生産物市場(財市場)の分析
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プレミアムで見る第7章の最後に、IS曲線を描きます。第8章で学ぶIS-LM分析の準備であり、ここまでに積み上げてきた45度線分析と投資関数が1本の線に結晶する場面でもあります。
IS曲線とは、生産物市場が均衡する国民所得と利子率の組合せを描いた曲線です。45度線分析では利子率が登場しませんでしたが、前節で投資が利子率で決まることを学んだので、利子率を変えるたびに均衡国民所得も変わることになります。その対応関係を、縦軸に利子率、横軸に国民所得をとった図に描き写したものがIS曲線です。
形状、上側・下側の領域の意味、傾きを決めるもの、シフトの向き。この4点が試験で問われる全部です(令和5年第8問、令和7年第10問など)。第8章のLM曲線もまったく同じ4点セットで整理されるので、ここで型を身につけておくと、あとが楽になります。
簡単にいうと
金利を下げる→投資が増える→総需要が上にシフト→均衡国民所得が増える。この対応を点で拾って線でつなぐと、IS曲線のできあがり!
IS曲線は、生産物市場を対象とした、縦軸が利子率 、横軸が国民所得 のグラフです
(利子率と国民所得の関係を表します)。
需要項目である投資 の水準は利子率に依存することが分かったので、
今度は利子率の変化によって国民所得がどのように変化するのかを確認することで、
IS曲線を導出できます。
IS曲線は、生産物市場の総需要と総供給の均衡を示す45度線分析のグラフから導出します。
① 導出の手順
上下に2枚のグラフを並べて考えます。
具体例
実際の数字でIS曲線を描いてみましょう。
設定

45度線図からIS曲線を導く
試験のポイント
簡単にいうと
IS曲線の上は売れ残り、下は品不足。「上が供給過剰」と1回覚えれば、あとは反対と考えればいいよ!
① IS曲線の定義と形状(まとめ)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 生産物市場が均衡する(総需要と総供給が一致する)国民所得 と利子率 |
簡単にいうと
限界消費性向が大きいほど、投資の利子率弾力性が大きいほど、IS曲線は緩やかになるの。どっちも「反応が大きい」ときは緩やか、と覚えよう!
IS曲線の傾きを決めるのは、限界消費性向と投資の利子率弾力性の2つです。
① 限界消費性向による違い
| 限界消費性向 | IS曲線 |
|---|---|
| 大きい | 緩やか |
簡単にいうと
政府がお金を使うか減税すれば右へ、引き締めれば左へ。「景気を良くする政策は右シフト」と覚えれば迷わないよ!
IS曲線が左右に平行移動することをシフトといいます。
傾きが変わるのとは別の話なので、区別してください。
① 基本の対応
| 政策 | 内容 | IS曲線 |
|---|---|---|
| 拡張的財政政策 | 政府支出の増加( |
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横軸はどちらも国民所得 なので、縦にそろえて置きます。
ステップ1: 最初の利子率 での均衡を求める
利子率が のとき、投資は に決まります。
総需要曲線は で、45度線との交点から均衡国民所得 が求まります。
下のグラフに、 という点を打ちます。
ステップ2: 利子率を上げてみる()
投資は利子率の減少関数なので、投資が減ります。
一国全体の財・サービスへの需要を表す総需要は で表されました。
投資は需要項目であるため、投資が減少すれば総需要も減少するため、グラフは下方にシフトします。
と下がり、45度線との交点は左下に移動して、
均衡国民所得は ()になります。
下のグラフに という点を打ちます。
ステップ3: 利子率を下げてみる()
投資が増えます。
投資が増加すれば総需要は増加し、総需要を示すグラフは上方にシフトします。
と上がり、均衡国民所得は ()になります。
下のグラフに という点を打ちます。
ステップ4: 点を結ぶ
、 、 の3点を結ぶと、右下がりの直線が現れます。
これがIS曲線です。
② なぜ右下がりなのか
導出の過程をひとつながりの流れにすると、こうなります。
利子率が下がると国民所得が増えるのですから、
縦軸に利子率、横軸に国民所得をとれば、当然右下がりになります。
③ IS曲線上の点はすべて均衡点
