事業戦略(競争戦略)
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プレミアムで見る業界構造を読み、壁を築いたら、次は避けられない競争のなかで優位に立つ番です。ポーターが示した答えが、3つの基本戦略です。そしてその戦略を実際に成り立たせるための道具が、価値連鎖(バリューチェーン)です。この節は1次試験の最頻出領域であると同時に、2次試験でA社の強みを分析するときにも直接使う内容です。3つの戦略の中身だけでなく、それぞれが抱えるリスクと、同時に追いかけたときに起きる失敗(スタック・イン・ザ・ミドル)まで押さえましょう。
簡単にいうと
勝ち方は3つ。「安く作る」「違うものにする」「狭いところに絞る」。縦軸が狙う市場の広さ、横軸が優位性の種類。この2軸で決まるよ!
① 競争優位の戦略とは
競争優位の戦略とは、競争相手に対して優位性を築くための戦略パターンのことです。
ポーターは、競争戦略の3つの基本型として差別化戦略・コストリーダーシップ戦略・集中戦略を挙げています。さらに、これらの戦略を実現するためには個々の企業活動を整合化していく必要があるとし、そのためのフレームワークとして価値連鎖(バリューチェーン)を提起しています。
② 2つの軸で整理する
ポーターは、戦略の優位性と戦略ターゲットを軸に、3つの基本戦略を示しています。
| 顧客から特異性が認められる | 低コスト地位 | |
|---|---|---|
| 業界全体 | 差別化 | コストリーダーシップ |
| 特定セグメントだけ | 集中(差別化集中) |
具体例
同じ腕時計という製品カテゴリーで、3つの戦略を並べてみます。
コストリーダーシップ 大手メーカーが、ムーブメントを共通化した量販モデルを年間数千万本規模で生産しています。規模の経済性と経験曲線効果が効き、1本あたりの製造コストは数百円。店頭価格は3,000円ですが、実は利益率は悪くありません。低コストであって、必ずしも安売りではないという例です。
差別化 スイスの高級ブランドが、機械式ムーブメントを職人が手作業で組み立てています。時刻の正確さではクオーツに劣りますが、顧客が買っているのは正確さではなく工芸品としての価値です。価格は100万円を超えます。価格以外の点で優位を築くの典型です。
集中(差別化集中) ダイビング専門のメーカーが、水深300メートルまで耐える防水性能と、手袋をしたまま操作できる大型ベゼルに特化しています。一般の消費者には過剰性能ですが、プロのダイバーという狭い市場では他に選択肢がありません。
集中(コスト集中) 業務用作業現場向けに、機能を時刻表示だけに削り、耐衝撃性だけを高めたモデルを法人一括納入だけで販売しているメーカーもあります。販売チャネルを絞ることで販促費をゼロに近づけています。

ポーターの3つの基本戦略
試験のポイント
簡単にいうと
どの戦略にも弱点がある。差別化は真似される、コストリーダーシップは泥沼の値下げ合戦を招く、集中は市場が狭すぎる。この3つはセットで覚えよう!
3つの基本戦略には、それぞれ固有のリスクがあります。戦略を選ぶということは、そのリスクを引き受けるということでもあります。
❶ 差別化戦略のリスク
競合企業の模倣により、差別化された特徴の優位性が喪失するリスクがあります。
せっかく打ち出した独自性も、他社が真似できるものであれば時間とともに横並びになります。デザインや機能は分解すれば分かりますし、サービスの仕組みも観察すれば見えてきます。差別化を続けるには、次の差別化を打ち続けるか、第3章で学ぶVRIOでいう模倣困難性を備えた資源に支えられている必要があります。
❷ コストリーダーシップ戦略のリスク
競合企業がこの戦略を模倣すると、利益を度外視した価格競争が行われるリスクがあります。
複数の企業が同時に低コストを追求すると、「相手より1円でも安く」という消耗戦になります。しかもコストリーダーシップは大量生産を前提とするため、簡単に生産量を絞ることができません。作り続けながら値下げする、という最悪の展開になりやすいのです。
また、コストリーダーシップ戦略を行う企業は
簡単にいうと
欲張って全部取りにいくと、どれも取れなくなる。「安くて、特別で、誰にでも売れる」を同時に狙うと失敗する、という話だよ!
