消費者行動の分析
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プレミアムで見る前節で、価格の変化が消費量に与える効果を見ました。ここではそれを代替効果と所得効果という2つの効果に分解します。これをスルツキー分解といい、価格が下がったときに買う量が増える理由を、「割安になったから」と「実質的に豊かになったから」の2つに切り分けて捉え直す作業です。この分解ができると、価格が下がったのにかえって消費が減る財、つまりギッフェン財のような一見ふしぎな現象まで説明がつくようになります。図の上では補助線を1本引くだけの操作ですが、その1本に込められた意味は深いので、手順と理由を対にして押さえていきましょう。節の最後には、同じ図の読み方を企業の側に当てはめた等費用線と等産出量曲線のモデルも扱います。近年よく問われる論点です。
簡単にいうと
まずは全体像から!価格が変わると最適消費点が動くよね。この動きが価格効果。スルツキー分解は、この1回の動きを2段階に分けて見る方法なんだ。「まず割安になった分だけ動く、次に豊かになった分だけ動く」という2段ロケットのイメージ!
① 価格効果とは
X 財の価格の低下の効果を考えてみましょう。これまで見てきたように X 財の価格が下落することで、予算制約線が から へシフトし、最適消費点が点 R から点 T に移動します。
この点 R から点 T への移動が、(一方の財の)価格の変化が(両財の)消費量に与える効果であり、これを価格効果と呼びます。
読み取り方
| 財 | 価格効果の読み取り方 |
|---|---|
| X 財 | 点 R → 点 T の横軸の変化分( |
具体例
スルツキー分解の作業手順を、順を追って確認しておきましょう。
設定 X 財(牛肉)と Y 財(豚肉)を消費する家計を考えます。牛肉の価格が下落し、豚肉の価格は変わらないとします。
ステップ1: 価格変化前の状態を確認する
旧予算線 AB と無差別曲線 の接点が、価格変化前の最適消費点 R です。このときの消費量を

スルツキー分解(上級財の場合)
試験のポイント
簡単にいうと
代替効果は「相対的に安くなったほうに乗り換える」という効果。牛肉が安売りになったら、牛肉を増やして豚肉を減らすよね。あれだよ!図では「新予算線と平行な補助線を引く」のがポイント。この1本がすべて!
① 代替効果とは
一方の財の価格変化は、もう一方の財との相対的な価格水準の変化という効果をもたらします。つまり、
と捉えます。
たとえば、ある家計が牛肉と豚肉という2つの財の購入を考えていたところ、牛肉の価格が安売りで低下したとします。豚肉自体は価格が変わらなくても、牛肉は割安に、豚肉は割高になると考えるわけです。
この場合、安売りしている牛肉をより多く購入し、豚肉の購入は控えるよう行動を変えるのが普通です。このように牛肉と豚肉の間の相対的な価格が変化することを通じて起こる消費量の変化を代替効果といいます。
代替効果の定義
簡単にいうと
所得効果は「値下がりでお財布に余裕ができた分、多く買える」という効果。実際の給料は変わっていないのに、実質的に豊かになるのがポイント!そして、この効果の向きは財の種類で変わるんだ。ここが代替効果との違い。
① 所得効果とは
第2節で学習したように、X 財の価格の低下は予算制約線を外側にシフトさせます。この効果は「予算集合を拡大させる」という意味で、所得の上昇と同じような効果をもっています。
たとえば、ある家計が牛肉の消費に毎月1万円使っているとします。牛肉の価格が20%低下するならば、0.2万円の支出の節約になります。家計はその節約できた0.2万円を牛肉や他の財の購入にあてることができます。つまり、この牛肉の価格の低下は0.2万円の所得の増加と同じような効果をもつのです。
このように、実際の所得額(名目所得)自体は変化していないにもかかわらず、価格の変化により実質的な所得(実質所得)が変化することで発生する消費量の変化を所得効果といいます。
所得効果の定義 価格の変化が消費量に対してもたらす効果のうち、「実質所得の変化」を通じて生じる効果(実質所得の変化による最適消費量の変化)。
② 所得効果を図示する
簡単にいうと
ここは総まとめの表!代替効果と所得効果を足すとどうなるか、財の種類ごとに整理するよ。矢印の向きで覚えるとラク。「代替効果は必ず一方向、所得効果は財による」がわかっていれば、表は自力で作れるよ!
