組織構造の設計原理
組織構造論
組織構造とは、階層および職能における位置関係であり、言い換えれば事業部や部門などの下部組織が担うべき機能、人的資源の配分と権限、指揮命令系統を定めるものです。組織構造にはいくつかの基本形態がありますが、それらを説明する前に、組織構造を決定するときに適用される設計原理について取り上げることにします。
専門化の原則
簡単にいうと
組織設計の基本中の基本——「得意な仕事に集中させる」のが専門化の原則です。そして公式化と標準化がセットになって「活動の構造化」を形成します。
専門化とは、組織の活動が特殊化された役割に分割された状態を指し、分業とほぼ同じ意味です。専門化により、特定の業務(職務)に専念することになり、各部門(担当者)は得意とする知識・能力の集中利用、反復による迅速な業務(職務の習熟)、専門化した手段と方法の使用による大きな効果を生み出すことが可能になります。
また、専門化は公式化、標準化と相互に関連が強く、これらをまとめて「活動の構造化(従業員の活動に対する公式の規制の程度)」といいます。
公式化とは
公式化(formalization)とは、組織内の命令・指示・手続きなどが文書やマニュアルの形で明文化されている度合いのことです。公式化の程度が高い組織では、業務の手順書や規則集が整備されており、従業員は文書化されたルールに沿って行動します。
標準化とは
標準化(standardization)とは、あらかじめ定められた標準的なルールや手続きに基づいて作業が処理される度合いのことです。標準化が進むと、誰が担当しても同じ品質のアウトプットが期待でき、業務の属人化を防ぐことができます。
| 概念 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 公式化 | 命令・指示・手続きが文書として明文化されている程度 | 業務マニュアル、規程集、稟議書の書式 |
| 標準化 | 標準的なルール・手続きで作業が処理される程度 | 作業手順の統一、品質基準の設定 |
| 専門化 | 組織の活動が特殊化された役割に分割されている程度 | 営業部・製造部・経理部などの職能分化 |
この3つは「活動の構造化」として一体的にとらえることが重要です。アストン研究グループ(ピュー、ヒクソンら)が組織構造の測定において提唱した概念であり、組織の官僚制的な特徴を示す指標として用いられます。
具体例
職務のプロセスを標準化すると、従業員の専門能力を向上させるとともに、アウトプットの分散が大きくなり検査コストが増えるという側面もあります。
試験のポイント
- ・専門化・公式化・標準化の定義と違いを正確に区別しましょう
- ・公式化は「文書化の程度」、標準化は「ルール・手続きによる処理の程度」です
- ・「活動の構造化」として3つがセットになる点も重要です
- ・アストン研究グループとの関連も押さえておきましょう
権限責任一致の原則
簡単にいうと
権限があるなら責任もある、責任があるなら権限もある——これがセットでないと組織はうまく回りません。
権限責任一致の原則とは、各組織構成員に与えられる権限の大きさが、担当する職務に相応しているとともに、それと等量の責任が負わされなければならないというものです。
権限とは、意思決定を行い、その内容を実現するうえで、他の人々をその意思決定に従わせることを公に認められている権利のことです。また、責任とは、割り当てられた職務に対して期待されている成果をあげる義務のことです。
権限と責任は一般的に組織内の階層構造に基づいて付与されるため、階層性の原則とよばれることもあります。
| 概念 | 定義 |
|---|---|
| 権限 | 意思決定を行い、他者をその決定に従わせることが公式に認められた権利 |
| 責任 | 割り当てられた職務に対して期待される成果をあげる義務 |
具体例
ある部長に大きなプロジェクトの責任を負わせるなら、予算や人員を決定する権限も与えなければ、プロジェクトは進められません。
試験のポイント
- ・権限(意思決定に従わせる権利)と責任(成果をあげる義務)の定義、両者が一致すべきという原則を覚えましょう
- ・別名「階層性の原則」も出題されます
