不完全競争
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プレミアムで見る寡占市場とは、価格支配力を有した少数の企業が存在するような市場をいいます。現実にある市場は、1社による独占ではなく、一部の企業がシェアの大多数を占めているようなことが多いものです。このような状況では、ライバル企業の動向をうかがいながら自社の戦略を決める、という傾向があります。つまり寡占市場の分析では、独占市場にはなかった「相手の出方を読む」という要素が加わります。そのための道具がゲーム理論です。この節では、まず市場集中度の測り方と代表的な寡占モデルを押さえ、そのうえでゲーム理論の基本(支配戦略、ナッシュ均衡、囚人のジレンマ)を学びます。最後に、寡占市場で価格が動きにくい理由を説明する屈折需要曲線を扱います。
簡単にいうと
寡占市場は「少数の企業が価格支配力をもつ市場」。どれくらい集中しているかを測る指標がハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)だよ。シェアを2乗して足すだけなので、計算問題が出たら確実に取りたいところ!
① 寡占市場とは
寡占市場とは、価格支配力を有した少数の企業が存在するような市場をいいます。ここでは寡占モデルのうち2社モデル(複占モデル)を扱います。
② 市場集中度とハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)
市場における供給企業の集中度(市場集中度)を測る指標としては、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)が代表的です。
ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)は、市場に参入しているすべての企業のマーケットシェアの自乗の和として定義されます。この指数が大きいほど(最小で0、最大で10,000)、市場集中度が高いと判断されます。
具体例
いくつかの市場について、HHI を計算して集中度を比べてみましょう。
ケース1: 大手1社が突出している市場
| 企業 | シェア |
|---|---|
| A社 | 60% |
| B社 | 20% |
| C社 | 10% |
| D社 | 10% |

ハーフィンダール・ハーシュマン指数
試験のポイント
簡単にいうと
寡占モデルは3つ!クールノー・ベルトラン・シュタッケルベルク。見分け方は「戦略変数が数量か価格か」と「同時に決めるか順番に決めるか」の2つだよ。名前と中身の組合せを問う問題が出るから、表で整理しておこう!
① 3つの代表的なモデル
代表的な寡占モデルには、クールノーモデル、ベルトランモデル、シュタッケルベルクモデルの3つがあります。
② クールノーモデル
戦略変数は数量です。相手がどれだけつくるかを見て、自社の生産量を決めます。
各企業の「相手の生産量に対する自社の最適生産量」を表したものを反応関数(反応曲線)といい、2本の反応関数の交点がクールノー均衡になります。
③ ベルトランモデル
簡単にいうと
相手の出方を読んで自分の手を決める。これを分析するのがゲーム理論だよ!手順は決まっていて、「相手がこう来たら自分はこう」を場合分けするだけ。最適反応に○を付けていって、両方に○が付いたらナッシュ均衡!
① ゲーム理論とは
寡占市場に参加する企業のように、相手の行動を考慮した上で自らの意思決定を行うことがあります。このような戦略的行動は、企業のみならずさまざまなところに存在します。
ゲーム理論とは、互いに影響を与え合うプレイヤーによる意思決定に関する理論です。
ゲーム的状況は、次の2つに大別できます。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 非協力ゲーム理論 | プレイヤーが話し合いをせず、それぞれが独立して意思決定を行う |
簡単にいうと
2人とも自分のことだけ考えた結果、2人とも損をする。それが囚人のジレンマ!でも同じゲームを何度も繰り返すと、協力が生まれることがあるんだ。カルテルが生まれる理由も、ここで説明がつくよ。
① 囚人のジレンマ
先の例(A社・B社の価格設定)において、仮にA社とB社が協調的行動をとって(話し合いを行い)、互いが「高価格」を選択すれば利得合計が最も大きくなり、(10, 10) の利得を得ることができます。
しかし、相手が裏切った場合を考えると、裏切って「低価格」を選択したプレイヤーはより高い12の利得を得られるのに対し、裏切られたプレイヤー(「高価格」を選択)は4の利得しか得られないことを恐れ、非協調的な行動をとることとなってしまい、(6, 6) の利得にとどまることとなります。
各プレイヤーが非協調的に戦略決定を行った結果、両者にとって高い利潤を得ることが可能であるのに、非協調的な行動の結果、より低い利潤しか得られなくなってしまうというようなパレート非効率的な状況を囚人のジレンマといいます。
② パレート効率的とパレート非効率
他の誰かの効用を悪化させない限り、どの人の効用も改善することができない状態をパレート効率的(パレート最適)といいます。裏を返せば、他者の効用を悪化させることなく、効用を改善できる状態はパレート非効率な状態であるといえます。
第3章第4節で学んだ内容がそのまま使われています。
簡単にいうと
寡占市場では、なぜか価格があまり動かない。それはなぜ?に答えるのが屈折需要曲線!「値下げには追随するけど、値上げには追随しない」という前提から、需要曲線が折れ曲がるんだ。限界収入曲線が途中で切れる、というのがいちばんのポイント!
