企業の社会的責任(CSR)とコーポレートガバナンス
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プレミアムで見る企業は、利益を出しさえすればよいという存在ではありません。第1章で学んだとおり、企業はオープンシステムであり、社会のなかでさまざまな利害関係者と関わりながら活動しています。その関わりに対して責任を負うという考え方が、企業の社会的責任(CSR)です。この節では、CSRの3つの領域から、ISO26000、SRI、CSV、SDGsまで、近年の出題が集中している用語を順に押さえます。
簡単にいうと
企業の責任は、利益を出すことだけじゃない。基本責任・義務責任・支援責任の3つの同心円で考えるよ。内側ほど基本的で、外側ほど高度な責任だよ!
① なぜCSRが問われるようになったのか
企業は本来の経済的機能を果たすとともに、政治的、文化的、社会的機能を果たしており、社会にさまざまな影響を与えています。
企業の数が増え、一社あたりの規模も大きくなるにつれて、この派生的な影響のほうが目立つようになりました。そこから問われるようになったのが、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)です。
企業が小さければ、その活動が社会に与える影響も限られます。しかし規模が大きくなると、雇用、地域経済、環境、文化にまで影響が及びます。影響が大きくなったぶん、責任も問われるようになったということです。
② 企業の社会的責任とは
企業の社会的責任とは、企業はオープンシステムであり、社会のなかの一員、つまり企業市民(コーポレートシチズンシップ)として活動しています。その立場で、利害関係者(ステークホルダー)との釣り合いをつねに取りながら責任を果たすこと。しかもその責任は、通常の経済活動にとどまらず、社会に影響を及ぼす活動のすべてに及びますです。
定義に出てくる言葉を確認しておきましょう。
・オープンシステム……第1章で学んだ、外部環境と相互作用があるしくみ
・企業市民(コーポレートシチズンシップ)……社会の一員としての企業という見方
・ステークホルダー……株主、従業員、顧客、取引先、地域社会、行政などの利害関係者
そして責任の範囲は、正常な経済活動のみならず、社会的に影響を及ぼす企業活動全体に及びます。本業だけでなく、その波及まで含むという点が要です。
具体例
ある食品メーカーの取り組みを、3つの領域に分けて整理してみましょう。
基本責任
・表示どおりの品質の商品を、適正な価格で販売する
・取引先に対して、合意した条件で支払う
・事業を黒字で続け、雇用を維持する
地味に見えますが、これが土台です。ここが崩れると、外側の活動はすべて意味を失います。
義務責任
・工場で200名を雇用している(雇用機会の提供)
・法人税・住民税を適正に納めている(納税義務)
・排水処理設備を更新し、河川への負荷を基準以下に抑えた(外部不経済の除去)
・アレルギー表示の誤りが見つかった際、すぐに公表して回収した(内部不経済の排除)
支援責任
・地元の高校の吹奏楽部に楽器を寄贈している(メセナ活動)
・従業員が就業時間内に地域の清掃活動に参加できる制度がある(フィランソロピー活動)
・災害時に、被災地へ自社商品を無償提供している

企業の社会的責任の3領域
試験のポイント
簡単にいうと
フィランソロピーは「寄付やボランティア」、メセナは「文化・芸能への支援」。ISO26000は「企業だけじゃなく、あらゆる組織が対象」がポイントだよ!
① フィランソロピー活動とメセナ活動
前のテーマで見た支援責任の領域の例として、フィランソロピー活動とメセナ活動があります。
| 中身 | |
|---|---|
| フィランソロピー活動 | 医療施設や教育施設への寄付、ボランティア活動への参加などを行うこと |
| メセナ活動 | 文化・芸能に対する支援といった活動を行うこと |
簡単にいうと
SRIは投資の話、CSVはポーターの「社会と経済の価値を同時に作る」、SDGsは国連の17ゴール。近年の出題が集中しているところだよ!
