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プレミアムで見る離れたコンピュータ同士が通信するには、電気信号の形から、データの区切り方、宛先の書き方、やり取りの手順まで、膨大な取り決めが必要になります。それらを一度に考えるのは無理があるので、役割ごとに層に分け、各層が隣の層とだけやり取りすればよいようにしたのが階層モデルです。この節では、教科書的なモデルであるOSI基本参照モデル7階層と、実際に使われているTCP/IPの4階層を対応させて押さえます。層の考え方が分かると、第4章で学んだ接続機器の違いも、「どの層まで理解できる機器か」という1本の軸で整理できるようになります。
簡単にいうと
OSI参照モデルは「設計図」、TCP/IPは「実際に建った建物」!7階層と4階層の対応は、そのまま出題されるから表で押さえよう。
① TCP/IPとは
TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)とは、インターネットで標準的に使われる通信プロトコルの体系であり、4階層で構成されるプロトコル群です。
通信プロトコルとは通信規約と同義であり、通信のルールを規定したものです。
② 生い立ち
TCP/IPは、米国防総省が開発した世界で初めてのパケット通信ネットワークARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)を元にしており、機種やOSの違いに関係なく、どんなコンピュータでも通信を可能にする規約として世界中で利用されています。
TCP/IPの仕様は、RFC(Request For Comments)という通し番号が付与された文書として一般公開されており、誰でも入手することができます。
RFCが公開されていることの意味
仕様が誰にでも入手できるということは、どの企業でもその仕様に沿った製品を作れるということです。特定のベンダに縛られず、異なるメーカの機器同士が通信できるのは、この公開性のおかげです。
第2章で学んだオープンソースと通じる考え方であり、インターネットが世界規模に広がった理由のひとつでもあります。
③ OSI基本参照モデルとの対応
TCP/IPは、ISO(国際標準化機構)によって策定されたOSI基本参照モデルに対応しています。
| 層 | OSI基本参照モデル |
|---|
具体例
手紙にたとえて階層を理解する
TCP/IPの4階層を、手紙を送る場面に置き換えてみましょう。
| 層 | 手紙での役割 | やっていること |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | 手紙の本文を書く | どんな内容を伝えるか |
| トランスポート層 | 封筒に入れ、書留にするか普通郵便にするか決める | 確実に届けるか、速さを優先するか |
| インターネット層 | 宛先の住所を書く | どこへ届けるか |
| ネットワークインタフェース層 |

TCP/IPとOSI基本参照モデル(1/2)

TCP/IPとOSI基本参照モデル(2/2)
試験のポイント
簡単にいうと
7階層それぞれが「何を決めているか」は、1行で言えるようにしておこう!そして第4章の接続機器が、どの層まで理解できるかを重ねると、全部つながるよ。
① OSI基本参照モデルの7階層
| 階層 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| 7 | アプリケーション層 | 具体的にどのようなサービスを提供するのか。 |
| 6 |
簡単にいうと
TCP/IPの4階層は、それぞれ「何を規定しているか」で覚えよう!下から順に、どうつなぐ→どこへ届ける→確実に届ける→何をする、という流れだよ。
① 4つの層の役割
TCP/IPの各層における役割を以下に示します。
② ネットワークインタフェース層
ネットワークインタフェース層が受け持つのは2つです。隣り合う機器どうしがきちんとデータを渡し合うための取り決めと、ケーブルや電波といった物理的な媒体に合わせたインタフェースの仕様です。
「隣接する」という語が重要です。この層が扱うのは、すぐ隣の機器とのやり取りだけです。遠くにある目的地のことは考えません。
③ インターネット層
インターネット層では、ルータで区切られた複数のネットワークを経由し、宛先ホスト(IPアドレスが割り当てられたコンピュータ)までIPパケットを届けるために必要なプロトコルが規定されています。
インターネット層のプロトコルを実装したルータによって、複数のネットワークを接続し、IPネットワークを形成します。
簡単にいうと
IPは「届けることだけ」を担当して、確認は一切しない割り切った役目。その割り切りを補うのがICMPとARPだよ。3つはセットで覚えよう!
