組織行動論
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プレミアムで見る人は何によって動機づけられるのか。この問いに答えるのが内容理論です。マズローの欲求段階説を土台に、それを修正したERG理論、そして高次の欲求に着目した理論群が続きます。人名と理論名の組み合わせが毎年のように問われるうえ、職務拡大と職務充実のように取り違えやすい用語もあります。6つの理論を、提唱者・中身・具体的な方法の3点セットで押さえましょう。
簡単にいうと
5段階のピラミッド。低いほうから順に満たされていく。ポイントは「欲求の移り変わりが不可逆的」であることと、自己実現だけが性格の違う成長動機だということ!
① 内容理論とは
内容理論とは、人は何(WHAT)によって動機づけられるのかについての理論です。
② 5段階の欲求
マズローは、人間のもつ欲求を以下に示すような低次から高次にかけての5段階でとらえています。
| 段階 | 欲求 | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 生理的欲求 | 食物、水などの人間の生存にかかわる本能的欲求 |
| 2 | 安全の欲求 | 安全ないし安定した状態を求め、危険を回避したいという欲求 |
| 3 | 所属と愛の欲求 |
具体例
災害で被災した町の商店主の心境の変化を追うと、5段階が順に現れるのが分かります。
発災直後(生理的欲求) 水と食料の確保が最優先です。店のことも将来のことも考える余裕がありません。
1週間後(安全の欲求) 避難所の生活が落ち着くと、「余震は大丈夫か」「住む場所をどうするか」という安全と安定への関心が出てきます。
1か月後(所属と愛の欲求) 仮設住宅に移り、近所づきあいが始まりました。「商店街の仲間はどうしているか」「誰かと一緒にいたい」という思いが強くなります。
半年後(尊重の欲求) 店を仮設店舗で再開しました。「あの店が戻ってきた」と言われることが励みになります。他者から尊敬されたいという欲求です。
3年後(自己実現の欲求) 店は軌道に乗りました。いま店主が取り組んでいるのは、「この町でしか作れない商品を自分の手で生み出す」ことです。
ここで注目したいのが、成長動機であること 新商品が1つ完成しても、店主の関心は薄れません。むしろ「次はこれを作りたい」と、いっそう関心が強まります。
一方、たとえば安全の欲求は、住む場所が確保されれば関心が薄れました。欠乏動機は満たされれば静まり、成長動機は満たされるほど強まるという違いが、はっきり出ています。
不可逆的とはどういうことか マズローの理論に従えば、いま自己実現の段階にいる店主は、新商品づくりがうまくいかないからといって「もっと安全な家に住みたい」という欲求に戻ることはない、ということになります。
現実にはどうか 実際には、挑戦がうまくいかないとき、人は「せめて仲間と楽しくやりたい」と下位の欲求に関心を戻すことがあります。この現実とのズレが、次のERG理論を生むことになりました。

マズローの欲求段階説
試験のポイント
簡単にいうと
マズローを修正した理論。3つの欲求にまとめたうえで、「同時に存在しうる」「上から下へ戻りうる」の2点を変えたのがポイント!
① ERG理論とは
アルダファーのERG理論は、マズローの欲求段階説を修正したものです。
② 3つの欲求
| 欲求 | 英語 | |
|---|---|---|
| ① | 基本的な生存の欲求 | existence |
簡単にいうと
人は未成熟から成熟へ向かおうとする。ところが管理原則に従わせると、未成熟なままでいることを要求してしまう。だから職務拡大が必要、という流れだよ!
① 何に着目した理論か
アージリスは、マズローのいう自己実現の欲求に着目して理論を展開しました。
アージリスは、個人の人格は、未成熟から成熟へ向かおうとする欲求によって変化すると述べています。
② 未成熟=成熟モデル
人格の変化は、次の7つの軸で示されます。
| 未成熟 | → | 成熟 |
|---|---|---|
簡単にいうと
人間観が2つある、という話。X理論は「人は怠け者」、Y理論は「人は条件次第で頑張る」。だから管理の仕方も変わる。目標管理制度はY理論から出てくるよ!
