組織構造論
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プレミアムで見る環境の不確実性が高まると、処理すべき情報の量が増えます。情報が増えれば部門間の調整が追いつかなくなり、組織は回らなくなります。この問題への対処は、2つの方向しかありません。処理すべき情報の量を減らすか、処理する能力を増やすか。この節では、その4つの方策を押さえます。第7章の締めくくりにあたる内容です。
簡単にいうと
やることは2つだけ。「情報量を減らす」か「処理能力を増やす」か。スラック資源と自己完結的単位が前者、横断的組織と情報システムが後者だよ!
① なぜ問題になるのか
ローレンス&ローシュの研究にあるように、環境の不確実性が高まることで処理すべき情報量が増加すると、組織内で分化が進み、部門間の調整が次第に困難になります。
ここで求められるのが、処理すべき情報量そのものを減らすか、組織全体の情報処理能力を増すかという手立てです。そうやって、分化した部門どうしの統合(協調)を図る組織の設計が要ります。
② 2つの方向と4つの方策
| 方向 | 方策 |
|---|---|
| 処理すべき情報量を減らす | ❶ スラック資源の創設/❷ 自己完結的組織単位の編成 |
| 情報処理能力を増す | ❸ 横断的組織や水平関係の設計/❹ 組織の情報処理システムの改善 |
どちらの方向に属する方策かを問う形で出題されるので、2つずつに仕分けて覚えてください。
③ ❶ スラック資源の創設(情報量を減らす)
納期に日数の余裕を見ておく。在庫を多めに持つ。人員や機械にゆとりを残す。こうして各部門がスラック資源(余裕や遊び)を抱えておけば、不確実性から来る衝撃が和らぎ、部門どうしで擦り合わせる手間も減ります。
具体例
受注生産の産業機械メーカーが、海外展開によって環境の不確実性が高まったときの対応です。
何が起きたか
国内だけのころは、設計変更が起きても設計・生産・調達の3部門が同じ建屋にいたので、立ち話で片がつきました。
海外3拠点に生産を広げたところ、
・時差があり、その場で相談できない
・現地の規制で使える部品が違う
・為替と納期の変動が読めない
処理すべき情報量が急増し、設計変更1件の調整に平均11日かかるようになりました。
❶ スラック資源の創設(情報量を減らす)
・主要部品の在庫を、それまでの1週間分から3週間分に増やした
・顧客への納期回答に、従来より2週間の余裕を見込むようにした
在庫をゼロに近づけるより、若干量許容するほうが調整は楽になるという考え方です。部品が足りなくなるたびに関係部門が集まる必要がなくなりました。
ただし副作用も出た 在庫を増やしたことで、運転資金が1.4億円増え、陳腐化した部品の廃棄も発生しました。もちすぎるとムダが生じるという、まさに教科書どおりです。
❷ 自己完結的組織単位の編成(情報量を減らす)
従来は、設計部・生産部・調達部という機能別の構成でした。これを地域別事業部制

環境の不確実性への6つの対応
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たとえば工程間の在庫をゼロにするよりも、若干量許容するほうが、工程内のどこかでトラブルが発生した場合の調整は楽になります(処理すべき情報の量が少ない)。
在庫がゼロだと、1か所が止まった瞬間に全工程が止まり、関係部門が集まって調整しなければなりません。少し在庫があれば、その間に静かに復旧できます。
※ もちろん、スラック資源をもちすぎるとムダや心理的なゆるみが生じるという別の問題が生じることにはなります。
この留保も押さえておきましょう。なお、第3章で学んだ組織スラック(余裕資源)は、多角化の原資として使えるという文脈で出てきました。同じ言葉ですが、ここでは不確実性への緩衝材として扱われています。
④ ❷ 自己完結的組織単位の編成(情報量を減らす)
事業部制組織やプロジェクトチームといった自己完結的組織単位を編成し、その中に調整の必要な諸業務を組み込むことで、処理すべき情報の量を減らします。
この効果は、調整のやり取りがどこを流れるかを図にすると見えてきます。
機能別組織の場合 A製品の市場環境が変化すると、A製品開発・A製品生産・A製品営業が別々の部門に属しているため、開発部→CEO→生産部→CEO→営業部といった具合に、調整コミュニケーションが組織全体に広がります。
製品別事業部制組織の場合 A開発・A生産・A営業がすべてA製品事業部の中にあるため、調整コミュニケーションをA製品事業部内にとどめることができます。