① IP(Internet Protocol)
IPは、ネットワーク上で、正しい宛先にデータパケットを届けるために必要な経路選択およびアドレス指定を行うために用いられる通信プロトコルです。
IPが扱うデータの通信単位をIPパケットといいます。
② IPの割り切り——コネクションレス型
また、IPは、コネクションレス型のプロトコルであり、データの到着の確認などの制御はいっさい行わず、受信側で受信できない状態であってもデータを送りつけてしまいます。そのため、信頼性を確保するためには上位のプロトコルで制御することが必要になります。
IPは、信頼性を確保するための制御をトランスポート層のプロトコルに任せ、自身はコネクションレス型の通信を採用することによって、機能の簡略化と高速化を実現したプロトコルです。
③ なぜ割り切るのか
一見すると無責任に見えますが、これは
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| TCP/IPプロトコル |
|---|
| 7 | アプリケーション層 | アプリケーション層 |
| 6 | プレゼンテーション層 | 〃 |
| 5 | セッション層 | 〃 |
| 4 | トランスポート層 | トランスポート層 |
| 3 | ネットワーク層 | インターネット層 |
| 2 | データリンク層 | ネットワークインタフェース層 |
| 1 | 物理層 | 〃 |
④ 対応関係の押さえどころ
| TCP/IPの層 | OSIの何層にあたるか |
|---|---|
| アプリケーション層 | 5・6・7層(3つ分) |
| トランスポート層 | 4層(1対1) |
| インターネット層 | 3層(1対1。名前が違う) |
| ネットワークインタフェース層 | 1・2層(2つ分) |
真ん中の2つが1対1、上下がまとめられている——この形を覚えておけば、対応表は再現できます。
とくに注意したいのが、OSIの「ネットワーク層」がTCP/IPでは「インターネット層」とよばれる点です。名前が違うだけで、役割は同じです。
⑤ OSI基本参照モデル
OSI(Open Systems Interconnection)基本参照モデルは、ISOによって策定された、コンピュータのもつべき通信機能を階層化したモデルです。
OSI基本参照モデルは、7階層から構成されており、各層に標準的な機能を定義しています。
⑥ 「モデル」と「実在するプロトコル」
ここが重要な区別です。
> OSI基本参照モデルはあくまでもモデルであり、実在するプロトコルはTCP/IPです。
| OSI基本参照モデル | TCP/IP | |
|---|---|---|
| 性格 | モデル(設計の枠組み) | 実在するプロトコル |
| 策定 | ISO(国際標準化機構) | 米国防総省のARPANETが元 |
| 階層 | 7階層 | 4階層 |
| 実際に使われているか | 参照のための枠組み | 世界中で使われている |
建築にたとえる
| たとえ | |
|---|---|
| OSI基本参照モデル | 建築基準の教科書。こういう構造にすべきだ、という考え方 |
| TCP/IP | 実際に建っている建物。教科書どおりではないが、機能している |
OSI基本参照モデルは、通信を理解し、議論するための共通の言葉として生き残りました。実際の通信はTCP/IPで行われていますが、「この機器は第2層で動く」「このプロトコルは第4層だ」という言い方は、いまもOSIの階層番号で行われます。
⑦ なぜ階層に分けるのか
第2章のソフトウェアの体系や、第3章の3層スキーマでも見たとおり、層に分けることの利点は「変更の影響を閉じ込められる」ことにあります。
| 変わるもの | 影響が及ぶ層 |
|---|---|
| ケーブルを銅線から光ファイバに変える | 物理層のみ |
| 有線から無線に変える | 物理層・データリンク層 |
| メールソフトを別の製品に変える | アプリケーション層のみ |
下の層が何であっても、上の層は同じように動ける——この独立性があるからこそ、有線でも無線でも、同じブラウザで同じサイトが見られるのです。
| 物理的にどう運ぶか |
受け取る側では逆の順番
| 順番 | 動き |
|---|---|
| ① | 配達される(ネットワークインタフェース層) |
| ② | 住所が自分宛か確認する(インターネット層) |
| ③ | 封筒を開ける(トランスポート層) |
| ④ | 本文を読む(アプリケーション層) |
各層は隣としか話さない
手紙を書く人は、トラックで運ばれるか飛行機で運ばれるかを気にしません。配達員は、手紙の中身を読みません。それぞれが自分の役割だけを果たし、隣の層に渡す——これが階層モデルの本質です。