① 社会責任投資(SRI)
社会責任投資(Socially Responsible Investment:SRI)は、CSR活動を積極的に行っている企業を証券投資の面から支援するものであり、アメリカのキリスト教会が宗教的な価値観を資金運用に適用したことが始まりであったとされています。
② SRIの手法の変化
ここが出題されるところです。
手法は時代とともに変わりました。1980年代までは、アルコール、タバコ、軍事、ギャンブルといった産業を投資先から外す形が中心で、これをネガティブ・スクリーニングといいます。現在の主流はその逆で、CSRに積極的な企業を選んで投資するポジティブ・スクリーニングです。
| ネガティブ・スクリーニング |
|---|
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企業の社会的責任の領域は、基本責任、義務責任、支援責任の3つの領域で構成されるという考え方があります。
図では、より基本的な責任から高次な責任へと同心円で示されます。内側から順に見ていきましょう。
| 領域 | 位置 | 中身 | 例 |
|---|---|---|---|
| 基本責任 | いちばん内側 | 自己利益動機による相互同意型価値交換の推進 | 適正な商品を適正な価格で売り、対価を得る |
| 義務責任 | まんなか | 法令や社会の求めに応じて果たすべき責任 | 雇用機会の提供、納税義務、外部不経済の除去、内部不経済の排除 |
| 支援責任 | いちばん外側 | 求められてはいないが社会に貢献する責任 | 文化支援(メセナ活動など)、社会支援(フィランソロピーなど)、政治支援(公正な政治献金など)、経済支援(国際経済援助など) |
④ それぞれの中身
基本責任は、事業そのものを健全に営むことです。自己利益動機による相互同意型価値交換の推進という言い回しは硬いのですが、要は「互いに納得のうえで、価値を交換する」ということです。売り手も買い手も得をする取引をきちんと行う。これが土台です。
義務責任には次のものが含まれます。
・雇用機会の提供
・納税義務
・外部不経済の除去……公害や環境破壊など、自社の活動が外部に与える害を取り除くこと
・内部不経済の排除……不公正取引、欠陥商品、情報隠蔽など、取引の内側で生じる害をなくすこと
外部不経済と内部不経済の区別は押さえておきましょう。外部は社会全体に及ぶもの、内部は取引の当事者に及ぶものです。
支援責任は、義務ではないが積極的に行う社会貢献です。同心円のいちばん外側にあり、最も高次な責任と位置づけられます。
⑤ 同心円であることの意味
この3つが同心円で描かれているのには意味があります。
内側を満たさずに外側だけを行っても、CSRとは呼べないということです。納税を逃れながら文化支援をしても、評価されません。欠陥商品を出しながら寄付をしても同じです。
基本責任 → 義務責任 → 支援責任という順に積み上がる構造だと理解しておくと、選択肢の判断がしやすくなります。
② 2つの使い分け
混同しやすいので、対象で区別してください。
・フィランソロピー……社会一般への支援(医療、教育、福祉、災害支援など)
・メセナ……文化・芸能への支援(音楽、美術、演劇、文化財の保護など)
フィランソロピーはギリシャ語の「人類愛」、メセナはローマ帝国で文芸を保護した政治家の名前が語源とされます。語源から覚えると取り違えにくくなります。
なお、前のテーマの3領域の図では、文化支援の例としてメセナ活動が、社会支援の例としてフィランソロピーが挙げられていました。この対応も確認しておきましょう。
③ ISO26000
ISO26000は、2010年11月に発行された社会責任(SR)に関する国際規格です。
この規格について、試験で問われるのは次の2点です。
❶ 対象が企業に限らない
企業などの営利組織だけでなく、学校、病院、国際機関、政府など、幅広い組織を対象にしています。
名称が「CSR(企業の社会的責任)」ではなく「SR(社会責任)」となっているのは、このためです。企業に限らない、あらゆる組織の社会責任を扱う規格なのです。
過去問では、次の記述が正しいものとして出題されています。
『ISO26000は、企業のみならず、あらゆるタイプの組織の社会的責任に関する国際規格である』
❷ 第三者認証を意図した規格ではない
第三者認証を意図した規格ではありませんが、社会的責任に関する手引き(ガイダンス)として活用することができます。
ISOの規格というと、ISO9001(品質)やISO14001(環境)のように「審査を受けて認証を取る」ものを思い浮かべがちですが、ISO26000は認証規格ではありません。あくまで手引きです。この点は選択肢で狙われます。
| ISO9001・ISO14001 | ISO26000 | |
|---|---|---|
| 性格 | 認証規格 | 手引き(ガイダンス) |
| 第三者認証 | 意図している | 意図していない |
| 対象 | 組織のしくみ | あらゆるタイプの組織の社会責任 |
| 発行 | - | 2010年11月 |
具体例
ある製薬会社の社会貢献活動を、種類ごとに仕分けてみましょう。
フィランソロピー活動にあたるもの
・過疎地の診療所に医療機器を寄贈
・薬学部の学生向け奨学金制度を設ける
・大規模災害の際に、医薬品を無償で提供
・社員が就業時間内に献血や福祉施設の支援に参加できる制度
いずれも医療・教育・福祉といった社会一般に向けた支援です。
メセナ活動にあたるもの
・本社ロビーを地域の音楽家に無料で開放する
・地元の伝統工芸の後継者育成に資金を出す
・美術館を運営し、収蔵品を公開する
こちらは文化・芸能への支援です。
ISO26000との関わり この会社は、ISO26000を参考に社会責任の取り組みを整理しました。ただし認証を取得したわけではありません。そもそもISO26000は認証を意図した規格ではないからです。