① 何を述べた理論か
マグレガーのX理論・Y理論は、人間観に基づくモチベーション理論を述べたものです。
「人間とはこういうものだ」という見方が違えば、適した管理の仕方も変わる、という考え方です。
② 2つの人間観
| X理論における人間観 | Y理論における人間観 |
|---|---|
| 人間は生まれつき仕事が嫌いで、できることなら仕事をしたくないと思っている | 人間は生まれつき仕事が嫌いというわけではない |
簡単にいうと
満足をもたらす要因と、不満をもたらす要因は別物だという発見。給与を上げても不満が減るだけで、やる気は出ない。職務充実(垂直的拡大)とセットで覚えよう!
① 何を明らかにした理論か
ハーズバーグは、マグレガーが示した高次の欲求を満たすためには、職務に関連した動機づけが必要であるということを実証研究により一層明確にしました。
この研究によって、職務に対して満足をもたらす要因と、職務に対して不満をもたらす要因との間の違いが発見されました。
② 二要因論の核心
ここがこの理論の最も重要な主張です。
必ずしも不満足な点(衛生要因)をすべて解消しなくても、満足をもたらす点(動機づけ要因)に働きかけることにより、モチベーションを高めることができるとしています。
満足の反対は不満足ではない、というのがこの理論の発見です。2つは別の軸にある、ということになります。
③ 動機づけ要因(満足をもたらす要因)
簡単にいうと
達成欲求・権力欲求・親和欲求の3つ。とくに達成欲求の説明が細かく問われる。「成功の確率が五分五分のときに最上の成績」がキーワードだよ!
① 三欲求理論とは
マクレランドらは、3つの主要な動機、ないしは欲求が存在することを提唱しています。
② 達成欲求
ある一定の標準に関して、それをしのぎ、あるいはそれを達成し、成功しようと努力することです。
達成欲求をもつ人の特徴は、次の3つです。この3つはそれぞれ問われるので、丁寧に押さえてください。
❶ 成功の報酬より、自身がそれを成し遂げたいという欲求から努力する
この欲求をもつ人は、より良い成績を上げたいという願望の点で、他の人とは差があり、成功の報酬よりも自身がそれを成し遂げたいという欲求から努力をします。
報酬のためではなく、達成そのもののために努力するということです。これは内発的動機づけに近い性格を持っています。
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| 4 | 尊重の欲求 | 他者から尊敬されたい、あるいは自分が他者より優れていると認識したい欲求。自我の欲求もしくは自尊欲求と訳されることもある |
| 5 | 自己実現の欲求 | 自己の向上、あるいは自己の潜在的能力を実現したいという欲求 |
別名がある欲求に注意してください。
・所属と愛の欲求 = 社会的欲求
・尊重の欲求 = 自我の欲求 = 自尊欲求
③ 欠乏動機と成長動機
ここが試験でよく問われるところです。
生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求(社会的欲求)、尊重の欲求の4つを欠乏動機といい、これらは自分以外のものによってしか満たすことのできない欲求です。
また自己実現の欲求は、最も高次で人間的な欲求であり、他の4つの欲求とは異なり、満たされるほどにいっそう関心を強化されるような成長動機です。
| 欠乏動機 | 成長動機 | |
|---|---|---|
| 該当する欲求 | 下位の4つ(生理的・安全・所属と愛・尊重) | 自己実現の欲求のみ |
| 満たし方 | 自分以外のものによってしか満たせない | 自分自身で満たしていく |
| 満たされると | 関心が薄れる | 満たされるほどにいっそう関心が強化される |
自己実現の欲求だけが性格が違うという点を押さえてください。他の4つは満たされれば関心が次の段階へ移りますが、自己実現の欲求は満たされるほど強くなります。だから「成長」動機なのです。
④ 不可逆的であること
もうひとつ、マズローは移り変わりの向きについても述べています。低いほうの欲求が満たされれば、上の段階の欲求が現れる。ところが逆は起きません。高いほうが満たされなかったからといって、下の欲求をもっと満たそうとはしない。つまり一方通行(不可逆的)だ、というのです。
不可逆的とは、一方向にしか進まないということです。一度上の段階に進んだら、下には戻らない。
この点が、次に学ぶERG理論との最大の違いになります。
⑤ 現実に即しにくい点
