技術経営
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プレミアムで見る技術で競争優位を得る方法は、大きく2つあります。ひとつは特許などで他社の模倣を防ぐこと。もうひとつは、自社の規格を業界の標準にしてしまうことです。前者が守りなら、後者は攻めといえます。とくに規格をめぐる競争では、技術的に優れているほうが必ず勝つとは限らないという点が面白いところです。その仕組みをネットワーク外部性という考え方から押さえていきましょう。
簡単にいうと
特許を取る目的は「真似されないため」だけじゃない。他社に特許を取られないため、業界標準を握るため、交渉を有利にするため、ライセンス収入を得るため。6つあるよ!
① 技術で競争優位を得る2つの手法
企業が技術面において競争優位を獲得する手法として、他社の模倣を防ぐ知的財産戦略、自社の技術規格を業界標準にするデファクトスタンダードなどがあります。
② 知的財産戦略の6つの目標
特許権などの知的財産権を企業収益につなげるための戦略目標は、次のようになります。
| 戦略目標 | |
|---|---|
| ① | 自社のイノベーションに対する他社の模倣を防ぐ |
| ② | 他社による関連技術の特許化を防ぐ |
| ③ | 業界における技術的な標準(デファクトスタンダードなど)を自社中心に確立する |
| ④ | 他社に対する特許侵害リスクを回避する |
具体例
電子部品メーカーの知的財産部門が、1つの技術をめぐって何をしているかを見てみましょう。6つの目標が実際にどう使い分けられているかが分かります。
開発したのは、ある種のセンサーの新しい検出方式です。
① 模倣を防ぐ 検出方式そのものを基本特許として出願しました。これが本命です。
② 他社の特許化を防ぐ 自社では当面使う予定のない「別の材料を使った場合」「別の形状にした場合」まで、合計47件を出願しました。自社が使うためではなく、他社にそこを押さえられて身動きが取れなくなるのを防ぐためです。
③ 業界標準を自社中心に確立する 業界団体の規格検討会に技術者を送り、自社方式を前提とした測定手順が規格案に入るよう働きかけました。前節で学んだバウンダリー・スパンニングの実践です。
④ 特許侵害リスクを回避する 出願前に、他社の既存特許を2,000件以上調査し、抵触しそうな構成を設計段階で避けました。
⑤ クロスライセンスでの優位性 ある大手メーカーと交渉になった際、この47件を含む保有特許の厚みが効き、相手の基本特許を無償で使わせてもらう条件を引き出しました。
⑥ ライセンス収入 自社が参入しない医療機器分野については、3社にライセンスを供与し、年間の売上高比2%を受け取っています。
1つの技術に、6通りの使い道がある。特許は「取って終わり」ではないことが分かります。
試験のポイント
簡単にいうと
デファクトは「競争の結果、事実上そうなった」標準。デジュールは「国際機関などが決めた」標準。出どころが違うんだと押さえよう!
① デファクトスタンダードとは
デファクトスタンダードとは、市場競争の結果、需要者や供給者によって認められた事実上の業界標準です。
誰かが決めたわけではなく、競争の結果としてそうなってしまった標準、という点がポイントです。
デファクトスタンダードをめぐる競争の例としては、家庭用VTRやパソコン、ゲーム機などが有名です。
② 陣営を組む、という戦い方
自社の規格をデファクトスタンダードに押し上げようとするとき、同じ陣営の企業どうしが手を組むことがよくあります。技術を供与したり、OEMで供給したりといった形で、戦略的に足並みを揃えるわけです。
自社だけで押し通すより、仲間を増やして「この規格を使う会社が多い」という状況を作ったほうが有利だからです。第3章で学んだ戦略的提携が、ここで使われます。
簡単にいうと
使う人が増えるほど、使う人にとっての価値が上がる。だから品質で劣っていても、先にシェアを取ったほうが勝つことがあるんだ!
