組織構造論
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プレミアムで見る組織が人間行動の集合体であるなら、組織を理解するには人間がどう意思決定するかを知る必要があります。経済学が想定してきたのは、あらゆる情報を集めて最善を選ぶ完璧な人間でした。しかしサイモンは、現実の人間はそこまで賢くないと指摘します。この節では、経済人モデルと経営人モデルという2つの人間観を対比して押さえます。制約された合理性という言葉は、この先の組織論で繰り返し出てきます。
簡単にいうと
「最高のものを選ぶ」のが極大化基準、「まあ満足できるものを選ぶ」のが満足化基準。人間の情報処理能力には限界があるから、現実は後者になるんだ!
① なぜ意思決定を扱うのか
組織が人間の行動を構成要素とするのであれば、組織論を学習するにあたり、人間の行動について確認する必要があります。
目的を目指す人間行動は、目的実現を制約している要因を克服する解決案を選択する行為によって導かれます。すなわち、人間行動は意思決定によって導かれています。
そして、経営組織を人間行動の集合体ととらえれば、経営組織は複雑に絡み合った意思決定のシステムと見ることができます。
組織を意思決定のシステムとして見る。これがサイモンの組織観であり、この節の出発点です。
② 極大化基準と経済人モデル
完全な情報収集能力、情報処理能力をもち、経済的合理性、極大化基準のもとで行動するという人間観を経済人モデルとよびます。
極大化基準とは、目標は高ければ高いほど望ましいとする最適化に基づくものです。
経済人モデルの人間は、
・すべての代替案を知っている
・それぞれの結果を正確に予測できる
・その中から最善のものを選べる
という前提に立っています。伝統的な経済学が想定してきた人間像です。
③ 満足化基準と経営人モデル
現実的には、問題解決の代替案をすべて列挙したうえで意思決定を行うことは不可能です。
具体例
中古の工作機械を1台買う、という同じ場面を2つのモデルで比べてみましょう。
経済人モデルどおりに動くとしたら
・国内外に出ている中古機すべて(仮に1,800台)の情報を集める
・各台の状態、残存寿命、輸送費、整備費、将来の売却価格をすべて正確に把握する
・1,800通りを比較し、最も有利な1台を選ぶ
理屈のうえでは最善の選択ができます。しかし現実には、
・そもそも全台の情報は公開されていない(情報収集能力の限界)
・仮に集めても、1,800通りを比較しきれない(情報処理能力の限界)
・比較しているあいだに、良い機械は売れてしまう
実際の購買担当者がやったこと(経営人モデル)
1. まず「加工精度0.02ミリ以内、使用10年以内、予算1,200万円以下」という満足できる水準を決めた
2. 付き合いのある商社3社に声をかけた(すべては当たらない)
3. 提示された11台を順に見ていった
4. 4台目で条件を満たすものが見つかったので、そこで探索を止めた
ここが決定的な違い 残る7台のなかに、もっと良い機械があったかもしれません。しかし担当者は見ませんでした。

経済人モデルと経営人モデル
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なぜなら、人間の情報収集能力、情報処理能力には限界があり、制約された合理性の範囲内で行動することになるからです。
このような人間観を経営人モデルとよびます。
経営人モデルにおいては、代替案の選択は、「十分満足できる」という満足化基準によって行われていきます。
④ 制約された合理性
制約された合理性(限定合理性)は、サイモンが示したこの節で最も重要な概念です。
人間はまったく非合理なわけではありません。合理的であろうとするが、その能力には限界があるということです。
限界があるのは次の2つです。
・情報収集能力……すべての選択肢を知ることはできない
・情報処理能力……知っている選択肢でも、すべてを比較しきれない
この前提に立つと、意思決定の仕方が変わります。すべてを並べて最善を選ぶのではなく、順に検討していって、基準を満たすものが見つかった時点で止めるのです。
⑤ 2つのモデルの比較
| 経済人モデル | 経営人モデル | |
|---|---|---|
| 情報収集能力・情報処理能力 | 完全 | 限界がある(制約された合理性) |
| 代替案 | すべて列挙できる | すべては列挙できない |
| 選択の基準 | 極大化基準(最適化) | 満足化基準(十分満足できる) |
| 目標の扱い | 高ければ高いほど望ましい | 一定の水準を満たせばよい |
| 現実性 | 理論上の想定 | 現実の人間に近い |
⑥ 組織論全体への広がり
制約された合理性という前提は、このあと学ぶさまざまな論点の土台になっています。
| つながる論点 | どうつながるか | 学ぶところ |
|---|---|---|
| 例外の原則 | 経営者の処理能力が限られるから、日常業務を委譲する | 次節 |
| 統制範囲の原則 | 1人の上司が管理できる部下の数に限界がある | 次節 |
| 計画におけるグレシャムの法則 | 処理能力が限られるから、定型業務に押し流される | 第6節 |
| 取引コストアプローチ | 完全な契約を書けないから、内部化が起きる | 第12節 |
人間の能力に限界があるという一点から、組織の設計原理も、組織のかたちも説明されていく。これがサイモンの議論の広がりです。
これは手抜きではない 探索を続ければ、そのぶん人件費も時間もかかります。生産開始も遅れます。限られた能力と時間のもとでは、満足化基準で決めるほうがむしろ合理的なのです。
サイモンが言いたかったのは「人間は愚かだ」ではなく、「限界のなかで合理的であろうとしている」ということです。
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