人的資源管理
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「PPM」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る人事評価は、人事制度のなかで最も多くの仕組みとつながっている部分です。
評価の結果は、配置や異動の判断材料になり(第5節)、能力開発の計画に反映され(第11節)、そして賃金や賞与として跳ね返ってきます(第8〜10節)。評価が歪めば、その歪みは人事制度の全域に広がってしまう。だからこそ、人事システムの中心に置かれるサブシステムだといわれます。
この節では人事考課という言葉を使いますが、人事評価と同じ意味だと考えて差し支えありません。
学習の力点は2つです。ひとつは、評価が情意・能力・業績の3つに分かれること。もうひとつは、人が人を評価する以上どうしても生じる歪み、すなわち心理的誤差傾向と、その打ち消し方です。とくに評価エラーの種類は、名前と中身を結びつける形でよく問われます。
簡単にいうと
評価って「点数をつけること」だと思われがちだけど、それは手段なんだ。何のために点数をつけるのか、そこから見ていこう!
① 人事考課とは何か
人事考課とは、従業員一人ひとりの知識、性格、職務遂行能力、適性、業績などを一定の基準に基づいて評価し、そこで得られた情報を昇進・昇格、配置・異動、能力開発、昇給、賞与といった管理に活かして、従業員の有効活用と適切な処遇を行うための手続きをいいます。
定義のなかで見落としやすいのが後半です。評価することが目的なのではなく、評価で得た情報を何かに使うことまでが人事考課の範囲に含まれます。評価しただけで誰も使わないなら、それは人事考課とはいえません。
② 人事考課の3つの目的
ⅰ 処遇に反映させること
従業員の行動、能力、業績を公正に評価し、その結果を賃金(昇給・賞与など)や昇格、役職の任命に結びつけます。
能力のある人材、業績に貢献した人材を高く評価すれば、モラール(勤労意欲)が上がります。逆に、貢献した人もしなかった人も同じ扱いなら、第8章で見た公平説のとおり、貢献した側のやる気が落ちていきます。
ⅱ 能力開発と適正配置に結びつけること
各従業員の能力や適性を診断し、適切な教育訓練を用意したり、力が活きる部署へ配置したりします。処遇を決めるためだけの評価ではないということです。
ⅲ キャリアパスを計画すること
その人がどんな仕事に向いているか、長期的にどのような道を進むべきかを考え、キャリアパス(職務経歴)を計画します。第5節で見たCDPは、この目的を制度の形にしたものです。
③ 3つの目的は時間の向きが違う
ⅰは過去に対する報い、ⅱは現在の力の見立て、ⅲは将来の道筋づくりです。同じ評価結果を、3つの時間軸で使い分けている。そう捉えておくと、制度の設計意図が見えやすくなります。
具体例
ある部品メーカーで、営業担当のKさんが受けた年1回の評価を追ってみます。
評価結果は5段階のB。新規開拓の件数は目標を上回りましたが、見積書の提出遅れが何度かあった、というのが理由でした。
この結果は3つの場所へ流れていきます。
処遇としては、賞与の支給率がB評価の1.0倍に決まりました。A評価なら1.2倍でしたから、差は10万円ほどです。
能力開発としては、見積業務の手順が身についていないと判断され、秋の社内研修の受講者リストにKさんの名前が入りました。
キャリアとしては、新規開拓に強いという評価が記録され、翌年の新規事業立ち上げチームの候補に挙げられました。
同じ1回の評価が、賞与と研修と配置の3つを動かしています。評価が人事システムの中心に置かれるのは、こういう構造だからです。
試験のポイント
簡単にいうと
評価は3つに分かれるよ。やる気を見るのが情意、力を見るのが能力、結果を見るのが業績。3つセットで覚えてね!