① ネットワーク外部性とは
ソフトウエアやソフトウエアが絡む製品の規格競争においては、ネットワーク外部性に留意する必要があります。
ネットワーク外部性とは、同じネットワーク(あるいは規格)に参加するメンバーが多いほど、そのネットワークに参加するメンバーの効用が高まることを指します。
ふつうの製品は、他の人が持っているかどうかと自分にとっての価値は関係ありません。しかしネットワーク外部性が働く製品では、他の人が使っているほど、自分にとっての価値が上がるのです。
② 品質が劣っていても勝てる
ここが最重要のポイントです。
ネットワーク外部性が働く製品では、品質の優劣は決め手になりません。ある規格がシェアで一歩抜け出すと、その規格を選んだほうが便利になります。便利だから次の人も選ぶ。こうして雪だるま式に利用者が増えていきます。
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| クロスライセンス契約における優位性を確保する |
| ⑥ | ライセンス供与による収入を確保する |
③ 6つの狙いを整理すると
ばらばらに見えますが、3つの性格に分けると覚えやすくなります。
・守りの特許(①②④)……模倣を防ぐ、他社に先回りさせない、自社が訴えられないようにする
・攻めの特許(③)……業界標準を自社中心に握る
・稼ぐ特許(⑤⑥)……交渉材料にする、ライセンス料を得る
②「他社による関連技術の特許化を防ぐ」が分かりにくいので補足します。自社が使う予定のない周辺技術まで特許を押さえておくことで、他社がそこを押さえて自社の事業を妨げてくるのを防ぐ、という狙いです。防衛的な出願と呼ばれます。
④ クロスライセンス
クロスライセンスとは、特許の相互使用契約のことです。
A社とB社が互いに相手の特許を使わせ合う取り決めです。技術が高度になると、1つの製品に数千件の特許が関わることも珍しくありません。すべてを自社だけで押さえるのは不可能なので、互いに使わせ合うほうが合理的になります。
ここで⑤の「クロスライセンス契約における優位性を確保する」が効いてきます。手持ちの特許が多いほど、交渉で強い立場に立てます。つまり特許は、それ自体を使うためだけでなく、交渉のカードとしての価値も持つのです。
⑤ 特許の限界
第3章のVRIO分析で学んだとおり、知的財産権として法的な保護対象となっているものであっても、模倣されるリスクがなくなるわけではありません。
理由は2つあります。
・特許は出願すると内容が公開されるため、それを手がかりに回避する技術(迂回発明)を開発されうる
・模倣には、同じものを作る以外に、同じ機能を別の手段で実現するという道もある
だからこそ、特許だけに頼らず、前節で学んだインテグラル型の擦り合わせのようなそもそも真似しにくい仕組みと組み合わせることが重要になります。
その一方で、同じ陣営内においても最終的な規格競争の勝者の座を狙って激しい競争が展開されます。
これも第3章で見た協調と競争の併存そのものです。規格を広めるためには協力するが、その規格で一番儲けるのは自社でありたい、という関係です。
③ 事前に決めてしまうという道
なお今日では、規格競争に敗れた場合のダメージを回避するために、競争を経ることなく事前に複数の企業が協議を介して1つの規格を標準とする場合も多くなっています。
規格競争に負けると、それまでの投資がまるごと無駄になります。ならば最初から話し合って決めてしまおう、という流れです。
④ デジュールスタンダード
2つの標準は、決まり方が違います。市場に広く受け入れられた結果として事実上の標準になったものがデファクト標準(デファクトスタンダード)。これに対し、国際機関などの公的な機関が定めたものがデジュールスタンダード(デジュール標準)です。
| デファクトスタンダード | デジュールスタンダード | |
|---|---|---|
| どうやって決まるか | 市場競争の結果 | 公的機関による策定 |
| 決める主体 | 需要者と供給者(市場) | 国際機関などの公的機関 |
| 意味 | 事実上の標準 | 法や規定による標準 |
| 例 | 家庭用VTR、パソコン、ゲーム機 | ISOやJISなどの規格 |
「デファクト(de facto)」は「事実上の」、「デジュール(de jure)」は「法律上の」という意味のラテン語です。語源から覚えると取り違えにくくなります。
⑤ OEM
デファクトスタンダードの獲得手段として出てきたOEMについても押さえておきましょう。
OEM(Original Equipment Manufacturing)とは、相手先ブランドによる生産です。
| 立場 | 得られるもの |
|---|---|
| 受託側(作る側) | 設備の稼働率および生産量を向上させることができる |
