市場均衡と厚生分析
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「GDP(国内総生産)」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る技術的に劣った国と優れた国との間の貿易は、優れた国の一人勝ちにつながり、劣っている国にとって損害をもたらすのではないかという懸念が、一般によく見られます。しかし、そのように技術的に格差のある2国の間の貿易が両国にとって利益をもたらし得るということが、リカードによって示されています。これをリカードの比較生産費説(比較優位の理論)といいます。この節では、まず「どちらの国が上手につくれるか」を測る絶対優位を確認し、そのうえで「自国のなかでどちらの財が得意か」を国どうしで比べる比較優位へ進みます。判別の手順さえ型として身につければ、計算問題は数分で処理できるようになります。
簡単にいうと
まずは素直に「どっちの国が上手につくれる?」を比べるところから。必要な人数が少ないほうが上手、というだけの話だよ。でも実は、これだけでは貿易の話は完結しないんだ。
① 分析の設定
例として、イギリスとインドの2つの国を考えます。農産物と工業製品の2つの財を生産すると仮定します。
各財を1単位生産するための必要労働量
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス | 2人 | 4人 |
| インド | 3人 | 9人 |
たとえばイギリスでは工業製品を1単位生産するのに4人必要、という読み方をします。
なお、リカードのモデルでは生産要素として労働力のみを考え、両国間で労働力の移動はないものとします。この前提は試験問題でも明示されることが多いので、確認しておいてください。
② 絶対優位の定義
1単位生産するために必要な人数をもとに、各財についてそれぞれどちらの国のほうが生産に優れているかを確認します。
農産物について
具体例
別の数値例で、絶対優位を判定してみましょう。
設定 A 国と B 国が、農業製品または工業製品を1単位生産するのに必要な生産要素量が次のとおりだとします。
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 5 | 6 |
| B 国 | 3 | 1 |
ステップ1: 農業製品について横に比べる
A 国(5)> B 国(3)
B 国のほうが少ない量で生産できるので、農業製品について B 国が絶対優位をもちます。
ステップ2: 工業製品について横に比べる
A 国(6)> B 国(1)
試験のポイント
簡単にいうと
ここが試験のヤマ場!比較優位の判別は、手順を覚えれば機械的に解けるよ。コツは「片方の財の必要労働量を両国とも1人にそろえる」こと。そろえなかったほうの財を見て、人数が少ない国が比較優位!
① 比較優位の考え方
絶対優位では、同じ財について国どうしを比べました。比較優位では、まず同じ国のなかで2つの財を比べます。
イギリス
農産物(2人)< 工業製品(4人) → 農産物のほうが優れている
インド
農産物(3人)< 工業製品(9人) → 農産物のほうが優れている
両国とも工業製品よりも農産物の生産のほうが優れています。しかし、優れているほうの財がそうでないほうの財と比較してどれだけ優れているかの程度は国によって異なります。
一方の財がもう一方の財よりどれだけ優れているかの程度を両国間で比較し、2国のうちどちらがその財の生産に特化したほうが全体として効率がよいのかを考えるのが比較優位です。
簡単にいうと
いよいよ結論!各国が比較優位をもつ財に特化して貿易すると、世界全体の生産量が増えて、両国とも得をするんだ。数字で確かめると本当に増えていて、ちょっと感動するよ。
① 比較生産費説
比較生産費説 → 各国が、自らの比較優位にある財の生産に特化し、貿易を行うことは両国にとって利益をもたらす
② なぜ両国とも得をするのか
イギリスはインドと比較し両財について絶対優位をもっています。つまり、どちらの財に関してもイギリスのほうが効率的に生産することが可能です。このような場合、一見するとイギリスはインドとは貿易をせず自国で両財とも生産したほうがよいのではないかと考えられます。
しかし、比較生産費説は、仮にどちらかの国が両財について絶対優位をもつ場合でも、各国が比較優位をもつ財の生産に特化し貿易を行うことで、両国とも利益を得ることができるということを明らかにしたのです。
イギリスが工業製品の生産に、インドが農産物の生産に特化し、互いに貿易を行うことは、貿易がない場合と比較し両国にとって望ましいということです。