① 3つの評価
人事考課は大きく、情意評価、能力評価、業績評価に分かれます。
情意評価は、仕事に対する姿勢や勤務態度を対象にします。規律性、協調性、積極性、責任性といった項目で測られます。
能力評価は、仕事の経験や教育訓練を通じてその人のなかに蓄えられた職務遂行能力を対象にします。第2節で見た職能資格制度の職能が、まさにこれにあたります。
業績評価は、業務によって実際に生み出された成果を対象にします。売上高、達成件数、コスト削減額など、外に現れた結果を測るものです。
② 3つはどこが違うのか ― 見ている時点が違う
3つの関係は、仕事の流れに沿って並べると見通せます。
簡単にいうと
人が人を評価する以上、どうしてもクセが出るんだ。このクセに名前がついてるから、8つまとめて押さえよう!
① 最大の課題は「他人による評価の限界」
人事考課には多くの課題が指摘されていますが、そのうち最大のものは他人による評価の限界です。
評価する側も人間ですから、客観性や公平性を厳密に担保するのは簡単ではありません。人間の認知の仕組みそのものに由来する偏りが、どうしても入り込みます。これを心理的誤差傾向、あるいは評価バイアスと呼びます。
② 評価エラーは原因で3つに束ねると覚えやすい
代表的なエラーは8つありますが、名前を羅列しても記憶に残りません。何が評価を歪めているのかで束ねてみます。
ⅰ 印象が他に飛び火するもの
簡単にいうと
評価のクセをどう打ち消すか。評価する人を鍛える、本人の声を入れる、評価する人を増やす。この3つだよ!
① 3つの打ち手
他人による評価の限界を打開するための方策は、大きく3つあります。
3つは打ち消し方の方向が違います。考課者訓練は評価する人を鍛える、自己申告制度は評価される人の声を入れる、多面評価は評価する人を増やす。この違いで整理しておくと混ざりません。
② 自己申告制度
自己申告制度
簡単にいうと
目標を上司と一緒に決めて、達成度を評価する仕組みがMBO。査定の道具に見えるけど、本当は育てるための道具なんだよ!
① 目標管理制度とは
目標管理制度(MBO:Management By Objectives)とは、従業員別に毎年その年度の目標を設定し、年度末にその達成度を評価する人事評価制度です。
② 基本的な手続き
手順は次の4段階で進みます。
ⅰ 目標の設定
上司は部下に次期の業務目標を提出させ、組織全体の立場から話し合って、その目標を決定します。
ここが第一の要点です。上司が一方的に割り当てるのでも、部下が勝手に決めるのでもなく、部下が出し、話し合って決める。この順序が制度の性格を決めています。
ⅱ 達成方法は本人に任せる
決定された目標をどう達成するかは、なるべく本人の創意に任せます。
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
仕事は、能力があり、意欲をもって取り組み、その結果として成果が出るという順に進みます。この流れの、どの地点を切り取っているかで3つが分かれます。
つまり、能力評価と情意評価は過程の評価、業績評価は結果の評価です。
③ 蓄えと現れ
能力評価には、もうひとつ特徴があります。経験や訓練を通じてストックされたものを測る、という点です。
能力は、使わなければ外に現れません。配属先や景気の巡り合わせによっては、高い能力を持ちながら成果に結びつかないこともあります。逆に、たまたま良い市場に当たって実力以上の数字が出ることもあるでしょう。
だからこそ、業績だけで人を測らずに能力と情意を別に立てる意味があります。第3節で見た成果主義の難しさは、この3つのバランスをどう取るかという問題でもありました。
具体例
同じ営業部の2人を、3つの軸で並べてみます。
Lさんは入社3年目。担当エリアが都市部で、前任者から引き継いだ大口顧客もあり、売上は部内トップでした。ただ、商品知識はまだ浅く、技術的な質問は先輩に回すことが多い。報告書の提出も遅れがちです。
→ 業績評価は高い。能力評価と情意評価は低め。
