企業の社会的責任(CSR)とコーポレートガバナンス
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プレミアムで見る前節で見たとおり、取締役は株主に代わって経営陣を任免し、牽制する立場にあります。ところが日本企業では、この機能が長く働いてこなかったといわれます。理由は単純で、取締役と経営陣が同じ人たちだったからです。この節では、日本企業のガバナンスが抱えてきた問題点と、それを立て直すためにどんな方向が示されてきたのかを押さえます。
簡単にいうと
問題は2つ。「取締役と経営陣が重複している」ことと、「取締役が社内の従業員から昇格した人」であること。どちらも、チェックする側とされる側が近すぎるという話だよ!
① 日本企業ではガバナンスが働いていない
日本企業はコーポレートガバナンスが機能的に働いていません。その理由や問題点は以下のようなものです。
❶ 取締役と経営陣の重複
取締役と経営陣が重複しているため、経営陣の任免は実質的に経営陣自身によって行われています(純粋な意味での取締役による任免ではありません)。
そのため、経営陣として不適任であっても解任することができず、また、経営陣の反社会的な行動を阻止することも困難になります。
前節で見た構図を思い出してください。取締役が経営陣を選び、牽制するのが本来の形でした。ところが両者が同じ人であれば、自分で自分を任免し、自分で自分を牽制することになります。これでは機能しようがありません。
❷ 取締役が内部従業員の昇格者
取締役は社内の従業員が昇格していくことで就任し、その頂点として代表取締役が存在します。
よって、取締役が本来牽制すべき対象である代表取締役が、自分自身よりも上級管理者ということになり、チェック機能が働きません。
日本企業では長く、取締役は「出世の到達点」として扱われてきました。新卒で入社し、課長、部長を経て役員になる。その延長線上に代表取締役がいます。
この場合、取締役にとって代表取締役は上司です。制度上は牽制すべき相手でも、実感としては人事権を握られている上司に異を唱えることになります。牽制できるはずがありません。
② 2つの問題点の共通点
この2つは、結局のところ同じことを別の角度から言っています。
具体例
ある製造業の取締役会の顔ぶれを見てみましょう。問題が構造的なものであることが分かります。
取締役会の構成(従来型)
・代表取締役社長 62歳、新卒入社、勤続40年
・専務取締役(生産担当) 59歳、新卒入社
・常務取締役(営業担当) 57歳、新卒入社
・取締役(管理担当) 55歳、新卒入社
・取締役(技術担当) 54歳、新卒入社
・監査役 61歳、新卒入社、前の管理本部長
全員が同じ会社で40年近くを過ごし、上下関係も当時のまま持ち越されています。
❶ 取締役と経営陣の重複 この5名は取締役であると同時に、生産、営業、管理、技術という業務執行の責任者でもあります。つまり、監督する人と、実行する人が同じです。
❷ 内部従業員の昇格者 取締役(技術担当)が「社長の判断はおかしい」と考えたとします。しかし相手は、8年先輩で、自分を取締役に引き上げた人であり、次の人事を決める人でもあります。制度上は牽制できても、現実には言えません。
もし本当に問題が起きたら 社長が不適切な取引を進めていた場合、この取締役会で止められるでしょうか。全員が社長の部下として40年を過ごしてきた人たちです。止まらない可能性が高い、と考えるのが自然でしょう。
個々の取締役が誠実かどうかの問題ではなく、そういう構造になっているということです。
試験のポイント
簡単にいうと
対策は「株主が意識を持つ」「社外取締役を入れる」「指名委員会等設置会社にする」。3つの委員会の名前と、社外取締役が過半数という条件を覚えよう!
