市場均衡と厚生分析
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プレミアムで見るこの節では、消費者、生産者(企業)の厚生を測る指標として使われる消費者余剰、生産者余剰という概念について学びます。また、余剰を用いて政策の効果を分析します。余剰とは「取引による利益」ととらえればよいでしょう。社会全体での余剰(社会的総余剰)は、完全競争市場の場合が最も大きくなります。政府の介入が見られる場合や不完全競争の場合は、それよりも社会的総余剰が小さくなります。この節の武器は「面積」です。縦が1単位あたりの金額、横が数量、その掛け算である面積が総額を表す。この対応さえ体に入れば、課税も補助金も価格規制も、すべて同じ図の読み方で分析できるようになります。
簡単にいうと
「500円まで出してもいいと思っていた商品が300円で買えた」。この差額200円が消費者余剰だよ!需要曲線には、実はもう1つの読み方があるんだ。「この価格なら買ってもいい」という気持ちの高さを表している、という読み方!
① 需要曲線の別の解釈
余剰を理解する第一歩は、需要曲線の読み方を切り替えることです。
これまでは「価格が決まると需要量が決まる」と横方向に読んできました。ここでは縦方向に、「この数量に対して、消費者はいくらまで払う気があるか」と読みます。
需要曲線の高さ → 消費者が支払うつもりのある額
② 具体例で確認する
自動車に対する需要が次の表で与えられているとします。
| 価格(万円) | 300 | 250 | 200 | 150 | 100 |
|---|---|---|---|---|---|
| 需要量(台数) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
具体例
問題 下図には、右下がりの直線の需要曲線が描かれている。縦軸切片を A、横軸切片を B とし、価格 に対応する需要曲線上の点を E、そのときの数量を とする。この図に関する記述 a〜c の正誤を判定せよ。
(令和4年度 第11問)

消費者余剰
試験のポイント
簡単にいうと
今度は売り手の番!「100円でも売る気があったのに200円で売れた」。この差が生産者余剰だよ。ポイントは「収入 − 可変費用」であって「収入 − 総費用」ではないこと。固定費用を引かないのがミソ!
① 生産者余剰の定義
消費者側の厚生を表現するのに消費者余剰が用いられるのに対し、企業側の厚生を表現するには生産者余剰という概念が使われます。
生産者余剰とは、供給者が取引によって得る利益のことであり、収入から可変費用を引くことで求めることができます。固定費用は取引が発生しなくても生じる費用であるため、考慮しません。
② 財務・会計との対応
財務・会計で学ぶ損益計算の構造と並べてみましょう。
| 財務・会計 | 経済学 |
|---|---|
簡単にいうと
消費者余剰と生産者余剰を足すと社会全体の取り分になる!それが社会的総余剰だよ。そしてこの章のいちばん大事な結論が「完全競争市場で総余剰は最大になる」。政府が余計なことをすると、かえって減ってしまうんだ。
① 社会的総余剰の定義
社会全体で享受する余剰は、社会的総余剰とよばれ、以下のように定義されます。
社会的総余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府の余剰
② 政府の余剰とは
政府の余剰とは、税収などの政府の収入(プラスの余剰)や補助金の拠出など政府の支出(マイナスの余剰)を指します。政府の政策を考慮しなければ、この項目はゼロとなります。
税収はプラス、補助金支出はマイナス。この符号を取り違えないようにしてください。
③ 完全競争市場における社会的総余剰
政府の介入がない完全競争市場では、政府の余剰はゼロです。したがって
簡単にいうと
政府が税金をかけると何が起きる?余剰で測ってみよう!消費者余剰も生産者余剰も減るけど、政府に税収が入るから全部が失われるわけじゃない。でも差し引きすると必ず損が残る。その三角形が死荷重だよ!
① 分析の設定
生産1単位につき 円の従量税が課されることの、社会的総余剰への効果を考えます。
需要曲線は 、課税前の供給曲線は
簡単にいうと
税金を納めるのは企業なのに、なぜか消費者も負担している。これが税の転嫁だよ!誰がどれだけ負担するかは、需要と供給のどちらが「逃げにくいか」で決まるんだ。計算問題でもよく出るところ!
