った24,300のうち、16,200は企業へ移転し、8,100が死荷重として消えました。

独占市場の利潤最大化と死荷重
試験のポイント
価格と限界費用の乖離率 = 需要の価格弾力性の逆数
これをラーナーの独占度(あるいはラーナー指数)といいます。
② 式の意味
左辺は「価格が限界費用からどれだけ離れているか」を、価格に対する割合で表したものです。
つまり左辺そのものが、価格支配力の強さを表す指標になっています。
③ 弾力性との関係
右辺は需要の価格弾力性の逆数です。したがって次の関係が成り立ちます。
| ラーナーの独占度 | 価格と限界費用の乖離率 | 価格支配力 |
|---|---|---|
| 高い | 大 | 大きい |
| 低い | 小 | 小さい |
そして、上記の流れを換言すると、以下のようにも表現できます。
独占度が高い(低い)→ 需要の価格弾力性が低い(高い)→ 取引価格が高い(低い)
④ 直感的な理解
なぜ弾力性が低いと価格支配力が強くなるのでしょうか。
需要の価格弾力性が低いということは、値上げしても買い手があまり減らない、ということでした(第2章第6節)。買い手が逃げないのなら、企業は思い切って価格を高く設定できます。
逆に弾力性が高ければ、少し値上げしただけで客が他へ流れてしまいます。この場合、独占企業といえども価格を大きく上げることはできません。
代替品の有無が弾力性を決めるので、「代わりがきかない商品ほど高く売れる」という日常の感覚と一致しています。
⑤ 完全競争の場合を確かめる
第2章第6節で学んだとおり、完全競争企業が直面する需要曲線は水平であり、需要の価格弾力性は無限大でした。
したがって 、すなわち となります。第1章で学んだ完全競争企業の利潤最大化条件が、この式から導かれることになります。
ラーナーの独占度は、完全競争から独占までを1つの式で表す道具だ、と考えるとよいでしょう。
⑥ 値の範囲
ラーナーの独占度は0から1のあいだの値をとります。
| 値 | 状態 |
|---|---|
| 0 | 完全競争() |
| 0に近い | 価格支配力が弱い |
| 1に近い | 価格支配力が非常に強い |
独占企業は需要が弾力的な領域()でしか生産しないので、独占度が1を超えることはありません。
⑦ 実務での使いどころ
この考え方は、価格戦略を考えるときに直接使えます。
差別化によって代替品との違いを打ち出すことは、弾力性を下げて価格支配力を得る戦略だといえます。企業経営理論の差別化戦略と、経済学のラーナーの独占度は、同じことを別の言葉で語っています。
具体例
問題 次の記述の正誤を判定せよ。
「同一の財を取引する2つの市場 A・B において、需要の価格弾力性が低い市場 A の価格は、市場 B の価格よりも高くなる。」
(平成27年度 第19問 d 改題)
ステップ1: ラーナーの独占度の式を確認する
ステップ2: 弾力性が低い場合を考える
市場 A は弾力性 が低いので、 は大きくなります。したがって左辺の乖離率も大きくなります。
同一の財なので限界費用 は共通です。乖離率が大きいということは、価格が限界費用から大きく離れている、つまり価格が高いということです。
ステップ3: 判定する
需要の価格弾力性が低い市場は、独占度が高く、価格は高くなります。
答え ○(正しい)
ステップ4: 数値で確かめる
限界費用を とし、2つの市場の弾力性を次のようにします。
| 弾力性 | ||
|---|---|---|
| 市場 A | 1.5 | 0.667 |
| 市場 B | 4.0 |
市場 A の価格
| 例 | 弾力性が低い側(高い価格) | 弾力性が高い側(低い価格) |
|---|---|---|
| 映画館 | 一般 | 学生・シニア |
| 航空券 | 出張客(日程を変えられない) | 観光客(日程を選べる) |
| 電力料金 | 産業用の一部 | 時間帯によって選べる契約 |
学生やシニアは価格に敏感(弾力的)なので安くし、そうでない層には高く売る。企業は市場を分けることで、それぞれの弾力性に応じた価格をつけられます。
ただし価格差別が成り立つには、市場を分離できること(安く買った人が高い市場へ転売できないこと)が必要です。学生証の提示を求めるのは、この分離のためです。
ステップ6: 完全競争の場合を確かめる
完全競争企業の需要曲線は水平で、弾力性は無限大でした。

ラーナーの独占度
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
追加1単位あたりの収入の増加分が、 と減っていきます。
ステップ3: 価格と比べる
完全競争企業なら価格が変わらないので、この「値下げによる損失」が発生しません。だから限界収入が価格に等しくなるわけです。
ステップ5: 完全競争企業と並べる
価格が80で一定の完全競争企業なら、収入は次のようになります。
| 差 |
|---|
| 50 | 175 | 150 | 25 |
| 100 | 150 | 100 | 50 |
| 150 | 125 | 50 | 75 |
| 200 | 100 | 0 | 100 |
| 250 | 75 | 125 |
| 250 | 75 | 18,750 |
この形に直してから、切片そのまま・傾き2倍のルールを適用します。この一手間を惜しむと間違えます。
誤り3: 限界費用と混同する
は限界収入、 は限界費用です。 は需要曲線から求め、 は費用関数から求めます。まったく別のものです。
この例でも で一致しています。検算に使える性質です。
ステップ9: 図での確認
図の上では、 曲線と 曲線の交点から真上に上がって需要曲線にぶつかったところが独占価格になります。
この「真上に上がる」という操作を忘れないでください。図の問題では、 の交点の高さを価格だと答えてしまう誤りが頻出します。
| (四角形 − 四角形 ) |
| 生産者余剰 | 四角形 (四角形 − 四角形 ) |
| 社会的総余剰 | 四角形 ( + 四角形 ) |
| 独占による死荷重 | ( − 四角形 ) |
ウ は誤り(これが答え)。 独占企業が利潤を最大化させるときの消費者余剰は です。
台形 としてしまうと、価格を ( の交点の高さ)だと誤って読んでいることになります。価格は需要曲線から読むので です。
エ は正しい。 独占企業の利潤を最大化する生産量は、 となる です。
答え ウ
ステップ4: なぜウが誤りなのかをもう一度
この問題の狙いは、「価格をどこから読むか」の一点に尽きます。
消費者余剰は「需要曲線より下、価格より上、取引量より左」でした。価格が なので、消費者余剰は になります。
ステップ5: 数値で確かめる
、(一定)の例で計算してみましょう。
独占市場
完全競争市場
死荷重:
三角形として直接計算すると
一致しました。
ステップ6: 誰が得をして誰が損をしたか
| 32,400 |
| 24,300 |
市場 B の価格
弾力性が低い市場 A では180、弾力性が高い市場 B では80となり、確かに A のほうが高くなりました。
ステップ5: 価格差別との関係
この性質を利用して、同じ商品を市場ごとに違う価格で売ることを価格差別(差別価格)といいます。
身近な例を挙げてみましょう。
第1章で学んだ利潤最大化条件がきちんと出てきました。ラーナーの独占度がゼロの状態が完全競争である、と整理しておくとよいでしょう。
ステップ7: 独占度から価格を逆算する
試験では、独占度や弾力性が与えられて価格を求めさせる形も考えられます。手順は次のとおりです。
1. に数値を代入する
2. 分母を払って について解く
この形で覚えておくと、代入するだけで答えが出ます。