① 何を説明するモデルか
屈折需要曲線は寡占市場における価格の硬直性を説明するものです。
寡占市場では、原材料費が多少変動しても価格が動かない、という現象がしばしば観察されます。なぜそうなるのかを説明するモデルです。
② 前提
屈折需要曲線を考える上での前提
理由は素直に考えられます。
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③ 計算例
独占市場の場合
1社が100%のシェアをもつので、最大値の10,000になります。
寡占市場(シェア: 全4社のうち、1社70%、他の3社各10%)
寡占市場(シェア: 4社とも25%)
④ なぜ自乗するのか
同じ4社の市場でも、1社が70%を占める場合(5,200)と4社が均等な場合(2,500)とで、値が大きく変わりました。
シェアを自乗することで、大きなシェアをもつ企業の影響が強調されるためです。単純にシェアを足すと、どの市場でも100%になってしまい、集中度の違いを表せません。
自乗という操作が「一部の企業への偏り」を拾い上げている、と理解しておくとよいでしょう。
⑤ 企業数が多いほど値は小さくなる
参考として、 社が均等なシェアをもつ場合を計算してみましょう。各社のシェアは % なので
| 企業数 | HHI |
|---|---|
| 1社 | 10,000 |
| 2社 | 5,000 |
| 4社 | 2,500 |
| 10社 | 1,000 |
| 100社 | 100 |
企業数が増えるほど値は小さくなり、完全競争に近づくとゼロに近づきます。
⑥ 完全競争市場、独占市場との違い
| 市場 | 企業の立場 | ライバルの扱い |
|---|---|---|
| 完全競争 | プライステイカー | ライバルは考慮せず |
| 独占 | 自社だけがプライスメイカー | ライバルは存在しない |
| 寡占 | 少数のプライスメイカー | 他の企業がどう行動するかで、自社の利潤は変わる |
例 同じような財を供給している他の企業が大きく価格を低下させたとすると、相手に需要を奪われるというようなことが起こります。
お互いの行動が、お互いの利潤に影響を与え合う → 企業は、その相互依存関係を考慮しながら行動を決定する
この相互依存関係こそが、寡占市場の分析を難しくし、同時におもしろくしている要素です。完全競争にも独占にもなかった要素であり、だからこそゲーム理論という専用の道具が必要になります。
⑦ 実務での使われ方
HHI は理論上の指標にとどまらず、実際の競争政策で使われています。
日本では公正取引委員会が企業結合(合併)を審査する際に、HHI を判断材料の1つとしています。合併後の HHI が一定の水準を下回る場合には、競争を実質的に制限することにならないと判断される、という運用です。
診断士としてM&Aの助言に関わる場面では、こうした審査の考え方を知っておくと役に立ちます。
ケース2: 上位2社が拮抗している市場
| 企業 | シェア |
|---|---|
| A社 | 40% |
| B社 | 40% |
| C社 | 10% |
| D社 | 10% |
ケース3: 多数の企業が分散している市場
| 企業 | シェア |
|---|---|
| A社 | 15% |
| B社 | 15% |
| C社 | 15% |
| D社 | 15% |
| E社〜H社 | 各10% |
ステップ: 3つを比べる
| HHI | 集中度 | |
|---|---|---|
| ケース1 | 4,200 | 高い |
| ケース2 | 3,400 | やや高い |
| ケース3 | 1,300 | 低い |
ケース1とケース2は同じ4社の市場ですが、シェアの偏りが大きいケース1のほうが値が大きくなっています。
ステップ: 合併した場合の変化を計算する
ケース3の市場で、C社とD社が合併して30%のシェアになったとしましょう。
1,300から1,750へ、450上昇しました。合併によって市場集中度が高まったことになります。
ステップ: 合併による上昇分の求め方
シェア % の企業とシェア % の企業が合併すると、HHI は次のように変化します。