③ 貿易パターンを数値で確かめる
前掲のマトリックスの労働量を各国の人口と仮定し、イギリスの人口を6人、インドの人口を12人とします。各国が比較優位をもつ財の生産に特化して貿易を行うことで、両国の農産物と工業製品の合計生産量が増加することを確認できます。
簡単にいうと
リカードは労働だけで考えたけど、現実には資本(機械や設備)もあるよね。そこを組み込んだのがヘクシャー=オリーンの定理!「資本が豊富な国は資本を多く使う財が得意」という、言われてみれば当たり前の結論だよ。
① ヘクシャー=オリーンの定理
ヘクシャー=オリーンの定理 → 資本豊富国は資本集約財に比較優位をもち、労働豊富国は労働集約財に比較優位をもつ。
② リカードのモデルとの違い
比較生産費説は生産要素を労働のみとしていましたが、ヘクシャー=オリーンの定理では生産要素は労働と資本(機械・設備)とします。
また、財についても、相対的に資本を多く必要とする資本集約財と、相対的に労働を多く必要とする労働集約財の比較優位を考えます。
| リカードの比較生産費説 |
|---|
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
イギリス(2人)< インド(3人)
インドに比べてイギリスのほうが少ない人数ですむため、生産に優れていると判断できます。これを農産物の生産についてイギリスはインドに対して絶対優位をもつといいます。
工業製品について
イギリス(4人)< インド(9人)
インドに比べてイギリスのほうが少ない人数ですむため、生産に優れていると判断できます。これを工業製品の生産についてイギリスはインドに対して絶対優位をもつといいます。
上記より、農産物も工業製品もイギリスはインドに対して絶対優位をもつことがわかります。
③ 絶対優位は「国どうしの横比較」
絶対優位を判定するときは、表を横方向に読みます。同じ財について、2つの国の必要労働量を比べるわけです。
| 読む方向 | 比べるもの | 判定できること |
|---|---|---|
| 横(同じ財で国を比べる) | イギリス2人 vs インド3人 | 絶対優位 |
| 縦(同じ国で財を比べる) | イギリスの農産物2人 vs 工業製品4人 | 次のテーマの比較優位につながる |
④ 絶対優位だけでは足りない
絶対優位の判別より、イギリスは両財においてインドよりも生産に優れていることがわかりました。では、それぞれが自国で必要な分だけ農産物と工業製品を生産すればよいのでしょうか。
実は、両国がそれぞれ別の財の生産に特化し、貿易を行うほうが双方に利益をもたらすことになります。
「片方の国がすべての財で優れているなら、その国は貿易する意味がない」というのは、直感的にはもっともらしく聞こえます。しかしこれは誤りです。なぜそうなるのかを説明するのが、次のテーマの比較優位という考え方です。
⑤ 身近な例で考えてみる
絶対優位だけでは足りない理由を、日常の例で考えてみましょう。
ある弁護士が、書類作成もタイピングも事務員より速いとします。両方の作業で絶対優位をもっている状態です。では弁護士がすべて自分でやるべきでしょうか。
そうはなりません。弁護士が弁護業務に時間を使い、タイピングは事務員に任せたほうが、全体としてはるかに多くの仕事がこなせます。弁護士にとってタイピングの1時間は「弁護業務の1時間を失う」ことを意味するからです。
この「何をあきらめることになるか」という視点が、比較優位の考え方の要点です。
ステップ3: 結論を出す
B 国は両財について A 国に対して絶対優位をもっています。逆に言えば、A 国はどちらの財についても絶対優位をもっていません。
ステップ4: イギリス・インドの例と比べる
| 両財で絶対優位をもつ国 | |
|---|---|
| イギリス・インドの例 | イギリス |
| A 国・B 国の例 | B 国 |
どちらの例でも、一方の国が両財で絶対優位をもっています。現実の世界でも、先進国が多くの財について絶対優位をもつ、という状況はよくあります。
にもかかわらず貿易が行われ、しかも双方が利益を得ている。この事実を説明するのが比較生産費説です。
ステップ5: 機会費用という見方
絶対優位から比較優位へ進む橋渡しとして、機会費用という考え方を紹介しておきます。
機会費用とは「ある選択をしたことで、あきらめることになった最善の選択肢の価値」のことです。
イギリスの例で考えましょう。イギリスが工業製品を1単位つくるには4人必要です。その4人を農産物の生産に回せば、 単位の農産物がつくれます。
