企業活動と経営戦略の全体概要
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プレミアムで見る経営戦略を立てる前に、まず自社がどんな状況に置かれているのかを把握しなければなりません。そのための最も基本的な道具がSWOT分析です。外側にある機会と脅威、内側にある強みと弱み。この4つを洗い出し、掛け合わせて戦略の方向性を導きます。1次試験で問われるのはもちろん、2次試験の事例問題でも事実上ほぼ毎年使うことになる、診断士にとって最も出番の多いフレームワークです。ここでは4象限を埋めて終わりにせず、実際に戦略を導くところまで、そしてこの道具の限界まで踏み込んで押さえましょう。
簡単にいうと
まずは会社の外側。追い風になるチャンスと、向かい風になるピンチを見分ける作業だよ。同じ出来事でも、会社によって追い風にも向かい風にもなるのがミソ!
① 外部環境分析とは
外部環境分析とは、企業が直面している外側の状況を調べ、機会(Opportunity)となる要因と脅威(Threat)となる要因を選り分ける作業です。ここで大切なのは、機会も脅威も自社の努力では変えられない、あくまで「与えられた条件」として扱う点です。変えられないものを正しく読むからこそ、打ち手が的確になります。
② マクロ環境とミクロ環境
外部環境は、遠くから効いてくるものと、近くで直接ぶつかるものに分けて見ます。
| 区分 | 何を見るか | 具体例 |
|---|---|---|
| マクロ環境 | 業界の外側から、業界全体に効いてくる条件 | 経済成長率、景気動向、出生率や人口構成、法改正、技術革新 |
| ミクロ環境 | 自社が日々ぶつかっている、業界の内側の条件 | 顧客ニーズの変化、競合他社の動き、仕入先の力関係、業界の技術動向 |
③ マクロ環境を漏れなく見るための PEST
マクロ環境は範囲が広く、思いつくまま挙げると必ず抜けが出ます。そこで4つの切り口で網をかけるのが
具体例
キャッシュレス決済の普及という、ひとつの事実を3社の立場から見てみます。
決済端末メーカーC社 導入需要が一気に増える。明確な機会です。
現金商売の個人経営の飲食店D店 端末の導入費用と決済手数料が新たな負担になり、レジ締めの手順も変えなければならない。脅威として現れます。
中堅スーパーE社 決済データから購買履歴が取れるようになり販促に使える一方、手数料負担は利益を圧迫する。機会と脅威が同時に立ち上がるケースです。
出来事は1つでも、受け止め方は3通り。だからこそSWOTは「一般論としての機会」ではなく「自社にとっての機会」を書かなければ意味がありません。
試験のポイント
簡単にいうと
次は会社の内側。得意なことと苦手なことを冷静に見極める作業。ポイントは「ライバルと比べてどうか」。自社だけ見てても強みは分からないよ!
① 内部環境分析とは
内部環境(資源)分析とは、自社の経営資源について強み(Strength)と弱み(Weakness)を選り分ける作業です。外部環境が「変えられない条件」だったのに対し、内部環境は自社の努力で変えられるという点が決定的に違います。弱みは克服の対象になり、強みは伸ばす対象になります。
② 何を棚卸しするのか
第1節で学んだヒト・モノ・カネ・情報の4分類が、そのまま点検の切り口になります。
| 資源 | 見るポイント |
|---|---|
| ヒト |
簡単にいうと
外と内の分析結果を掛け合わせると、4つの戦略の方向性が見えてくる。SWOTは4象限を埋めた時点ではまだ半分。掛け合わせてはじめて戦略になるよ!
① 4象限を埋めただけでは戦略にならない
SWOT分析でよくある失敗が、強み・弱み・機会・脅威を箇条書きで並べて満足してしまうことです。並べただけでは現状の整理に過ぎません。外部要因と内部要因を掛け合わせることで、はじめて打ち手が導かれます。これをクロスSWOT(SWOT戦略マトリクス)といいます。
② 4つの戦略パターン
| 強み(S) | 弱み(W) | |
|---|---|---|
| 機会(O) |
簡単にいうと
便利な道具ほど、使い方を間違えると危ない。SWOTがうまくいかない典型パターンを知っておくと、2次試験でも現場でも効くよ!
