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乗数理論

生産物市場(財市場)の分析

この節では、投資や政府支出の変化が国民所得に何倍もの影響を与える乗数効果のメカニズムを学びます。投資乗数・政府支出乗数・租税乗数の公式を理解し、均衡予算乗数の定理まで確実にマスターしましょう。

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乗数効果の基本

簡単にいうと

投資が1増えると国民所得は1以上増える!これが乗数効果!なんでそうなるかというと、誰かの支出は誰かの所得になって、その所得がまた消費を生んで...って連鎖が起きるからなの!

① 乗数効果とは何か

乗数効果とは、投資や政府支出などの独立支出が変化したとき、国民所得がその変化額の何倍も変動する現象のことです。なぜ「何倍」になるのかというと、ある主体の支出は別の主体の所得となり、その所得の一部がさらに消費として支出され、それがまた別の主体の所得になる...という連鎖的な波及が起こるからです。

② 投資乗数の導出

投資が ΔI\Delta I だけ増加したとき、国民所得がどれだけ変化するか考えてみましょう。

  • 第1ラウンド: 投資 ΔI\Delta I の増加がそのまま所得の増加になる → ΔI\Delta I
  • 第2ラウンド: 増えた所得のうち cc の割合が消費に回る → cΔIc \cdot \Delta I
  • 第3ラウンド: さらにその消費が所得を生み、その cc の割合が消費に → c2ΔIc^2 \cdot \Delta I
  • 以下同様に無限に続く...

合計すると、

ΔY=ΔI+cΔI+c2ΔI+c3ΔI+\Delta Y = \Delta I + c \cdot \Delta I + c^2 \cdot \Delta I + c^3 \cdot \Delta I + \cdots

=ΔI(1+c+c2+c3+)=11cΔI= \Delta I(1 + c + c^2 + c^3 + \cdots) = \frac{1}{1-c} \Delta I

この 11c\frac{1}{1-c}投資乗数です。0<c<10 < c < 1 なので 11c>1\frac{1}{1-c} > 1、つまり投資の増加額以上に国民所得が増えます。

③ 乗数の大きさを決めるもの

乗数 11c\frac{1}{1-c} の大きさは、限界消費性向 cc によって決まります。cc が大きいほど(所得増加分のうち消費に回る割合が高いほど)、各ラウンドの波及効果が大きくなるため、乗数は大きくなります。逆に cc が小さいと、各ラウンドで貯蓄に回る分が多いため波及は早く収束し、乗数は小さくなります。

具体例

限界消費性向 c=0.8c = 0.8 の経済で、投資が10増加したときの波及過程をラウンドごとに追ってみましょう。

第1ラウンド 企業が設備投資を10増やします。この10は建設会社や機械メーカーの売上(=所得)になります。所得増加: 10

第2ラウンド 所得が10増えた人たちは、そのうち80%(= 8)を消費します。この8はお店や飲食店の売上(=所得)になります。所得増加: 8

第3ラウンド 所得が8増えた人たちは、そのうち80%(= 6.4)を消費します。所得増加: 6.4

第4ラウンド 所得が6.4増えた人たちは、そのうち80%(= 5.12)を消費します。所得増加: 5.12

これが無限に続いて、合計は 10+8+6.4+5.12+=1010.8=5010 + 8 + 6.4 + 5.12 + \cdots = \frac{10}{1-0.8} = 50 です。

最初の投資10が、最終的に国民所得を50も増やす。これが乗数効果の威力です!乗数は 110.8=10.2=5\frac{1}{1-0.8} = \frac{1}{0.2} = 5 倍ですね。

投資増加による総需要曲線の上方シフトと均衡国民所得の変化

乗数効果(投資増加のケース)

試験のポイント

  • 要は「投資乗数 =11c= \frac{1}{1-c} で、投資の変化が連鎖的に波及して何倍にもなる」
  • 波及のメカニズム(等比級数の和)を理解した上で公式を使えるようにする
  • cc が大きいほど乗数が大きくなる関係も重要
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各種乗数

簡単にいうと

政府支出の乗数は投資と同じ 11c\frac{1}{1-c}!でも減税の乗数は c1c\frac{c}{1-c} で一回り小さいの。なぜかというと、減税で増えた所得のうち cc の割合しか消費に回らないから、最初の一撃が弱くなるんだよね!