① 2つの効果を合成する
代替効果と所得効果の向きがわかれば、その合計である価格効果の向きも決まります。ここでは財の種類ごとに整理しておきます。
② パターン① X 財の価格が低下、Y 財の価格は一定(実質所得の増加)
X 財(価格低下)について
| 代替効果 | 所得効果 | 価格効果 | |
|---|---|---|---|
| 上級財 |
簡単にいうと
値段が上がったのに、かえって売れる。そんな不思議な財がギッフェン財だよ。条件は2つ。「下級財であること」と「所得効果が代替効果より大きいこと」。どちらか一方だけでは足りない、というのが最大のひっかけポイント!
① ギッフェン財の定義
ギッフェン財とは、スルツキー分解の観点から次のような財のことを表します。
1. 下級財であること
2. 代替効果の大きさ < 所得効果の大きさであること
①と②の両方を満たすことが条件となります。
片方だけでは足りない、というのがこの定義の要点です。下級財であっても所得効果が小さければギッフェン財にはなりません。
② 本来の定義
また、本来ギッフェン財とは、それ自体の価格の上昇に対し消費量が増加する(逆にいえば価格の低下に対し消費量が減少する)財のことを指します。
簡単にいうと
最後は企業版の同じ図!消費者の「予算制約線と無差別曲線」を、企業の「等費用線と等産出量曲線」に置き換えるだけなんだ。令和4年・5年・6年と3年続けて出ている論点だから、しっかり押さえよう!
① このモデルの位置づけ
等費用線と等産出量曲線を使ったモデルでは、生産要素を資本と労働の2種類とし、生産要素と生産量の関係を表します。これは企業行動の分析のひとつですが、消費者の2財モデルと対比すると理解しやすいため、ここで扱います。
第1章第6節で学んだ生産関数は、資本を固定して労働だけを動かす短期のモデルでした。ここでは資本と労働の両方を動かせる状況を考えます。
② 等費用線
等費用線とは、一定の総費用のもとで利用できる生産要素(資本と労働)の投入量の組み合わせを表すものです。
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| Y 財 | 点 R → 点 T の縦軸の変化分() |
価格が変わったのは X 財だけですが、効果は Y 財にも及びます。予算の配分が変わるからです。「一方の財の価格変化が、両財の消費量に効果を与える」という点に注意してください。
② スルツキー分解
スルツキー分解では、価格効果を代替効果と所得効果の2つに分解して考えます。
図の上では、点 R から点 T への移動を、いったん中継点 S を経由する形に書き換えます。
| 区間 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| 点 R → 点 S | 代替効果 | 2財の価格比の変化による最適消費量の変化 |
| 点 S → 点 T | 所得効果 | 実質所得の変化による最適消費量の変化 |
| 点 R → 点 T | 価格効果 | 上の2つの合計 |
③ なぜ分解するのか
「価格が下がったから買う量が増えた」で話が済むなら、わざわざ分解する必要はありません。分解が役に立つのは、2つの効果が逆向きに働く場合があるからです。
もし所得効果が減らす方向に強く働けば、価格が下がったのに消費量が減る、という逆転現象が起こりえます。それがギッフェン財です。
分解しないままでは、この逆転を説明できません。だから2つに切り分けるわけです。
④ 2段階に分ける考え方
スルツキー分解の考え方を、日常の言葉で整理しておきましょう。牛肉(X 財)の価格が安売りで下がった、という場面を思い浮かべてください。
第1段階(代替効果) まず、豊かになった分は考えずに、「牛肉と豚肉の値段の比率だけが変わった」と考えます。牛肉が相対的に安くなったのだから、牛肉を増やして豚肉を減らす。これが代替効果です。
第2段階(所得効果) 次に、価格が下がったことで浮いたお金の分だけ、実質的に予算が増えたと考えます。その分でいつもより多く買い物ができる。これが所得効果です。
実際には2つの効果は同時に起きていますが、分析のうえで順番に起きたことにして切り分ける、というのがスルツキー分解の発想です。
⑤ この節で扱う図の全体像
以降の説明では、次の記号を使います。図を思い浮かべながら読んでください。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| 点 R | 価格変化前の最適消費点(旧予算線と の接点) |
| 点 S | 代替効果だけを反映した点(補助線と の接点) |
| 点 T | 価格変化後の最適消費点(新予算線と の接点) |
| 補助線 DE | 新予算線 AC と平行で、旧無差別曲線 に接する直線 |