IS曲線の導出にあたっては、45度線分析のグラフから得られる均衡点をプロットしているため、
IS曲線上の点はどこをとっても生産物市場が均衡する点であるといえます。
逆をいえば、IS曲線から外れた部分は需要と供給が一致していないということです。
この性質が、次のテーマで扱う「上側・下側の領域」の話につながります。
④ 総供給は動かないことに注意
導出の途中で動いたのは総需要曲線だけです。
総供給は で45度線のまま、まったく動いていません。
45度線分析は「需要が国民所得を決める」というケインズの発想でできているので、
利子率が動いても供給側は変わらない、というのが前提になっています。
ステップ1: 利子率ごとに投資を計算する
| 利子率 | 投資 |
|---|---|
| 0.10(10%) | 100 |
| 0.08(8%) | 120 |
| 0.05(5%) | 150 |
| 0.02(2%) | 180 |
ステップ2: 利子率ごとに均衡国民所得を求める
均衡国民所得の公式は、
( なので、括弧のなかは です。)
| 利子率 | 投資 | 均衡国民所得 | |
|---|---|---|---|
| 0.10 | 100 | 160 | 800 |
| 0.08 | 120 | 180 | 900 |
| 0.05 | 150 | 210 | 1,050 |
| 0.02 | 180 | 240 | 1,200 |
ステップ3: 点を打って結ぶ
、 、 、 を
縦軸を利子率、横軸を国民所得としてプロットすると、右下がりの直線になります。
IS曲線の式を求めてみる
均衡国民所得の式に投資関数を代入します。
これがIS曲線の式です。 について解いておくと、
の係数がマイナスなので、たしかに右下がりです。
検算: を代入すると、
表の1行目と一致しました。
式から乗数と弾力性が見える
の の係数「5,000」に注目してください。
これは、乗数5と投資の利子率への反応の大きさ1,000を掛けたものです。
つまり、IS曲線の傾きの緩やかさは、乗数の大きさと投資の利子率弾力性の大きさで決まる、
ということが式から読み取れます。
この関係が、次のテーマ(IS曲線の傾き)の中身です。
| 形状 | 右下がり |
右下がりになるのは、次のプロセスによります。
② IS曲線から外れた点は何を意味するか
IS曲線上の点は生産物市場が均衡している点でした。
では、曲線から外れた点はどうなっているのでしょうか。
| 領域 | 生産物市場の状態 |
|---|---|
| IS曲線の上側の領域 | 超過供給 |
| IS曲線の下側の領域 | 超過需要 |
③ なぜそうなるのか
IS曲線の上側にある点を考えます。
その点は、同じ国民所得の水準に対して、IS曲線上の点より利子率が高いところにあります。
利子率が高いということは、投資が少ないということです。
投資が少なければ総需要が小さくなります。
一方、国民所得は同じですから、総供給は変わりません。
したがって、総供給 > 総需要、つまり超過供給です。
下側はその逆で、利子率が低い分だけ投資が多く、
総需要が総供給を上回るので超過需要になります。
④ 別の見方: 横に見る
同じことを、横方向から見ることもできます。
IS曲線の上側にある点は、同じ利子率に対して、IS曲線上の点より国民所得が大きい
ところにある、とも読めます。
国民所得が大きすぎれば、45度線分析で見たとおり総供給が総需要を上回ります。
やはり超過供給です。
どちらの見方をしても同じ結論になるので、
自分にとって覚えやすいほうで理解しておけば十分です。
⑤ 覚え方
「上が超過供給、下が超過需要」
ミクロ経済学の需要供給図では、価格が高いところ(上)で超過供給でした。
IS曲線でも「上が供給過剰」で向きが同じなので、
そのイメージで覚えておくと取り違えにくくなります。
⑥ 調整の向き
超過供給の領域にいれば、売れ残りが生じるので企業は減産し、国民所得は減ります。
超過需要の領域にいれば、在庫が減るので企業は増産し、国民所得は増えます。
どちらの場合も、IS曲線に向かって左右に動いていくことになります。
第8章のIS-LM分析では、この動きとLM曲線に向かう動きを組み合わせて、
経済がどこに落ち着くかを考えます。
具体例
前のテーマで求めたIS曲線 を使って、
上側・下側の点を具体的に検証してみましょう。
IS曲線上の点
のとき、 。
点 はIS曲線上にあります。