① 税の転嫁とは
課税前と比較して消費者の支払い価格は
簡単にいうと
補助金は良いことばかり?実は補助金でも死荷重が発生するんだ!政府の支出はマイナスの余剰として計上するのがポイント。価格規制も同じで、市場に手を入れると総余剰は減ってしまう。ここが第3章の結論だよ。
① 生産補助金の設定
政府が生産の拡大を促すために生産者に補助金を交付した場合の効果を考えます。生産1単位につき 円の補助金が交付されたとします。
需要曲線は 、補助金交付前の供給曲線は
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この自動車について、価格が300万円では1台の需要が発生し、250万円になるともう1台の需要が発生して需要量は合計で2台となります。このように価格が下がるほど、「この価格だったら買ってもよい(対価を支払って購入する意思がある)」と考える人が増加することで需要量が増えていきます。
読み方の注意 「価格が300万円で1台の需要、価格が250万円で2台の需要があるので、価格が250万円なら市場全体で3台需要がある」ということではありません。「価格が300万円なら市場全体で1台の需要がある。価格が250万円であれば、市場全体では300万円支払ってもよいと考える人(1人)に加えて、250万円なら支払ってもよいと考える人(1人)が現れ、合計2台の需要が発生している」ということになります。
③ 需要曲線の下の面積
200万円という価格が成立しており(市場均衡価格 = 200万円)、3台が消費されているとしましょう。このとき、この3台全体に対し、消費者の支払うつもりのある総額は
(万円)
と求められます。これは、3台までの需要曲線の下側の面積に等しくなります。
需要曲線の下、需要量より左の面積 → 消費者が支払うつもりのある総額
この総額は支払意思額とも呼ばれます。
④ 消費者余剰の定義
消費者余剰とは、消費者が支払うつもりがある額と、実際に支払った額の差額のことです。おおまかにいえば「消費者が支払わなくて済んだ金額の合計」です。
支払うつもりのある額とは、言い換えれば、消費者の財に対する評価(便益: 効用を貨幣評価したもの)を表しています。よって、消費者余剰が大きいとは、高く評価している財を少ない支払いで購入することができたということを意味します。
このように、消費者余剰の大きさは、消費者が受ける正味の便益の大きさを表現しているものと解釈できるため、消費者の厚生を表す1つの指標として使われます。
⑤ 数値で計算する
先ほどの例で、200万円という価格が成立しているときの消費者余剰を計算してみましょう。
消費者余剰 = 消費者の支払うつもりの額 − 実際に支払う額
(万円)
⑥ グラフでの読み取り方
支払うつもりのある額は棒グラフの面積に等しく、実際に支払った額600万円はそのうち価格の高さまでの長方形にあたります。差額である上側の部分が消費者余剰です。
通常使われる滑らかな需要曲線にも同じ考え方を適用すればよいことになります。
消費者余剰の大きさ → 需要曲線より下、価格より上、取引量より左の面積
需要曲線が直線であれば、この領域は三角形になるので「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。
⑦ 限界価値という言葉
需要曲線の高さは、限界価値とも呼ばれます。限界価値とは、消費を追加的に1単位増やす場合に、どれだけ余分に支払ってもよいか(消費者が支払うつもりのある額)を意味するものです。
需要曲線は右下がりなので、消費量が増えるほど限界価値は低下します。第2章で学んだ限界効用逓減の法則が、貨幣単位で表現されたものだと考えてください。
ステップ1: a を判定する
a は正しい。 限界価値とは消費を追加的に1単位増やす場合に、どれだけ余分に支払ってもよいか(消費者が支払うつもりのある額)を意味するものです。
価格が下落すると需要量は増加します。需要曲線は右下がりですから、需要量が増えた先では需要曲線の高さは低くなっています。つまり限界価値は低下します。
ステップ2: b を判定する
b は誤り。 支払意思額(消費者が支払うつもりのある総額)は、需要曲線の下・数量より左の面積です。したがって四角形 で示されます。
三角形 のほうは、支払意思額から実際の支払額を引いた残り、つまり消費者余剰にあたります。
ステップ3: c を判定する
c は正しい。 消費者の実際の支払額は
(価格)(数量)= 四角形
で示されます。縦が価格、横が数量の長方形です。