① スタック・イン・ザ・ミドルとは
スタック・イン・ザ・ミドルとは、マイケル・ポーターがよくある戦略上の過ちとして述べているものです。
複数のタイプの競争戦略を同時に追求することにより、虻蜂取らず(二兎を追う者は一兎をも得ず)になって失敗することであり、あらゆる顧客にあらゆるものを提供しようとする際に陥ることです。
つまり、規模の拡大による低コスト化(コストリーダーシップ戦略)の実現と、製品差別化(差別化戦略)の同時追求は、スタック・イン・ザ・ミドルに陥る可能性があるということになります。
② なぜ同時に追えないのか
この2つは、必要な社内の仕組みが正反対だからです。
簡単にいうと
会社の活動を「主活動」と「支援活動」に分けて、どこで価値が生まれているかを見る道具。大事なのは、一部だけ良くてもダメで、全体がつながってはじめて効くということ!
① 価値連鎖とは
企業の活動は、製品の設計、製造、マーケティングといった多くの活動で構成されています。価値連鎖(バリューチェーン)は、企業の活動すべてとそれらの関係を体系的に分析するためのツールです。
業界構造分析を行い、差別化や低コスト化によって高い収益性を確保するためには、個々の企業活動を整合化していく必要があります。価値連鎖とは、そのためのフレームワークであり、事業活動を機能ごとに分解し、どの部分(機能)で価値(差別化や低コスト化)が生み出されるのか、どの部分に強み・弱みがあるのかを分析するものです。
そして、競争優位の源を見定め、企業全体として顧客に価値を提供できるように活動を連結させていくためのものでもあります。
② 主活動と支援活動
企業の価値連鎖は、主活動と支援活動からなります。
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縦軸が「どこを狙うか(業界全体か、特定セグメントだけか)」、横軸が「何で優位に立つか(特異性か、低コストか)」です。
なお、集中戦略にはコスト集中と差別化集中があるという点は見落とされやすいので注意してください。集中戦略は「狭い市場に絞る」ということだけを指し、絞った先でコストで勝つか、特異性で勝つかはさらに分かれます。
③ 差別化戦略
差別化戦略とは、自社の製品に買い手にとって魅力的な独自性を打ち出すことにより、競争企業に対する優位性を価格以外の点で築く戦略です。
代表的な差別化の方法は、次の3つに整理されます。
| 差別化の方法 | 具体的な手段 |
|---|---|
| ❶ 製品そのものに関するもの | 品質、性能、デザイン、色彩、包装 |
| ❷ 製品サービスに関するもの | アフターサービス、代金の支払い条件、店舗数 |
| ❸ 消費者の認知度を高めるもの | 広告・宣伝による製品の社会的認知度、企業イメージ |
ここでのポイントは、差別化とは作り手が「うちは他と違う」と思うことではなく、買い手にとって魅力的な独自性でなければならない点です。顧客が価値を認めない独自性は、単なる自己満足に終わります。
④ コストリーダーシップ戦略(低コスト戦略)
コストリーダーシップ戦略とは、同種の製品を競争企業よりも低いコストで生産する戦略です。
大量生産による低コスト製品を提供することによりシェアを高め、規模の経済性や経験曲線効果を得ることにより、いっそうの低コストを実現していきます。
ここで極めて重要なのが、あくまで低コストであり、必ずしも低価格で販売するわけではないという点です。コストが低ければ、同じ価格で売っても利益が厚くなりますし、価格競争が起きたときに最後まで耐えられます。「コストリーダーシップ=安売り」と短絡すると、選択肢を読み誤ります。
⑤ 集中戦略
差別化戦略やコストリーダーシップ戦略が広い市場をターゲットとするのに対して、集中戦略は市場を細分化し、自社の能力にマッチした一部のセグメントに焦点をあてる戦略です。そして、その市場において差別化の面もしくはコストの面で優位に立とうとします。