つまりイギリスにとって工業製品1単位の機会費用は、農産物2単位です。
同じようにインドを見ると、工業製品1単位に9人必要で、その9人で農産物なら 単位つくれます。
インドにとって工業製品1単位の機会費用は、農産物3単位です。
| 工業製品1単位の機会費用 | |
|---|---|
| イギリス | 農産物2単位 |
| インド | 農産物3単位 |
イギリスのほうが、工業製品をつくるためにあきらめるものが少なくて済みます。この「機会費用が小さいほう」が比較優位をもつ、というのが次のテーマの中身です。
各財を1単位生産するための必要人数を、比の形で並べてみましょう。
イギリス 農産物1(2人): 工業製品2(4人) → 能力の差が小さい
インド 農産物1(3人): 工業製品3(9人) → 能力の差が大きい
イギリスは、工業製品を生産するのに農産物の生産に必要な人数の2倍ですむのに対し、インドは3倍の人数が必要となります。したがって、イギリスが工業製品を生産し、インドはもう一方の農産物を生産したほうが効率的であると考えます。
すなわち、イギリスは工業製品に比較優位をもち、インドは農産物に比較優位をもつといえます。
③ 比較優位の判別手順
試験ではこの手順をそのまま使えば解けます。
① 一方の財(ここでは農産物)の必要労働量を両国とも1人と置く。
② ①に伴い、比の考え方を利用してもう一方の財(工業製品)の必要労働量の数字を変換する。
③ 必要労働量を1に揃えていないほうの財(工業製品)に着目し、人数が少ないほうの国がその財について比較優位をもつと判断する。
変換後の表は次のようになります。
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス | 1人 | 2人 |
| インド | 1人 | 3人 |
④ 1つの国がすべての財について比較優位をもつことはない
イギリスが工業製品に比較優位をもつのであれば、農産物についてはインドが比較優位をもつこととなります。
これは、判断手順①においてもう一方の財(工業製品)の必要労働量を1人と置くことで確認できます。つまり、最初に必要労働量を1と置く財をどちらにしても同じ結果が得られるということです。
⑤ 工業製品を1に揃えた場合
① 一方の財(ここでは工業製品)の必要労働量を両国とも1人と置く。
② 比の考え方を利用して農産物の必要労働量の数字を変換する。
③ 必要労働量を1に揃えていないほうの財(農産物)に着目し、人数が少ないほうの国がその財について比較優位をもつと判断する。
変換後の表は次のようになります。
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス | 人 | 1人 |
| インド | 人 | 1人 |
どちらの財を1に揃えても、「イギリスは工業製品、インドは農産物」という結論は変わりませんでした。
⑥ 覚えておくべき性質
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 絶対優位 | 1つの国が全財でもつことがありうる |
| 比較優位 | 1つの国が全財でもつことはない |
| 判別の起点 | どちらの財を1に揃えても結論は同じ |
「A 国はどちらの財にも比較優位をもつ」という選択肢は、それだけで誤りだと判定できます。
具体例
問題 下表は、A 国と B 国が、農業製品または工業製品を1単位生産するのに必要な生産要素量を示している。ここで、簡単化のために、A 国と B 国の2国のみを想定し、それぞれの国は、農業製品ならびに工業製品のみを生産すると考える。さらに、生産要素として労働力のみを考え、両国間で労働力の移動はないものとする。
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 5 | 6 |
| B 国 | 3 | 1 |
A 国と B 国の比較優位、絶対優位に関する説明として、最も適切なものはどれか。
(平成19年度 第14問(設問1))
ステップ1: 絶対優位を判定する(横に読む)
| 財 | A 国 | B 国 | 絶対優位 |
|---|---|---|---|
| 農業製品 | 5 | 3 | B 国 |
| 工業製品 | 6 | 1 | B 国 |
B 国が両財について絶対優位をもちます。A 国はどちらの財についても絶対優位をもちません。
ステップ2: 比較優位を判定する(農業製品を1に揃える)
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 1 | 1.2 |