答え a: 正、b: 誤、c: 正
ステップ4: 3つの領域を整理する
この図には3つの領域が現れます。混同しないよう表にまとめておきましょう。
| 領域 | 意味 | 求め方 |
|---|---|---|
| 四角形 | 支払意思額(支払うつもりのある総額) | 需要曲線の下・数量より左 |
| 四角形 | 実際の支払額 | 価格 × 数量 |
| 三角形 | 消費者余剰 | 支払意思額 − 実際の支払額 |
「支払意思額 = 消費者余剰 + 実際の支払額」という関係を押さえておけば、どれを問われても答えられます。
ステップ5: 数値で確かめる
需要曲線を とし、価格が30、数量が60のときを考えます。
三角形として直接計算しても確かめられます。
一致しました。直線の需要曲線なら、「(縦軸切片 − 価格)× 数量 ÷ 2」で一発です。
| 収入 |
| − 変動費 | − 可変費用 |
| 限界利益 | 生産者余剰 |
| − 固定費 | − 固定費用 |
| 利益 | 利潤 |
生産者余剰は、財務・会計でいう限界利益(貢献利益)に相当します。ここから固定費用を引いたものが利潤です。したがって
という関係になります。生産者余剰と利潤は別物である、という点に注意してください。
③ 限界費用の合計としての可変費用
また、第1章で学習したように、可変費用は限界費用の合計です。よって、生産者余剰は収入から限界費用の合計を引くことによって求められることになります。
生産者余剰 = 収入 − 可変費用 = 収入 − 限界費用の合計
④ 具体例で確認する
企業の限界費用が次の表で与えられているとします。
| 生産量(台数) | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
|---|---|---|---|---|---|
| 限界費用(万円) | 50 | 100 | 150 | 200 | 250 |
つまり、最初の1台目を生産するには50万円の追加的な費用がかかり、次の1台を生産するには追加的に100万円の費用が発生する、という関係が成立しています。
⑤ 限界費用曲線の下の面積
ここで、3台生産するのにかかる可変費用を考えます。可変費用は、限界費用の合計で求めることができます。
3台生産するための可変費用
= (はじめの1台を生産する限界費用)+(次の1台を生産する限界費用)+(次の1台を生産する限界費用)
(万円)
可変費用は限界費用の合計であるから、可変費用は限界費用曲線(= 供給曲線)の下側の面積で求めることができます。
限界費用曲線の下、供給量より左の面積 → 可変費用の総額
⑥ グラフでの読み取り方
完全競争市場の場合、企業はプライステイカーであり、限界費用曲線が供給曲線となりました。したがって価格 が成立しているとすると、供給量は限界費用曲線から となります。したがって
生産者余剰 = 収入()− 可変費用(限界費用曲線の下の面積)
と表すことができます。
生産者余剰の大きさ → 供給曲線より上、価格より下、取引量より左の面積
消費者余剰とちょうど上下を反転させた読み方になっています。
⑦ 数値で計算する
市場価格が200万円、市場での取引量(供給量)が3台の場合の生産者余剰を計算してみましょう。
生産者余剰 = 収入 − 3台生産するための可変費用
(万円)
具体例
問題 短期の完全競争市場下における価格と企業の生産との関係を考える。下図には、ある財の生産に関する限界費用曲線 MC、平均費用曲線 AC および平均可変費用曲線 AVC が描かれており、価格が与えられると企業は最適生産を実現するものとする。ただし、 は AC の最小値、 は AVC の最小値に対応している。価格が のときの生産量を 、そのときの MC 上の点を C、AC 上の点を D、AVC 上の点を E とし、それぞれの高さに対応する縦軸上の点を 、A、B とする。価格が のときの生産者余剰として、最も適切なものはどれか。
(令和6年度 第16問(設問1))
ステップ1: 収入を面積で表す
収入 = 価格 × 生産量 = 四角形
縦が価格 、横が生産量 の長方形です。
ステップ2: 可変費用を面積で表す
可変費用 = 平均可変費用 × 生産量 = 四角形
平均可変費用は「1単位あたりの可変費用」ですから、生産量を掛ければ総額になります。AVC 曲線上の点 E の高さが平均可変費用です。
ステップ3: 生産者余剰を求める
生産者余剰 = 収入 − 可変費用 = 四角形 − 四角形 = 四角形
答え オ
