技術経営
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プレミアムで見るイノベーションは、社内に閉じこもっていては生まれにくくなっています。技術が複雑になり、変化が速くなった結果、ひとつの企業が必要な知識をすべて抱え込むことが現実的でなくなったからです。この節では、外の世界とどう関わってイノベーションを起こすかという3つの考え方を学びます。いずれも近年の出題が多い論点です。
簡単にいうと
自社の知識を外に出し、外の知識を中に入れる。「流入」と「流出」の両方向がある、というのが定義の大事なところだよ!
① オープン・イノベーションとは
ヘンリー・チェスブローが提唱しているオープン・イノベーションとは、知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して社内イノベーションを加速するとともに、イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大することです。
定義が長いので、2つに分けて読むと分かりやすくなります。
| 向き | 何をするか | ねらい |
|---|---|---|
| 知識の流入(外 → 内) | 外部の技術やアイデアを取り込む | 社内イノベーションを加速する |
| 知識の流出(内 → 外) | 自社の技術を外部に使ってもらう | イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大する |
② 両方向であることが肝心
オープン・イノベーションというと「外から技術を買ってくること」だけを思い浮かべがちですが、それは半分です。
自社で使い道のない技術を、他社にライセンスしたり、分社化して外に出したりすることも含まれます。眠らせておけば価値ゼロの技術が、別の会社の手に渡れば収益を生むかもしれないからです。この
具体例
日用品メーカーの取り組みを見てみましょう。
この会社は、社内の研究員が3,000人ほどいましたが、「世界には自社の100倍の研究者がいる」という前提に立ち、開発の進め方を変えました。
知識の流入の例
・解決したい技術課題をWebで公開し、外部の研究者から提案を募る
・大学や中小企業が持つ素材技術を探索する専門チームを置く
・その結果、ある商品の泡立ちを改善する技術は、まったくの異業種である製紙分野の研究者から持ち込まれた
知識の流出の例
・自社で商品化できずに眠っていた包装技術を、食品メーカーにライセンス供与した
・保有特許のうち、今後5年の事業計画で使う見込みのないものを一覧にして公開し、引き合いを受け付けるようにした
成果 新製品のうち、外部の知識を使ったものの比率が15%から45%に上がり、開発期間も平均で3割短くなりました。同時に、ライセンス収入が新たな収益源になりました。
入れるだけでなく出す。この両方が回って初めてオープン・イノベーションだということが分かります。

イノベーションの類型と推進のための取り組み
試験のポイント
簡単にいうと
名前が似ている2つ。リバース・イノベーションは「新興国から先進国へ」、リバース・エンジニアリングは「製品を分解して解析」。まったく別物だよ!
① リバース・イノベーション
リバース・イノベーションとは、新興国で生まれた技術革新(イノベーション)や新興国市場向けに開発した製品などを、先進国にも導入して世界に普及させることです。
従来は、先進国で開発した製品を、機能を落としたり価格を下げたりして新興国に持っていくのが一般的でした。リバース(逆)というのは、この流れが逆向きになっているという意味です。
② なぜ逆流が起きるのか
新興国の市場では、次のような厳しい制約があります。
・価格が先進国の10分の1でなければ売れない
・電源が安定せず、電力事情が悪い
・専門の技術者がいないので、誰でも使える必要がある
・道路事情が悪く、持ち運びできる大きさでなければならない
簡単にいうと
組織と外の世界をつなぐ橋渡し役のこと。外の情報を中に入れるだけじゃなく、中に有利な情報を外に流すのも仕事だよ!
① バウンダリー・スパンニングとは
バウンダリー・スパンニングとは、組織と外部環境の要素とを結びつけ、調整することです(外部環境との橋渡し役)。
「バウンダリー(境界)」を「スパン(またぐ)」という言葉のとおり、組織の内と外の境目に立って、両側をつなぐ働きを指します。
② 2つの働き
主として情報の交換にかかわるもので、次の2つがあります。
| 向き | 何をするか |
|---|---|
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③ 連携の相手
従来から取引関係のある組織体との連携だけでなく、新たな協業先と連携してイノベーションを創出していくものです。
いつもの系列や付き合いのある取引先だけでは、入ってくる知識も似たようなものになります。これまで縁のなかった相手と組むからこそ、新しい組み合わせ(第2節で学んだシュンペーターの「新結合」)が生まれるわけです。
④ 対義語としてのクローズド・イノベーション
オープン・イノベーションに対して、研究開発から事業化までをすべて自社内で完結させる従来の姿をクローズド・イノベーションと呼びます。
| クローズド・イノベーション | オープン・イノベーション | |
|---|---|---|
| 知識の調達 | 自社内の研究所で生み出す | 外部からも積極的に取り込む |
| 自社技術の扱い | 外に出さず囲い込む | 使わないものは外に出して収益化する |
| 優秀な人材 | 自社で抱える | 社外にもいることを前提にする |
| 前提 | 必要な知識は自社で揃えられる | 知識は社外に広く分散している |
⑤ 第3章とのつながり