| 委託側(ブランドを付ける側) | 自社で設備投資をせずに販売量を拡大することができる |
規格競争の文脈では、自社製品を他社ブランドで売ってもらうことで、その規格の製品が市場に出回る量を一気に増やせるという意味を持ちます。次のテーマで学ぶネットワーク外部性を働かせるうえで、有効な手になるわけです。
具体例
家庭用ビデオの規格競争は、デファクトスタンダードの古典的な例です。
2つの規格がありました。
・ベータ規格……画質が良いとされていた
・VHS規格……画質はやや劣るが、録画時間が長かった
VHS陣営がとった手
・他社に積極的に技術を供与し、参加メーカーを増やした
・OEM供給によって、自社の工場で作った機械を他社ブランドとして市場に出した
・その結果、店頭に並ぶVHS対応機の台数が一気に増えた
何が起きたか
・VHS対応機が多いので、レンタル店はVHSのテープを多く揃える
・VHSのテープが多いので、次に買う人もVHSを選ぶ
・友人と貸し借りするにも、VHSのほうが便利
この循環が回り始めると、画質という製品そのものの優劣は、もはや決め手になりませんでした。
結果としてVHSが規格競争を制し、ベータ陣営の投資は回収できないまま終わりました。
対照的なデジュールスタンダードの例 ねじの径やピッチ、紙のサイズ(A4など)、非常口の案内表示の図柄といったものは、市場競争ではなく公的機関が定めた規格です。こちらは、そもそも競争の対象になっていません。

デファクトスタンダードと知的財産戦略
試験のポイント
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『技術規格が定まらない新規技術分野では、いくつかの企業が連携して技術規格の標準化を目指す動きが活発であるが、その帰趨は技術の優位性に依存している』
技術の優位性で劣っている場合でも、早期に高いシェアを獲得することで業界標準を確立できます。したがって「技術の優位性に依存している」という記述は誤りです。
③ 一度決まると逆転できない
そして、ある規格がある程度市場に普及すると、他の規格がそれを逆転するのは非常に困難になります。
雪だるまは、転がり始めると加速する一方です。後から出てきた規格がどれだけ優れていても、「みんなが使っている」という利便性には勝てなくなります。
だからこそ、規格競争では速さが決定的になります。第2章で学んだ先発優位性の「製品の規格を決定しやすい」という項目が、ここで効いてくるわけです。速度の経済性やタイムベース競争とも直結します。
④ クリティカルマス
ある商品やサービスが爆発的に普及する(市場規模が拡大する)ために、最小限必要とされる市場普及率のことを、クリティカルマスといいます。
雪だるまが自力で転がり出すのに必要な、最初の大きさだと考えてください。この水準に達するまでは、広告費をかけても普及は伸び悩みます。しかしいったん超えると、あとは放っておいても広がっていきます。
そのため企業は、クリティカルマスに達するまでの期間、赤字を覚悟で無料配布や大幅な値引きを行うことがあります。目先の利益を捨ててでも、普及率を先に取りにいくわけです。
⑤ スイッチングコストとの関係
ネットワーク外部性が働くと、第2章で学んだスイッチングコストも同時に高まります。
周りのみんなが使っている規格から自分だけ乗り換えると、やりとりができなくなったり、蓄積したデータが使えなくなったりします。この乗り換えの負担が、既存の規格を支える参入障壁として働くのです。
具体例
ビジネスチャットの分野で起きたことを追ってみましょう。
クリティカルマスに達するまで あるサービスは、開始から2年間、基本機能をすべて無料にしました。サーバー費用は持ち出しで、明確な赤字です。この間、利用者数は伸びましたが、収益はほぼゼロでした。
なぜ無料にしたのか チャットは、自分ひとりが使っていても価値がありません。同僚も取引先も使っていて初めて役に立ちます。ネットワーク外部性が強く働く製品なのです。
クリティカルマスを超えた後 業界内で「取引先との連絡はこのサービスで」という状態になった時点から、様相が変わりました。
・新しく取引を始める会社は、自動的にこのサービスを導入する
・社内で「他のサービスに変えよう」という声が出ても、取引先が対応していないので変えられない(スイッチングコスト)
・過去のやりとりの履歴が全部そこにあるので、なおさら動けない
競合はどうだったか 実は、機能面でより優れた競合サービスが後から出ていました。検索も速く、動作も軽い。それでも乗り換えは進みませんでした。
品質の優劣にかかわりなく、先にシェアを取ったほうが勝つ。そしていったん普及すると逆転は非常に困難になる。教科書どおりの展開です。
試験のポイント
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