ステップ4: 他の選択肢が何を表すかを確認する
| 選択肢 | 表すもの |
|---|---|
| 四角形 | (平均費用 − 平均可変費用)× 生産量 = 固定費用 |
| 四角形 | 平均費用 × 生産量 = 総費用 |
生産者余剰(オ)と利潤(エ)を取り違えないことが、この問題の要点です。2つの差がちょうど固定費用(ア)になっている点も確認しておきましょう。
| 縦の長さ | 横の長さ | 面積の意味 |
|---|---|---|
| 価格 | 数量 | 総収入 |
| 平均費用 | 数量 | 総費用 |
| 平均可変費用 | 数量 | 可変費用 |
| 平均費用 − 平均可変費用 | 数量 | 固定費用 |
| 価格 − 平均費用 | 数量 | 利潤 |
| 価格 − 平均可変費用 |
第1章第3節で学んだ「縦が1単位あたり、横が数量、面積が総額」という対応が、ここでも効いています。
ステップ6: 供給曲線の下の面積でも確かめる
供給曲線 、価格30、数量60のときの生産者余剰を計算してみましょう。

生産者余剰
試験のポイント
需要曲線の縦軸切片を A、供給曲線の縦軸切片を O(原点を通る場合)、均衡点を E、均衡価格を とすると
となります。つまり社会的総余剰は、需要曲線と供給曲線に挟まれた、均衡取引量までの三角形にあたります。
④ 競争均衡と社会的総余剰
完全競争市場では社会的総余剰が最大化される
完全競争市場では、政府の介入が行われていないときに社会的総余剰が最も大きくなるということがわかっています。つまり、政府の介入がなく、各経済主体の自由な取引が行われているときに、社会の享受できる余剰が最も大きくなります。
⑤ なぜ均衡取引量で最大になるのか
理由を考えておきましょう。ある数量における需要曲線の高さは消費者の評価(限界価値)、供給曲線の高さは生産の追加費用(限界費用)でした。
したがって、需要曲線と供給曲線が交わる数量で社会的総余剰は最大になります。この考え方は、次のテーマ以降で死荷重がなぜ生じるのかを理解する土台になります。
⑥ 余剰の分け方は問わない
ここで注意しておきたいのは、社会的総余剰は「大きさ」だけを見ており、それが消費者と生産者のどちらにどう分かれるかは問題にしていない、という点です。
たとえば、消費者余剰が大きく生産者余剰が小さい状態と、その逆の状態とで、合計が同じであれば社会的総余剰としては同じ評価になります。分配の公平性は別の観点である、ということです。
この割り切りは、第4節で学ぶパレート効率性の考え方とも通じています。「効率的であること」と「公平であること」は別の話だ、というのが経済学の立場です。
⑦ 面積の求め方
社会的総余剰は三角形になることが多いので、「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。
需要曲線と供給曲線が直線であれば、この計算で一発です。
具体例
需要関数 、供給関数 の市場で、余剰を計算してみましょう。前節で求めたとおり、均衡価格は30、均衡取引量は60です。
ステップ1: 価格について解いた形に直す
ステップ2: 消費者余剰を求める
需要曲線より下、価格30より上、数量60より左の三角形です。
ステップ3: 生産者余剰を求める
供給曲線より上、価格30より下、数量60より左の領域です。供給曲線は で横軸と交わるので、 の部分では供給曲線が横軸より下にあります。実際には価格ゼロ以下では供給されないので、 から までは長方形、
ステップ4: 社会的総余剰を求める
政府の介入がないので政府余剰はゼロです。
ステップ5: 均衡以外の取引量と比べる
取引量を40に制限した場合を考えてみましょう。
消費者の評価40が限界費用10を上回っています。この1単位を取引すれば社会全体で30の余剰が生まれるのに、取引していないわけです。
から までの区間について、この「取り逃がした余剰」を足し合わせると
つまり取引量を40に制限すると、社会的総余剰は に減ってしまいます。
ステップ6: 取引量を増やしすぎた場合
逆に取引量を80に増やしたらどうなるでしょうか。
今度は限界費用50のほうが消費者の評価20を上回っています。この1単位をつくることは、社会全体で30の損失を生みます。
から までの損失は
社会的総余剰は に減ります。
ステップ7: 結論を確かめる
| 取引量 | 社会的総余剰 |
|---|---|
| 40 | 1,950 |
| 60(均衡) | 2,250 |
| 80 | 1,950 |