① 政府支出乗数

政府支出乗数は、政府支出 GGΔG\Delta G だけ変化したときの均衡国民所得の変化倍率です。

ΔY=11cΔG\Delta Y = \frac{1}{1-c} \Delta G

政府支出乗数 =11c= \frac{1}{1-c}(投資乗数と同じ値)

政府支出の増加は、投資と同じくそのまま総需要の増加になるため、波及のメカニズムはまったく同じです。だから乗数の値も同じになります。

② 租税乗数

租税乗数は、定額税 TTΔT\Delta T だけ変化したときの均衡国民所得の変化倍率です。

ΔY=c1cΔT\Delta Y = -\frac{c}{1-c} \Delta T

租税乗数 =c1c= -\frac{c}{1-c}

マイナス符号がつくのは、増税(ΔT>0\Delta T > 0)が所得を減少させるためです。また、絶対値 c1c\frac{c}{1-c} は政府支出乗数 11c\frac{1}{1-c} よりも小さくなります。なぜなら、減税で家計の可処分所得が増えても、その全額が消費に回るわけではなく、cc の割合しか消費されないからです。最初の波及が ΔT\Delta T ではなく cΔTc \cdot \Delta T から始まるため、効果が一回り小さくなるのです。

③ 3つの乗数の比較

乗数公式c=0.8c = 0.8 のとき
投資乗数11c\frac{1}{1-c}5
政府支出乗数11c\frac{1}{1-c}5
租税乗数c1c-\frac{c}{1-c}4-4

重要なポイントは、同額の財政措置なら、減税よりも政府支出増加の方が国民所得を大きく増やすということです。これは政府支出乗数の絶対値(11c\frac{1}{1-c})が租税乗数の絶対値(c1c\frac{c}{1-c})よりも常に大きいことから導かれます。

具体例

c=0.8c = 0.8 の経済で、政府支出の増加と減税の効果を比べてみましょう。

ケース1: 政府支出を10増加させる

政府支出乗数は 110.8=5\frac{1}{1-0.8} = 5 なので、

ΔY=5×10=50\Delta Y = 5 \times 10 = 50

国民所得は50増加します。

ケース2: 同じ10だけ減税する(ΔT=10\Delta T = -10

租税乗数は 0.80.2=4-\frac{0.8}{0.2} = -4 なので、

ΔY=4×(10)=40\Delta Y = -4 \times (-10) = 40

国民所得は40増加します。

同じ10の財政措置なのに、政府支出の方が所得を50増やすのに対して、減税では40しか増えません。差の10はどこへ行ったのでしょうか?

答えは「貯蓄」です。減税で手元に残った10のうち、消費に回るのは 0.8×10=80.8 \times 10 = 8 だけ。残りの2は貯蓄されて、需要の連鎖に入りません。だから効果が小さくなるのです。

試験のポイント

  • 要は「政府支出乗数 11c\frac{1}{1-c} > 租税乗数の絶対値 c1c\frac{c}{1-c}、だから減税より政府支出増の方が効果大」
  • 3つの乗数の公式を正確に覚える
  • 租税乗数のマイナス符号の意味(増税→所得減、減税→所得増)も重要
  • なぜ租税乗数が小さいのかの理由(最初の消費への波及が cc 倍になる)を説明できるようにする
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均衡予算乗数の定理

簡単にいうと

政府支出と税金を同額だけ増やしたら?プラマイゼロ...じゃなくて、国民所得はちゃんと増えるの!しかも乗数はピッタリ1!cc がいくつであっても必ず1になるところが美しいんだよね!

