技術経営
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プレミアムで見る先の読めない状況で、どうやって意思決定するのか。従来の経営学の答えは「できる限り詳しく分析して、最適な計画を立てる」でした。ところが、実際に成功している熟練の起業家を調べてみると、そういう考え方をしていなかったのです。そこから見つかったのがエフェクチュエーションです。5つの原則は近年よく問われるので、名前と中身をきちんと結びつけて覚えましょう。
簡単にいうと
「予測して計画する」のがコーゼーション、「手元にあるものから始めてコントロールする」のがエフェクチュエーション。熟練の起業家は後者を使っていた、という発見だよ!
① エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーション(effectuation、実効理論)とは、熟練した起業家に対する意思決定実験から発見された、高い不確実性に対して予測ではなくコントロールによって対処する思考様式のことです。
インド人経営学者のサラス・サラスバシーによって提唱されました。
定義のなかの「予測ではなくコントロールによって対処する」という部分が要です。先が読めないなら、読もうとするのをやめて、自分で動かせるところを動かす、という発想の転換です。
② コーゼーションとの対比
サラスバシーは、エフェクチュエーションと対比する概念を、コーゼーション(causation、因果論)と呼びました。
従来の経営学が説いてきた考え方です。先の読めない取り組みに臨むとき、動き出す前に環境をできる限り細かく調べ上げ、最適な計画を練ることを重んじますです。
| コーゼーション(因果論) | エフェクチュエーション(実効理論) | |
|---|---|---|
| 出発点 | 達成したい目的を決める | 手元にある手段から考える |
具体例
同じ「地方で飲食店を始める」という場面を、2つの思考様式で比べてみましょう。
コーゼーション型のAさん
1. 「3年後に年商1億円の店にする」という目的を定める
2. 商圏人口、競合店数、客単価の相場を半年かけて調査する
3. 分析の結果「イタリアンが手薄」と判断する
4. 最適な立地を選び、必要な資金3,500万円を計算する
5. 資金を調達し、シェフを雇い、計画どおりに開業する
目的が先にあり、そこから逆算して必要な手段を揃えていく進め方です。
エフェクチュエーション型のBさん
1. 手元にあるものを数える。祖母から受け継いだ古民家、母が漬ける漬物のレシピ、農家の友人が3人(手中の鳥)
2. 「失っても生活が壊れない金額は300万円まで」と決める(許容可能な損失)
3. まず週末だけ、古民家で漬物と定食を出してみる
4. 来た客が「この漬物を売ってほしい」と言い出した。想定外だったが、これをきっかけに物販を始める(レモネード)
5. 農家の友人が野菜を卸したいと言い、近所の陶芸家が器を置かせてほしいと言う。話に乗ってきた人とは組んでいく(クレイジーキルト)
6. 3年後の姿は決めていない。いま動かせることに集中して、結果を手繰り寄せる(飛行機のパイロット)

エフェクチュエーションの5つの原則
試験のポイント
簡単にいうと
手中の鳥・許容可能な損失・レモネード・クレイジーキルト・飛行機のパイロット。名前が独特だから、中身とセットで覚えるのがコツ!
エフェクチュエーションにおいては、以下の「5つの原則」が示されています。
❶ 手中の鳥の原則
自らがすでに所有している「手持ちの手段(経営資源)」を活用し、手段主導で何ができるかを発想し、できることから着手すること。
「明日の百より今日の五十」ということわざに近い発想です。目的から逆算して「何が足りないか」を数えるのではなく、いま手元にあるもので「何ができるか」から考えます。
手持ちの手段は、ふつう次の3つで整理されます。
・自分は何者か(価値観、経験、得意なこと)
・何を知っているか(知識、技能)
・誰を知っているか(人脈、関係)
第1章で学んだ経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)のうち、とくに
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| 予測する |
| コントロールする |
| 行動の前に | できる限り詳しく環境を分析する | できることから着手する |
| 計画 | 最適な計画を立てることを重視 | やりながら組み替えていく |
| 他者との関係 | 競合として分析する | パートナーとして巻き込む |
| 予期せぬ事態 | 計画からの逸脱として避ける | テコとして活用する |
③ 実験から分かったこと
サラスバシーの実験から見えてきたのは、次のことでした。不確実性の高い場面を切り抜けてきた熟練の起業家は、予測できるかどうかを重んじるコーゼーションを、必ずしも使っていなかったのです。代わりに目立ったのが、自分で動かせるかどうかを重んじる判断の仕方でした。
ここが重要です。エフェクチュエーションは「こうすべきだ」という規範から生まれた理論ではなく、実際に熟練した起業家が何をしているかを観察して見つかったものです。
④ 第1章とのつながり
第1章で学んだプロセス型(学習型)アプローチを思い出してください。事前に完璧な計画を立てるのではなく、実行しながら学習して戦略を創発的に形成していく、という考え方でした。そして、分析に時間をかけすぎて動けなくなる分析麻痺症候群という弊害も学びました。
