国際経営戦略
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プレミアムで見る海外で事業を展開するとき、企業はひとつの厄介な問いに直面します。世界中で同じやり方を通したほうが効率がよいのか、それとも国ごとにやり方を変えたほうが売れるのか。効率を取れば現地の事情に合わず、現地に合わせれば効率が落ちる。この二律背反をどう扱うかを整理したのがI-Rフレームワークです。短い章ですが、第2章で学んだ国際業界の戦略オプションと直結する内容なので、あわせて押さえておきましょう。
簡単にいうと
世界で同じやり方を通すか、国ごとに変えるか。この2つは基本的にトレードオフの関係にある、というのが出発点だよ!
① 国際経営に特有の課題
国内だけで事業をしているあいだは、「どの市場で戦うか」「どう勝つか」を考えれば足りました。しかし国境を越えると、もうひとつの軸が加わります。国ごとの違いをどこまで受け入れるかという軸です。
この課題は、次の2つの要請として整理されます。
❷ グローバル統合(Integration)
グローバル統合とは、世界各国の活動を1つのものとしてまとめ、効率を高めようとする要請です。
具体的には、
・製品の仕様を世界共通にする
・生産を1か所に集約して規模の経済性を得る
・研究開発を本国に集中させ、重複をなくす
・ブランドと広告を世界で統一する
といった動きです。第2章で学んだ規模の経済性や経験曲線効果が、国境をまたいで働くことになります。
❸ ローカル適合(Responsiveness)
ローカル適合(現地適応)とは、進出先の国ごとの事情に製品やしくみを合わせようとする要請です。
国が違えば、次のものが変わります。
・顧客の好み(味、大きさ、色、使い方)
具体例
同じ「海外展開」でも、2社のやり方はまったく違います。
グローバル統合を重んじたA社(産業用ベアリングメーカー)
・製品の規格は世界共通。図面も世界で1種類
・生産は日本、タイ、ポーランドの3拠点に集約
・価格も為替を除けばほぼ同一
・現地法人の役割は営業とアフターサービスに限定
ベアリングに「その国らしさ」は要りません。求められるのは精度と価格です。だから統合を徹底したほうが強くなります。
ローカル適合を重んじたB社(即席麺メーカー)
・味は国ごとに開発。同じブランドでも中身が違う
・ある国では宗教上の理由から特定の原料を使わない
・麺の太さも、現地で一般的な食べ方に合わせて変える
・工場は主要国ごとに置き、現地調達を基本とする
食品は好みの差が大きく、規制も国ごとに違います。世界共通の味を押し通しても売れません。
もしA社が適合を進めたら 国ごとに規格を変えれば、生産ラインが分かれ、在庫も部品も増え、価格競争力を失います。
もしB社が統合を進めたら 世界共通の味にすれば製造コストは下がりますが、どの国でも「ここの好みではない」と言われる商品になります。
どちらが正しいかではなく、その業界でどちらが効くかという問題であることが分かります。

I-Rフレームワーク(統合−適応フレームワーク)
試験のポイント
簡単にいうと
統合(I)と適合(R)の2軸で4類型。両方低いのがインターナショナル、両方高いのがトランスナショナル。4つの位置を図で覚えよう!
① I-Rフレームワークとは
I-Rフレームワーク(統合−適応フレームワーク)とは、多国籍企業の戦略を4つに分ける枠組みです。使う軸は2本。グローバル統合(Integration)がどれだけ求められているかと、ローカル適合(Responsiveness)がどれだけ求められているかです。
バートレットとゴシャールによる整理として知られています。
② 4つの類型
| ローカル適合:低 | ローカル適合:高 | |
|---|---|---|
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・流通の仕組み(小売の構造、商慣行)
・所得水準と価格の相場
・気候や住環境
② 2つは基本的にトレードオフ
ここが重要です。統合を進めれば効率は上がりますが、現地の事情に合わなくなります。適合を進めれば現地では売れますが、種類が増えて効率が落ちます。
第2章で学んだスタック・イン・ザ・ミドルを思い出してください。相反する2つを同時に追うと、どちらも中途半端になるという警告でした。国際経営でも同じ構図が現れます。
| グローバル統合を重んじると | ローカル適合を重んじると | |
|---|---|---|
| 製品 | 世界共通の仕様 | 国ごとに仕様を変える |
| 生産 | 少数拠点に集約 | 各国に分散 |
| 意思決定 | 本社に集中 | 現地法人に権限を委ねる |
| 強み | コストが下がる、ブランドが統一される | 現地のニーズや規制に合う |
| 弱み | 現地で受け入れられないことがある | コストが上がり、重複が生じる |
③ どちらを重んじるべきかは業界による
この二択には一般解がありません。業界によって、効きやすいほうが変わります。
・統合が効きやすい業界……半導体、航空機、産業機械など。仕様が世界共通で、規模の経済性が大きい
