事業戦略(競争戦略)
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プレミアムで見る5つの競争要因のひとつに「新規参入企業の脅威」がありました。この脅威をどう抑えるか。それが競争回避の戦略です。ポーターの戦略論は「自社の有利な位置取りとその防衛」に焦点をあてるため、新しく入ってこようとする企業に対して壁を築くという発想が出てきます。この節では、その壁の代表格である規模の経済性と経験曲線効果を、混同しやすい両者の違いに注意しながら押さえます。
簡単にいうと
儲かる場所を見つけても、誰でも入れる場所ならすぐ儲からなくなる。だから「入りにくくする」。これが競争回避の戦略だよ!
① 新規参入の脅威の大きさは何で決まるか
5つの競争要因のひとつに新規参入企業の脅威があります。この脅威の大きさは、現在の参入障壁の程度や、既存の競争業者からの反発の程度によって変わります。
壁が低ければ次々に新しい会社が入ってきますし、既存企業が強く反撃してくると分かっていれば、参入をためらいます。
② 競争回避の戦略とは
競争回避の戦略とは、業界の既存企業が利益の減少などを防ぐために、新たにその業界へ参入しようとする企業に対して参入障壁を築くことなどです。
ポーターの戦略論の考え方では「自社の有利な位置取りとその防衛」に焦点をあてるため、こうした一連の打ち手を競争回避の戦略と呼びます。
③ 参入障壁の主な要因
参入障壁の主な要因としては、次のようなものがあります。
| 要因 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 製品の差別化 | 既存企業の製品にブランドや独自性があり、顧客が乗り換えない |
具体例
同じ「壁」でも、効き方の違うものを並べてみます。
政府の許認可 一般用医薬品を製造するには、製造業の許可と製造販売業の許可が要ります。いくら資金があっても、手続きと設備要件を満たすまで参入できません。最も分かりやすい壁です。
スイッチングコスト ある会計ソフト会社は、顧客の過去10年分のデータを自社形式で保管しています。他社に乗り換えるには、データ移行と社内研修に数百万円かかります。他社の製品が多少良くても、顧客は動きません。法律の壁ではなく、顧客の都合が壁になっている例です。
流通チャネルの確保 新しい菓子メーカーが良い商品を作っても、コンビニの棚には既存メーカーの商品が並んでいます。棚を1つ取るには、既存商品を1つ外してもらわなければなりません。製品の良し悪し以前に、置き場所がないのです。
壁は法規制だけではなく、顧客側にも、流通側にも、コスト構造のなかにも作れるということです。

参入障壁の6つの源泉
試験のポイント
簡単にいうと
この2つ、名前が似てて混同しやすい。規模の経済性は「いま何個作るか」、経験曲線効果は「これまで何個作ってきたか」。静的か動的か、で分けて覚えよう!
① 規模の経済性
規模の経済性とは、企業の規模や生産量が増大するに従い、平均費用(製品1個あたりの生産コスト)が逓減していく現象をいいます。
なぜ下がるのかというと、設備や研究開発費といった固定費をより多くの製品で分け合えるからです。5,000万円の設備で1万個作れば1個あたり5,000円ですが、10万個作れば1個あたり500円になります。
同じことをコスト面からではなく生産面から表現すると、生産要素(原材料、資本、労働者など)が増えるにしたがい、その増加分以上に産出量が増えていくということになります。これを収穫逓増といいます。つまり、産出量を倍にするためにすべての投入物を倍にする必要がない場合、規模の経済性が働いていることになります。
② 経験曲線効果
経験曲線効果とは、製品の累積生産量が増加するに従い、製品1単位あたりの生産コストが一定の割合で減少する
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| 巨額の投資 | 参入するのに大きな設備投資が必要 | 半導体工場、製鉄所 |
| 政府の許認可 | 事業を始めるのに免許や認可が要る | 銀行業、電気通信事業、医薬品製造 |
| 規模の経済性 | 大量に作らないとコストで太刀打ちできない | 自動車の組立 |
| 経験曲線効果 | 累積の生産経験がないとコストが下がらない | 航空機の製造 |
