技術経営
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プレミアムで見る技術は、努力に比例してまっすぐ進歩するわけではありません。初めはなかなか進まず、あるとき一気に伸び、やがて頭打ちになる。この形をS字カーブと呼びます。そして技術が世代交代するとき、なぜか業界を制していた優良企業ほど乗り遅れる。これが革新者のジレンマです。この節は技術経営のなかでも最も出題が多いところなので、S字カーブから破壊的イノベーションまで、つながりで理解していきましょう。
簡単にいうと
最初はなかなか進まない、途中で一気に伸びる、最後は頭打ち。横軸は時間じゃなくて「開発努力(開発時間)」、縦軸は「技術成果」だよ!
① S字カーブとは
ある1つの製品を取り上げて、その技術進歩のパターンを経時的に追っていくと、S字型の曲線をたどることがあります。
横軸に技術開発のために投入された資源や時間(開発努力)をとり、縦軸に技術進歩(技術成果)をとると、次のようなパターンになります。
| 段階 | 何が起きているか | 図での呼び方 |
|---|---|---|
| 初期 | 当初は緩やかなペースでしか進歩が進まない | 遅々としたスタート(知識の欠如) |
| 中期 | やがて加速する | 最も急速な進歩 |
| 後期 | しばらくすると再び鈍化する | 緩やかに限界へ近づく |
具体例
自動車のガソリンエンジンの燃費改善を、S字カーブで追ってみましょう。
遅々としたスタート 初期のエンジンは、そもそも燃焼の仕組みが十分に分かっていませんでした。どこをどういじれば燃費が良くなるのかが見えず、職人的な試行錯誤が続きます。知識の欠如の時期です。
最も急速な進歩 燃焼解析が進み、電子制御による燃料噴射が実用化されると、改善の方向がはっきりしました。投じた開発費がそのまま燃費の数字に反映される時期です。この時期には、数年で大きく数値が伸びました。
緩やかに限界へ近づく 現在、ガソリンエンジンの熱効率は理論上の上限に近づいています。1ポイント上げるために、かつての何倍もの開発費が必要です。同じ努力に対する成果が小さくなっている状態です。
ここで各社が直面したのが、「限界に近いガソリンエンジンに投じ続けるか、まだ遅々としたスタートの段階にある電動化に振り向けるか」という選択でした。S字カーブは、この判断を考えるための道具でもあります。

技術進歩のS字カーブ
試験のポイント
簡単にいうと
古い技術のS字カーブと、新しい技術のS字カーブはつながっていない。しかも技術が交代するとき、主役の会社まで入れ替わることが多いんだ!
① 技術はどう交代するのか
技術進歩はS字型のカーブを描くことが多いのですが、このようなイノベーション・ライフサイクルにおいて技術の交代はどのように進むのでしょうか。
既存の技術が成熟し、研究開発の投資効果が落ちてきて、後発の技術に追い抜かれて交代していく、というのがその姿です。図にすると、古い技術のS字カーブの上に、別のS字カーブが飛び地のように重なる形になります。
② 非連続であるということ
後発の技術体系が成熟した既存の技術体系より高水準の性能を実現することによって取って代わるとき、それぞれのS字カーブは非連続である場合がほとんどです。
これを技術革新の非連続性といいます。
たとえば、真空管はトランジスタ、そして集積回路に取って代わられましたが、これらの新旧交代は、技術体系がまったく異なるという意味で非連続的
簡単にいうと
優等生ほど失敗する、という話。「お客さんの声をちゃんと聞いていたから、次の波に乗れなかった」。怠けていたわけじゃないのが怖いところだよ!
① 革新者のジレンマとは
革新者のジレンマ(イノベーションジレンマ)は、主に主要顧客との関係に基づくジレンマです。
かつて自らイノベーションを起こして市場を制した企業、つまりいまのリーダー企業を思い浮かべてください。その企業は、大事な顧客の求めに応えようとして、既存製品を磨き上げる方向(持続的イノベーション)に力を注ぎ続けます。そして気づいたときには、次の世代の技術(破壊的イノベーション)に手が回らなくなっている。この状態を指します。
② なぜ合理的な行動が失敗を招くのか
ここがこの理論の面白いところであり、試験で問われるところです。
・顧客に自社製品技術が支持されている以上、それを否定するようなイノベーションを自ら起こすことはできません。
・そもそも主要顧客の要望に沿った製品を提供したほうが利益率が高くなります。
簡単にいうと
既存の性能をどんどん良くするのが持続的、いったん性能を下げて別の価値を持ち込むのが破壊的。破壊的なほうが「すごい技術」とは限らないのがポイント!