経営資源の限られた中小企業が最も採りやすいのが、この集中戦略です。広い市場で大手と正面からぶつかるのではなく、大手が手を出しにくい狭い領域で1番になる、という考え方です。
❸ 集中戦略のリスク
ターゲットセグメントが狭いため、経営資源を豊富に有する競争業者との差異が失われた場合に、大幅にシェアを失うリスクがあります。
狭い市場で成り立っているということは、そこに大手が本気で参入してきたときに逃げ場がないということでもあります。「この領域は小さすぎて大手は来ない」という前提が崩れた瞬間、資源の差がそのまま勝負を決めてしまいます。
④ リスクをふまえると何が言えるか
3つのリスクを並べると、共通する構図が見えてきます。いずれも「自社の優位が、競合の行動によって無効化される」という形をしています。
だからこそポーターは、個々の活動レベルで真似しにくい仕組みを作ること、つまり次のテーマで扱うバリューチェーン全体としての連結を重視したのです。
具体例
3つのリスクが現実になった例を見てみましょう。
差別化が真似された例 ある家電メーカーが、衣類の蒸気アイロン機能を持つ製品で独自の地位を築きました。しかし2年後には競合5社が同等機能を搭載し、売り場では機能の差ではなく価格で比較されるようになりました。
コストリーダーシップが泥沼になった例 国内の液晶パネル各社は、いずれも大型工場への投資で規模の経済性を追求しました。各社が同じ戦略を取った結果、供給過剰と価格下落が同時に進み、巨額の投資を回収できないまま事業の再編を迫られました。
集中が崩れた例 ある地方の書店チェーンは、専門書と郷土資料に絞った品揃えで固定客を掴んでいました。しかし大手のオンライン書店が取り寄せの待ち時間をほぼゼロにしたことで、「ここにしか置いていない」という前提が消えました。狭い市場で築いた差異が、資源の豊富な相手によって無効化された例です。
試験のポイント
| 差別化 |
|---|
| 製品の種類 | 少品種に絞る | 多品種で顧客に合わせる |
| 生産設備 | 専用設備で大量に作る | 柔軟な設備で小回りを利かせる |
| 研究開発 | 工程改善によるコスト削減 | 新しい価値の創出 |
| 組織の評価軸 | コスト指標 | 顧客満足・新規性 |
少品種大量生産の工場で、顧客ごとの特別仕様を受けるのは困難です。逆に、多品種少量に対応できる柔軟な工場は、専用設備の工場ほどコストを下げられません。どちらも中途半端になる、というのがポーターの警告です。
③ 試験で問われる形
過去問では、次のような記述が誤りとして出題されています。
『競争戦略の基本は、規模の拡大による低コスト化の実現と製品差別化の同時追求にあり、製品差別化と結びつかない低コスト化の追求は、短期的には成功を収めても、中長期的には持続的な競争戦略にはならない』
この記述は、まさにスタック・イン・ザ・ミドルの状況を「競争戦略の基本」と言ってしまっている点が誤りです。ポーターの立場では、2つを同時に追うことこそが避けるべき過ちです。
④ ただし現実には
なお、実務の世界では「低コストと差別化の両立」に成功した企業の例も知られており、ポーターのこの主張には批判もあります。しかし試験で問われるのはポーターの主張そのものですから、「同時追求は失敗の元」という立場で解答するのが正解です。
具体例
ある総合スーパーが陥った状況を見てみましょう。
この会社は「品質のいいものを、安く、幅広い品揃えで」を掲げました。一見すると誰も反対しない方針です。
しかし実際には次のことが起こりました。
・価格で比べる客は、専門のディスカウント店に流れました。品質にこだわるぶんコストが乗り、価格で勝てなかったからです。
・品質で選ぶ客は、高級スーパーに流れました。価格を抑えるぶん品揃えの深さで勝てなかったからです。
・品揃えを求める客は、オンラインに流れました。
結果として、「どの客層からも1番に選ばれない店」になってしまいました。売り場面積は大きいのに、客単価も来店頻度も中途半端。これがスタック・イン・ザ・ミドルです。
この会社はその後、店舗を「価格重視の業態」と「鮮度と惣菜に絞った小型業態」に分け、1店舗が1つの戦略だけを担う形に組み替えて立て直しています。