| 流通チャネルの確保 | 既存企業が売り場や販路を押さえている | 店頭の棚のスペース |
| スイッチングコスト | 顧客が乗り換えるのに手間や費用がかかる | 基幹システムの入れ替え |
このうち試験でよく問われるのが、次に見る規模の経済性と経験曲線効果です。
④ 参入障壁は撤退障壁と対で考える
ここで注意したいのが、参入障壁が高いこと自体は既存企業にとって常に good とは限らない点です。
参入するのに巨額の設備投資が必要な業界は、たいてい撤退するのも難しい業界です(特殊な設備は売れません)。第3節で見たとおり、撤退障壁が高い業界では赤字企業が残り続けて供給過剰が解消されず、既存業者間の敵対関係が長引きます。
既存企業にとって理想的なのは、参入障壁は高く、撤退障壁は低いという組み合わせです。この対比は問われることがあるので意識しておきましょう。
この効果は、次のようなものによると考えられています。
・経験を重ねることによる作業者の熟練(学習効果)
・生産工程の改善
・生産設備の改善
累積生産量が倍になるごとにコストが一定割合(たとえば20%)下がる、という形で表されることが多く、BCGが実証したことで広く知られるようになりました。
③ 2つはどこが違うのか
ここが最重要ポイントです。
| 規模の経済性 | 経験曲線効果 | |
|---|---|---|
| 何が増えるとコストが下がるか | 生産規模(ある時点の生産量) | 累積生産量(これまで作った総量) |
| 性格 | 静的 | 動的 |
| 主な理由 | 固定費を多くの製品で分け合える | 作業者の熟練、生産工程・設備の改善 |
| 模倣のしやすさ | 大規模な工場を建てれば模倣できる | 時間が必要なので模倣しにくい |
規模の経済性が「生産規模の拡大により単位あたり(例:1個あたり)のコストが下がること」であるのに対し、経験曲線効果は「累積生産量が増大するに従い、コストが減少していくこと」です。前者は静的なものであり、後者は動的なものである、と整理されます。
④ 参入障壁としての働き方
規模の経済性が働く業界では、新規参入企業はコストダウンを図る必要があるため、参入初期段階から大量生産を実施せねばならず、これが大きなリスクとなります。売れるかどうか分からないのに、いきなり大きな工場を建てなければならないからです。
経験曲線効果のほうは、さらに手強い壁になります。大規模な工場施設の建設などで規模の経済は模倣することができますが、経験効果の構築にはある程度の時間を必要とするからです。お金では買えない、という点が決定的です。
⑤ 先に参入したほうが有利になる理由
経験曲線効果を利用してコストリーダーシップを追求する場合には、競合企業よりも多くの累積生産量を達成するために、できるだけ早い時点で参入することが有効な方策となります。
早く始めれば早く累積が積み上がり、累積が積み上がればコストが下がり、コストが下がればさらに売れて累積が積み上がる。この好循環を先に回した企業が勝つ、という構図です。第8節で学ぶ先発優位性とも直接つながる話です。
具体例
2つの効果が別物であることを、数字で確かめてみましょう。
ある部品メーカーの工場です。設備の減価償却費が年間3億円かかります。
規模の経済性
・年10万個生産 → 1個あたりの設備費負担 3,000円
・年30万個生産 → 1個あたりの設備費負担 1,000円
生産量を3倍にしただけで、1個あたりの負担は3分の1になりました。これはその年の生産量で決まる話です。来年生産量を10万個に戻せば、負担はまた3,000円に戻ります。だから静的なのです。
経験曲線効果
・累積10万個の時点 加工の直接作業費 1個あたり800円
・累積20万個の時点 1個あたり640円(20%減)
・累積40万個の時点 1個あたり512円(さらに20%減)
こちらはこれまで作ってきた総量で決まります。来年の生産量を減らしても、いったん身についた熟練と改善された工程は失われません。だから動的であり、後発企業には真似できないのです。
新規参入しようとする会社は、「規模の経済性に追いつくために大きな工場を建てる」ことはできても、「経験曲線効果に追いつくために過去に戻って作る」ことはできません。
試験のポイント
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