Mさんは入社8年目。担当エリアは人口が減り続ける地方で、売上は部内の下位です。しかし製品の技術的な中身に詳しく、他の営業担当から相談を受ける立場にあります。顧客からのクレーム対応も自分で最後まで引き受けます。
→ 業績評価は低い。能力評価と情意評価は高い。
業績だけで評価すればLさんが上、能力と情意だけで評価すればMさんが上になります。どちらか一方に寄せた制度が危ういことは、この2人を並べてみればはっきりします。

人事考課の心理的誤差傾向
試験のポイント
ⅱ 評価の目盛りが偏るもの
ⅲ 評価者側の事情が混ざるもの
③ 紛らわしい組み合わせに注意
ハロー効果は、ひとつの目立つ特徴に幻惑されて他の項目まで引っ張られることをいいます。同じ人を評価しても時期や順序で結果が変わる、という説明は別のことを指しているので、この形で問われたら誤りと判断します。
対比誤差は、評価者自身を物差しにしてしまうことです。自分が得意な分野では基準が厳しくなり、苦手な分野では甘くなる。被評価者どうしを比べることではありません。
逆算化傾向は、結論が先にあって理由を後から埋める形です。「今年はAさんを昇格させたい」が先に決まり、各項目の点をそこに合わせていく。評価の手続きそのものが空洞になる、たちの悪いエラーです。
具体例
課長のNさんが、部下5人の評価をつけた場面を見てみます。
Oさんは英語が堪能で、海外案件をよく任されています。Nさんは、その印象に引きずられて書類の正確さや協調性まで高くつけてしまいました。→ ハロー効果
Pさんは遅刻が多い。Nさんは「時間にルーズな人は仕事も雑だろう」と考え、実際の成果物を見ずに正確性の点を下げました。→ 論理的誤差
Qさんは経理出身のNさんから見て数字の扱いが甘い。自分なら当然できることができていないと感じ、厳しめの点をつけました。→ 対比誤差
Rさんは、3月に大きな失注をしました。4月から2月までは順調だったのに、評価をつける4月時点で印象に残っているのは3月の失注だけ。→ 遠近効果
Sさんについては、Nさんは先に「今年はCだな」と決めてから、各項目をCになるよう埋めていきました。→ 逆算化傾向
そして5人全員の最終点を見返すと、極端な高評価も低評価もなく、ほとんどがBに寄っていました。→ 中心化傾向
Nさんに悪意はありません。それでもこれだけ歪みます。人事考課の課題が「他人による評価の限界」だといわれるのは、こういうことです。
試験のポイント
効果は3つの方向に及びます。
第5節で見た社内公募制度も、本人の申し出を出発点とする点で自己申告制度のひとつと位置づけられます。
従業員に自分の職務成果を自己評価させることには、上司との間で成果についての議論が活発になるという利点もあります。評価される側が黙っている制度では、食い違いが表に出ないまま処遇だけが決まってしまいます。
③ 多面評価(360度評価)
多面評価とは、上司以外に、同僚や部下、関連する他部門の担当者、顧客や関係会社といった社外の人など、複数の評価者によってなされる人事考課をいいます。米国ではあらゆる角度から評価するという意味で360度評価と呼ばれます。
ここで押さえたいのは、評価者の範囲です。所属部門内の直属の上司・同僚・部下に絞るのが望ましい、という説明は多面評価の定義に反します。社内の他部門の人や社外の人にも評価してもらうことがあるのが、この制度の要点です。
通常の人事考課は上司から、すなわち上方から行われますが、それが必ずしも公正とは限りません。複数の視点から異なる角度で評価することで、より正確な情報を得ることを狙いとしています。
④ 多面評価の結果はどう使うか
多面評価の結果は、賃金や昇進・昇格などの処遇に直接反映させるよりも、参考資料程度にとどめる扱いが多くなっています。
被評価者の自己分析を助け、能力向上や自己啓発を促すことを狙いとするわけです。
理由を考えてみると分かりやすくなります。処遇に直結させると、同僚どうしで評価を甘くつけ合う談合が起きたり、部下が上司に本当のことを書けなくなったりします。処遇から切り離しておくほうが、率直な情報が集まる。制度の狙いを守るための選択です。
具体例