少なすぎても多すぎても総余剰は減り、均衡取引量でちょうど最大になっています。「完全競争市場では社会的総余剰が最大化される」という結論が、数値でも確認できました。

消費者余剰と生産者余剰
試験のポイント
② 課税前の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 四角形 (支払うつもりのある額)− 四角形 (支払う額) |
| 生産者余剰 | 四角形 (収入)− 三角形 (可変費用) |
| 社会的総余剰 |
③ 課税による供給曲線のシフト
ここで生産者に従量税が課されたとします。第1章第5節で学習したように、 円の従量税は供給曲線を だけ上にシフトさせるので、新しい供給曲線は となり、課税後の均衡点は点 B となります。市場均衡価格は となります。しかし、生産者が受け取る価格は税金 分だけ低い となります。
課税後の取引量を 、新供給曲線 の縦軸切片を G、 における課税前の供給曲線
④ 課税後の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 四角形 − 四角形 |
| 生産者余剰 | 四角形 (収入)− 三角形 |
| 政府の余剰(税収) | 四角形 |
| 社会的総余剰 | 四角形 |
生産者余剰を求める際には、税額を控除することに注意します(従量税の支払い分も可変費用となります)。ここを忘れると生産者余剰を過大に計算してしまいます。
⑤ 別の表し方
余剰を表す場合には、その形状ではなく面積(余剰の大きさ)に重点が置かれます。したがって、生産者余剰と政府余剰については次のように表すこともできます。
| 項目 | 別の表し方 |
|---|---|
| 生産者余剰 | 四角形 (税金支払い分を差し引いた収入)− 三角形 (可変費用) |
| 政府余剰(税収) | 四角形 |
どちらの表し方でも面積は同じです。問題の選択肢がどちらの形で書かれていても対応できるようにしておきましょう。
⑥ 死荷重
課税前の社会的総余剰は 、課税後は四角形 でした。その差が課税によって失われた余剰です。
課税の導入は、社会的総余剰の減少をもたらすことになります。課税によって失われてしまった余剰()のことを課税による死荷重(dead weight loss)もしくは厚生の損失といいます。
⑦ なぜ死荷重が生じるのか
死荷重の正体は、「本来なら行われるはずだった取引が行われなくなったこと」による損失です。
課税によって取引量は から に減りました。この から
三角形 の面積は
で求められます。税額 が大きいほど、また取引量の減り方が大きいほど、死荷重は大きくなります。
⑧ 死荷重の大きさを決めるもの
取引量がどれだけ減るかは、需要と供給の弾力性で決まります。
課税の効率性を論じるときの基本的な視点です。生活必需品のように需要が非弾力的な財に課税すると、死荷重は小さくて済みます(ただし公平性の観点からは別の問題が生じます)。
具体例
需要関数 、供給関数 の市場に、1単位あたり15の従量税を課した場合の余剰を計算してみましょう。
ステップ1: 課税前の状態を確認する
ステップ2: 課税後の供給曲線を求める
供給曲線を価格について解くと です。従量税15を課すと、供給曲線は15だけ上にシフトします。
数量について解くと です。
ステップ3: 課税後の均衡を求める
課税後の均衡価格(消費者が支払う価格)、取引量
生産者が受け取る価格は です。
ステップ4: 課税後の消費者余剰を求める
課税前の900から625へ、275減少しました。
ステップ5: 課税後の生産者余剰を求める
生産者が実際に受け取る価格は20です。もとの供給曲線 のもとで、価格20・数量50に対応する生産者余剰を求めます。
( から30までは供給曲線が横軸以下なので長方形、30から50までが三角形)
課税前の1,350から800へ、550減少しました。
ステップ6: 政府の余剰(税収)を求める
ステップ7: 課税後の社会的総余剰を求める
ステップ8: 死荷重を求める
三角形として直接計算しても確かめられます。
一致しました。
ステップ9: 結果を表にまとめる
| 項目 | 課税前 | 課税後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 消費者余剰 | 900 | 625 | |
| 生産者余剰 | 1,350 | 800 | |
| 政府の余剰 |
消費者と生産者が失った合計は ですが、そのうち750は政府の税収として社会の中に残っています。差し引き75だけが、どこにも行かずに消えてしまった。これが死荷重です。