補助線を引くことが、スルツキー分解の作業のすべてだといっても言い過ぎではありません。
ステップ2: 価格変化後の状態を確認する
牛肉の価格が下がったので、予算線の縦軸切片は動かず、横軸切片だけが右に伸びます。新予算線 AC と、より右上の無差別曲線 との接点が新しい最適消費点 T です。消費量を とします。
ステップ3: 価格効果を読み取る
ステップ4: 補助線を引く
ここが分解の作業です。新予算線 AC と平行で、旧無差別曲線 に接する補助線 DE を引きます。
「新予算線と平行」にするのは、新しい価格比を反映させるためです。「旧無差別曲線に接する」ようにするのは、効用水準を変化前のまま保つためです。
ステップ5: 中継点 S を求める
補助線 DE と旧無差別曲線 の接点が点 S です。消費量を とします。
ステップ6: 2つの効果を読み取る
| 効果 | X 財 | Y 財 |
|---|---|---|
| 代替効果(R → S) | ||
| 所得効果(S → T) | ||
| 価格効果(R → T) |
ステップ7: 足し算になっていることを確認する
X 財について見れば
となり、代替効果と所得効果を足したものが価格効果に一致します。中継点 S を経由しただけなので当然ですが、この構造を確認しておくと符号の議論で迷いません。
ステップ8: 数値でイメージする
具体的な数値を当てはめてみましょう。
| 点 | X 財(牛肉) | Y 財(豚肉) |
|---|---|---|
| R(変化前) | 4 | 6 |
| S(代替効果後) | 6 | 4 |
| T(変化後) | 7 | 5 |
Y 財に注目してください。代替効果はマイナス、所得効果はプラスで、逆向きに働いています。合計としてはマイナスになっていますが、大小関係が変われば結果は逆にもなりえます。この「2つの効果の綱引き」が、この節の主題です。
② 代替効果を図示する2つの条件
代替効果をグラフ上で示すためには、次の2つの条件を満たせばよいことになります。
1. 効用水準は変わらない
2. 財の価格比の変化による消費量の変化のみを表現する
結論からいうと、代替効果による最適消費点の移動は、点 R から点 Sで示されます。
③ 補助線の引き方
代替効果の読み取り方を手順として整理します。
| 手順 | 作業 |
|---|---|
| ① | 新予算線(直線 AC)と平行となり、旧無差別曲線()に接する補助線(DE)を引く |
| ② | 補助線(DE)と旧無差別曲線()の接点をとる(点 S) |
| ③ | 点 R から点 S への変化を読む |
そして
④ なぜこの補助線なのか
2つの条件が、補助線の2つの性質にそのまま対応しています。
新予算線と平行にする理由 予算線の傾きは2財の価格比を表すのでした。新予算線と平行にすれば、点 S は新しい価格比を反映していることになります。新旧の予算線の傾きの変化は、Y 財(豚肉)の価格を一定として X 財(牛肉)の価格が変化(この例では低下)したことにより生じています。
旧無差別曲線に接するようにする理由 点 R と点 S は同じ無差別曲線上にあるため、効用は同じです。代替効果では、実質所得の増加や効用の上昇による効果は排除されます(それらは所得効果のほうで認識します)。
つまり補助線は、「価格比だけを新しくして、豊かさは元のままに据え置いた」状態を表す仮想的な予算線です。
⑤ 代替効果の向きは必ず決まっている
ここが代替効果の重要な性質です。
X 財と Y 財のように2つしか財がないケースでは、X 財の価格が低下した場合、代替効果は必ず X 財の消費量を増加させ、もう一方の Y 財の消費量を減少させることになります。X 財の価格が上昇する場合には、逆に X 財の消費量を減少させ、Y 財の消費量を増加させます。
代替効果では、割安になった財の消費量は増加し、割高になった財の消費量は減少する。代替効果は、財の種類(上級財・中立財・下級財)に依存しない。
「財の種類に依存しない」という点が、次のテーマで扱う所得効果との決定的な違いです。上級財だろうと下級財だろうと、安くなれば代替効果は必ず増やす方向に働きます。
⑥ なぜ向きが決まるのか
無差別曲線が原点に対して凸であることから説明できます。
同じ無差別曲線の上を動くとき、価格比が変われば、接点は必ず「安くなった財のほうへ」ずれます。無差別曲線が凸である限り、接線の傾きが緩やかになれば接点は右下へ、急になれば左上へ動くからです。
限界代替率逓減という仮定が、代替効果の向きを保証している、というわけです。
具体例
代替効果だけを取り出す作業を、数値で追ってみましょう。
設定 効用関数 、所得 円、 円。X 財の価格が 円から 円へ下落したとします。