先ほどの例なら です。計算結果と一致しました。
この公式を知っていれば、合併前後の HHI をそれぞれ計算しなくても、上昇分だけを求められます。
ステップ: 相互依存関係の例で考える
HHI が高い市場では、各社の行動が互いに影響し合います。
ケース1の市場で、B社(シェア20%)が大幅な値下げをしたとしましょう。B社の売上は増えますが、その増加分はA社・C社・D社から奪ったものです。当然、他社も対抗して値下げするでしょう。
一方、ケース3のような分散した市場では、1社が値下げしても他社への影響は小さく、対抗行動も起きにくくなります。
市場集中度が高いほど、企業間の相互依存関係が強くなる。これが寡占市場の分析にゲーム理論が必要になる理由です。
戦略変数は価格です。相手がいくらで売るかを見て、自社の価格を決めます。
④ シュタッケルベルクモデル
クールノーモデルが両社同時に決めるのに対し、シュタッケルベルクモデルでは順番があります。先に動くほう(先導者、リーダー)が、後から動くほう(追随者、フォロワー)の反応を見越して決める、という構造です。
⑤ 3つを表で整理する
| モデル | 戦略変数 | 財の性質 | 意思決定の順序 | 結果の特徴 |
|---|---|---|---|---|
| クールノー | 数量 | 同質財 | 同時 | 反応関数の交点が均衡 |
| ベルトラン | 価格 | 同質でない財(差別化財) | 同時 | 価格競争 |
| シュタッケルベルク | 数量 | — | 逐次(先導者→追随者) | 先導者が有利 |
覚え方としては、次のように整理するとよいでしょう。
戦略変数が数量なのか価格なのかを最初に判別し、次に同時か逐次かを見る、という2段階です。
⑥ 先導者が有利になる理由
シュタッケルベルクモデルで先導者が有利になるのはなぜでしょうか。
先導者は、自分がある生産量を選んだときに追随者がどう反応するかを知っています。そこで、追随者の反応を見越したうえで、自社にとって最も有利な生産量を選べます。
具体的には、先導者はクールノー均衡より多めに生産します。すると追随者は生産を減らさざるを得ず、結果として先導者の取り分が増えます。
「先に動いて相手の選択肢を狭める」という戦略は、企業経営理論でいう先発優位(ファーストムーバー・アドバンテージ)と同じ発想です。
⑦ クールノー均衡と完全競争・独占の関係
クールノーモデルで企業数を増やしていくと、市場の状態は完全競争に近づきます。
| 企業数 | 市場の状態 |
|---|---|
| 1社 | 独占(生産量が最も少なく、価格が最も高い) |
| 2社(複占) | クールノー均衡 |
| 社( が増える) | しだいに完全競争に近づく |
| 無限 | 完全競争() |
つまり、独占と完全競争のあいだを連続的につなぐのがクールノーモデルだ、と捉えることができます。第1節で「市場構造は二択ではなく連続的」と述べたのは、このことです。
⑧ ベルトランの逆説
やや進んだ話題ですが、ベルトランモデルで財が完全に同質な場合には、企業が2社しかなくても価格が限界費用まで下がってしまう、という結果が導かれます。
同質財なら消費者は1円でも安いほうを選ぶので、両社が値下げ競争を続け、 になるまで止まらないためです。これをベルトランの逆説といいます。
試験で扱われるベルトランモデルが「同質ではない財」を想定しているのは、この極端な結果を避けるためです。現実の価格競争では製品が差別化されていることが多いので、そちらのほうが実態に近いともいえます。
具体例
3つのモデルの違いを、具体的な場面で考えてみましょう。
ケース1: クールノーモデル(数量・同時)
セメント業界を考えます。セメントは同質財で、各社の製品に品質差はほとんどありません。
このように、数量を決めれば価格は市場が決めるという構造がクールノーモデルです。
ケース2: ベルトランモデル(価格・同時)
カフェチェーンを考えます。各社のコーヒーは味も雰囲気も違い、差別化されています。
このように、価格を決めれば数量は需要が決めるという構造がベルトランモデルです。