ステップ10: 生産者余剰の計算で税額を引き忘れると
もし税額を引かずに、価格35で生産者余剰を計算してしまうと

課税の余剰分析と死荷重
試験のポイント
課税対象(税金を納める経済主体)はあくまで企業であるが、課税により市場均衡価格が上昇することで実質的には消費者も税の一部を負担していることになる。
これを税の転嫁といい、消費者と生産者それぞれの税負担のことを消費者の税負担、生産者の税負担といいます。
② 税収と負担の内訳
税収(政府余剰)= 消費者の税負担分 + 生産者の税負担分
それぞれ次の式で求められます。
| 項目 | 計算式 |
|---|---|
| 税収 | 1単位あたり税額()× 取引量() |
| 消費者の税負担分 | 消費者支払価格の上昇分()× 取引量() |
| 生産者の税負担分 | 生産者受取価格の下落分()× 取引量() |
図の上では、税収を表す長方形が均衡価格 の高さで上下に分かれ、上側が消費者の負担、下側が生産者の負担になります。
③ 負担割合は何で決まるのか
誰がより多く負担するかは、需要と供給の価格弾力性で決まります。直感的には「逃げにくいほうが多く負担する」と覚えるとよいでしょう。
| 状況 | 負担が重いのは |
|---|---|
| 需要が非弾力的(曲線が立っている) | 消費者 |
| 供給が非弾力的(曲線が立っている) | 生産者 |
| 需要が完全に非弾力的(垂直) | 消費者が全額負担 |
| 供給が完全に非弾力的(垂直) | 生産者が全額負担 |
| 需要が完全に弾力的(水平) | 生産者が全額負担 |
| 供給が完全に弾力的(水平) | 消費者が全額負担 |
弾力的であるということは、価格が変わったときに数量を大きく変えられるということです。つまり「他へ逃げられる」ので、負担を押し付けられずに済みます。逆に非弾力的な側は逃げ場がないので、負担が回ってきます。
たばこや酒に高い税が課されているのは、これらの需要が非弾力的で、税収を確保しやすいからだと説明されることがあります。
④ 従価税の場合
なお、生産者に従価税を課すケースもあります。その場合の課税後の供給曲線は、課税前の供給曲線よりも傾きが大きく(傾きが急に)なりますが(第1章第5節参照)、余剰の考え方は従量税と変わりません。
課税後の均衡を求め、消費者が支払う価格と生産者が受け取る価格の差が1単位あたりの税額になる、という構造は同じです。
⑤ 消費者に課税するケース
ほかに、消費者に課税するケースもあります。購入価格が、生産者の出荷する価格に税金を上乗せした価格となっているケースです。この場合、供給曲線の上方(左方)シフトではなく、需要曲線の下方(左方)シフトで図示することがあります。余剰の考え方は、供給曲線の上方(左方)シフトの場合と同様です。
ここが重要な点です。法律上どちらに課税しても、経済的な負担の配分は変わりません。 消費者に課税しても生産者に課税しても、消費者が支払う価格と生産者が受け取る価格の差は になり、取引量も死荷重も同じになります。
「誰に課税するか」は形式上の問題であって、実質的な負担は市場の弾力性で決まる。これが税の転嫁という考え方の要点です。
⑥ 図で確認する手順
課税の問題は、次の手順で処理すれば確実です。
1. 課税前の均衡(、)を求める
2. 供給曲線を だけ上にシフトさせて、課税後の均衡(、)を求める
3. 生産者の受取価格 を求める
4. 消費者余剰(需要曲線と の間)、生産者余剰(供給曲線と の間)、税収(
5. 課税前の総余剰との差が死荷重
具体例
前のテーマと同じ市場で、税の負担がどう分かれるかを計算してみましょう。
設定 需要関数 、供給関数 、従量税 。
課税前: 、
課税後: 、、
ステップ1: 価格の変化分を求める
ステップ2: 税負担の内訳を求める
ステップ3: 負担割合を確かめる
生産者のほうが2倍多く負担しています。
ステップ4: なぜ生産者のほうが重いのかを確かめる
均衡点における弾力性を計算してみましょう。
需要の価格弾力性
供給の価格弾力性
供給の弾力性0.5のほうが、需要の弾力性1.0より小さくなっています。つまり供給のほうが非弾力的であり、逃げ場が少ない生産者に負担が多く回った、というわけです。
ステップ5: 負担割合と弾力性の関係
一般に、次の関係が成り立ちます。
この例では で、実際の負担比
ステップ6: 極端なケースを確かめる
供給が完全に弾力的(水平)な場合