ステップ1: 価格変化前の最適消費点 R を求める
予算制約に代入: 、
点 R は 、効用は です。
ステップ2: 価格変化後の最適消費点 T を求める
予算制約に代入: 、
点 T は 、効用は です。
ステップ3: 補助線の条件を書く
補助線は次の2つを満たします。
1. 新しい価格比を反映する:
2. 旧無差別曲線 に接する:
ステップ4: 点 S を求める
2つの式を連立します。
点 S は約 です。効用を確認すると で、確かに 上にあります。
ステップ5: 代替効果を読み取る
| 財 | 点 R | 点 S | 代替効果 |
|---|---|---|---|
| X 財 | 2 | 3.46 | (増加) |
| Y 財 | 3 | 1.73 | (減少) |
割安になった X 財が増え、相対的に割高になった Y 財が減っています。代替効果の向きの法則どおりです。
ステップ6: 補助線に必要な所得を確かめる
点 S を実現するのに必要な所得を計算してみましょう。新しい価格で評価します。
円
実際の所得1,200円より少ない金額です。つまり補助線は、所得を1,200円から692円へ減らしたときの予算線にあたります。

代替効果(補助線の引き方)
試験のポイント
結論からいうと、所得効果による最適消費点の移動は、点 S から点 Tで示されます。
読み取り方
| 手順 | 作業 |
|---|---|
| ① | 代替効果を認識した最適消費点(点 S)から、新しい最適消費点(点 T)への変化を読む |
③ 図の読み方の要点
補助線 DE と新予算線 AC は平行であり、2財の価格比の変化を排除した(代替効果で認識済みの)実質所得の増加(予算集合の拡大)を示しています。
平行であるということは、価格比は同じということです。つまり点 S から点 T への移動では、価格比の変化は起きていません。動いたのは予算の大きさだけ、ということになります。
また、実質所得の増加により、効用が から に上昇しています(単調性が成り立っていることが前提です)。
④ 所得効果の向きは財の種類で決まる
ここが代替効果との違いです。所得効果に関しては、その財の種類によって効果(消費量の増減)が変わってきます。
一方の財の価格が低下 → 実質所得の増加
| 財の種類 | 消費量 |
|---|---|
| 上級財 | 増加 |
| 中立財 | 不変 |
| 下級財 | 減少 |
一方の財の価格が上昇 → 実質所得の減少
| 財の種類 | 消費量 |
|---|---|
| 上級財 | 減少 |
| 中立財 | 不変 |
| 下級財 | 増加 |
第5節で学んだ上級財・中立財・下級財の定義を、そのまま当てはめただけです。上級財は所得が増えれば消費が増える財、下級財は所得が増えれば消費が減る財でした。
⑤ 図から財の種類を読み取る
したがって、所得効果の向きを見れば、その財が上級財か下級財かを判定できます。
X 財が上級財の場合 補助線 DE から新予算線 AC への実質所得の増加に対し、X 財の消費量は増加します。図では、点 S より点 T のほうが右にあります。Y 財についても消費量が増加していれば、Y 財も上級財であると解釈できます。
X 財が下級財の場合 実質所得の増加に対し X 財の消費量が減少するため、図では点 T が点 S より左にあります。このとき Y 財の消費量が増加していれば、Y 財は上級財となります。
⑥ 判定の手順
図から財の種類を判定するときは、次の順序で処理します。
1. 点 R、点 S、点 T の3点を特定する
2. 点 S から点 T への横軸の動きを見る → X 財の判定(右なら上級財、左なら下級財)
3. 点 S から点 T への縦軸の動きを見る → Y 財の判定(上なら上級財、下なら下級財)
代替効果(R → S)の向きは決まっているので、判定に使えるのは所得効果(S → T)だけです。ここを取り違えないでください。
具体例
問題 下図は、2つの財(X 財と Y 財)のみを消費する消費者の効用最大化行動を描いたものである。当初の予算制約線は AB で与えられ、効用を最大にする消費量の組み合わせは、無差別曲線 との接点、すなわち座標 として与えられている。このとき、X 財の価格が下落し予算制約線が AC へと変化すると、効用を最大にする消費量の組み合わせは無差別曲線 との接点、すなわち座標 へと変化する。なお、補助線(破線)は、予算制約線 AC と同じ傾きを持ち、無差別曲線 と接するものとする。補助線と の接点を とする。この図の説明として、最も適切なものを選べ。
(平成24年度 第17問 改題)
ステップ1: 3つの点を特定する
| 点 | 座標 | 意味 |
|---|---|---|
| J | 価格下落前の最適消費点(点 R にあたる) | |