統制範囲の原則(スパンオブコントロール)
簡単にいうと
1人の上司が直接管理できる部下の数には限りがある——これがスパンオブコントロール(管理の幅)です。広げるには4つの工夫があります。
統制範囲(管理の幅、あるいはスパンオブコントロール)とは、1人の上司が有効に指揮監督できる直接の部下の人数のことです。従業員数を一定とすれば、統制範囲を広げることで階層数(管理者の数)を削減できますが、1人の管理者が直接的に管理できる部下の人数には一定の限界があり、これを超えて部下をもつと効率が低下します(統制範囲の原則)。
統制範囲を拡大するための4つの方策
管理者の統制範囲を拡大するには、以下の4つの工夫が必要です。
| No. | 方策 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 管理者の例外処理能力の向上 | 上司自身が例外的事態への対応力を高め、迅速に判断できるようにする |
| 2 | 下位メンバーの能力向上 | 部下の知識や熟練度を高め、例外事項に対しても適切な判断を自律的に下せるようにする |
| 3 | 作業の標準化の推進 | 定型的な業務をルール化・マニュアル化し、上司への問い合わせを減らす |
| 4 | スタッフ部門の創設 | スタッフ部門を設けて管理者の例外処理能力を組織的に補強する体制をつくる |
これらの方策はいずれも、上司が直接介入しなくても業務が回る仕組みを整えることで、管理可能な部下の数を増やすことを狙いとしています。統制範囲を広げるとフラットな組織(水平的組織)になり、狭めるとトール型組織(垂直的組織)になります。
具体例
部下間の職務の相互依存度が高く、環境が不規則に変化する場合には、管理の幅を広くすることはできません。上司の管理・調整負担が重くなるためです。
試験のポイント
- ・スパンオブコントロールの概念と、統制範囲を拡大するための4つの方策(管理者の例外処理能力向上、下位メンバーの能力向上、作業の標準化、スタッフ部門の創設)を正確に覚えましょう
- ・環境の安定度・部下間の相互依存度と統制範囲の関係も頻出です
- ・フラット組織とトール型組織の対比も押さえておきましょう
命令統一性の原則
簡単にいうと
「上司は1人だけ」——複数の上司から違う指示をされたら現場は混乱しますよね。これが命令統一性の原則です。
1部門の規模が制約されることになると、企業規模の拡大とともに部門の数が増加し、組織の階層化が進んでくることになります。このような状況が進行すると、組織としての統一的な行動の維持が困難になります。このときの組織上の関係を決めるのに適用されるのがこの原則です。
命令統一性の原則とは、組織の秩序を維持するために、職務の遂行に必要な権限と責任を割り当てられた組織上の上下関係において、各組織構成員はつねに特定の1人の上司からだけ命令を受けるようにしなければならないというものです。
この原則はファヨール(H. Fayol)が管理原則の一つとして提唱したもので、命令の一元性ともよばれます。
具体例
マトリックス組織では2人の上司から指示を受けるため、命令統一性の原則に反し、コンフリクトが発生しやすくなります。
試験のポイント
- ・命令統一性の原則の定義と、マトリックス組織がこの原則に反する組織形態であることを押さえましょう
- ・ファヨールの管理原則の一つであることも覚えておくとよいです
例外の原則と意思決定の3類型
簡単にいうと
社長が日常業務まで口出ししてたら戦略を考える時間がない!だから定型業務は部下に任せて、非定型的な仕事に専念する——これが例外の原則です。定型業務に追われて戦略が消えてしまう現象を「グレシャムの法則」といいます。
意思決定の3つの類型
組織における意思決定は、アンゾフ(H.I. Ansoff)によって以下の3種類に分類されています。
| 意思決定の種類 | 主な担当層 | 特徴 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 業務的意思決定 | ロワーマネジメント(現場管理層) | 日常的な経営活動の能率や収益性を最大化するための短期的・定型的な判断 | 在庫の発注量決定、シフト編成、日常の受発注処理 |