この構造の利点
| 場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 配達手段が変わる(トラック→飛行機) | 手紙の書き方は変わらない |
| 手紙の内容が変わる(請求書→年賀状) | 配達の手順は変わらない |
確認してみましょう
> 次の記述の正誤を判定せよ。
> a TCP/IPは4階層で構成されるプロトコル群であり、OSI基本参照モデルに対応している。
> b OSI基本参照モデルはISOによって策定され、7階層から構成される。
> c OSI基本参照モデルは実在するプロトコルであり、TCP/IPは理論上のモデルである。
解答 a:○ b:○ c:×
用語の対応を確認する
> TCP/IPのインターネット層は、OSI基本参照モデルの何層にあたるか。
解答 第3層(ネットワーク層)
名前が違うため取り違えやすいところです。「TCP/IPのインターネット層=OSIのネットワーク層」と、セットで覚えておきましょう。
| データはどのような形式にするか。 |
| 5 | セッション層 | 通信の開始から終了までをどのように管理するか。 |
| 4 | トランスポート層 | 通信の信頼性はどのように確保するか。 |
| 3 | ネットワーク層 | ネットワーク(LAN)とネットワーク(LAN)をどのように中継するか。 |
| 2 | データリンク層 | 同一ネットワーク(LAN)内でどのように通信するか。 |
| 1 | 物理層 | 物理的にどのようにつなぐか。 |
② 下から上へ読むと流れがつかめる
| 層 | 問い |
|---|---|
| 1 物理層 | まず線をどうつなぐか |
| 2 データリンク層 | つながった相手と、同じLAN内でどうやり取りするか |
| 3 ネットワーク層 | 別のLANへはどう中継するか |
| 4 トランスポート層 | 届いたことをどう保証するか |
| 5 セッション層 | 会話の始まりと終わりをどう管理するか |
| 6 プレゼンテーション層 | データをどんな形式にするか |
| 7 アプリケーション層 | 結局どんなサービスを提供するか |
下の層ほど機械に近く、上の層ほど人間の目的に近いという並びになっています。第2章で学んだソフトウェアの体系図と同じ構造です。
③ 2層と3層の違いが要点
| 層 | 範囲 | 使うアドレス | 機器 |
|---|---|---|---|
| 2 データリンク層 | 同一ネットワーク(LAN)内 | MACアドレス | ブリッジ、スイッチングハブ |
| 3 ネットワーク層 | ネットワークとネットワークの間 | IPアドレス | ルータ |
第4章で学んだMACアドレスとIPアドレスの違い——MACは同じLAN内、IPはネットワークをまたぐ——が、そのままこの2つの層の違いになっています。
④ OSI基本参照モデルとLAN間接続機器
第4章で学んだ接続機器を、この7階層に重ねると次のようになります。
| 機器 | 対応する層 |
|---|---|
| リピータ/リピータハブ | 物理層のみの機能をもつ |
| ブリッジ/スイッチングハブ | 下位2層の機能をもつ |
| ルータ | 下位3層の機能をもつ |
| ゲートウェイ | 7層すべての機能をもつ |
⑤ 「どこまで理解できるか」で並んでいる
この対応表は、機器がどの層まで中身を理解できるかを表しています。
| 機器 | 何を見るか(第4章) | 対応する層 |
|---|---|---|
| リピータ | 何も見ない(信号を整形するだけ) | 1層のみ |
| ブリッジ/スイッチングハブ | MACアドレス | 1〜2層 |
| ルータ | IPアドレス | 1〜3層 |
| ゲートウェイ | プロトコル全体 | 1〜7層 |
上の層まで理解できる機器ほど、賢い判断ができる——第4章で予告した対応関係が、ここで完成します。
そして、上の層まで見られる機器ほど処理の負荷が大きく、価格も高くなるという関係もあります。用途に対して過剰な機器を選ばない、という判断が実務では必要になります。
⑥ 4章との対応を1枚にまとめる
| 層 | 機器 | アドレス | できること |
|---|---|---|---|
| 1 物理層 | リピータ/リピータハブ | — | 信号を整形して延長する |
| 2 データリンク層 | ブリッジ/スイッチングハブ | MACアドレス | 同一LAN内で必要なポートにだけ流す |
| 3 ネットワーク層 | ルータ | IPアドレス | 異なるネットワークへ経路を判断して転送 |
| 4〜7層 | ゲートウェイ | — | プロトコルを変換して相互通信を可能にする |