オープン・イノベーションを実際に進める手段は、第3章で学んだ戦略的提携、産学連携、M&Aなどです。この節の話は、技術の視点から同じ問題を見ているといえます。
この制約のもとで開発すると、先進国の製品とはまったく違う設計思想の製品が生まれます。そしてその「安い・丈夫・手軽」という特性が、先進国でも新しい需要を掘り起こすことがあるのです。
ここで前節の破壊的イノベーションを思い出してください。既存の評価軸では性能が劣るが、別の価値を持ち込む。リバース・イノベーションは、破壊的イノベーションが地理的な形で現れたものだと見ることもできます。
③ リバース・エンジニアリング
なお、類似した用語にリバース・エンジニアリングがあります。これは、競争企業が販売している製品を分解、解析し、その企業のノウハウを解明することです。
名前は似ていますが、中身はまったく別です。
| リバース・イノベーション | リバース・エンジニアリング | |
|---|---|---|
| 何をするか | 新興国発の製品や技術を先進国に導入する | 競合製品を分解・解析してノウハウを解明する |
| 「逆」の意味 | 技術が流れる方向が逆(新興国 → 先進国) | 完成品から設計をたどる方向が逆 |
| 関係する論点 | 国際経営戦略、破壊的イノベーション | 模倣、知的財産戦略 |
リバース・エンジニアリングは、第3章のVRIO分析で学んだ模倣の具体的な手段でもあります。特許を取っていても、製品を分解されれば仕組みは知られてしまう。だからこそ、模倣困難性を特許だけに頼るのは危ういわけです。
具体例
医療機器メーカーの携帯型超音波診断装置が、リバース・イノベーションの代表例としてよく挙げられます。
新興国向けの開発 もともと病院にある据え置き型の装置は1台数千万円で、大きな電源と専門技師を必要としました。農村部に病院が少ない国では、まったく使えません。
そこで現地の開発チームが作ったのは、
・ノートパソコンほどの大きさ
・電池で動く
・価格は据え置き型の20分の1
・画質は明らかに劣るが、妊婦の健診には十分
という装置でした。医師が村を回って使えるので、現地では爆発的に普及します。
先進国への逆流 ここからが「リバース」です。この装置は、先進国でも新しい使われ方をされるようになりました。
・救急車の中で、搬送しながら診る
・スポーツの試合会場で、その場で診る
・訪問診療で、患者の自宅に持っていく
据え置き型では入り込めなかった場面に、市場が生まれたのです。画質という既存の評価軸では劣りますが、「その場で使える」という別の軸で勝っています。
一方のリバース・エンジニアリングは、まったく別の話です。競合メーカーがこの装置を買ってきて分解し、「どのセンサーを使っているのか」「基板の設計はどうなっているのか」を調べる行為がそれにあたります。
試験のポイント
| 環境の変化についての情報を察知して組織に取り入れること |
| 内 → 外 | 組織に有利に働く情報を環境に送り込むこと |
ここでも両方向であることが大事です。情報を集めてくるだけが仕事ではありません。自社にとって都合のよい情報を外に流すこと、たとえば自社の技術の優位性を業界団体や標準化の場で主張することも、バウンダリー・スパンニングに含まれます。
③ イノベーションとの関係
このような情報交換をはじめとした外部環境における関連する領域と卓越した連携をもつことは、イノベーション推進に寄与することになります。
外の世界で何が起きているかを知らなければ、第2節で学んだ「新結合」の材料が手に入りません。また、前のテーマで見たオープン・イノベーションを実際に進めるには、外部との窓口になる人や部署が必要です。その役割を担うのがバウンダリー・スパンナーです。
④ 組織論とのつながり
この概念は、第7章で学ぶ組織構造論にもつながっています。
・資源依存モデル……企業は外部から資源を得ざるを得ないため、外部組織との関係を管理する必要がある
・環境の不確実性への対応……不確実性が高いほど、外部との情報のやり取りを担う仕組みが重要になる
第1章で学んだ「企業はオープンシステムである」という前提が、ここでも効いています。外に開かれているからこそ、その境界をまたぐ役割が必要になるわけです。
⑤ 誰が担うのか
特定の部署だけが担うとは限りません。営業担当者は顧客の声を持ち帰りますし、購買担当者は仕入先の動向を知っています。研究者は学会で他社の動きに触れます。重要なのは、そうして持ち帰られた情報が組織の中で共有され、意思決定に届く仕組みがあるかどうかです。
具体例
電子部品メーカーの技術企画室が、バウンダリー・スパンニングをどう担っているかを見てみましょう。
外 → 内(情報を察知して取り入れる)
・主要な国際学会に毎年3名を派遣し、発表そのものより「どの分野に発表が集中しているか」を報告させる
・顧客企業の購買担当だけでなく、設計担当と定期的に会い、2年先に何を作ろうとしているかを聞き出す
・部品商社から、競合他社の納期や在庫の動きを聞き取る
この結果、ある年に「顧客各社が同時に小型化を検討している」という兆しをつかみ、他社より1年早く開発に着手できました。
内 → 外(有利な情報を送り込む)
・業界団体の標準化委員会に技術者を送り込み、自社方式が規格に採用されるよう働きかける
・技術論文を積極的に公開し、「この分野はあの会社が先行している」という認識を業界に作る
・顧客の設計部門に技術資料を配り、設計段階から自社部品を前提にしてもらう
とくに標準化委員会への働きかけは、次の節で学ぶデファクトスタンダードの獲得に直結します。
情報を集めるだけの部署だったら、ここまでの成果は出ていません。内から外への働きかけも含めて橋渡し役だ、というのがバウンダリー・スパンニングの考え方です。
試験のポイント
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