| 管理的意思決定 | ミドルマネジメント(中間管理層) | 戦略的意思決定で定められた方針を実行するための資源調達や組織編成に関する判断 | 予算配分、人員配置、業務プロセスの改善 |
| 戦略的意思決定 | トップマネジメント(経営者層) | 企業の将来の方向性を左右する長期的・非定型的な判断 | 新規事業への進出、M&A、経営戦略の策定 |
例外の原則(権限委譲の原則)
経営者は、業務的意思決定や管理的意思決定から解放され、戦略的意思決定に専念できるようにする必要があります。例外の原則とは、経営者は日常反復的な業務の処理を下位レベルの者に委譲し、例外的な業務の処理(戦略的意思決定および非定型的意思決定)に専念すべきであるというものです。権限委譲の原則ともよばれます。
グレシャムの法則(計画のグレシャムの法則)
サイモン(H.A. Simon)とマーチ(J.G. March)が提唱した概念で、定型的な意思決定(ルーティンワーク)に忙殺されて非定型的な意思決定(将来の計画策定など)が後回しになり、事実上消滅してしまう現象を指します。経済学における「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則になぞらえた表現です。
| 概念 | 提唱者 | 内容 |
|---|---|---|
| 例外の原則 | — | 経営者は日常業務を部下に委譲し、例外的・戦略的な判断に専念すべき |
| グレシャムの法則 | サイモン、マーチ | 定型的業務が非定型的業務を駆逐してしまう現象 |
具体例
経営者が毎日の受発注処理に追われていたら、新規事業の立案(戦略的意思決定)に時間を割けなくなります。これはグレシャムの法則が作用している状態です。
試験のポイント
- ・3種類の意思決定(業務的・管理的・戦略的)とそれぞれの担当管理層の対応を正確に覚えましょう
- ・例外の原則(=権限委譲の原則)の定義も重要です
- ・グレシャムの法則は「定型的意思決定が非定型的意思決定を駆逐する」という意味であり、サイモンとマーチの提唱であることも頻出ポイントです
組織における意思決定の基礎
簡単にいうと
人間は完全に合理的な判断ができるわけではありません。サイモンが提唱した「限定合理性」の考え方——つまり「ベストでなくても十分満足できる選択をする」というのが経営人モデルの発想です。
組織論を学ぶうえで、人間の意思決定の前提を理解することが重要です。サイモン(H.A. Simon)は、意思決定の基準として2つのモデルを提示しました。
極大化基準(経済人モデル)
完全な情報収集能力、情報処理能力をもち、経済的合理性に基づいて極大化基準のもとで行動するという人間観を経済人モデルとよびます。このモデルでは、目標は高ければ高いほど望ましいとする最適化に基づく意思決定が行われます。
満足化基準(経営人モデル)
現実には、問題解決の代替案をすべて列挙したうえで意思決定を行うことは不可能です。人間の情報収集能力、情報処理能力には限界があり、制約された合理性の範囲内で行動することになります。このような人間観を経営人モデルとよびます。経営人モデルにおいては、代替案の選択は「十分満足できる」という満足化基準によって行われます。
| モデル | 前提 | 意思決定基準 | 提唱者 |
|---|---|---|---|
| 経済人モデル | 完全な情報収集・処理能力 | 極大化基準(最適化) | 古典派経済学 |
| 経営人モデル | 限定された合理性(制約された情報処理能力) | 満足化基準(十分満足できるレベル) | サイモン |
具体例
完全な情報をもとに最善の選択を行う「経済人モデル」は理論上の仮定であり、現実には情報収集能力や処理能力に限界があるため「経営人モデル」に基づく満足化基準で意思決定が行われます。
試験のポイント
- ・経済人モデル(極大化基準・最適化)と経営人モデル(満足化基準・限定合理性)の違いを正確に覚えましょう
- ・サイモンの「限定合理性(bounded rationality)」は組織論の重要概念です
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