| B 国 | 1 | 0.33 |
ステップ3: 揃えていないほうの財で比べる
工業製品について、A 国(1.2)> B 国(0.33)です。人数が少ない B 国が工業製品に比較優位をもちます。
したがって、A 国は農業製品に比較優位をもちます。
ステップ4: 選択肢を判定する
ア は誤り A 国が比較優位をもつのは農業製品であって、工業製品ではありません。
イ が正しい A 国は農業製品に比較優位を持っており、どちらの製品に関しても絶対優位は持っていません。
ウ は誤り B 国が工業製品に比較優位をもつのは正しいのですが、B 国は両財について絶対優位を持っています。
エ は誤り B 国が比較優位をもつのは工業製品であって、農業製品ではありません。絶対優位については正しい記述です。
答え イ
ステップ5: 工業製品を1に揃えて検算する
| 工業製品1単位の機会費用(農業製品で測る) | |
|---|---|
| A 国 | 単位 |
| B 国 | 単位 |
B 国のほうが工業製品をつくるためにあきらめるものが少ない。だから B 国が工業製品に比較優位をもちます。
| 農業製品1単位の機会費用(工業製品で測る) | |
|---|---|
| A 国 | 単位 |
| B 国 | 単位 |
A 国のほうが農業製品をつくるためにあきらめるものが少ない。だから A 国が農業製品に比較優位をもちます。
どの方法で解いても同じ答えにたどり着きます。自分がいちばん速く処理できる方法を1つ決めて、それを本番で使えるようにしておきましょう。

比較生産費説(リカードの数値例)
試験のポイント
自給自足の場合
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス(総人口6人) | 2人 | 4人 |
| インド(総人口12人) | 3人 | 9人 |
それぞれの国で人員を振り分けると
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス | 1 | 1 |
| インド | 1 | 1 |
イギリスは農産物に2人、工業製品に4人で合計6人。インドは農産物に3人、工業製品に9人で合計12人。ちょうど人口を使い切っています。
総生産量 4(農産物2単位 + 工業製品2単位)
④ 特化して貿易を行った場合
各国が比較優位の製品に集中的に労働力を投じます。
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス(総人口6人) | 0人 | 6人 |
| インド(総人口12人) | 12人 | 0人 |
生産量は次のようになります。
| 農産物 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| イギリス | 0 | 1.5 |
| インド | 4 | 0 |
計算の内訳は次のとおりです。
総生産量 5.5(農産物4単位 + 工業製品1.5単位)
⑤ 比較する
| 農産物 | 工業製品 | 総生産量 | |
|---|---|---|---|
| 自給自足 | 2 | 2 | 4 |
| 特化・貿易 | 4 | 1.5 | 5.5 |
総生産量が4から5.5へ増えました。同じ人数、同じ技術のままで、生産の担当を入れ替えただけで世界全体の生産量が増えたわけです。
⑥ なぜ増えるのか
増える理由は、各国が「自分にとって割に合う財」に集中したからです。
インドにとって工業製品1単位をつくることは、農産物3単位をあきらめることを意味していました。イギリスにとっては農産物2単位をあきらめるだけで済みます。あきらめるものが少ない国に工業製品を任せれば、世界全体で失うものが減る、ということです。
⑦ 貿易の利益の分配
増えた1.5単位ぶんの生産は、貿易を通じて両国に分配されます。どのような比率で分配されるかは、両国の交換比率(交易条件)によって決まります。
交易条件が両国の機会費用のあいだにあれば、両国とも自給自足より豊かになります。この例でいえば、工業製品1単位が農産物2単位から3単位のあいだの比率で交換されれば、両国とも得をします。
⑧ このモデルの限界
リカードのモデルには、いくつもの単純化があります。
| 前提 | 現実との違い |
|---|---|
| 生産要素は労働力のみ | 実際には資本や土地もある |
| 労働力は国境を越えて移動しない | 実際には移民がある |
| 完全特化する | 実際には部分的な特化にとどまる |
| 輸送費を考えない | 実際には輸送費がかかる |
| 調整の痛みを考えない | 実際には産業転換で失業が生じる |