この表を再現できれば、第4章と第5章にまたがるこの論点は制覇したといえます。
具体例
設例 OSI基本参照モデルとLAN間接続機器
> 次の記述の正誤を判定せよ。(令和5年度第12問 改題)
> a ブリッジ(スイッチングハブ)は、OSI基本参照モデルの物理層で電気信号を中継する装置である。
> b リピータは、OSI基本参照モデルのデータリンク層の宛先情報を参照してデータフレームを中継する装置である。
> c ゲートウェイは、OSI基本参照モデルのネットワーク層のプロトコルに基づいてデータパケットを中継する装置である。
> d ルータは、OSI基本参照モデルのトランスポート層以上で使用されるプロトコルが異なるLAN同士を接続する装置である。
解答 a:× b:× c:× d:×
4つすべてが1つずつずれている
この設問は、4つの機器の説明が順番に1つずつずれているという、きれいな作りになっています。
| 選択肢の機器 | 書かれている説明の本来の機器 |
|---|---|
| ブリッジ | リピータ |
| リピータ | ブリッジ |
| ゲートウェイ | ルータ |
| ルータ | ゲートウェイ |
2組が入れ替わっている形です。
確実に取るための覚え方
層の番号と機器を対応づけるのがもっとも確実です。
| 層 | 機器 | キーワード |
|---|---|---|
| 1 | リピータ | 物理層、電気信号、中継 |
| 2 | ブリッジ/スイッチングハブ | データリンク層、MACアドレス、フレーム |
| 3 | ルータ | ネットワーク層、IPアドレス、パケット |
| 4以上 | ゲートウェイ | トランスポート層以上、プロトコル変換 |
キーワードを見た瞬間に層の番号が浮かび、そこから機器が決まる——この経路で判定すれば、どんな入れ替え方をされても対応できます。
通信の単位にも注目
選択肢の中に「データフレーム」「データパケット」という言葉が出てきました。実は、層によって通信の単位の呼び名が変わります。
| 層 | 通信の単位 | 識別子 |
|---|---|---|
| ネットワークインタフェース層(1〜2層) | フレーム | MACアドレス |
| インターネット層(3層) | IPパケット(IPデータグラム) | IPアドレス |
| トランスポート層(4層) | TCPパケット | ポート番号 |
「フレーム」という語が出てきたら2層、「パケット」なら3層——これも判定の手がかりになります。
実務での機器選び
| やりたいこと | 必要な機器 | 理由 |
|---|---|---|
| ケーブルを延長したい | リピータ(または中継するスイッチ) | 物理層で足りる |
| オフィス内の端末を効率よくつなぎたい | スイッチングハブ | MACアドレスを見る必要がある |
| 別のフロアのネットワークとつなぎたい | ルータ | IPアドレスを見る必要がある |
| 古い基幹システムと新システムをつなぎたい | ゲートウェイ | プロトコルの変換が必要 |
「やりたいことが、どの層の話か」を見極めれば、必要な機器が決まる——これが階層モデルを学ぶ実務上の意味です。

OSI参照モデルとTCP/IP
試験のポイント
インターネットは、世界中にある無数のネットワークをルータで接続した巨大なIPネットワークともいえます。
④ トランスポート層
トランスポート層では、インターネット層以下のサービスを利用して、アプリケーション間のデータ転送を制御するプロトコルが規定されています。
「アプリケーション間」という語に注目してください。インターネット層までは「コンピュータからコンピュータへ」という話でしたが、トランスポート層は「そのコンピュータのどのアプリケーションへ」という段階に進みます。
だからこそ、次節で学ぶポート番号が必要になるのです。
⑤ アプリケーション層
アプリケーション層では、Webサービス、電子メールサービス、リモートログイン、ファイル転送などに関連するさまざまなアプリケーションプロトコルが規定されています。
⑥ 4つを1行でまとめる
| 層 | 決めていること | 範囲 |
|---|---|---|
| ネットワークインタフェース層 | 隣接する機器とどう伝送するか | 隣の機器まで |
| インターネット層 | 宛先ホストまでどう届けるか | 目的のコンピュータまで |
| トランスポート層 | アプリケーション間の転送をどう制御するか | 目的のアプリケーションまで |
| アプリケーション層 | 具体的にどんなサービスを提供するか | 利用者の目的 |
範囲がだんだん「深く」なっていくことに注目してください。
1. 隣の機器まで