ケース3: シュタッケルベルクモデル(数量・逐次)
業界に圧倒的なリーダー企業がいる場合を考えます。
このように、順番があり、先に動くほうが相手の反応を読み込む構造がシュタッケルベルクモデルです。
ステップ: 判定の手順
問題文を読んだら、次の順に確認します。
1. 企業が何を決めているか → 生産量なら数量モデル、価格なら価格モデル
2. 同時か順番か → 同時ならクールノーかベルトラン、順番ならシュタッケルベルク
3. 財は同質か差別化されているか → 判定の補助に使う
| 問題文の手がかり | モデル |
|---|---|
| 「相手の供給量に対応して自社の供給量を決める」 | クールノー |
| 「相手の価格に対応して自社の価格を決める」 | ベルトラン |
| 「先導者が追随者の行動を読み込む」 | シュタッケルベルク |
| 「反応関数(反応曲線)の交点」 | クールノー |
| 「先に行動するほうが有利」 | シュタッケルベルク |
ステップ: 数値でクールノー均衡を求めてみる
需要曲線 ( は市場全体の生産量)、両社の限界費用を とします。
A社の生産量を
| 生産量 | 価格 | |
|---|---|---|
| 独占(1社) | 60 | 60 |
| クールノー複占(2社) | 80 | 40 |
| 完全競争 | 120 | 0 |
複占は独占と完全競争のちょうど中間あたりに位置しています。企業数が増えるほど完全競争に近づく、という性質が確認できます。
(独占は 、完全競争は

代表的な寡占モデル
試験のポイント
| 協力ゲーム理論 |
| 話し合いを前提とした協力関係のもと共同行動する |
本節では「非協力ゲーム理論」を中心に学習します。
② 標準型ゲーム
標準型ゲームは、各プレイヤーが独立して戦略を決定するものです。これは、自らが戦略を決定する時点において相手がどのような意思決定を行うのかはわからないということです。
標準型ゲームでは、「プレイヤー」「戦略」「利得」が示された表(ペイオフマトリックス(利得行列))を用いて各プレイヤーの意思決定についてみていきます。
③ ペイオフマトリックスの読み方
A社とB社の2つのプレイヤーが存在し、それぞれが2つの戦略(「高価格」もしくは「低価格」)のうちどちらを選択するかという意思決定について考えます。
| B社: 高価格 | B社: 低価格 | ||
|---|---|---|---|
| A社 | 高価格 | (10, 10) | (4, 12) |
| 低価格 | (12, 4) | (6, 6) |
括弧内の数字は、各企業の利得を表しています(左側の数字がA社の利得、右側の数字がB社の利得)。
たとえば、左下の (12, 4) はA社が低価格、B社が高価格をつけたときに、A社は12の利得を、B社は4の利得を得るということを意味しています。
④ 戦略決定の手順
A社の意思決定
B社(相手)の戦略について場合分けをして考察していきます。
① B社が「高価格」を選択した場合のA社の最適な戦略を決定する。
よって、B社が「高価格」を選択した場合は、A社は「低価格」が最適な戦略となります。
② B社が「低価格」を選択した場合のA社の最適な戦略を決定する。
よって、B社が「低価格」を選択した場合も、A社は「低価格」が最適な戦略となります。
このように、プレイヤーが自らの利得を最大にするために最適な戦略をとることを最適反応といいます。
B社の意思決定も同じ手順です。A社(相手)の戦略について場合分けをして考察します。
① A社が「高価格」を選択した場合 → B社は「低価格」が最適(10 < 12)
② A社が「低価格」を選択した場合 → B社は「低価格」が最適(4 < 6)
⑤ 支配戦略
上記の例でみると、A社は相手のB社の戦略が「高価格」であっても「低価格」であっても、結局は「低価格」を選択することが最適な戦略となります。
このように、相手の戦略に関係なく自らの戦略が1つに決まるとき、その戦略のことを支配戦略といいます。
支配戦略はゲームの設定(利得など)によって、存在する場合と存在しない場合があります(必ず存在するわけではありません)。