供給曲線が水平ということは、その価格でいくらでも供給されるということです。課税後も生産者が受け取る価格は変わらないので、 となり、価格上昇分がすべて消費者に転嫁されます。
需要が完全に非弾力的(垂直)な場合
価格がいくら上がっても需要量が変わらないので、生産者は全額を価格に上乗せできます。、
需要が完全に弾力的(水平)な場合
少しでも値上げすると需要がゼロになるので、生産者は価格を上げられません。、
ステップ7: 消費者に課税した場合と比べる
同じ市場で、消費者に1単位あたり15の税を課したとしましょう。消費者が実際に支払う総額は「生産者への支払い + 税」になるので、需要曲線は15だけ下にシフトします。
需要曲線 が になります。供給曲線
です。これが生産者の受取価格 で、消費者が支払う総額は
| 生産者に課税 | 消費者に課税 | |
|---|---|---|
| 取引量 | 50 | 50 |
| 消費者の支払価格 | 35 | 35 |
| 生産者の受取価格 | 20 | 20 |
| 税収 | 750 | 750 |
| 死荷重 | 75 | 75 |
まったく同じ結果になりました。誰に課税しても実質的な負担は変わらない、ということが数値で確認できます。

税の転嫁と消費者・生産者の負担
試験のポイント
② 補助金交付前の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | |
| 生産者余剰 | |
| 社会的総余剰 |
(C は需要曲線の縦軸切片、G は供給曲線の縦軸切片)
③ 補助金による供給曲線のシフト
補助金の交付を受けた生産者にとって、生産1単位につき 円の費用の低減が生じます。このため、供給曲線を だけ下にシフトさせると、新しい供給曲線は となり、補助金交付後の均衡点は点 B(価格 、数量 )となります。
補助金の交付は生産費用の一部を政府が負担することとなり、生産量は から へと増加します。
課税が供給曲線を上にシフトさせて取引量を減らしたのとちょうど逆の動きです。
④ 補助金額の計上
補助金額は、1単位あたりの補助金 円と生産量 の積であり、四角形 に等しくなります(E は
歳出である補助金は、マイナスの余剰として計上されます。
ここが補助金の分析でいちばん間違えやすいところです。税収がプラスの余剰だったのに対し、補助金はマイナスの余剰になります。
⑤ 補助金交付後の余剰
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | |
| 生産者余剰 | |
| 政府の余剰(補助金) | 四角形 |
| 社会的総余剰 |
⑥ 補助金による死荷重
補助金を交付しても、社会的総余剰は減ってしまいます。消費者余剰も生産者余剰も増えるのですが、それを上回る額の補助金を政府が支出するためです。
⑦ なぜ補助金でも死荷重が生じるのか
補助金によって取引量は から に増えました。しかしこの から
つまり「つくるのにかかる費用のほうが、消費者が認める価値より大きい」取引が行われている、ということです。社会全体で見れば、その差額だけ損をしています。
補助金は、そうした本来なら行われないはずの取引を無理に発生させているわけです。だから死荷重が生じます。
市場の失敗(後述)がない限り、市場での自由な取引によって社会的総余剰は最大化され、政府の介入はかえって余剰を減少させてしまうことになります。
⑧ 価格規制の余剰分析
価格の上限規制や下限規制についても、同じ考え方で分析できます。
価格の下限規制(最低賃金制度や農産物の価格支持政策など)を例にとりましょう。均衡価格 より高い の水準で価格の下限が規制されたとします。
に価格規制された場合の需要量は から に減少します。一方、価格上昇により供給量は増加しそうですが、需要量より多く生産しても売れ残ってしまうため、供給量も需要量
また、価格規制(政府の介入)が行われていますが、政府には税収や補助金支出が発生していないため、政府余剰はゼロです。 ここも間違えやすい点です。
⑨ 価格規制の余剰計算
需要曲線の縦軸切片を 、供給曲線の縦軸切片を 、規制価格
規制前
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | |
| 生産者余剰 | |
| 社会的総余剰 |
規制後
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | |
| 生産者余剰 | 四角形 |
| 政府余剰 | ゼロ |
| 社会的総余剰 | 四角形 |