2. 目的のコンピュータまで
3. そのコンピュータの中のアプリケーションまで
4. そのアプリケーションが何をするか
⑦ ネットワークインタフェース層のプロトコル
TCP/IPのネットワークインタフェース層における代表的なプロトコルを以下に示します。
| 名称 | 内容 |
|---|---|
| イーサネット | LANの規格であり、媒体アクセス制御方式としてCSMA/CD方式を採用するプロトコル(第4章参照) |
| IEEE802.11 | 無線LANの規格のひとつであり、アクセス制御方式としてCSMA/CA方式を採用するプロトコル(第4章参照) |
第4章で学んだ2つの規格が、そのままこの層のプロトコルです。有線がイーサネット、無線がIEEE802.11——どちらも「隣の機器とどうやり取りするか」を決めているので、この層に位置づけられます。
⑧ 各層のプロトコルを一覧で
先取りになりますが、全体像を示しておきます。
| 層 | 主なプロトコル | 通信の単位 | 識別子 |
|---|---|---|---|
| アプリケーション層 | HTTP、FTP、POP、SMTP、DHCP、DNS、Telnet、SSH、SNMP、NNTP、LPR、IPP、NTP、SNTP | — | — |
| トランスポート層 | TCP、UDP | TCPパケット | ポート番号 |
| インターネット層 | IP、ICMP、ARP | IPパケット(IPデータグラム) | IPアドレス |
| ネットワークインタフェース層 | イーサネット、IEEE802.11 | フレーム | MACアドレス |
この表が、第5章全体の地図になります。以降の節では、この表の各行を順に掘り下げていきます。
⑨ 識別子が層ごとに違う
| 層 | 識別子 | 何を見分けるか |
|---|---|---|
| ネットワークインタフェース層 | MACアドレス | 同じLAN内のどの機器か |
| インターネット層 | IPアドレス | 世界中のどのコンピュータか |
| トランスポート層 | ポート番号 | そのコンピュータのどのアプリケーションか |
3つの識別子が、3段階で絞り込んでいるという構造が見えてきます。
住所にたとえるなら、
となります。
具体例
1枚のWebページを開くときに、4つの層が何をしているか
ブラウザで `http://www.example.co.jp/index.html` を開く場面を、層ごとに追ってみましょう。
送信側(自分のパソコン)
| 順番 | 層 | やっていること |
|---|---|---|
| ① | アプリケーション層 | HTTPで「index.html をください」というリクエストを作る |
| ② | トランスポート層 | TCPで宛先ポート80を指定し、確実に届くよう制御をかける |
| ③ | インターネット層 | 宛先IPアドレス(DNSで調べたもの)を付けてIPパケットにする |
| ④ | ネットワークインタフェース層 | 次の機器(ルータ)のMACアドレスを付けてフレームにし、電気信号として送り出す |
上から下へ、情報が付け足されていく
| 層 | 付け足されるもの |
|---|---|
| アプリケーション層 | 本文(HTTPリクエスト) |
| トランスポート層 | ポート番号 |
| インターネット層 | IPアドレス |
| ネットワークインタフェース層 | MACアドレス |
この「包んでいく」動作をカプセル化といいます。第4章のVPNで学んだカプセル化と同じ言葉で、同じ考え方です。
受信側(Webサーバ)
| 順番 | 層 | やっていること |
|---|---|---|
| ① | ネットワークインタフェース層 | フレームを受け取り、MACアドレスが自分宛か確認して、中身を取り出す |
| ② | インターネット層 | IPアドレスが自分宛か確認して、中身を取り出す |
| ③ | トランスポート層 | ポート番号80を見て、Webサーバソフトに渡す |
| ④ | アプリケーション層 | HTTPリクエストを解釈し、index.html を返す |
下から上へ、包みを開けていく
送信側と受信側で、順番がちょうど逆になっています。層の対応する相手は、つねに相手側の同じ層です。
途中のルータは何層まで見るか
| 機器 | 見る層 | 何をするか |
|---|---|---|
| スイッチングハブ | 2層まで | MACアドレスを見て転送先ポートを決める |
| ルータ | 3層まで | IPアドレスを見て次の経路を決める |
ルータは、ポート番号やHTTPの中身を見ません。必要ないからです。各機器が、自分の仕事に必要な層までしか見ない——これが階層モデルの効率のよさです。