⑥ ナッシュ均衡
ナッシュ均衡とは、各プレイヤーが最適な戦略をとりあっている状態のことをいいます(先の手順により最適な戦略に○を付けていった結果、両者の利得に○が付されている状態)。
上の例では、A社もB社も「低価格」が最適反応なので、(低価格, 低価格)の組合せである (6, 6) がナッシュ均衡です。
ナッシュ均衡はゲームの設定によって複数存在することや存在しない場合もあります(常に1つの組み合わせとは限りません)。
⑦ 解き方の手順(○を付ける方法)
試験でペイオフマトリックスが出たら、次の手順で機械的に処理できます。
1. 相手の戦略ごとに、自分の利得が大きいほうに○を付ける(自分の利得だけを見る)
2. これを両方のプレイヤーについて行う
3. 両方の数字に○が付いたマスがナッシュ均衡
慣れれば1分もかかりません。手順を固定化しておくことが大切です。
⑧ 支配戦略とナッシュ均衡の関係
| 関係 | 内容 |
|---|---|
| 支配戦略がある場合 | その戦略の組合せが必ずナッシュ均衡になる |
| 支配戦略がない場合 | ナッシュ均衡は存在することも、しないこともある |
| ナッシュ均衡がある場合 | 支配戦略があるとは限らない |
「支配戦略がある → ナッシュ均衡がある」は成り立ちますが、その逆は成り立ちません。この関係を取り違えないようにしてください。
具体例
問題 夫婦による家事分担は重要である。会社員の太郎さんと主婦の花子さんには、夕方の家事に関して「協力する」「相手に任せる」という選択肢がある。
2人がともに「協力する」場合、楽しく家事ができ、お互いの負担を大きく減らすことができるので、ともに30の利得が得られる。また、どちらか一方が「相手に任せる」場合は、任せた方は苦労がなく50の利得が得られるが、1人で家事を行う方は と大きい負担となる。さらに、お互いに「相手に任せる」場合は、結果として2人が嫌々家事をすることになるので、ともに となる。
| 花子さん: 協力する | 花子さん: 相手に任せる | ||
|---|---|---|---|
| 太郎さん | 協力する | 30, 30 | , 50 |
| 相手に任せる | 50, | , |
(マトリックスの左側が太郎さんの利得、右側が花子さんの利得)
この表に関する記述として、最も適切なものを選べ。
(令和2年度 第22問)
ステップ1: 太郎さんの意思決定を追う
① 花子さんが「協力する」を選択することを想定した場合
→ 太郎さんは、「相手に任せる」を選択する。
② 花子さんが「相手に任せる」を選択することを想定した場合
| 花子さん: 協力する | 花子さん: 相手に任せる | ||
|---|---|---|---|
| 太郎さん | 協力する | 30, 30 | , ○50 |
| 相手に任せる | ○50, | ○ |
両方に○が付いたのは(相手に任せる, 相手に任せる)です。
ステップ4: 選択肢を判定する
ア は正しい。 太郎さんも花子さんも、相手の戦略に関係なく「相手に任せる」が最適でした。したがって両者に共通の支配戦略があります。
イ は誤り。 どの状態から考えるのか、誰の利得が増加するかを明示していないため、場合分けして検討します。
したがって「お互いに異なる戦略をとると利得が増加する」とは言えません。

ペイオフマトリックスとナッシュ均衡
試験のポイント
たとえば、先の表で両者が「低価格」を選択している状態は、B社(他者)の効用を悪化させることなく、A社の効用を改善できる余地があります(両者が「高価格」を選択するケースがあります)。
にもかかわらず、各自が合理的に行動すると (6, 6) に落ち着いてしまう。これが囚人のジレンマの「ジレンマ」たるゆえんです。
③ なぜジレンマが生じるのか
構造を整理しておきましょう。囚人のジレンマが成立するには、次の利得の並びが必要です。
裏切って相手が協調(12) > 双方が協調(10) > 双方が裏切り(6) > 協調して相手が裏切り(4)
この並びがあると、
つまり相手が何をしようと裏切りが最適になり、双方が裏切る結果になります。
④ 繰り返しゲーム