ケース1: IS曲線の上側の点
国民所得は同じ1,050で、利子率だけ10%に上がっています。
投資を計算すると、
総需要は、
総供給は、
なので、超過供給が50あります。
たしかにIS曲線の上側は超過供給です。
ケース2: IS曲線の下側の点
利子率が2%に下がっています。
なので、超過需要が30あります。
IS曲線の下側は超過需要です。
横から見ても同じ
同じ利子率 で、国民所得だけが大きい点 を考えます。
この点はIS曲線 より右、つまり上側の領域にあります。
で、やはり超過供給です。
令和7年第10問のような出題への備え
IS曲線とLM曲線が描かれた図で、
「点Aでは生産物市場と貨幣市場はそれぞれどのような状態か」
と問われるタイプの問題があります。
このとき見るべきは、
1. その点がIS曲線の上か下か → 上なら生産物市場は超過供給、下なら超過需要
2. その点がLM曲線の上か下か → 貨幣市場の状態(第8章で扱います)
2本の曲線で平面が4つの領域に区切られるので、
それぞれの領域で生産物市場と貨幣市場の状態を答えられるようにしておきましょう。

IS曲線の導出とシフト

IS曲線の上側・下側の領域
試験のポイント
| 小さい | 急になる |
理由は乗数にあります。
限界消費性向 が大きいほど、乗数 が大きくなります。
乗数が大きいということは、投資がわずかに増えただけでも国民所得が大きく増えるということです。
利子率が少し下がるだけで国民所得が大きく動くのですから、
横方向への動きが大きい、つまりIS曲線は緩やかになります。
② 投資の利子率弾力性による違い
| 投資の利子率弾力性 | IS曲線 |
|---|---|
| 大きい | 緩やかになる |
| 小さい | 急になる |
こちらも理屈は同じです。
投資の利子率弾力性が大きいということは、
利子率がわずかに下がっただけで投資が大きく増えるということです。
投資が大きく増えれば、乗数を通じて国民所得も大きく増えます。
やはりIS曲線は緩やかになります。
③ 2つをまとめて覚える
どちらも「反応が大きいほど緩やか」です。
逆に、反応が鈍い経済ではIS曲線は急(垂直に近く)になります。
④ 式で確かめる
前のテーマで、消費関数 、投資関数 ()として
IS曲線を導くと、
について解くと、
IS曲線の傾き(の絶対値)は です。
言葉で覚えた内容と、式から出る結論が一致しています。
⑤ なぜ傾きが問われるのか
IS曲線の傾きは、第8章のIS-LM分析で政策の効き方を決めます。
| IS曲線 | 財政政策 | 金融政策 |
|---|---|---|
| 急(垂直に近い) | よく効く | 効きにくい |
| 緩やか(水平に近い) | 効きにくい | よく効く |
IS曲線が垂直に近いということは、投資が利子率にほとんど反応しないということです。
財政出動で利子率が上がってもクラウディング・アウトが起きにくいので、財政政策がよく効きます。
逆に、金融緩和で利子率を下げても投資が増えないので、金融政策は効きません。
いまは「傾きが何で決まるか」だけ押さえておけば十分です。
第8章に入ったら、この表を思い出してください。
具体例
傾きの違いを、数値で比べてみましょう。
共通の設定: 消費関数 、 、
ケースA: 、
乗数は 。
について解くと、 。傾きの絶対値は 0.0002。
ケースB: 、(限界消費性向だけ小さい)
乗数は 。
。傾きの絶対値は 0.0005。
ケースAより急になりました。限界消費性向が小さいと急になる、という結論どおりです。
ケースC: 、(投資の利子率弾力性だけ大きい)
。傾きの絶対値は 0.00005。
ケースAより緩やかになりました。投資の利子率弾力性が大きいと緩やかになる、
という結論どおりです。
まとめ
| ケース | 投資の反応 | 傾きの絶対値 | 形 | |
|---|---|---|---|---|
| A(基準) | 0.8 | 1,000 | 0.0002 | ― |
| B | 0.5 | 1,000 | 0.0005 |
同じ利下げの効果を比べる
利子率を5%から3%に下げたとき、国民所得はどれだけ増えるでしょうか。
試験のポイント
| 右シフト |
| 緊縮的財政政策 | 政府支出の減少()、増税() | 左シフト |
② なぜそうなるのか
政府支出が増えると、45度線図で総需要曲線が上方にシフトします。