① 3つの方向性
まず、主権者である株主の側にガバナンスへの意識がなければ始まりません。そのうえで制度としての手立てになるのが、社外取締役を置くことと、指名委員会等設置会社に移行することです。ねらいは、取締役の独立性を確保し、株主の利益を代弁できるようにすることにあります。
3つに分けて整理しておきましょう。
| 方向性 | 中身 | 何を解決するか |
|---|---|---|
| 株主のガバナンス意識 |
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・❶は同一人物であるという問題
・❷は上下関係にあるという問題
どちらも、独立した立場から見るという条件が満たされていません。だから次のテーマで出てくる対応策は、いずれも両者を引き離す方向を向いています。
| 監視する側の意思そのもの |
| 社外取締役の選任 | 社外から取締役を迎える | 取締役の独立性の確保、株主の利益の代表 |
| 指名委員会等設置会社 | 3つの委員会を置く機関設計にする | 任免と報酬の決定を経営陣から切り離す |
② 社外取締役の意味
前のテーマで見た2つの問題点を思い出してください。いずれも「チェックする側とされる側が近すぎる」ことが原因でした。
社外取締役は、この距離を作るための手段です。その会社で働いた経験がなく、代表取締役の部下でもない人が取締役会に入ることで、取締役の独立性が確保され、株主の利益を代表する役割を果たせるようになります。
社内だけで固めていた取締役会に外の目を入れる、というのが基本の発想です。
③ 指名委員会等設置会社
指名委員会等設置会社とは、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置する株式会社です。
3つの委員会は、それぞれ次の役割を担います。
| 委員会 | 主な役割 |
|---|---|
| 指名委員会 | 取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定する |
| 監査委員会 | 取締役や執行役の職務執行を監査する |
| 報酬委員会 | 取締役や執行役の個人別の報酬の内容を決定する |
④ 委員会の構成要件
ここが試験で問われる数字です。
各委員会は3名以上の取締役で構成され、各委員会それぞれにおいて社外取締役が過半数となります。
また、それ以外にどの委員会にも属さない取締役を置いても差し支えありません。
・各委員会は3名以上
・各委員会それぞれで社外取締役が過半数
・どの委員会にも属さない取締役を置いてもよい
「社外取締役が過半数」という条件が要です。3名の委員会なら、少なくとも2名は社外取締役でなければなりません。
⑤ なぜこの3つの委員会なのか
3つの委員会が押さえているものを見ると、設計の意図が分かります。
・指名……誰を取締役にするか(人事)
・報酬……いくら払うか(カネ)
・監査……ちゃんとやっているか(監督)
この3つは、経営陣に対する最も強い影響力の源です。人事と報酬を経営陣自身が決められる状態こそが、前のテーマで見た問題の根でした。
だから、この3つを社外取締役が過半数を占める委員会に移すのです。こうすれば、代表取締役は自分の後任も自分の報酬も決められなくなります。
※ なお、指名委員会等設置会社については、会社法の分野として「経営法務」でより詳しく取り上げられます。ここでは、ガバナンスを強める手段のひとつとして位置づけを押さえておけば十分です。
具体例
前のテーマに出てきた製造業が、機関設計を変えた後の姿を見てみましょう。
変更後の取締役会(指名委員会等設置会社)
・取締役9名のうち、社外取締役5名
・社外取締役の顔ぶれは、他社の元経営者2名、弁護士1名、大学教授1名、公認会計士1名
・業務執行は執行役が担い、取締役会は監督に専念する
3つの委員会
・指名委員会 3名(うち社外2名)
・監査委員会 3名(うち社外2名)
・報酬委員会 3名(うち社外2名)
いずれも3名以上で、社外取締役が過半数という条件を満たしています。
何が変わったか
❶ 社長は自分の後任を決められなくなった 次期社長の候補は指名委員会が検討します。社外取締役が過半数なので、「気に入った後輩を引き上げる」という人事はできません。
❷ 社長は自分の報酬を決められなくなった 報酬委員会が個人別の報酬を決めます。業績が振るわなければ、社長の報酬も下がります。
❸ 監督と執行が分かれた 取締役は原則として業務執行に関わらず、執行役が日々の経営を担います。監督する人と実行する人が別になりました。
前のテーマで見た2つの問題点が、いずれも構造として解消されていることが分かります。

機関設計とコーポレートガバナンスの変遷
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