組織全体での処理すべき情報の量が減るわけです。
「自己完結的」とは、調整に必要なものが単位の中にすべて揃っているということです。外に出ていく必要がなければ、そのぶん全体の情報量は減ります。
⑤ ❸ 横断的組織や水平関係の設計(処理能力を増す)
組織における意思決定のポイントを、情報が実際に形成されてくるところまで下げることで、情報処理能力を高めます。
具体的には、マトリックス組織やタスクフォースといった部門横断的な組織編成をしたり、リエゾン担当者(公式の統合担当者)を置いたりして、水平関係の統合を図ります。
用語を整理しておきましょう。
| 用語 | 中身 |
|---|---|
| タスクフォース | いわば特命部隊のことであり、より小規模で一時的なプロジェクトチーム |
| リエゾン担当者 | 公式の統合担当者。部門間をつなぐ役を正式に置く |
| マトリックス組織 | 第8節で学んだ二重構造の組織 |
⑥ 情報処理量は増える
ここが試験で最も問われるところです。
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『マトリックス組織のように横断的関係を導入することで、部門間調整に必要とされる情報処理量は減少する』
マトリックス組織の導入により、部門間の調整能力は高まりますが、情報処理量は増加します。
混同しないでください。
・❶❷は処理すべき情報量そのものを減らす方策
・❸❹は情報量が増えても処理できるように能力を増す方策
マトリックス組織は❸ですから、情報量は減らず、むしろ増えます。そのうえで処理できるようにしているのです。
⑦ ❹ 組織の情報処理システムの改善(処理能力を増す)
こちらは組織全体の情報処理能力そのものを引き上げる手です。コンピュータ化やデータベース化を進めることで、調整に要るやり取りの一部を情報システムに肩代わりさせる。あるいは、意思決定そのものをシステムに支えさせる。そうした方法が該当します。
第11節で学んだ情報活用の高度化による組織の動態化と同じ内容です。
⑧ 第11節との関係
ただし環境不確実性の増大は組織構造の動態化を促すため、第11節「組織構造の動態化」であげた内容とほぼ同じになります。
同じ処方箋を、
・第11節では官僚制の逆機能への対処として
・この節では環境の不確実性への対応として
説明している、という関係です。問題の出どころが違うだけで、答えは似通っている、ということになります。
⑨ 第7章のまとめとして
この節で第7章は終わりです。全体を振り返ると、次の一本の筋が通っています。
組織とは分業と調整のシステムである(第1節)
↓
分業のための設計原理がある(第5節)
↓
それを徹底すると官僚制になる(第10節)
↓
行き過ぎると逆機能が生じる(第10節)
↓
動態化で柔らかくする(第11節)
↓
どれが適切かは環境による(第13節)
↓
不確実性が高いほど、情報量を減らすか処理能力を増す(第14節)
個々の用語を覚えるだけでなく、この流れのどこにいるのかを意識すると、記憶が定着しやすくなります。
機能別のときの情報の流れ アジア向け仕様の変更 → 設計部 → 本社 → 生産部 → 本社 → 調達部
事業部制にした後 アジア向け仕様の変更 → アジア事業部の中で完結
調整コミュニケーションを事業部内にとどめることで、組織全体で処理すべき情報の量が減りました。
❸ 横断的組織や水平関係の設計(処理能力を増す)
とはいえ、3事業部が共通で使う基幹部品については全社で調整しなければなりません。そこで、
・共通部品の標準化を進めるタスクフォースを6か月限定で編成した
・各事業部と本社技術部をつなぐリエゾン担当者を2名置いた
ここで注意したい結果 リエゾン担当者を置いたことで、部門間の調整能力は高まりました。しかし、扱う情報の量はむしろ増えました。2名は毎日、3事業部の状況を把握し続けなければならないからです。
横断的関係の導入で情報処理量が減るわけではない。増えた情報を処理できるようにしただけです。
❹ 組織の情報処理システムの改善(処理能力を増す)
・設計変更の履歴を全拠点で共有するデータベースを導入
・部品の在庫と引当状況を全拠点でリアルタイムに参照できるようにした
調整に必要となるコミュニケーションの一部を情報システムによって置き換えたわけです。会議で確認していたことが、画面を見れば分かるようになりました。
結果 設計変更1件あたりの調整期間は、11日から4日に短縮されました。4つの方策を組み合わせたことによる成果です。
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