すると、同じ利子率のもとで均衡国民所得が増えることになります。
IS曲線は「利子率と均衡国民所得の組合せ」を描いた線ですから、
同じ利子率に対する国民所得が大きくなるということは、
線全体が右にずれるということです。
減税の場合も同じです。
可処分所得 が増えて消費が増えるので、総需要曲線が上方にシフトし、
IS曲線は右にずれます。
緊縮的財政政策はその逆で、総需要曲線が下方にシフトするので、IS曲線は左にずれます。
③ 財政政策以外でもシフトする
IS曲線をシフトさせるのは財政政策だけではありません。
利子率以外の要因で総需要が変われば、すべてIS曲線をシフトさせます。
| 変化 | IS曲線 |
|---|---|
| 政府支出の増加 | 右シフト |
| 減税 | 右シフト |
| 独立消費 の増加(消費者マインドの改善など) | 右シフト |
| 独立投資の増加(企業の期待の改善など) | 右シフト |
| 輸出の増加 | 右シフト |
| 増税 | 左シフト |
| 輸入の増加 | 左シフト |
まとめると、総需要を増やすものは右シフト、減らすものは左シフトです。
④ シフトの幅
シフトの幅は、乗数を掛けた大きさになります。
同額なら政府支出のほうが大きく右シフトするわけです。
第4節で学んだ乗数の大小関係が、そのままシフト幅の大小になります。
⑤ 傾きの変化とシフトを取り違えない
ここが混乱しやすいところです。整理しておきます。
| 変化する要因 | 起きること |
|---|---|
| 政府支出 、租税 、独立消費 | シフト(平行移動) |
| 限界消費性向 、投資の利子率弾力性 | 傾きの変化 |
は乗数の中にも入っているので、
が変わればシフトも起きるように見えますが、
IS曲線の式 を見ると、
は傾きの部分にも入っているので、平行移動ではなく線の傾きが変わります。
⑥ IS曲線とLM曲線の4点セット
第8章に進む前に、IS曲線について押さえるべき4点をまとめておきます。
| 項目 | IS曲線 |
|---|---|
| 定義 | 生産物市場が均衡する と の組合せ |
| 形状 | 右下がり |
| 上側/下側 | 上側は超過供給、下側は超過需要 |
| 傾き | が大きいほど、投資の利子率弾力性が大きいほど緩やか |
| シフト | 拡張的財政政策で右、緊縮的財政政策で左 |
第8章のLM曲線も、まったく同じ5項目で整理されます。
この型を覚えてしまえば、LM曲線は「同じ枠に別の中身を入れるだけ」になります。
具体例
シフトの幅を数値で確かめましょう。
もとのIS曲線
前のテーマと同じ設定( 、 、 、 、)で、
ケース1: 政府支出を20増やす()
の係数は のままなので、傾きは変わらず、右に平行移動しました。
シフト幅は 。
公式で確かめると、 。一致します。
ケース2: 20の減税をする()
シフト幅は 。
公式では 。一致します。
同じ20でも、政府支出なら100、減税なら80。
やはり政府支出のほうが大きく右シフトさせます。
ケース3: 限界消費性向が0.8から0.5に下がる
の係数が から に変わっています。
これは平行移動ではなく、傾きが変わったということです。
のときの は1,300から550へ大きく減りましたが、
これは「左にシフトした」のではなく、線が急になった結果です。
シフトと傾きの変化を図で見分ける
試験の図で2本のIS曲線が描かれていたら、次を確認してください。
令和5年第8問への備え
この年の問題では、IS曲線について次のような選択肢が並びました。
シフトの向きは「景気を良くする政策なら右」と覚えれば、まず間違えません。
政府支出の増加も減税も景気刺激策なので右、増税は引き締めなので左です。

IS曲線のシフト
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
| C | 0.8 | 4,000 | 0.00005 | 緩やか |
IS曲線が緩やかなケースCでは、同じ利下げの効果が基準のケースAの4倍(もっとも急なケースBと比べれば10倍)になっています。
IS曲線が緩やかな経済ほど、金融政策が効くということが数字で確認できました。
選択肢問題での問われ方
令和5年第8問では、IS曲線の傾きとシフトが合わせて問われました。
「大きい→緩やか、小さい→急」という対応は、2つの要因で共通です。
どちらか一方を覚えておけば、もう一方も同じと考えて構いません。