① SWOTは万能ではない
SWOT分析は覚えやすく使いやすい反面、雑に使うと「それらしい表を作っただけ」で終わりがちです。試験対策としても実務としても、次の4つのつまずきを知っておく価値があります。
❶ 主観に流れやすい
「うちの強みは技術力です」と言うだけなら誰にでもできます。競合と比べた根拠や、顧客がそこに価値を認めている事実がなければ、それは願望であって分析ではありません。売上構成比、不良率、リピート率といった数字で裏づけるのが基本です。
❷ 並べて終わってしまう
前のテーマで見たとおり、4象限を埋めただけでは現状整理です。クロスSWOTまで進めてはじめて戦略になります。
❸ 時点が固定される
SWOTはある一時点のスナップショットです。環境が動けば、昨日の機会は今日の脅威になります。定期的に見直す前提で使うべきもので、一度作って壁に貼っておくものではありません。この「計画は環境変化で古くなる」という問題意識は、次の節で学ぶローリングプランやプロセス型(学習型)アプローチ
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| 頭文字 | 領域 | 例 |
|---|---|---|
| P:Politics | 政治・法律 | 法改正、規制緩和、税制、補助金、通商政策 |
| E:Economy | 経済 | 景気、金利、為替、物価、所得水準 |
| S:Society | 社会・文化 | 人口構成、価値観の変化、ライフスタイル、環境意識 |
| T:Technology | 技術 | 新技術の登場、生産技術の進歩、特許の動向 |
④ ミクロ環境を見るための 3C と5フォース
ミクロ環境については、3C分析(Customer 顧客/Competitor 競合/Company 自社)で全体像をつかむのが一般的です。ただし3Cの Company は内部環境なので、外部環境分析としては顧客と競合の2つを見ることになります。さらに業界の構造そのものを掘り下げたいときは、第2章で学ぶ5フォースモデルが使えます。SWOTのOとTを、勘ではなく構造から導けるようになるのがこの2つの役割です。
⑤ 同じ事実が、機会にも脅威にもなる
外部環境分析でいちばん誤解されやすいのがここです。ある出来事が機会か脅威かは、その事実そのものでは決まりません。自社がどんな資源と立場を持っているかによって変わります。「高齢化が進む」という同じ事実が、介護事業者には需要拡大の機会となり、若者向けアパレルには市場縮小の脅威となります。したがって外部環境分析は、内部環境分析と切り離しては成り立ちません。
| 技術者の層の厚さ、平均年齢、離職率、資格保有状況、後継者の有無 |
| モノ | 設備の新しさと稼働率、立地、生産能力、店舗網 |
| カネ | 自己資本比率、手元資金、借入余力、収益性 |
| 情報 | 独自技術、特許、ブランド認知、顧客リスト、業務ノウハウ |
さらに、資源を並べるだけでなく「どの活動で価値を生んでいるか」を見たいときは、第2章で学ぶバリューチェーン(価値連鎖)を使って購買物流・製造・出荷物流・販売・サービスといった活動ごとに点検します。
③ 強みと弱みは、あくまで相対評価
ここが最大の注意点です。強み・弱みは絶対評価では決まりません。競合と比べて優れていれば強み、劣っていれば弱みです。
技術力が高い会社でも、同じ市場のライバルがさらに上を行っていれば、それは強みとは呼べません。逆に、平凡に見える納期対応でも、業界の平均が1週間のところを自社が3日でこなせるなら立派な強みです。「誰と比べるのか」を決めずに強みを語っても意味がない、ということです。
④ 強みが「本物か」を見極める
相対的に優れているだけでは、まだ優位が長続きするとは限りません。第3章で学ぶVRIO分析は、ある資源が
・V:価値があるか(Value)
・R:希少か(Rarity)
・I:模倣が難しいか(Inimitability)
・O:それを活かす組織があるか(Organization)
という4つの問いで、強みが持続的な競争優位につながるかを判定します。SWOTのSに書き出した項目を、VRIOでふるいにかける。この2段構えができると、分析の説得力が一段上がります。
具体例
創業80年の金属加工メーカーF社の棚卸しです。
強みの候補
・0.01ミリ単位の精密加工ができる熟練技能者が5名いる
・大手自動車部品メーカーとの40年にわたる取引実績
・自己資本比率が65%と高く、借入依存度が低い
弱みの候補
・技能者の平均年齢が58歳で、若手への技能承継が進んでいない
・自社ホームページが10年前のままで、新規の引き合いが入ってこない
・売上の7割を1社に依存している
ここでVRIOをかけてみます。精密加工技術は、顧客が価値を認め(V)、同地域に同水準の工場はなく(R)、40年の蓄積なので短期には真似できず(I)、現場で実際に活かせている(O)。持続的な競争優位と判定できます。
一方、自己資本比率の高さは価値はある(V)ものの、同業でも財務が健全な会社は珍しくない(Rが弱い)ため、強みではあっても優位の源にはなりにくい、という評価になります。
試験のポイント
| WO戦略:弱みを克服して機会を逃さない |