会社は、この規格を「自社の取り組みに抜けがないかを点検する手引き」として使いました。同じ手引きを、系列の病院と企業年金基金も使っています。企業以外の組織も対象だからこそ、こういう使い方ができるわけです。
試験のポイント
| 考え方 | 望ましくない産業を投資対象から外す | 望ましい企業に積極的に投資する |
| 対象の例 | アルコール、タバコ、軍事、ギャンブル | CSR活動を積極的に行っている企業 |
| 主流だった時期 | 1980年代まで | 現在 |
「避ける」から「選ぶ」へ、という変化です。単に悪いものを除くのではなく、良い取り組みをしている企業に資金を向けることで社会をよくしていこう、という発想に変わってきました。
③ CSV(Creating Shared Value)
CSVは共通価値の創造と訳され、2011年にマイケル・E・ポーターが提唱したものです。
第2章で競争戦略を学んだポーターが、CSRの領域にも踏み込んできた、というところが面白い点です。
ポーターが問題にしたのは、従来のCSRが善行としての社会貢献にとどまりがちだった点です。そこで、社会的な課題を解くこと自体を通じて、社会価値と経済価値を同時に生み出すという考え方を示しました。事業戦略の目で見たCSR、と言い換えることもできます。
④ CSRとCSVの違い
CSRももちろん、まったくの奉仕活動というわけではありません。ただ実際のところ、利益の追求と一直線には結びつかないことが多い。その結果、近ごろは活動が形だけのものになりがち、という状況も見られます。
CSVはここが違います。社会的な課題を解く製品を出す、といった形で、課題の解決と競争力の向上(売上の拡大)を強く結びつけます。だから業績への効き方が直接的なのです。
ただし、この違いはあくまで相対的なものであり、CSRが業績面の効果を考えていないわけではありません。この留保も押さえておきましょう。
| CSR | CSV | |
|---|---|---|
| 性格 | 善行的な社会貢献の側面が強い | 事業戦略の視点で見たCSR |
| 利潤との関係 | 利潤の追求に対して一直線ではないことも多い | 業績面の効果に直結する |
| 生み出すもの | 社会価値 | 社会価値と経済価値を同時に |
| 提唱 | - | 2011年、マイケル・E・ポーター |
過去問では、次の記述が正しいものとして出題されています。
『マイケル・ポーターが提唱するCSV(Creating Shared Value)の考え方は、社会的価値と経済的価値の両立をうたうものであり、高い収益性の実現を重視するものである』
⑤ SDGs
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が示されたのは、2015年9月の国連サミットです。そこで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書のなかに記されていますです。
次の点を数字ごと覚えておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 採択 | 2015年9月の国連サミット |
| 記載された文書 | 持続可能な開発のための2030アジェンダ |
| 構成 | 17のゴール・169のターゲット |
| 理念 | 地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind) |
| 目標期間 | 2016年から2030年まで |
⑥ MDGs(SDGsの前身)
SDGsの前にはMDGs(ミレニアム開発目標:Millennium Development Goals)がありました。土台になったのは2000年に採択された国連ミレニアム宣言で、対象とした期間は2001年から2015年まで。開発分野に絞った国際目標です。
| MDGs | SDGs | |
|---|---|---|
| もとになった文書 | 2000年採択の国連ミレニアム宣言 | 2015年採択の持続可能な開発のための2030アジェンダ |
| 期間 | 2001年〜2015年 | 2016年〜2030年 |
| 分野 | 開発分野 | 持続可能な開発全般 |
MDGsの期間が終わった翌年からSDGsが始まっている、という時系列で覚えると年号が定着します。
具体例
CSRとCSVの違いを、同じ会社の2つの取り組みで比べてみましょう。
従来型のCSR活動 この農業機械メーカーは、毎年1,000万円を途上国の学校建設に寄付していました。意義はありますが、
・自社の事業とは関係がない
・売上にも技術にも結びつかない
・業績が悪化すると真っ先に削られる
・担当者が代わると「去年もやったから今年も」とマンネリ化する
という性格を持っていました。
CSVとして始めた取り組み 同じ会社が、途上国の小規模農家向けに超小型の耕うん機を開発しました。
・価格は既存機の5分の1。現地の農家が手に届く水準
・部品を減らし、現地で修理できる構造にした
・作業時間が3分の1になり、農家の収穫量と所得が上がった(社会価値)
・同時に、この機械は同社の新しい収益源になった(経済価値)
・さらに、この設計思想が先進国の家庭菜園向け製品にも応用された
違いはどこにあるか 寄付は「儲けた利益の一部を社会に返す」活動です。一方の耕うん機は、社会的課題を解決することそのものが事業になっている。だから業績が悪化しても止まりませんし、続けるほど会社も社会も良くなります。
これが社会的課題の解決と競争力向上(売上拡大)をより一層リンクさせたものという説明の中身です。
試験のポイント
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