MACアドレスは途中で書き換わる
第4章で少し触れた点を、ここで確認しておきましょう。
| 区間 | 宛先IPアドレス | 宛先MACアドレス |
|---|---|---|
| 自分 → ルータX | A(最終目的地) | x(ルータXのもの) |
| ルータX → ルータZ | A(変わらない) | z(次の中継先のもの) |
| ルータZ → 目的地 | A(変わらない) | a(目的地のもの) |
IPアドレスは最終目的地を指し続け、MACアドレスは次の中継先ごとに書き換わる——この違いが、2つのアドレスの役割の違いを端的に表しています。
IPアドレス=最終目的地の住所、MACアドレス=次の曲がり角という対応で覚えておきましょう。
確認してみましょう
> 次の記述の正誤を判定せよ。
> a ネットワークインタフェース層では、隣接する通信機器間で正しくデータ伝送するためのプロトコルが規定されている。
> b インターネット層では、アプリケーション間のデータ転送を制御するプロトコルが規定されている。
> c トランスポート層の識別子はポート番号である。
解答 a:○ b:× c:○

TCP/IPの各層の役割
試験のポイント
| もしIPが到着確認までしていたら | 実際のIP |
|---|---|
| 処理が複雑になる | 機能が簡略化される |
| 1パケットごとに確認のやり取りが発生する | 高速に転送できる |
| 確認が不要な用途でも負担がかかる | 必要な場合だけ上位層で制御すればよい |
役割を1つに絞り、他は上位層に任せる——これも階層モデルの考え方の表れです。第2章で見た「本質でない作業を他に任せる」という発想と同じです。
そして、確認が必要かどうかは用途によります。必要なら上位のTCPを使い、不要ならUDPを使う——この選択ができるのは、IPが確認の機能を持っていないからです(次節で学びます)。
④ ICMP(Internet Control Message Protocol)
ICMPは、IPのエラーメッセージや制御メッセージを転送するプロトコルです。
IPは、コネクションレス型のプロトコルであるため、パケットが確実に転送できない可能性があります。そのため、IPネットワーク上での異常を検知して送信元ホストに異常を通知したり、IPネットワーク上の通信経路を診断するICMPが必要となります。
ICMPを利用した代表的なネットワークコマンドに、pingとtracerouteがあります。
⑤ ping
ネットワーク上の特定のコンピュータが通信可能かを調べるためのコマンドです。
調べたい相手のIPアドレスやホスト名を指定して要求メッセージを送信し、相手から応答メッセージを受信してその応答時間を表示することで相手の生存確認を行います。
pingはネットワークの導通テストや障害箇所の特定に用いられるものです。
⑥ traceroute
あるホストから別のホストまでのネットワーク経路を表示するコマンドです。
ホスト間を接続する経路上にどのようなルータが位置しているかをリストで表示します。
pingでの動作が正常でなかった場合など、表示される経路情報からホスト自身や経路上のルータのルーティング設定が正しいかどうかを確認するために用いられます。
⑦ 2つのコマンドの使い分け
| コマンド | 分かること | 使う場面 |
|---|---|---|
| ping | 相手に届くかどうか、応答時間 | まず疎通を確認する |
| traceroute | どの経路を通っているか | pingが失敗したとき、どこで止まっているかを調べる |
pingで「届かない」と分かったら、tracerouteで「どこまで届いているか」を調べる——この順番が、障害の切り分けの基本です。
⑧ ARP(Address Resolution Protocol)
ARPは、IPアドレスからMACアドレスを取得するためのプロトコルです。
ARPリクエストパケットをブロードキャスト(不特定多数の相手に向かってデータを送信すること)して、同一ネットワーク内の機器からARPリプライパケットを受信し、宛先MACアドレスを取得します。
⑨ なぜARPが必要なのか
TCP/IPにおけるネットワークインタフェースの通信では、宛先のコンピュータを指定するため宛先のコンピュータのMACアドレスを指定する必要があります。
しかし、宛先のコンピュータのIPアドレスはDNSにより問合せすることができるが、MACアドレスまではわかりません。そこで、ARPにより、IPアドレスからMACアドレスを得る必要があります。
⑩ 動作の流れ
| 順番 | 動き |
|---|---|
| ① | 「IPアドレス192.168.0.4のMACアドレスは?」とブロードキャストする |