① 均衡予算乗数とは

均衡予算乗数とは、政府支出と租税を同額(ΔG=ΔT\Delta G = \Delta T)だけ変化させたときの乗数のことです。政府の予算収支(GTG - T)が変わらないため「均衡予算」と呼ばれます。一見すると、支出を増やしても同額の増税をすればプラマイゼロになりそうですが、実際には国民所得は増加します。

② なぜ乗数が1になるのか

政府支出と租税をそれぞれ ΔG=ΔT\Delta G = \Delta T だけ変化させたときの国民所得の変化は、

ΔY=11cΔG+(c1c)ΔT\Delta Y = \frac{1}{1-c}\Delta G + \left(-\frac{c}{1-c}\right)\Delta T

ΔG=ΔT\Delta G = \Delta T を代入すると、

ΔY=11cΔGc1cΔG=1c1cΔG=1ΔG\Delta Y = \frac{1}{1-c}\Delta G - \frac{c}{1-c}\Delta G = \frac{1 - c}{1-c}\Delta G = 1 \cdot \Delta G

つまり、均衡予算乗数 =1= 1 です。政府支出と租税を同額だけ増やすと、国民所得はちょうどその同額だけ増加します。この結果を均衡予算乗数の定理(ハーヴェルモの定理)と呼びます。

③ なぜプラマイゼロにならないのか

直感的な理解はこうです。政府支出 ΔG\Delta G の増加はそのまま100%が総需要の増加になります。一方、同額の増税 ΔT\Delta T による消費の減少は cΔTc \cdot \Delta TΔT\Delta Tcc 割)にとどまります。なぜなら、増税で減った可処分所得のうち、消費を減らすのは cc の割合だけで、残りの 1c1-c の割合は貯蓄の減少で吸収されるからです。したがって、政府支出の効果(11cΔG\frac{1}{1-c}\Delta G)が増税の効果(c1cΔT\frac{c}{1-c}\Delta T)を常に上回り、差し引きで ΔG\Delta G だけの所得増が残るのです。

具体例

均衡予算乗数が本当に1になるか、具体的な数値で確認してみましょう。

c=0.8c = 0.8 の経済で、政府支出と税金をともに100増やす場合を考えます。

政府支出増加の効果

110.8×100=5×100=500\frac{1}{1-0.8} \times 100 = 5 \times 100 = 500

増税の効果

0.810.8×100=4×100=400-\frac{0.8}{1-0.8} \times 100 = -4 \times 100 = -400

合計の効果

500+(400)=100500 + (-400) = 100

確かに ΔY=100=ΔG\Delta Y = 100 = \Delta G ですね。乗数はちょうど1です。

では c=0.6c = 0.6 の場合はどうでしょうか。

政府支出の効果: 10.4×100=250\frac{1}{0.4} \times 100 = 250

増税の効果: 0.60.4×100=150-\frac{0.6}{0.4} \times 100 = -150

合計: 250150=100250 - 150 = 100

cc の値が変わっても、均衡予算乗数は常に1。この「cc に依存しない」性質が均衡予算乗数の定理の核心です。

試験のポイント

  • 要は「ΔG=ΔT\Delta G = \Delta T のとき乗数はちょうど1(cc の値に依存しない)」
  • 均衡予算乗数の定理は計算問題・正誤問題ともに頻出
  • 導出過程(政府支出乗数 - 租税乗数の絶対値 =11cc1c=1= \frac{1}{1-c} - \frac{c}{1-c} = 1)を理解しておくこと
  • 「プラマイゼロにならない理由」を問う記述問題にも対応できるようにする

まとめ

乗数
公式
ポイント
投資乗数
11c\frac{1}{1-c}
c=0.8c=0.8なら5倍
政府支出乗数
11c\frac{1}{1-c}
投資乗数と同じ
租税乗数
c1c-\frac{c}{1-c}
絶対値は政府支出乗数より小
均衡予算乗数
1
ΔG=ΔT\Delta G = \Delta Tのとき常に1

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