企業活動と経営戦略の全体概要
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「PPM」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る経営戦略は、企業の外にある環境だけを見て決まるものではありません。その企業が何のために存在し、どこへ向かおうとしているのか。その内側の拠り所があってはじめて、戦略に筋が通ります。この節では、経営理念からはじまって、ビジョン、行動基準、そして企業戦略・事業戦略・機能戦略へとだんだん具体的になっていく階層構造を追いかけます。上から下へ一本の筋が通っているかどうかが、この体系のいちばんの要です。
簡単にいうと
経営理念は「何のために存在するのか」、経営ビジョンは「いつまでにどうなりたいか」。理念は変わらない、ビジョンは時間とともに更新される。ここが違いだよ!
① 経営理念
経営理念とは、経営者もしくは企業が表明する、その企業の行動指針、抽象的・理念的な目的、規範、理想、価値観などを意味します。
経営理念を通じて経営者は、「この組織は何のために存在するのか」という基本的な考え方を利害関係者(ステークホルダー)に知らしめ、従業員に対して行動や判断の指針を与えます。
日本企業の場合、社是や社訓の形で成文化されていることが多いのですが、それだけとは限りません。創業者や、その企業の発展に大きな功績を残した経営者が社内の訓示として残したものがインフォーマルに語り伝えられて、社風や組織文化の形で形成されている場合もあるという点は押さえておきたいところです。壁に額縁で掛かっているものだけが経営理念ではない、ということです。
② 経営ビジョン
経営ビジョンとは、企業のトップマネジメントによって表明された、自社の望ましい未来像です。
経営理念で定められた経営姿勢や存在意義に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点、つまり自社が目指す中長期的なイメージを、投資家や従業員、社会全体に向けて示したものをいいます。
③ 理念とビジョンはどう違うのか
| 経営理念 | 経営ビジョン | |
|---|---|---|
| 答えている問い | 何のために存在するのか |
具体例
地方で20拠点を展開する介護サービス会社の例です。
経営理念 「一人ひとりの尊厳を守る介護を提供する」
経営ビジョン 「2030年までに県内全市町村にデイサービスを開設し、在宅で暮らし続けられる選択肢を広げる」
この会社では、夜勤の人員を削れば利益は出るが入居者への目配りが薄くなる、という判断が毎年のように出てきます。そのたびに経営陣は理念に立ち返り、人員は削らず、代わりに事務作業のデジタル化でコストを下げる道を選んできました。
一方でビジョンのほうは、当初「2025年までに10拠点」でした。これは2023年に達成されたため、現在のビジョンに更新されています。理念は変わらず、ビジョンは更新されるという関係が、はっきり現れています。
試験のポイント
簡単にいうと
理念は抽象的すぎて、そのままでは現場で使えない。だから「迷ったときにこう判断する」というルールに落とし込む。それが行動基準だよ!
① 経営行動基準
経営理念は内容が抽象的なことが多く、それだけでは具体的な行動指針となりにくいという問題があります。経営行動基準とは、経営理念を行動指針として機能するように具体化したものです。
「誠実であれ」という理念だけでは、取引先から届いた中元をどうするかという場面で判断がつきません。そこで「取引先からの金品の受領は一切行わない」というところまで具体化するのが行動基準です。
内容としては、コンプライアンス(法令遵守)や企業倫理に関するものが多く含まれます。近年は第6章で学ぶCSR(企業の社会的責任)の観点からも重要性が増しており、行動基準を策定・公表する企業が増えています。
② CI(Corporate Identity)
CIとは、経営理念に基づき、企業イメージや行動様式の統一化を図っていくことです。具体的には、社名の変更、イメージカラー、イメージマークの導入などにより展開されることが多くあります。
簡単にいうと
戦略はピラミッド。上から「会社全体の方針→各事業の作戦→現場の具体策」の3段階。誰が作るかも階層ごとに違うよ!