① 2つのイノベーション
前のテーマに出てきた2つの言葉を、あらためて整理しておきます。
| 持続的イノベーション | 破壊的イノベーション | |
|---|---|---|
| 何をするか | 既存製品の性能を、既存の評価軸に沿って高めていく | 既存の評価軸では性能が劣るが、別の価値をもたらす |
| 顧客 | 現在の主要顧客が望んでいる |
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初期が遅いのは「知識の欠如」のためです。何が効くのかが分かっていないので、試行錯誤に時間を費やします。お金と人を投じても、成果として現れにくい時期です。
中期に加速するのは、効きどころが分かってくるからです。知識が積み上がり、改良の方向が定まると、投入した努力がそのまま成果に変わるようになります。
後期に鈍化するのは、技術そのものに限界があるからです。その技術の原理から来る上限に近づくため、さらに努力を投じても成果はわずかしか伸びません。
③ 経営上の意味
S字カーブが示しているのは、同じ努力を投じても、時期によって得られる成果がまったく違うということです。
後期に差しかかった技術に資源を投じ続けるのは、投資効率という点では割に合いません。研究開発の投資効果が落ちてきたと感じたら、それはその技術が限界に近づいているサインかもしれない。この見極めが、次のテーマにつながります。
真空管を改良していけばトランジスタになる、という関係ではありません。まったく別の原理に基づく、別系統の技術です。だから「非連続」なのです。
③ 技術とともに企業も交代する
ここがこのテーマの核心です。
この際に、技術とともに主役である企業も交代することが多いのです。
その理由としては、次のことが考えられます。
・既存の技術体系において主役である企業は、その技術に固執し、技術の老化や新技術の存在に気がつかず、他の企業が開発した後発技術に追い抜かれてしまう
・革新者のジレンマ(次のテーマで詳しく扱います)
業界を制していた企業が、なぜ次の波に乗れないのか。単なる怠慢や無能ではない、という点が重要です。次のテーマで見るように、合理的に判断した結果として乗り遅れるという構造があるのです。
具体例
記録メディアの世代交代を追うと、非連続性がよく見えます。
磁気テープ → 磁気ディスク(ハードディスク) → 半導体メモリ(SSD)
磁気テープをどれだけ改良しても、ハードディスクにはなりません。テープを巻き取って順番に読む仕組みと、円盤の上をヘッドが飛び回る仕組みは、まったく別の技術体系です。同じように、ハードディスクをどれだけ磨いても半導体メモリにはなりません。物理的に動く部品がある技術と、動く部品が一切ない技術との間には断絶があります。
そして主役の企業も入れ替わりました。
磁気テープで強かった会社が、そのままハードディスクの覇者になったわけではありません。ハードディスクで世界を制した会社が、そのまま半導体メモリの主役になったわけでもありません。
興味深いのは、ハードディスクのメーカーが半導体メモリの存在を知らなかったわけではない、という点です。知ってはいたが、
・当時の半導体メモリは容量あたりの単価が何十倍も高かった
・主要顧客であるパソコンメーカーは「大容量を安く」と求めていた
・自社の工場も技術者も、磁気の技術に最適化されていた
という事情から、そちらに舵を切らないほうが合理的だったのです。これが次に学ぶ革新者のジレンマの入り口です。
試験のポイント
よって、
新技術のほうは、出はじめの時点では性能が既存技術に遠く及びません。いまの主要顧客も求めていません。先行きも読めません。この3つが揃っている以上、そこへ資源を注ぐのは合理的な判断とはいえないのです。だから踏み込めなくなりますのです。
順を追って整理すると、こうなります。
1. リーダー企業には、大事な主要顧客がいる
2. その顧客は、いまの製品をもっと良くしてほしいと言う
3. その声に応えるほうが、利益率が高い
4. 一方、新技術は性能が低く、顧客も望んでおらず、儲かるかも分からない
5. だから新技術に踏み込まない。これは経営判断として正しい
6. しかし、その正しい判断の積み重ねが、次世代への乗り遅れを生む
③ 後発の新技術はどこから来るのか
一方、後から出てきた新技術はどうか。はじめは未熟でも、リーダー企業が見向きもしないローエンドの市場でじっくり力を蓄えます。そしていつしか、リーダー企業の主要顧客が集まるハイエンド市場の求めにも応えられるようになります。
こうなるとリーダー企業は、次世代の技術での競争に完全に乗り遅れ、市場から姿を消す場合も多くなります。
新技術は、リーダー企業が見向きもしない安価で性能の低い市場で育ちます。そこは利益率が低く、リーダー企業にとって魅力がありません。しかし新技術はそこで実績を積み、改良を重ね、やがて本丸のハイエンド市場に手が届くようになるのです。気づいたときには、もう追いつけません。
④ 過去問で問われた3つの記述
次の3つはすべて正しい記述として出題されています。破壊的技術が登場した初期段階の特徴として、そのまま覚えてください。