エフェクチュエーションは、この問題意識を起業の場面で突き詰めたものだといえます。コーゼーション=計画型、エフェクチュエーション=学習型、と重ねて理解しておくと、両方が記憶に残ります。
⑤ どちらが正しいというものではない
念のため付け加えると、コーゼーションが間違っているわけではありません。
環境がある程度安定していて、市場も競合も見通せる状況なら、分析して最適な計画を立てるほうが効率的です。エフェクチュエーションが効くのは、そもそも予測が成り立たないほど不確実性が高い場面です。第1章で学んだミンツバーグの「状況による」という結論が、ここでも当てはまります。
❷ 許容可能な損失の原則
最悪の事態が起こった場合に起きうる損失をあらかじめ見積もり、それが許容できるならば実行すること。
ここが独特です。ふつうの投資判断は「どれだけ儲かるか(期待リターン)」で決めますが、この原則は「最悪でどれだけ失うか」で決めます。
なぜかというと、不確実性が高い場面ではリターンの予測そのものが当てにならないからです。当てにならない数字で判断するより、確実に見積もれる「失っても耐えられる額」で判断するほうが合理的だ、という発想です。
❸ レモネードの原則
予期せぬ事態は不可避的に発生することを前提に、起こってしまったときにテコとして活用しようとすること。
「酸っぱいレモンをつかまされたら、レモネードを作れ」という英語のことわざから来ています。
コーゼーションでは、予期せぬ事態は計画を狂わせる障害です。しかしエフェクチュエーションでは、予期せぬ事態こそが新しい機会の入り口だと考えます。第1章のプロセス型アプローチでいう「予測しえない状況を学習の機会ととらえる」と同じ発想です。
❹ クレイジーキルトの原則
未開拓の市場であれば、誰が顧客で、誰が競合になるかは事後的にしか分かりようがないと考え、交渉可能な人たちとは積極的なパートナーシップを求めようとすること。
クレイジーキルトとは、端切れをつぎはぎして作る、規則性のないパッチワークのことです。設計図どおりに作るのではなく、手に入った布から模様ができていく様子にたとえています。
まだ市場が存在しない段階では、誰が味方で誰が敵かを分析すること自体が無意味です。だから、話に乗ってきた相手とは組んでみる。その積み重ねで市場の形が決まっていく、という考え方です。
❺ 飛行機のパイロットの原則
コントロール可能な活動に集中し、予測でなくコントロールによって望ましい成果に帰結させること。
5つの原則を束ねる、いちばん上の原則です。天候を予測しようとするのではなく、操縦桿を握って目的地にたどり着く、というイメージです。
② 5つの関係
| 原則 | 一言でいうと | 対応するコーゼーションの発想 |
|---|---|---|
| 手中の鳥 | 手持ちのもので始める | 目的から逆算して必要なものを揃える |
| 許容可能な損失 | 失ってよい額で判断する | 期待リターンで判断する |
| レモネード | 想定外を機会に変える | 想定外は避けるべき逸脱 |
| クレイジーキルト | 乗ってきた人と組む | 競合と顧客を分析して選ぶ |
| 飛行機のパイロット | コントロールできることに集中 | 予測の精度を上げる |
5つとも「予測ではなくコントロール」という一本の筋で貫かれていることが分かります。
③ 中小企業診断士として
この考え方は、経営資源の限られた中小企業や創業者への助言と相性がよいものです。
大企業のように市場調査に費用をかけられない、失敗したときに立て直す余力もない。そういう相手に「まず綿密な事業計画を」とだけ言っても、動けません。
手元にある強みは何か(手中の鳥)、いくらまでなら失っても事業が続くか(許容可能な損失)。この2つから始めるほうが、現実的な一歩になることが多いのです。
具体例
5つの原則が同時に働いた例として、ある地方の古書店の転身を見てみましょう。
❶ 手中の鳥 店主の手元にあったのは、40年分の郷土資料の在庫、地元の郷土史研究会とのつながり、そして古文書を読める自分自身の技能でした。「書店として何が足りないか」ではなく「この3つで何ができるか」から考えました。
❷ 許容可能な損失 新しい取り組みに使える金額を「店を畳まずに済む範囲」として180万円と決めました。どれだけ儲かるかは計算していません。計算できないと分かっていたからです。
❸ レモネード 始めたのは古文書の読み方講座でした。ところが、来た受講者の多くが「自分の家に古い書類があるが読めない」と相談してきます。想定していなかった需要でした。そこで講座を続けながら、家系図や古文書の解読を請け負うサービスを始めます。
❹ クレイジーキルト 話が広がるなかで、・地元の司法書士が「相続の場面で古い書類の解読が要る」と言ってきた
・市の図書館が「所蔵資料の目録づくりを手伝ってほしい」と言ってきた
・大学の研究者が共同調査を持ちかけてきた
誰が顧客になるかは、事前には分かりませんでした。乗ってきた相手と順に組んでいった結果、いまの事業の形ができています。
❺ 飛行機のパイロット この店主は「5年後の売上目標」を持っていません。代わりに「今月は誰に会い、何を1つ試すか」を決めています。予測ではなくコントロールで進めている姿です。
結果として、古書の販売は売上の3割にまで下がりましたが、会社全体の利益は当時の4倍になりました。5年前に事業計画を書いていたら、この形にはたどり着かなかったはずです。
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