とくに最後の点は重要です。比較生産費説は「国全体で見れば得をする」と言っているのであって、「国内の誰も損をしない」とは言っていません。比較劣位の産業で働く人は職を失うかもしれません。
自由貿易をめぐる現実の議論が難しいのは、利益が薄く広く分散するのに対し、損失が特定の産業に集中するためです。理論の結論と、それを政策にするときの難しさは、分けて考えておくとよいでしょう。
具体例
前の問題の続きとして、貿易の利益を数値で確かめてみましょう。
設定 A 国と B 国の必要生産要素量は次のとおりです。
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 5 | 6 |
| B 国 | 3 | 1 |
A 国の生産要素量を22、B 国を12とします。比較優位は A 国が農業製品、B 国が工業製品でした。
ステップ1: 自給自足の場合の生産量を求める
A 国 農業製品に10、工業製品に12を投じるとすると
B 国 農業製品に6、工業製品に6を投じるとすると
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 2 | 2 |
| B 国 | 2 | 6 |
| 合計 | 4 | 8 |
総生産量は12単位です。
ステップ2: 完全特化した場合の生産量を求める
A 国はすべて農業製品に、B 国はすべて工業製品に特化します。
| 農業製品 | 工業製品 | |
|---|---|---|
| A 国 | 4.4 | 0 |
| B 国 | 0 | 12 |
| 合計 | 4.4 | 12 |
総生産量は16.4単位です。
ステップ3: 比較する
| 農業製品 | 工業製品 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 自給自足 | 4 | 8 | 12 |
| 完全特化 | 4.4 | 12 | 16.4 |
農業製品も工業製品も、どちらも増えています。総生産量は12から16.4へ、約37%増加しました。
ステップ4: 貿易後の消費を確かめる
増えた生産を両国で分け合います。たとえば農業製品2.2単位と工業製品6単位ずつに分けるとしましょう。
| 自給自足時 | 貿易後 | 変化 | |
|---|---|---|---|
| A 国(農業2・工業2) | — | 農業2.2・工業6 | 両方とも増加 |
| B 国(農業2・工業6) | — | 農業2.2・工業6 | 農業が増加 |
A 国は農業製品も工業製品も自給自足時より多く消費できています。B 国も農業製品が増え、工業製品は変わりません。両国とも自給自足時より悪くなっていません。
分け方を調整すれば、両国ともはっきり豊かになる配分も可能です。これが貿易の利益です。
ステップ5: 交易条件を確かめる
両国の機会費用を並べておきましょう。
| 工業製品1単位の機会費用(農業製品) | |
|---|---|
| A 国 | 単位 |
| B 国 | 単位 |
交易条件(工業製品1単位と交換する農業製品の量)が0.33から1.2のあいだであれば、両国とも自給自足より得をします。
たとえば交易条件を0.8とすれば、両国とも利益を得られます。
ステップ6: 特化しすぎのリスクにも触れておく
完全特化すると、A 国は工業製品をまったくつくらなくなります。輸入が途絶えれば、その財が手に入らなくなるというリスクを負うことになります。
食料安全保障やエネルギー安全保障の議論は、この点をめぐるものです。効率性だけでは決められない要素がある、という点も押さえておくと、中小企業政策や経済政策の議論を読むときに役立ちます。
試験のポイント
| 生産要素 | 労働のみ | 労働と資本 |
| 比較優位の源泉 | 技術(労働生産性)の差 | 生産要素の賦存量の差 |
| 財の分類 | 財A・財B | 資本集約財・労働集約財 |
③ なぜそうなるのか
労働よりも資本の方が相対的に多く存在する資本豊富国は、利子率(資本のレンタル価格)が賃金率より相対的に低いため、資本集約財に比較優位をもつこととなります。
一方、資本よりも労働のほうが相対的に多く存在する労働豊富国は、賃金率(労働のレンタル価格)が利子率(資本のレンタル価格)より相対的に低いため、労働集約財に比較優位をもつこととなります。
理屈は単純で、豊富にあるものは安く、乏しいものは高い、というだけのことです。安い生産要素を多く使う財のほうが、その国では相対的に安くつくれます。
④ 要素価格均等化命題(ヘクシャー=オリーンの第二定理)