1回限りのゲームでは、仮に両者が互いに「高価格」を選択すれば双方の利得が大きくなる (10, 10) とわかっていたとしても、相手の裏切りを恐れて非協調的な行動をとった結果、お互い「低価格」を選択し、囚人のジレンマに陥ることになります(協調的行動をとれば (10, 10) の利得を得られますが、相手の裏切りを警戒して、結局は自分の利得最大化のみを考えます)。
しかし、同じゲームが繰り返される場合には、あるときの選択が次のゲームに影響を与えるため、結果的に各プレイヤーが協調的行動をとるケースがあります。
裏切れば目先の利得は増えますが、次回以降に報復されて長期的には損をするかもしれません。将来のことを考えれば、協調を続けたほうが得になる場合があるわけです。
有名な戦略にしっぺ返し戦略(tit for tat)があります。最初は協調し、以後は相手が前回とった行動をそのまま返す、という単純な戦略です。裏切れば必ず報復されるとわかるため、相手に協調を促す効果があります。
⑤ 協調的行動のタイプ
企業間の協調の形態としては以下のようなものがあります。
1. 価格カルテル
2. 数量カルテル
3. 入札談合
ただし、このようなあからさまなかたちのカルテルは、多くの国では、独占禁止法によって禁じられるか、制限されています。
もっとも、禁じられているにもかかわらず、摘発され処罰を受ける企業が後を絶たないという事実は、かえってカルテルを組もうとする誘因がいかに強いかということを表しているともいえます。
⑥ カルテルが崩れやすい理由
カルテルは、結ばれてもしばしば崩れます。理由は囚人のジレンマの構造そのものです。
全社が協調して生産を絞れば価格は高く保たれ、全社が利益を得ます。しかし、そのなかで1社だけこっそり生産を増やせば、高い価格で多く売れるのでさらに得をします。
全員がこれを考えるので、カルテルは内側から崩れやすいわけです。監視の仕組みや報復の約束がなければ、協調は長続きしません。
独占禁止法にリーニエンシー制度(課徴金減免制度、自主申告した企業の課徴金を減免する仕組み)が設けられているのは、この「裏切りの誘因」を制度的に強めてカルテルを壊しやすくするためだ、と説明されます。
⑦ 社会にとってはどちらがよいか
ここで注意しておきたいことがあります。
企業どうしにとっては協調(高価格)のほうが望ましいのですが、社会全体にとっては競争(低価格)のほうが望ましいのです。
| 企業にとって | 消費者・社会にとって | |
|---|---|---|
| 協調(高価格) | 望ましい | 望ましくない |
| 競争(低価格) | 望ましくない | 望ましい |
囚人のジレンマは企業から見れば「困った状況」ですが、消費者から見れば「ありがたい状況」です。独占禁止法がカルテルを禁じているのは、まさにこの理由によります。
「パレート非効率」という言葉は、あくまでゲームに参加している2社の間での評価であって、社会全体の評価ではない、という点を押さえておいてください。
具体例
囚人のジレンマの元になった話と、その構造を確認しておきましょう。
設定 2人の容疑者が別々の部屋で取り調べを受けています。それぞれに「黙秘」と「自白」の選択肢があります。
| B: 黙秘 | B: 自白 | ||
|---|---|---|---|
| A | 黙秘 | 懲役2年, 懲役2年 | 懲役10年, 釈放 |
| 自白 | 釈放, 懲役10年 | 懲役5年, 懲役5年 |
利得(刑期が短いほどよい)を数値にすると次のようになります。
| B: 黙秘 | B: 自白 | ||
|---|---|---|---|
| A | 黙秘 | ||
| 自白 |
ステップ1: Aの最適反応を求める
Aの支配戦略は「自白」です。
ステップ2: Bの最適反応を求める
対称なので、Bの支配戦略も「自白」です。
ステップ3: ナッシュ均衡を求める
| B社: 高価格 | B社: 低価格 | ||
|---|---|---|---|
| A社 | 高価格 | (10, 10) | (4, 12) |
| 低価格 | (12, 4) | (6, 6) |