IT企業のT社が、3つの対応策をどう積み重ねたかを見てみます。
1年目は考課者訓練から始めました。管理職を集めて、架空の部下の行動記録を渡し、全員に評価をつけてもらいます。点数を並べると、同じ記録なのにAからDまで散らばりました。「なぜその点にしたか」を口に出させると、遅刻の記録に引きずられて成果物の評価まで下げていた人が何人もいました。論理的誤差を自分の目で見た管理職は、翌年から評価の付け方が変わりました。
2年目は自己申告制度を入れました。評価面談の前に、本人が1年の仕事を書き出して自己評価をつけ、上司はそれを読んでから面談に臨みます。すると、上司が把握していなかった他部門への支援がいくつも申告に出てきました。
3年目は多面評価です。上司、同僚2名、部下2名、さらに社内で協業している他部門の担当者1名から評価を集めました。ただし結果は賞与には使わず、本人へのフィードバック資料として渡すだけにしています。処遇に直結させないと決めたことで、部下からの評価にも率直な内容が書かれるようになりました。
試験のポイント
これが第二の要点です。第8章で見た自己実現欲求や動機づけ要因を思い出してください。やり方まで指示されては、仕事そのものから得られる満足が失われます。目標は共有し、手段は委ねる。この配分に意味があります。
ⅲ 期末の自己申告
期末に、部下は目標の達成度を自己申告します。
ⅳ 評価とフィードバック
上司はこれに基づいて業績評価を行い、結果を部下に面接を通じてフィードバックし、次期に向けて改善すべき点を示します。
③ MBOは査定の道具ではない
ここが最も問われるところです。
目標管理制度は、単なる査定のための道具ではありません。上司と部下のコミュニケーションツールであり、また組織の目標達成や人材育成に有効なマネジメントツールでもあります。
評価制度の顔をしていますが、実際に動いているのは目標の擦り合わせと期中のやり取りのほうです。「MBOは業績を測るための仕組みである」とだけ述べた選択肢は、狭すぎるという理由で疑ってかかります。
④ 面接制度
面接制度は、上司と部下が、仕事の内容や年度目標、業務の進行状況や業績結果、評価結果や次年度の目標、将来のキャリアなどについて面接を行い、話し合う制度です。
目標管理制度を導入している場合には、この面接制度もあわせて導入されます。目標を決めるにも、達成度を確かめるにも、結果を返すにも、face to face の場が要るからです。MBOと面接制度は、切り離せない関係にあります。
具体例
食品メーカーの商品開発部で、入社6年目のUさんがMBOを1年回した記録を追います。
4月・目標設定Uさんは「新商品を2品、店頭に出す」という目標案を出しました。面談で課長は、「2品出すより、1品を主力に育てるほうが部の方針に合う」と伝えます。話し合いの結果、「新商品1品を発売し、年間売上3億円を達成する」に決まりました。
上司が一方的に決めたのでも、Uさんの案がそのまま通ったのでもありません。部の方針と本人の意欲を突き合わせて決まった目標です。
5月〜1月・達成方法は本人に委ねるUさんは、まず主婦層100人への聞き取りから始めました。課長はこの進め方に口を出していません。月1回の面談で進み具合を聞き、試作の予算が足りないと分かったときに部の枠から回した程度です。
2月・自己申告商品は10月に発売され、年度末までの売上は2億4千万円。達成率80%です。Uさんは自己申告書に「目標未達。ただし発売時期を当初計画より2か月前倒しできた」と書きました。
3月・面接でのフィードバック課長は業績評価をBとしたうえで、「3億円に届かなかったのは販路が量販店に偏ったため」という見立てを伝えました。そして次年度の目標には、コンビニ向けの規格を作ることを織り込むことになりました。
1年を通して見ると、点数がついたのは最後の一瞬だけです。残りはすべて、目標の擦り合わせと進捗のやり取りでした。MBOがコミュニケーションツールと呼ばれる理由が、ここにあります。
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。