バリューチェーン(価値連鎖)の構成図
試験のポイント
| 区分 | 中身 | 具体的な活動 |
|---|
| 主活動 | 製品やサービスを顧客に提供することに直接的に関与する活動 | 購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス |
| 支援活動 | 提供する活動には直接関与しないものの、主活動を遂行するために不可欠な活動 | 全般管理(インフラストラクチャ)、人事・労務管理、技術開発、調達活動 |
そして、こうした一連の活動の結果としてマージン(利ざや)が生み出されます。
図では、主活動が下段に左から右へ並び、その上に支援活動が横断する形で重なり、右端に矢印の形でマージンが描かれます。主活動の並びが左から右へ流れているのは、原材料の調達から顧客のもとに届くまでの流れを表しているためです。
③ 一部だけ強くても意味がない
ここが価値連鎖のいちばん重要なところです。
連鎖のうち一部の活動だけが低コストや差別化を実現しても、効き目は限られます。顧客のもとへ価値が届くのは、企業の活動全体が互いにつながったときだからです。
どれだけ優れた製品を作っても、出荷物流が滞って店頭に並ばなければ顧客には届きません。どれだけ良いサービス体制を作っても、販売時に説明されていなければ使われません。
④ 全体としてつながっていれば模倣されにくい
逆に、全体として連結されて提供された価値であるならば、競合他社は一部分だけでなく、全体を模倣しなければならないため、競争優位の持続性を高めることができます。
製品を1つ分解して真似ることはできても、調達から販売後のサービスまでの仕組み全体を移植するのは容易ではありません。これが、差別化戦略のリスク(模倣される)への答えにもなっています。
⑤ 複数事業を展開している場合
企業が複数事業を展開している場合には、単一事業内での活動の連結にとどまらず、事業間の活動の連結も考慮します。同じ調達網を複数事業で使う、同じ販売チャネルに複数事業の製品を流す、といった形です。これは第3章で学ぶシナジーや範囲の経済性と直接つながる話です。
⑥ 部分最適ではなく全体最適
過去問では、次のような記述が誤りとして出題されています。
『バリュー・チェーンの全体から生み出される付加価値は、個別の価値活動がそれぞれ生み出す付加価値の総和であり、各価値活動の部分最適を図っていくことが、収益性を高める』
正しくは、個別の価値の総和ではなく、全体最適を図ることによって、より大きな価値を生み出すことができるというのが価値連鎖の考え方です。「総和」「部分最適」という言葉が出てきたら疑ってかかりましょう。
具体例
ある自動車メーカーの価値連鎖を、実際の姿に沿って描いてみます。
支援活動
・インフラ……国内トップクラスの情報システム
・技術開発……中央研究所を柱とする開発体制
・人的資源……企業城下町を中心に受け継がれてきた独自の働き方
主活動
・購買/在庫 → 生産 → 保管と流通 → セールス/マーケティング → ディーラーサポート/カスタマーサービス
注目したいのは、生産の部分に置かれたかんばん方式です。「必要なものを、必要なとき、必要なだけつくる」という考え方のもと、在庫をできるだけ持たない生産のやり方です。
この仕組みは、生産部門だけで成り立ってはいません。系列の部品メーカー群が近隣に立地し、同じ考え方で納入してくれるからこそ動きます。さらに、販売側の系列ディーラーとオンラインチャネルからの受注情報が生産計画に直結しているからこそ、作りすぎずに済みます。
他社が「かんばん方式」という手法だけを持ち帰っても機能しないのは、その1か所だけを切り出しても、価値連鎖全体がつながっていないからです。これが「全体を模倣しなければならないため、競争優位の持続性が高まる」の実例です。
試験のポイント
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