企業から見れば「価格競争に陥ってしまった」という状況ですが、消費者にとっては安く買えるのでありがたい状況です。
ステップ6: 繰り返しゲームにすると何が変わるか
このゲームを毎期繰り返すとしましょう。しっぺ返し戦略を採る相手に対して、裏切るとどうなるでしょうか。
裏切り続ける場合
協調し続ける場合
2期目以降を比べると、協調のほうが毎期4だけ多く得られます。1期目に得た の利益は、2期目だけで失われてしまいます。

囚人のジレンマの構造
試験のポイント
つまりライバルは、自社にとって都合の悪いほうにだけ反応してくる、という想定です。
③ 屈折需要曲線の形状
寡占市場のある企業(T社)が、価格 のもとで だけ市場に財を供給しているとします。この場合、この企業の需要曲線は点 E で屈折するように描かれます。
値上げする場合(点 E より上)
T社が から への値上げを行うとします。T社は自社の需要曲線から、需要量はある程度までしか減らないと想定します。しかしライバル企業は値上げに追随しないため、想定以上の需要量の減少(ライバル企業への顧客流出)を招き、需要はさらに大きく減少します。
つまり、価格が より高い水準では、需要曲線は傾きが緩やか(弾力的)になります。値上げすると客が大きく逃げるからです。
値下げする場合(点 E より下)
ライバル企業がT社の価格政策に追随しないという想定の下にT社が値下げを行う場合、T社は需要の大きな伸びを想定します。しかしライバル企業は値下げには追随してくるため、想定よりもT社の需要が増加することはありません。
つまり、価格が より低い水準では、需要曲線は傾きが急(非弾力的)になります。値下げしても客があまり増えないからです。
その結果、需要曲線は点 E で屈折します。上半分は緩やか、下半分は急、という形です。
④ 屈折需要曲線の限界収入曲線
限界収入曲線は、需要曲線と同じ切片で傾きが2倍の直線となるのでした(第4章第2節参照)。
すなわち、生産量が0から の範囲では需要曲線が緩やかな直線なので、これに対応して限界収入曲線もその直線から導かれます。生産量が 以上の範囲では需要曲線が急な直線となるので、限界収入曲線もそちらから導かれます。
結果的に屈折需要曲線の限界収入曲線は、生産量 の部分において乖離したものとなります。
屈折需要曲線の限界収入曲線は、不連続となる。
図の上では、 のところで限界収入曲線が縦にジャンプし、途切れた区間ができます。
⑤ 寡占市場における価格硬直性
不完全競争市場では、限界収入と限界費用が等しくなる生産量で利潤が最大化すると考えます。
たとえばT社の限界費用曲線が である場合、限界収入 = 限界費用となる生産量 において利潤は最大化し、その場合の価格は です。
しかしながら原材料価格の変動などにより、企業の限界費用曲線の位置は変化します。たとえば に限界費用曲線が変化したとしましょう。この場合でも、限界収入 = 限界費用となる生産量 において利潤は最大化し、価格は です。
つまり、限界費用の変動が、限界収入曲線が乖離している範囲内である場合には、利潤を最大にする生産量は常に であり、価格も のままで変化しません。
よって、屈折需要曲線により、寡占的な産業では費用関数が変化しても価格が硬直的になることが説明できます。
⑥ なぜ不連続だと価格が動かないのか
もう少しかみ砕いておきましょう。
通常であれば、限界費用が下がれば の交点が右へ動き、生産量が増えて価格が下がります。
ところが屈折需要曲線では、 のところで限界収入曲線が縦に途切れています。限界費用曲線がその途切れた区間の中で上下に動いても、交点の位置(横軸の値)は から動きません。
だから生産量も価格も変わらない、というわけです。「限界収入曲線の隙間が、価格を固定するクッションになっている」とイメージするとよいでしょう。
⑦ このモデルの限界
屈折需要曲線は価格が動かない理由を説明しますが、そもそもなぜ という価格になったのかは説明しません。出発点の価格は外から与えられたものとして扱われます。
理論としては物足りない点ですが、「いったん決まった価格が動きにくい」という現象を単純な図で説明できる点が評価されています。試験では、前提と結論、そして限界収入曲線が不連続になるという点が問われます。