| 脅威(T) | ST戦略:強みで脅威の影響を最小限に抑える | WT戦略:撤退・縮小して被害を避ける |
❶ SO戦略(強み × 機会)
最も積極的な攻めの戦略です。自社の得意なことが、ちょうど市場の追い風と重なっている領域なので、経営資源を優先的に投入すべきところといえます。2次試験の助言問題でも、まずここを探すのが定石です。
❷ WO戦略(弱み × 機会)
せっかくの機会が目の前にあるのに、自社の弱みが足を引っ張っている領域です。弱みを自力で克服するか、克服に時間がかかるなら他社との提携・外部委託・人材の中途採用といった外から補う打ち手をとります。機会には旬があるため、自力での克服にこだわりすぎるとタイミングを逃します。
❸ ST戦略(強み × 脅威)
向かい風が吹いているが、自社の強みを盾にすればダメージを抑えられる領域です。たとえば価格競争という脅威に対して、ブランド力や品質という強みで正面からの安売り競争を避ける、といった打ち手です。守りに見えますが、強みが効くぶん立て直しの余地があります。
❹ WT戦略(弱み × 脅威)
弱みと脅威が重なる、最も厳しい領域です。ここでは無理に踏みとどまらず、事業の縮小・撤退・他社への譲渡といった守りの判断が合理的になります。第3章で学ぶリストラクチャリングや、PPMでいう「負け犬」への対応が、まさにこの象限の話です。
③ 分析から戦略へ進む手順
1. 誰と比べるか、どの事業について論じるかを決める(分析の前提を固める)
2. 外部環境を洗い出す(PEST・3C・5フォースで機会と脅威に仕分ける)
3. 内部環境を洗い出す(ヒト・モノ・カネ・情報、バリューチェーンで強みと弱みに仕分ける)
4. 4象限に配置する(ここまでが現状把握)
5. 掛け合わせて戦略案を出す(SO・WO・ST・WTの4通り)
6. 優先順位をつけて絞る(資源は限られているので、ふつうSO戦略から着手する)
具体例
創業150年、温泉地の老舗旅館G館のクロスSWOTです。
S(強み) 当主が受け継ぐ茶道の作法にもとづく接客、源泉かけ流しの自家源泉
W(弱み) 客室にWi-Fiがなく、予約が電話中心、外国語対応ができる人がいない
O(機会) 訪日外国人客の増加、体験型観光への関心の高まり
T(脅威) 近隣に外資系ホテルが開業、若年層の温泉離れ
SO戦略 自家源泉と作法にもとづく接客を前面に出し、茶の湯体験を組み込んだ外国人向け宿泊プランを開発する。
WO戦略 自社での多言語対応は難しいため、海外向け予約サイトと提携し、Wi-Fiを全館に整備する。弱みを外部の力で補って、インバウンドという機会に間に合わせる。
ST戦略 外資系ホテルの設備の新しさとは正面から戦わず、150年の歴史と自家源泉という真似できない価値を訴求して、価格競争から降りる。
WT戦略 稼働率が2割を切っている別館については、改装投資を見送り、長期滞在向けに用途を変えるか閉鎖を検討する。
同じ4象限から、性格の違う4つの打ち手が出てくることが分かります。

SWOT分析(環境分析フレームワーク)
試験のポイント
❹ 項目を出しすぎると動けなくなる
強みを20個も並べると、どこに資源を集中すべきかが分からなくなります。分析のための分析に陥り、かえって判断が遅れる状態を分析麻痺症候群と呼びます。重要度で絞り込み、上位のいくつかに集中するのが実務的です。
② 他のフレームワークとの組み合わせ方
SWOTは単独で使うより、前後に他の道具を置くと精度が上がります。
| 順番 | 使う道具 | ねらい |
|---|---|---|
| SWOTの前(外部) | PEST分析・5フォースモデル | 機会と脅威を構造から漏れなく出す |
| SWOTの前(内部) | バリューチェーン・VRIO分析 | 強みが本物かどうかを見極める |
| SWOTの後 | クロスSWOT → 製品=市場マトリックス・PPM | 導いた方向性を具体的な事業の打ち手に落とす |
③ 2次試験での使い方
2次試験の事例問題では、SWOTという言葉が設問に出てこなくても、「A社の強みを述べよ」「今後の課題を指摘せよ」という形で実質的に問われます。与件文に書かれていない強みを想像で足すのは禁物で、与件文に根拠がある事実だけを拾うのが鉄則です。1次試験でフレームワークを覚えることは、2次試験で与件文を読む「目」を作ることでもあります。
具体例
コンサルタントが入った2社の違いを比べてみます。
うまくいかなかったH社 半日かけたワークショップで、強み18項目、弱み22項目、機会15項目、脅威19項目を付箋で出しました。参加者は達成感を得ましたが、翌月の会議では「で、結局どれからやるんだっけ」となり、何も動きませんでした。典型的な分析麻痺症候群です。
うまくいったI社 項目を各3つまでと決め、それぞれに数字の根拠を付けました。強みには「リピート率68%(業界平均41%)」、機会には「商圏人口のうち65歳以上が前年比4%増」。そのうえでSO戦略を2案だけ作り、四半期ごとに見直す約束をしました。半年後、高齢者向けの新メニューが売上の12%を占めるまでになっています。
違いは分析の細かさではなく、絞り込んだかどうかと見直す前提で作ったかどうかでした。
試験のポイント
プレミアムプラン
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