| K | 補助線と |
ステップ2: 3つの効果を対応づける
横軸の値は 、縦軸の値は という位置関係です。
| 手順 | 作業 |
|---|---|
| ① | 価格下落前と価格下落後の予算線、最適消費点を確認する |
| ② | ①により特定した最適消費点のシフト(価格効果)を、代替効果と所得効果の2つに分解する |
| ③ | 各効果を、横軸・縦軸それぞれの線分の長さに対応づける |
補助線と旧無差別曲線の接点が中継点である、という1点さえ押さえておけば、あとは線分を読むだけの作業になります。
ステップ5: 効用水準の判定に注意する
選択肢オのような「効用水準を比べる」設問は頻出です。判定の基準は単純で、
点 R と点 S は必ず同じ無差別曲線上にあるので、効用は必ず等しくなります。点 T だけが別の(より右上の)無差別曲線上にあります。

所得効果(上級財の場合と下級財の場合)
試験のポイント
| 増加 |
| 増加(両方とも増加方向) |
| 中立財 | 増加(割安) | 不変 | 増加 |
| 下級財 | 増加(割安) | 減少 | 増加または不変 |
| ギッフェン財 | 増加(割安) | 大きく減少 | 減少 |
Y 財(価格一定)について
| 代替効果 | 所得効果 | 価格効果 | |
|---|---|---|---|
| 上級財 | 減少(割高) | 増加 | 不明 |
| 中立財 | 減少(割高) | 不変 | 減少 |
| 下級財 | 減少(割高) | 減少 | 減少 |
③ パターン② X 財の価格が上昇、Y 財の価格は一定(実質所得の減少)
X 財(価格上昇)について
| 代替効果 | 所得効果 | 価格効果 | |
|---|---|---|---|
| 上級財 | 減少(割高) | 減少 | 減少 |
| 中立財 | 減少(割高) | 不変 | 減少 |
| 下級財 | 減少(割高) | 増加 | 減少または不変 |
| ギッフェン財 | 減少(割高) | 大きく増加 | 増加 |
Y 財(価格一定)について
| 代替効果 | 所得効果 | 価格効果 | |
|---|---|---|---|
| 上級財 | 増加(割安) | 減少 | 不明 |
| 中立財 | 増加(割安) | 不変 | 増加 |
| 下級財 | 増加(割安) | 増加 | 増加 |
④ 表を読むときの注意点
Y 財の価格が一定で X 財の価格が変化した場合は、上の表の X 財と Y 財を入れ替えれば対応できます。 どちらの財の価格が動いたかを最初に確認してください。
表中の「下級財」は、ギッフェン財を除く下級財を指します。 ギッフェン財は下級財の一種ですが、所得効果が特に大きいものだけを指すので、別扱いにしています。
Y 財にギッフェン財が示されていないのは、Y 財は「価格一定」が前提だからです。 ギッフェン財はそれ自体の価格が変化する場合において定義されるものです。価格が動いていない財について、ギッフェン財かどうかを論じることはできません。
⑤ 「不明」となる場合
表のなかで「不明」となっているのは、代替効果と所得効果が逆向きで、しかもどちらが大きいか決まらない場合です。
パターン①の Y 財(上級財)を例にとりましょう。
2つが綱引きをしており、どちらが勝つかは効用関数の形によります。したがって価格効果の向きは一概に言えません。
⑥ 覚え方
表を丸暗記する必要はありません。次の2つのルールから毎回組み立てられます。
ルール1(代替効果) 割安になった財は増える、割高になった財は減る。財の種類は関係ない。
ルール2(所得効果) 実質所得が増えたとき、上級財は増える、中立財は変わらない、下級財は減る。実質所得が減ったときはすべて逆。
そのうえで、2つの向きが同じなら合計もその向き、逆向きなら大小関係しだい、と判断すればよいわけです。
⑦ 実質所得の増減の判定
もう1つ、押さえておくべきことがあります。実質所得が増えるか減るかの判定です。
価格が下がった財が上級財か下級財かは関係ありません。価格が下がれば予算集合は必ず拡大します。
具体例
3つのケースについて、2つの効果を合成してみましょう。
ケース1: X 財が上級財で、X 財の価格が低下
数値例で見てみましょう。
| 点 | X 財 |
|---|---|
| R(変化前) | 10 |
| S(代替効果後) | 14 |
| T(変化後) | 18 |
代替効果 、所得効果 、価格効果 。両方が同じ向きなので、価格効果は大きくなります。
ケース2: X 財が下級財(ギッフェン財ではない)で、X 財の価格が低下
| 点 | X 財 |
|---|---|
| R(変化前) | 10 |
| S(代替効果後) | 14 |
| T(変化後) | 12 |