・破壊的技術を利用した製品の性能のほうが、持続的技術を利用した製品の性能よりも低い
・破壊的技術を利用した製品市場のほうが、持続的技術が対象とする製品市場よりも小規模である
・破壊的技術を利用した製品のほうが、持続的技術を利用した製品よりも利益率が低い
性能が低い・市場が小さい・利益率が低い。この3つが揃っているからこそ、リーダー企業は手を出さないのです。
具体例
業務用の大型印刷機メーカーZ社が陥った状況を追ってみましょう。
Z社の主要顧客は大手印刷会社です。彼らの要望ははっきりしていました。「もっと速く、もっと高精細に、もっと安定して」。
Z社は毎年その声に応えました。印刷速度は10年で1.8倍、解像度も大きく向上し、1台8,000万円の機械が飛ぶように売れました。営業利益率は22%。文句のつけようがない経営です。これが持続的イノベーションです。
その頃、別の会社が小型のデジタル印刷機を出していました。・印刷速度はZ社の機械の20分の1
・画質も明らかに劣る
・買うのは名刺やチラシを少部数で刷る町の印刷屋
・機械は1台200万円で、利益率も低い
Z社の企画会議では、この製品が何度か話題になりました。しかし結論はいつも同じでした。「うちの顧客は誰もこんな性能では満足しない」「市場規模がうちの事業の20分の1しかない」「利益率がうちの半分以下だ」。
この判断は、その時点ではすべて正しいのです。
10年後、デジタル印刷機の性能は着実に上がりました。そして「少部数を、その日のうちに」という需要が広がると、かつてZ社の顧客だった大手印刷会社までが、デジタル機を導入し始めました。
Z社が慌てて参入したときには、すでに後発メーカーが20年ぶんの改良の蓄積を持っていました。顧客の声を真面目に聞き続けたことが、そのまま敗因になったわけです。
試験のポイント
| 現在の主要顧客は望んでいない |
| 初期の市場 | 大きい(既存市場) | 小さい(ローエンドや新しい用途) |
| 初期の利益率 | 高い | 低い |
| 担い手 | リーダー企業が得意 | 新規参入企業や周辺の企業 |
② 破壊的イノベーションは「すごい技術」ではない
誤解されやすいのですが、破壊的イノベーションは技術的に高度なものとは限りません。むしろ初期段階では、既存技術より性能が低いのが典型です。
破壊的であるのは技術の中身ではなく、市場と競争の構造に与える影響のほうです。それまでの評価軸(速さ、精度、容量など)とは別の軸(安さ、小ささ、手軽さ、使える場所の広さなど)を持ち込むことで、既存の勝者の優位を無効にしてしまう。だから「破壊的」と呼ばれます。
③ 2つの型
破壊的イノベーションは、どこから入ってくるかによって2つに分けられます。
❶ ローエンド型
既存市場のいちばん下、つまり「そこまでの性能は要らないから安くしてほしい」という層から入ります。リーダー企業は利益率の低いその層を手放しがちなので、そこが新技術の足がかりになります。
❷ 新市場型
これまで「高すぎる」「大きすぎる」「難しすぎる」という理由でその製品を使えなかった人たちに向けて、新しい市場を作ります。既存市場からは客を奪わないので、リーダー企業からはさらに見えにくくなります。
④ リーダー企業はどうすればよいのか
革新者のジレンマが「合理的な判断の結果として起きる」以上、同じ組織の中で両方を追うのは難しいとされます。そこで挙げられる対応策が、
・破壊的技術を扱う組織を、本体から切り離して独立させる
・小さな市場でも成果として評価できる規模の組織に任せる
・既存事業の評価基準(利益率や市場規模)をそのまま適用しない
といったものです。この発想は、この章の後半で学ぶ社内ベンチャーや、次節で学ぶオープン・イノベーションにつながっていきます。
具体例
デジタルカメラの歴史は、破壊的イノベーションの教科書のような例です。
初期のデジタルカメラ(破壊的技術)
・画質は銀塩フィルムに遠く及ばない(性能が低い)
・買うのは、画質より手軽さを求める一部の層だけ(市場が小さい)
・単価も利幅も、フィルムと現像の商売に比べれば小さい(利益率が低い)
フィルムメーカーにとって、これは魅力のない領域でした。主要顧客である写真愛好家やプロカメラマンは、「もっと粒状性の細かいフィルムを」と求めていたのです。その声に応えるほうが、明らかに合理的でした。これが持続的イノベーションです。
しかしデジタルカメラは、別の価値を持ち込んでいました。
・撮ってすぐ確認できる
・現像に出さなくていい
・何枚撮っても追加費用がかからない
・人に送るのが簡単
画質という既存の評価軸では負けていても、別の軸では圧倒的に勝っていたのです。そして画質は、年を追うごとに改善されていきました。
やがて画質が「十分」の水準に達したとき、評価の軸は画質から手軽さへ移りました。その瞬間、フィルムで築いた優位は意味を失います。
さらにその後、デジタルカメラ自体もスマートフォンに置き換えられました。スマートフォンのカメラも、登場時は専用機より画質が劣っていました。同じことが、また起きたわけです。
試験のポイント
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