| ② | 該当しない機器(192.168.0.2、192.168.0.3)は無視する |
| ③ | 該当する機器が「IPアドレス192.168.0.4のMACアドレスは 00:a0:c2:0b:0a:70 です」と応答する |
ブロードキャストとは、不特定多数の相手に向かってデータを送信することです。「誰か知りませんか」と全員に聞いて、該当する本人に答えてもらう、という形です。
⑪ 3つの変換を並べる
この章では、3つの「対応づけ」が出てきました。まとめて整理します。
| プロトコル | 変換の向き |
|---|---|
| DNS | ドメイン名 → IPアドレス |
| ARP | IPアドレス → MACアドレス |
| DHCP | (端末に設定情報を割り当てる) |
DNSとARPが、バトンをつないでいることに注目してください。
1. 人間が入力するのはドメイン名
2. DNSがIPアドレスに変換する
3. ARPがMACアドレスに変換する
4. ようやく送信できる
文字列 → IPアドレス → MACアドレスという3段階の変換を経て、はじめて通信が始まります。この流れは、次節の最後で改めて確認します。
具体例
設例 IPとARPの取り違え
> 次の記述の正誤を判定せよ。(令和7年度第5問 改題)
> ARPは、ネットワーク上で正しい宛先にデータパケットを届けるために必要な経路選択およびアドレス指定を行うために用いられる通信プロトコルである。
解答 ×
IPの内容です。ARPは、IPアドレスからMACアドレスを取得するためのプロトコルです。
キーワードで判別する
| キーワード | 対応するプロトコル |
|---|---|
| 経路選択、アドレス指定、データパケットを届ける | IP |
| エラーメッセージ、制御メッセージ、異常の通知 | ICMP |
| IPアドレスからMACアドレスを取得 | ARP |
pingを使った障害の切り分け
社内でWebサイトが見られない、という相談を受けた場面を想定します。
順番に試す
| 順番 | 試すこと | 結果が正常なら | 結果が異常なら |
|---|---|---|---|
| ① | 自分自身にping | 端末のネットワーク機能は正常 | 端末の設定またはハードウェアの問題 |
| ② | デフォルトゲートウェイにping | 同じLAN内の通信は正常 | ケーブル、ハブ、IPアドレス設定の問題 |
| ③ | 外部のIPアドレスにping | インターネットへの経路は正常 | ルータ、回線の問題 |
| ④ | 外部のドメイン名にping | DNSも正常 |
この4段階で、原因の範囲が絞れる
| 症状 | 原因の範囲 |
|---|---|
| ①で失敗 | 端末そのもの |
| ②で失敗 | 社内LAN |
| ③で失敗 | ルータ・回線 |
| ④だけ失敗 | DNS |
④だけ失敗するケースが、前節で学んだDNSの問題です。IPアドレスには届くのに名前では届かない——これはDNSが機能していないことを意味します。
tracerouteで経路を見る
③で失敗した場合、tracerouteを使うとどこまで届いているかが分かります。
| 結果 | 分かること |
|---|---|
| 社内のルータで止まる | 社内のルータの設定 |
| ISPの機器で止まる | 回線側の障害 |
| 途中まで行って止まる | 経路上のどこかの障害 |
自社の問題か、外部の問題かを切り分けられることが重要です。回線事業者に問い合わせるとき、「tracerouteで御社の機器まで届いていません」と伝えられれば、対応が早くなります。
「調べる手段を持っている」ことの価値
情報システムのトラブルで困るのは、何が起きているか分からないことです。pingとtracerouteという2つの単純なコマンドがあるだけで、
を切り分けられます。診断士として顧問先に助言する際にも、「まずこれを試してください」と伝えられる——実務的な価値のある知識です。
確認してみましょう
> 次の記述の正誤を判定せよ。
> a IPはコネクションレス型のプロトコルであり、データの到着の確認などの制御はいっさい行わない。
> b pingは、あるホストから別のホストまでのネットワーク経路を表示するコマンドである。
> c ARPは、ARPリクエストパケットをブロードキャストして宛先MACアドレスを取得する。
解答 a:○ b:× c:○

インターネット層のプロトコル(IP・ICMP・ARP)(1/2)

インターネット層のプロトコル(IP・ICMP・ARP)(2/2)
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。