資本集約財に比較優位をもつ資本豊富国は、資本集約財の生産に特化し、輸出を行いますが、それにより国内の資本需要は増加し、当初低かった利子率は上昇していきます。
一方、労働集約財に比較優位をもつ労働豊富国は、労働集約財の生産に特化し、輸出を行いますが、それにより国内の労働需要は増加し、当初低かった賃金率は上昇していきます。
このように、貿易により生産要素価格比()は均等化していくことを要素価格均等化命題(ヘクシャー=オリーンの第二定理)といいます。
⑤ 何が意味されているのか
この命題が言っているのは、財が国境を越えて動けば、生産要素そのものが動かなくても、生産要素の価格が国際的にそろっていく、ということです。
労働者が国境を越えて移動しなくても、労働集約財の輸出を通じて、労働豊富国の賃金は上がっていく。貿易が間接的に労働の移動と同じ働きをする、という見方ができます。
⑥ 用語の整理
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 資本豊富国 | 労働より資本が相対的に多く存在する国。利子率が相対的に低い |
| 労働豊富国 | 資本より労働が相対的に多く存在する国。賃金率が相対的に低い |
| 資本集約財 | 相対的に資本を多く必要とする財 |
| 労働集約財 | 相対的に労働を多く必要とする財 |
| 第一定理 | 資本豊富国は資本集約財に、労働豊富国は労働集約財に比較優位 |
| 第二定理 | 貿易により生産要素価格比は均等化していく |
試験では、定理の名前と内容の組合せを問う形で出題されます。「資本豊富国は労働集約財に比較優位」のように入れ替えた選択肢が誤りになります。
具体例
ヘクシャー=オリーンの定理を、具体的な2国で考えてみましょう。
設定
| 資本 | 労働 | 特徴 | |
|---|---|---|---|
| X 国 | 1,000単位 | 100人 | 資本豊富国 |
| Y 国 | 200単位 | 500人 | 労働豊富国 |
ステップ1: 生産要素の相対的な豊富さを確認する
X 国のほうが労働1人あたりの資本が圧倒的に多く、資本豊富国だとわかります。
ステップ2: 要素価格を推測する
豊富なものは安く、乏しいものは高くなります。
| 利子率(資本の価格) | 賃金率(労働の価格) | |
|---|---|---|
| X 国 | 相対的に低い | 相対的に高い |
| Y 国 | 相対的に高い | 相対的に低い |
ステップ3: 比較優位を判定する
たとえば資本集約財を自動車、労働集約財を衣料品とすれば、X 国が自動車を輸出し、Y 国が衣料品を輸出する、という貿易パターンになります。
ステップ4: 貿易後に要素価格がどう動くかを追う
X 国(資本集約財に特化)
Y 国(労働集約財に特化)
ステップ5: 生産要素価格比の動きを確かめる
生産要素価格比を
| 貿易前 | 貿易後の動き | |
|---|---|---|
| X 国(資本豊富国) | 高い(賃金が高く利子率が低い) | 賃金↓・利子率↑ → 比は下がる |
| Y 国(労働豊富国) | 低い(賃金が低く利子率が高い) | 賃金↑・利子率↓ → 比は上がる |
高いほうは下がり、低いほうは上がる。両国の生産要素価格比が近づいていきます。これが要素価格均等化です。
ステップ6: 現実との対応
新興国が輸出を伸ばすにつれて賃金が上昇していく、という現象は、この命題で説明できます。中国やベトナムの賃金上昇は、労働集約財の輸出拡大に伴って労働需要が増えた結果だ、という読み方です。
一方、先進国では労働集約財の産業が縮小し、その分野の賃金が下がる圧力を受けます。自由貿易をめぐる国内対立の経済学的な背景が、ここにあります。
ステップ7: リカードとの使い分け
| 問われ方 | 使う理論 |
|---|---|
| 必要労働量の表から比較優位を判定 | リカードの比較生産費説 |
| 資本・労働の賦存量から貿易パターンを判定 | ヘクシャー=オリーンの定理 |
| 貿易による賃金率・利子率の変化 | 要素価格均等化命題 |
問題文に「資本」「労働」「賦存量」という言葉が出てきたら、ヘクシャー=オリーンの出番だと判断してください。

ヘクシャー=オリーンの定理
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
変換後の表は次のようになります。
農業製品について、A 国(0.83)< B 国(3)なので、A 国が農業製品に比較優位をもちます。
先ほどと同じ結論が得られました。どちらの財を1に揃えても結論は変わらない、という性質が確認できます。
ステップ6: 機会費用でも確かめる