具体例
屈折需要曲線を数値で組み立ててみましょう。
設定 現在の価格 、生産量 とします。
値上げ方向()の需要曲線
ライバルが追随しないので需要が大きく減ります。弾力的なので傾きは緩やかです。
()
のとき で、確かに現在の点を通ります。
値下げ方向()の需要曲線
ライバルが追随するので需要があまり増えません。非弾力的なので傾きは急です。
()
のとき で、こちらも現在の点を通ります。
ステップ1: 2つの区間の限界収入を求める
切片そのまま、傾き2倍のルールを使います。
ステップ2: における限界収入を計算する
のところで、限界収入が20から へジャンプしています。 この から20までの区間が、限界収入曲線の「途切れ」です。
ステップ3: 限界費用が変化しても価格が動かないことを確かめる
限界費用が一定だとして、いくつかの値で最適生産量を求めてみましょう。
の場合
の場合
の場合(現実にはありえませんが計算上)
ステップ4: 表にまとめる
| 限界費用 | 最適生産量 | 価格 |
|---|---|---|
| 20 | 40 | 60 |
| 10 | 40 | 60 |
| 0 | 40 | 60 |
限界費用が から20のあいだで動いても、生産量も価格もまったく変わりません。これが価格の硬直性です。
ステップ5: 途切れの範囲を超えるとどうなるか
(途切れの上限20を超える)の場合はどうでしょうか。
の区間で

屈折需要曲線とMRのギャップ
試験のポイント
プレミアムプラン
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A社の利潤は
で微分してゼロとおくと
これが A社の反応関数です。B社も対称なので
2式を連立して解くと 、市場全体は 、価格は です。
ステップ: 独占・完全競争と比べる
→ 太郎さんは、「相手に任せる」を選択する。
ステップ2: 花子さんの意思決定を追う
① 太郎さんが「協力する」を選択することを想定した場合
→ 花子さんは、「相手に任せる」を選択する。
② 太郎さんが「相手に任せる」を選択することを想定した場合
→ 花子さんは、「相手に任せる」を選択する。
ステップ3: ○を付けた結果を確認する
エ は誤り。 ナッシュ均衡は、ともに「相手に任せる」組み合わせです。
答え ア
ステップ5: 結果を味わう
2人とも「相手に任せる」を選んだ結果、ともに という利得になりました。しかし、2人とも「協力する」を選んでいれば、ともに30の利得が得られたはずです。
自分の利得だけを考えて合理的に行動した結果、2人とも損をしてしまう。この構造が、次のテーマで扱う囚人のジレンマです。
(自白, 自白)= がナッシュ均衡です。
ステップ4: パレート効率性を確認する
(黙秘, 黙秘)なら で、2人とも より良い結果です。つまり(自白, 自白)はパレート非効率です。
2人とも合理的に行動した結果、2人にとってより悪い結果になってしまいました。
ステップ5: 企業の価格競争に当てはめる
同じ構造を価格競争に置き換えてみましょう。
ステップ7: 現実のカルテルとの対応
長く付き合う業界では、暗黙の協調が生まれやすくなります。裏切れば長期にわたって報復されるからです。
だからこそ、明示的な合意がなくても価格が高止まりする(協調的寡占)という現象が起こりえます。競争政策がこうした状況を問題視するのは、この理由によります。
| 60 |
価格は となり、60から上昇しました。
つまり、限界費用の変動が途切れの範囲を超えれば、価格は動きます。硬直性が成り立つのは、あくまで「限界収入曲線が乖離している範囲内」での話です。
ステップ6: なぜ寡占市場で価格が動きにくいのか(まとめ)
1. ライバルは値下げには追随し、値上げには追随しない
2. そのため需要曲線が現在の価格のところで屈折する
3. 屈折に対応して、限界収入曲線が不連続になる
4. 限界費用が多少変動しても、 の生産量が動かない
5. したがって価格も動かない
この5段階の流れを説明できるようにしておけば、記述でも選択でも対応できます。