・適合が効きやすい業界……食品、日用品、小売など。好みや商慣行が国ごとに大きく違う
第1章で学んだミンツバーグの「状況による」が、ここでも当てはまります。
| グローバル統合:高 |
| グローバル企業 |
| トランスナショナル企業 |
| グローバル統合:低 | インターナショナル企業 | マルチナショナル企業 |
❶ インターナショナル企業(統合:低/適合:低)
本国で開発した製品や技術を、そのまま海外に移転していく型です。海外子会社は、本国の知識やしくみを受け取って使う立場にあります。
統合も適合もそれほど強く求められていない段階で、海外展開の初期によく見られる姿です。本国が中心にあり、海外はその衛星という構図になります。
❷ グローバル企業(統合:高/適合:低)
世界を1つの市場としてとらえ、世界共通の製品を効率よく供給する型です。
意思決定も資源も本社に集中し、規模の経済性を最大限に引き出します。海外子会社は、本社が決めたものを実行する役割を担います。
第2章で学んだ国際業界の戦略オプションでいうグローバル戦略(世界を単一の市場であるととらえる)に対応します。
❸ マルチナショナル企業(統合:低/適合:高)
国ごとに異なる消費者ニーズに合わせ、各国の子会社が自律的に活動する型です。
現地法人が製品開発から生産、販売までを担い、本社は資本関係でつながっているだけ、という姿になることもあります。現地に合う一方で、国をまたいだ重複や非効率が生じます。
第2章でいうマルチナショナル(マルチドメスティック)戦略(国ごとに異なる消費者ニーズに適応する)に対応します。
❹ トランスナショナル企業(統合:高/適合:高)
トレードオフの関係にある統合と適合の利点を、同時に追求しようとする型です。
第2章でいうトランスナショナル戦略(トレードオフの関係にあるマルチナショナル戦略とグローバル戦略の利点を同時に追求する)に対応します。
③ トランスナショナルはどうやって両立させるのか
統合と適合はトレードオフだったはずです。ではなぜ同時に追えるのか。ここが理解のしどころです。
答えは、会社全体で一律に決めるのをやめるという点にあります。
・機能ごとに分ける……研究開発と調達は統合し、商品企画と販売は現地に委ねる
・拠点ごとに役割を与える……ある国の拠点を、その製品分野の世界拠点にする
・知識を双方向に流す……本国から海外へ一方通行ではなく、海外拠点で生まれた工夫を世界に広げる
3つ目が特徴的です。インターナショナル企業では知識は本国から海外への一方通行でしたが、トランスナショナル企業では海外拠点も知識の発信源になります。第4章で学んだリバース・イノベーションは、まさにこの形です。
④ 4類型の見取り図
| 類型 | 統合 | 適合 | 意思決定 | 知識の流れ | 対応する戦略 |
|---|---|---|---|---|---|
| インターナショナル | 低 | 低 | 本国中心 | 本国 → 海外 | 本国の製品や技術の移転 |
| グローバル | 高 | 低 | 本社に集中 | 本社 → 各国 | グローバル戦略 |
| マルチナショナル | 低 | 高 | 現地法人が自律 | 各国で完結 | マルチナショナル戦略 |
| トランスナショナル | 高 | 高 | 機能・拠点ごとに分担 | 双方向 | トランスナショナル戦略 |
⑤ 発展段階ではない
誤解されやすい点を1つ。この4つは「インターナショナル → グローバル → トランスナショナル」という発展の順番を示したものではありません。
どの型が適しているかは、その業界で統合と適合のどちらの要請が強いかで決まります。ベアリングのように適合の要請が弱い業界なら、グローバル企業のままでいるのが正解です。無理にトランスナショナルを目指せば、余計な複雑さを抱え込むだけになります。
具体例
同じ電機メーカーの中でも、事業によって型が違うことがあります。1社の中を見てみましょう。
半導体事業(グローバル企業型)
・製品仕様は世界共通。顧客は世界中の機器メーカー
・工場は3拠点に集約。1工場の投資額が数千億円なので分散できない
・価格も世界市場で決まる
→ 統合:高/適合:低
白物家電事業(マルチナショナル企業型)
・洗濯機は、国によって求められるものがまるで違う(水質、洗剤、洗濯の習慣、設置場所の広さ)
・ある国では床に置いて水をかける前提の設計が要る
・各国の開発拠点が、それぞれの市場向けに設計する
→ 統合:低/適合:高
医療機器事業(トランスナショナル企業型)
・画像診断装置の基幹部品と基本ソフトは世界共通(統合)
・一方、各国の保険制度や医師の使い方に合わせて操作画面と付属機能は現地で作り込む(適合)
・さらに、新興国向けに開発した携帯型モデルが評価され、先進国の救急搬送用として世界展開された(知識の双方向の流れ)
→ 統合:高/適合:高
同じ会社でも、事業ごとに統合と適合の要請の強さが違うため、適した型が変わるわけです。「わが社はトランスナショナルを目指す」と一律に決めるのが、必ずしも正しくない理由がここにあります。
試験のポイント
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