① 3つの階層
経営戦略は、企業戦略・事業戦略・機能戦略という組織の階層ごとに立てられます。したがって「経営戦略」という言葉は、広い意味ではこれらの戦略全般を指して使われますが、狭い意味では経営する対象全体の戦略、つまり企業戦略を指して使われることもあります。
❶ 企業戦略(成長戦略)
企業戦略(成長戦略)とは、企業が長期間にわたって持続的な成長を維持していくための基本的な構想です。企業全体としての活動領域、新規事業への進出や撤退、各事業への経営資源の配分などを決定していきます。
テーマの例としては、企業ドメイン、多角化、PPM、リソースベースドビュー(ケイパビリティ)、組織間連携などが挙げられます。第3章で詳しく扱う内容です。
❷ 事業戦略(競争戦略)
事業戦略(競争戦略)とは、特定の事業分野において、競争状態をふまえたうえで競争優位を確立し、経営資源の蓄積や組み合わせにより、競争企業に対して優位を築いていくための基本的な構想です。

経営戦略の体系図
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
| 時間の感覚 | 時間軸を持たない。変わらない | 中長期の時間軸を持つ |
| 表現 | 抽象的・理念的 | ある程度具体的な到達点 |
| 見直し | 基本的に変えない | 達成したり環境が変われば更新する |
経営理念が「変わらない拠り所」であるのに対し、経営ビジョンは「いま目指している到達点」です。ビジョンは達成されれば次のビジョンに置き換わりますが、理念は企業が続くかぎり変わらないのが基本です。
④ なぜ最上位に置かれるのか
経営理念とビジョンは戦略の体系のいちばん上に位置します。ここがぶれると、下位の戦略すべてがちぐはぐになるからです。「短期の利益を最優先する」という判断と「地域とともに100年続く」という理念は、日々の場面で必ずぶつかります。そのときにどちらを取るかを決めておくのが、理念の役目です。
ここで見落とされがちなのが、CIの効果は社外向けだけではないという点です。CIには社外的な効果のみならず、共通した企業の存在意義を社内に浸透させていくという社内的な効果もあるのです。ロゴを変えることは、見た目の刷新であると同時に、従業員に「うちはこういう会社だ」と語り直す機会でもあります。
③ CIの3つの要素
CIは、次の3つの要素から成り立つものとして整理されます。
| 要素 | 正式名称 | 中身 |
|---|---|---|
| MI | マインド・アイデンティティ | 企業の理念・価値観・存在意義そのもの |
| BI | ビヘイビア・アイデンティティ | 企業や従業員の行動・振る舞い・社風 |
| VI | ビジュアル・アイデンティティ | ロゴ・シンボルマーク・コーポレートカラーなど目に見える要素 |
この3つは、MI(考え方)がBI(振る舞い)とVI(見た目)に現れる、という関係にあります。見た目だけを変えて中身が伴わなければ、CIは単なる看板の掛け替えに終わってしまいます。
④ 理念から行動基準までのつながり
ここまでを並べると、抽象から具体へ向かう一本の流れが見えてきます。
経営理念(何のために存在するか)
↓
経営ビジョン(いつまでにどうなりたいか)
↓
経営行動基準(日々どう判断し、どう振る舞うか)
↓
CI(それを社内外に一貫した形で示す)
経営戦略を構築する際には、経営理念・経営ビジョン・経営行動基準をふまえ、これらとの一貫性をもたせることが重要になります。
具体例
創業60年の老舗和菓子店が、3代目の代替わりを機にCIに取り組んだ例です。
MI 「季節を味わう時間を、家族の食卓に」という理念を言語化しました。それまで暗黙に共有されていたものを、初めて文章にしたのです。
BI 接客の基本動作を見直し、「その和菓子がどの季節の何を表しているかを必ず一言添える」という行動基準を全店に徹底しました。
VI 毛筆の重々しいロゴを、季節の色を使った5パターンの展開ができるデザインに改め、包装紙・紙袋・店舗の暖簾・Webサイトまで統一しました。
注目したいのは社内の変化です。アルバイトの定着率が上がりました。「自分は和菓子を売っているのではなく、季節を手渡している」という意味づけが共有されたからだ、と店主は説明しています。これがCIの社内的な効果です。
試験のポイント
❸ 機能戦略
機能戦略とは、購買、生産、営業、研究開発、財務、人事、情報システムなどの各機能部門の生産性を高めることに焦点をあてた戦略です。
② 誰が作るのか
数多くの事業を展開している企業の場合、企業戦略はトップマネジメント(経営層)が、事業戦略はミドルマネジメント(中間管理層)が策定するのが基本的なイメージです。
一方、特定の事業だけを展開している企業の場合には、企業戦略と事業戦略は企業全体の戦略と一致することになるため、ともにトップマネジメント(経営層)が策定することになります。中小企業の多くはこちらに当てはまります。この区別は選択肢で問われることがあるので注意してください。
③ 一貫性がいちばん重要
経営理念、経営ビジョン、経営行動基準、そして企業戦略、事業戦略、機能戦略。これらはそれぞれ役割が異なりますが、一貫性をもった形で構築していく必要があります。
経営戦略は経営理念をふまえた経営ビジョンを達成するために構築し、事業戦略は企業戦略を達成するために構築する。こうして、上位の概念に基づいて下位の概念が策定されるという関係になります。
逆にいえば、現場の機能戦略が全社の方向と食い違っているとき、それは現場の問題ではなく、上位からの筋の通し方に問題があるということです。
具体例
大手家電メーカーL社の3階層を、上から下までたどってみます。
経営理念 「技術で、暮らしの不安を減らす」
企業戦略(経営層) 価格競争が激しい白物家電事業を縮小し、ヘルスケア事業に経営資源を集中する。白物家電の生産子会社は売却し、得た資金をヘルスケアのM&Aに充てる。
事業戦略(ヘルスケア事業部長) 大手が手薄な高齢者の在宅見守り領域に絞り、医療機関との連携という真似しにくい体制で差別化する。
機能戦略(各部門長)
・研究開発部門 非接触センサーの特許出願を年20件に増やす
・人事部門 医療機器の知見を持つ人材を中途で30名採用する
・営業部門 量販店ルートから、ケアマネジャー経由のルートへ組み替える
上から下へ、抽象が具体に変わっていく流れが見えます。そして人事部門の採用方針まで、「技術で、暮らしの不安を減らす」という理念と矛盾していません。これが一貫性のある戦略体系です。

経営戦略の体系図
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。