代替効果 、所得効果 、価格効果 。逆向きの効果が打ち消し合い、価格効果は小さくなっています。それでも増加はしているので、需要曲線は右下がりのままです。
ケース3: Y 財が上級財で、X 財の価格が低下(Y 財の価格は一定)
2つの数値例を並べてみましょう。
代替効果が勝つ場合
| 点 | Y 財 |
|---|---|
| R | 8 |
| S | 5 |
| T | 6 |
代替効果 、所得効果 、価格効果 (減少)。
所得効果が勝つ場合
| 点 | Y 財 |
|---|---|
| R | 8 |
| S | 5 |
| T | 10 |
代替効果 、所得効果 、価格効果 (増加)。
同じ「Y 財が上級財」という条件でも、結果が正反対になりました。だから表では「不明」となっているわけです。
ステップ: 判定手順のまとめ
問題を解くときは、次の順に考えれば迷いません。
1. どちらの財の価格が動いたか、上がったか下がったかを確認する
2. 実質所得が増えたか減ったかを判定する(価格低下なら増加、上昇なら減少)
3. 代替効果の向きを決める(割安なら増加、割高なら減少)
4. 所得効果の向きを決める(財の種類と実質所得の増減から)
5. 2つを合成する(同じ向きなら確定、逆向きなら大小関係を確認)
試験のポイント
需要曲線が右上がりになる、といってもよいでしょう。ふつうは考えられない現象ですが、スルツキー分解の考え方により説明することができます。
③ なぜ価格上昇で消費が増えるのか
X 財がギッフェン財であり、その価格が上昇したとします(実質所得は減少します)。
代替効果 X 財は割高となり、消費量は減少します。
所得効果 ギッフェン財は「下級財」であるため、実質所得の減少により消費量は増加します。
合成 ギッフェン財は「代替効果の大きさ < 所得効果の大きさ」となるため、代替効果による消費量の減少幅よりも、所得効果による消費量の増加幅のほうが大きくなります。つまり、代替効果と所得効果を合わせた価格効果としては消費量が増加することとなります。
以上より、ギッフェン財はそれ自体の価格の上昇に対し消費量が増加することがわかります。
④ 価格が低下した場合
逆に価格が低下した場合は、次のようになります。
図で見ると、点 T が点 R より左側に来ます。価格が下がったのに、変化前より消費量が少なくなっているわけです。
⑤ 単なる下級財との違い
ここが試験で最も狙われるところです。
仮に下級財であったとしても、所得効果が代替効果より小さければ、点 T は点 R の右側(点 R と点 S の間)にくることになり、ギッフェン財とはなりません(単なる下級財です)。
図で3点の位置関係を確認しておきましょう。X 財の価格が低下したケースです。
| 財の種類 | 3点の並び(横軸) | 価格効果 |
|---|---|---|
| 上級財 | 増加 | |
| 下級財(ギッフェン財でない) | 増加 | |
| ギッフェン財 | 減少 |
点 S()が最も右に来るのは下級財に共通です。違いは点 T()が点 R()より右か左かにあります。
⑥ 誤りやすい記述
次のような入れ替えが頻出します。
価格が低下したのですから、代替効果は消費を増やす方向です(割安になったのだから)。そして所得効果が消費を減らす方向で、しかもそちらが大きい。これがギッフェン財です。効果の名前と向きの両方を取り違えないでください。
⑦ 現実に存在するのか
ギッフェン財は理論上の概念であり、現実に確認された例は極めて少ないとされています。名前の由来はイギリスの経済学者ロバート・ギッフェンで、19世紀アイルランドでジャガイモの価格が上昇したときに消費が増えた、という逸話が知られています。
主食のように家計支出に占める割合が非常に大きく、しかも下級財である、という条件がそろって初めて起こりうる現象です。現代の先進国ではまず見られません。
試験では「理論上ありうる」という前提で、条件と図の読み取りが問われます。現実味を考えずに、定義どおりに処理してください。
具体例
問題 次の記述について正誤を判断せよ。
「ギッフェン財は下級財であり、価格が低下した場合、代替効果に伴う消費の減少分が所得効果に伴う消費の増加分を上回る。」
(平成23年度 第19問 イ 改題)
ステップ1: 価格が低下したときの代替効果の向きを確認する
価格が低下したのだから、その財は割安になります。代替効果は割安になった財の消費を増やす方向に働きます。
記述では「代替効果に伴う消費の減少分」となっていますが、これが誤りです。
ステップ2: 所得効果の向きを確認する
価格が低下したので実質所得は増加します。ギッフェン財は下級財なので、実質所得が増えれば消費は減少します。
記述では「所得効果に伴う消費の増加分」となっていますが、これも誤りです。
ステップ3: 正しい記述に直す