価格規制により社会的総余剰は最大化されないので、パレート最適は実現しません(次節参照)。
⑩ 政策ごとの整理
| 政策 | 取引量 | 政府余剰 | 死荷重 |
|---|---|---|---|
| 課税 | 減少 | プラス(税収) | 生じる |
| 補助金 | 増加 | マイナス(支出) | 生じる |
| 価格の上限規制 | 減少 | ゼロ | 生じる |
| 価格の下限規制 | 減少 | ゼロ | 生じる |
どの政策でも死荷重が生じる、というのが完全競争市場における結論です。ただし、第5章で学ぶ「市場の失敗」がある場合には、政府の介入がかえって総余剰を増やすことがあります。この節の結論には「市場の失敗がない限り」という但し書きが付いている、という点を忘れないでください。
具体例
問題 下図は、最低賃金制度や農産物の価格支持政策のような価格の下限規制を描いたものである。完全競争市場における均衡は、需要曲線 と供給曲線 の交点 E で実現し、均衡価格は 、均衡量は である。ここで、均衡価格より高い の水準で価格の下限が規制されたとする。このとき、取引量は に減少する。 における需要曲線上の点を G、供給曲線上の点を F とする。この図の説明として、最も不適切なものを選べ。
(平成22年度 第10問)
ステップ1: 規制前の余剰を求める
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 四角形 (支払うつもりのある額)− 四角形 |
ステップ2: 規制後の状況を確認する
に価格規制された場合の需要量は から
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 四角形 − 四角形 |
ステップ4: 死荷重を求める

価格の下限規制の余剰分析

生産補助金の余剰分析
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。
| 平均可変費用 × 生産量 = 可変費用 |
| 四角形 | (価格 − 平均費用)× 生産量 = 利潤 |
| 四角形 | (価格 − 平均可変費用)× 生産量 = 生産者余剰 |
ステップ5: 面積の読み取り方を整理する
縦軸に1単位あたりの金額、横軸に数量をとった図では、すべての長方形が「1単位あたり × 数量 = 総額」の形をしています。
| 生産者余剰 |
三角形として直接求めると、 ではなく、供給曲線が横軸と交わる点()から考えて
一致しました。供給曲線が縦軸で負の切片をもつ場合は、横軸との交点から左では供給がゼロになることに注意して面積を計算します。
| 750 |
| 社会的総余剰 | 2,250 | 2,175 | (死荷重) |
| 生産者余剰 | 四角形 (収入)− 四角形 (可変費用) |
| 社会的総余剰 |
また、価格規制が行われていますが、政府には税収や補助金支出が発生していないため、政府余剰はゼロです。
ステップ3: 規制後の余剰を求める
| 生産者余剰 | 四角形 (収入)− 四角形 (可変費用) 台形 |
| 社会的総余剰 | 四角形 |
ステップ5: 選択肢を判定する
ア は不適切(これが答え) 価格規制により社会的総余剰は最大化されないので、パレート最適は実現しません。
イ は適切 経済余剰の損失(死荷重)は三角形 、つまり三角形 です。
ウ は適切 消費者余剰は から へ減少します。
エ は適切 生産者余剰は台形 (= 台形 )です。
答え ア
ステップ6: 数値で確かめる
需要曲線 、供給曲線 の市場で、価格の下限を40に規制した場合を計算してみましょう。
規制前: 、、消費者余剰900、生産者余剰1,350、総余剰2,250
規制後: 価格40での需要量は 。供給量は本来なら ですが、売れ残るので取引量は40です。
死荷重:
三角形として直接計算すると、 における需要曲線の高さ40と供給曲線の高さ10の差30、取引量の減少20なので
一致しました。
ステップ7: 生産者は得をしたのか
生産者余剰は1,350から1,550へ増えています。価格が上がったので生産者は得をしました。一方、消費者余剰は900から400へ大きく減っています。
社会全体としては300の損失ですが、生産者だけを見れば200の利益です。価格支持政策が政治的に支持されやすいのは、この構図があるためだと説明されます。
余剰分析は、こうした「誰が得をして誰が損をするか」を数値で示せる道具でもあります。診断士として政策の影響を語るときに使える視点です。