「ギッフェン財は下級財であり、価格が低下した場合、所得効果に伴う消費の減少分が、代替効果に伴う消費の増加分を上回る。」
答え ×
ステップ4: 数値で確かめる
X 財の価格が低下したケースで、3つのパターンを並べてみましょう。
| 上級財 | 下級財(非ギッフェン) | ギッフェン財 | |
|---|---|---|---|
| 点 R の | 10 | 10 | 10 |
| 点 S の | 14 | 14 | 14 |
| 点 T の |
代替効果はどのケースでも で同じです(財の種類に依存しないため)。違いは所得効果にあります。
| 価格 | 消費量 |
|---|---|
| 高い(変化前) | 10 |
| 低い(変化後) | 8 |
価格が下がると消費量も減っています。これを価格と数量の平面に描けば、右上がりの需要曲線になります。
通常の需要曲線が右下がりになるのは、代替効果と所得効果の合計が「価格が下がれば消費が増える」方向になるからです。ギッフェン財はその例外にあたります。
ステップ6: 判定手順のまとめ
図からギッフェン財かどうかを判定するときは、次の1点だけを見ればよいことになります。
点 T が点 R より、価格が下がった財の側(横軸なら左)にあるか
これは「価格効果の向きが逆転しているか」を見ているだけです。点 S の位置は代替効果を確認するためのもので、判定そのものには使いません。

ギッフェン財
試験のポイント
といいます。資本量を 、労働量を とすると、総費用 は
で表すことができます。これを変形すると
となります。この数式から、グラフ上では右下がりの直線であることがわかります。
| 要素 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| 縦軸( 軸)切片 | 費用のすべてを資本に投入した場合の資本量 | |
| 横軸( 軸)切片 | 費用のすべてを労働に投入した場合の労働量 | |
| 傾きの絶対値 | 要素価格比率 |
資本のレンタル価格と賃金率の比を要素価格比率といい、等費用線の傾きの大きさ(絶対値)と等しくなります。
予算制約線とまったく同じ構造です。「所得」が「総費用」に、「財の価格」が「要素価格」に置き換わっただけだと考えてください。
③ 等費用線のシフト
等費用線は予算制約線と同様、次のように動きます。
| 変化 | 縦軸切片 | 横軸切片 | 傾き |
|---|---|---|---|
| レンタル価格 の上昇 | 下に移動 | 不変 | 緩やかになる |
| 賃金率 の上昇 | 不変 | 左に移動 | 急になる |
| 総費用 の増加 | 上に移動 | 右に移動 | 不変(右にシフト) |
④ 等産出量曲線(等量曲線)
一方、等産出量曲線(等量曲線)とは、産出量が一定になる資本と労働の組み合わせを結んだ線です。
通常は、資本を減らすと同じ産出量を維持するためには労働を増加させなければならないため、等産出量曲線の形状は右下がりとなります。
また、労働投入量が1単位増加したとき、生産量を維持する前提で減らせる資本投入量を、労働の資本に対する技術的限界代替率といいます。これは、グラフ上では等産出量曲線への接線の傾き(の絶対値)で表されます。
さらに、等産出量曲線には次の特徴があります。
無差別曲線の性質とそっくりであることに気づいてください。「同じ効用」が「同じ産出量」に置き換わっただけです。
⑤ 費用最小化点
等費用線と等産出量曲線を使って費用最小化点を導出します。
ある等産出量曲線 の上に3つの点 A、B、C をとります。3点とも同じ等産出量曲線上の点であるため、どの点も同じ産出量です。さらに、等費用線は右側へ行くほど総費用が大きいため、最も左下の等費用線に乗っている点が、この等産出量曲線上の点で最も費用が小さい点になります。
このような点を費用最小化点といい、通常、等費用線と等産出量曲線の接点で与えられます。
そして、この点において
技術的限界代替率 = 要素価格比率
が一致しています(等産出量曲線の接線の傾きと等費用線の傾きが一致している、ということです)。
なお、1つの産出量に対して費用を複数考えることで費用最小化点を導出しましたが、1つの費用に対して生産量を最大化するケースにも応用できます。
⑥ 2財モデルとの対応
最後に、2財モデルと等費用線・等産出量曲線を使ったモデルの比較をまとめておきます。
| 2財モデル(消費者) | 等費用線・等産出量曲線モデル(企業) | 備考 |
|---|---|---|
| 所得全部を使って購入できる Y 財の量 | 費用のすべてを資本に投入した場合の資本量 | 縦軸の切片 |
| 所得全部を使って購入できる X 財の量 | 費用のすべてを労働に投入した場合の労働量 | 横軸の切片 |
| 無差別曲線 | 等産出量曲線 | 一般的には右下がり、交わらない |
| 限界代替率 | 技術的限界代替率 | 曲線への接線の傾きの大きさの絶対値 |
| 2財の価格比 | 要素価格比率 | 予算制約線・等費用線の傾き |
| 最適消費点 | 費用最小化点 | それぞれの接点 |
この対応表を頭に入れておけば、片方を理解していればもう片方も同じ要領で処理できます。用語が入れ替わるだけで、図の読み方はまったく同じです。
具体例
問題 下図には、等費用線が描かれている。縦軸が資本、横軸が労働で、縦軸切片を A、横軸切片を B とする。この等費用線に関する記述として、最も適切なものを選べ。
(平成29年度 第15問)
ステップ1: 等費用線の式を確認する
ステップ2: 各選択肢を判定する
ア は誤り 資本のレンタル価格 が上昇すると、縦軸切片 は小さくなるので、切片 A は下方に移動します。上方ではありません。なお横軸切片は
イ は正しい 縦軸切片 は、費用のすべてを資本に投入した場合の資本量を表します。これはすなわち資本の最大投入可能量です。
ウ は誤り 賃金率 が上昇すると、動くのは横軸切片 のほうです。 が大きくなるので横軸切片 B は左方に移動します。縦軸切片は を含まないので不変です。選択肢は動く切片を取り違えています。
エ は誤り 費用 が減少すると、縦軸切片 も横軸切片
答え イ
ステップ3: 数値で確かめる
総費用 万円、レンタル価格 万円、賃金率 万円とします。
レンタル価格が30万円に上昇した場合
賃金率が40万円に上昇した場合
総費用が90万円に減少した場合
両切片とも小さくなり、傾きは不変なので左方への平行シフトです。
ステップ4: 費用最小化点を求める
続いて、産出量を一定に保ったまま費用を最小にする組合せを求めてみましょう。
生産関数を 、産出量を に固定します。すると等産出量曲線は
技術的限界代替率は、この曲線への接線の傾きの絶対値です。 を微分すると
費用最小化条件は「技術的限界代替率 = 要素価格比率」なので
等産出量曲線に代入すると
、
このときの総費用は
万円
ステップ5: 他の組合せと比べる
同じ産出量6を実現する別の組合せで費用を計算してみましょう。
| 総費用 | ||
|---|---|---|
| 3 | 12.0 |
確かに のところで費用が最小になっています。接点が費用最小化点である、ということが数値でも確認できました。
なお、費用最小化点では資本への支出と労働への支出が等しく147万円ずつになっています。これは生産関数の指数が と で等しい(どちらも0.5)ためで、消費者のコブ・ダグラス型効用関数で支出比が指数比になったのと同じ性質です。

等費用線・等産出量曲線と費用最小化点
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
ステップ7: 所得効果につなげる
692円から実際の1,200円まで、 円ぶん予算が増える。この増加が次のテーマで扱う所得効果を生みます。
両方とも増えているので、この消費者にとって X 財も Y 財も上級財だとわかります。
| L | 価格下落後の最適消費点(点 T にあたる) |
ア は誤り X 財に生じた所得効果は線分 HI の長さで正しいのですが、Y 財に生じた所得効果は点 K(縦軸 )から点 L(縦軸 )への変化なので、線分 DF の長さで測定されます。線分 EF は代替効果のほうです。
イ は誤り X 財の消費量は から へ、線分 GI の長さに相当する分だけ増加しています。価格が下がって消費が増えているので、ごく普通の反応です。
ウ は誤り 価格低下に対して消費量が増加しており、かつ所得効果()でも消費量が増加していることから X 財は上級財です。ギッフェン財は下級財でなければならないので、あてはまりません。
エ は正しい Y 財の代替効果の絶対値は線分 EF の長さ(、減少)に相当し、所得効果の絶対値は線分 FD の長さ(、増加)に相当します。図では FD のほうが EF より長いので、所得効果の絶対値のほうが大きいことになります。
オ は誤り 座標 も座標 も、ともに無差別曲線 上にあります。したがって効用水準は同じです。代替効果では効用水準を変えない、という定義を思い出してください。
答え エ
ステップ4: 解き方の手順を固定化する
この種の図の問題は、次の手順で処理できます。
| 18 |
| 12 |
| 8 |
| 代替効果 |
| 所得効果 |
| 価格効果 |
ギッフェン財のときだけ価格効果が負になり、「価格が下がったのに消費が減る」という現象が起きています。
ステップ5: 需要曲線の形を確かめる
このギッフェン財について、価格と消費量の対応を書いてみましょう。
| 4.9 | 7.35 |
| 8 | 4.5 |