前節で見たとおり、この理論は直感的に理解しやすいロジックであったことから受け入れられましたが、現実には即しにくいいくつかの問題点がありました。
たとえば、
・現実には、複数の欲求が同時に存在するように見える
・高次の欲求が満たされないとき、下位の欲求に逃げることがある
・段階が5つに分かれているという根拠が実証されていない
こうした問題を受けて修正されたのが、次のERG理論です。
| ② |
| 人間関係にかかわる関係の欲求 |
| relatedness |
| ③ | 人間らしく生きたい成長の欲求 | growth |
3つの頭文字をとってERG理論と呼ばれます。
マズローの5段階との対応は、前節の対応表のとおりです。
| マズロー | ERG理論 |
|---|---|
| 生理的欲求、安全の欲求(物的) | 生存の欲求(E) |
| 安全の欲求(対人的)、所属と愛の欲求、尊重の欲求(対人的) | 関係の欲求(R) |
| 尊重の欲求(自己確認的)、自己実現の欲求 | 成長の欲求(G) |
尊重の欲求が2つに分かれて、対人的なものは関係の欲求、自己確認的なものは成長の欲求に振り分けられている点が特徴的です。
③ マズローの欲求段階説との2つの違い
ここが最も問われるところです。
❶ 同時に存在したり並行したりすることがあり得る
欲求段階説とは異なり、3つの欲求が、同時に存在したり並行したりすることがあり得ます。
マズローでは、低次が満たされてから次の段階へ進むという順番がありました。ERG理論では、3つが同時にあってよいとします。
❷ 上位欲求と下位欲求の間の可逆的な関心の移行
もうひとつの違いが、関心の移り方です。たとえば成長の欲求が満たされないと、そこへの関心が薄れ、代わりに関係の欲求が強まる。こうした上下の欲求のあいだを行き来する可逆的な移行を、アルダファーは強調しました。
マズローが不可逆的だとしたのに対し、アルダファーは可逆的だとしました。上に行けないとき、人は下に戻ることがある、というわけです。
| マズローの欲求段階説 | ERG理論 | |
|---|---|---|
| 欲求の数 | 5段階 | 3つ |
| 同時に存在するか | 順番に満たされていく | 同時に存在したり並行したりし得る |
| 関心の移行 | 不可逆的 | 可逆的 |
④ 過去問で問われた形
次の記述が誤りとして出題されています。
『アルダファーが提唱したERG理論は、欲求を存在欲求・関係性欲求・成長欲求の3つの次元に分類し、低次の欲求が満たされないと高次の欲求はモチベーション要因とはならないと主張した』
ERG理論の3つの欲求は、同時に存在したり並行したりすることがあり得ます。
「低次が満たされないと高次はモチベーション要因にならない」というのはマズローの主張であって、アルダファーではありません。
3つの欲求の分類までは合っているのに、後半でマズローの説明にすり替わっているという作りです。ERG理論の名前が出てきたら、同時存在と可逆性の2点が書かれているかを確かめてください。
具体例
研究職として入社した人の10年を追ってみましょう。可逆的な関心の移行が実際にどう起きるかが分かります。
入社1〜3年目 生活の基盤を整えることに関心がありました(生存の欲求)。同時に、研究室のメンバーと打ち解けたいとも思っています(関係の欲求)。さらに、早く一人前の研究者になりたいとも考えています(成長の欲求)。
ここが重要 マズローの理論なら、生活が安定するまで人間関係や成長に関心は向かないはずです。しかし実際には、3つが同時に存在していました。
4〜7年目(成長の欲求が中心) テーマを任され、学会発表も増えました。「もっと難しいテーマに挑みたい」という気持ちが前面に出ます。
8年目(成長の欲求が満たされなくなった) 会社の方針転換で、研究所の規模が縮小されました。新しいテーマは認められず、既存製品の改良ばかりです。
何が起きたか この人は、研究への関心を急速に失っていきました。代わりに強くなったのが、
・後輩の面倒をよく見るようになった
・部署の飲み会の幹事を進んで引き受けるようになった
・社内のサークル活動に熱心になった
つまり、成長の欲求が満たされないぶん、関係の欲求が強くなったのです。
マズローの理論では説明できない マズローは不可逆的だとしました。一度自己実現の段階に進んだ人が、所属と愛の欲求に戻ることはないはずです。
しかし現実には、こういうことが起きます。上位欲求と下位欲求の間の可逆的な関心の移行をアルダファーが強調したのは、まさにこうした現象があるからです。
上司にとっての意味 この人の変化を「協調性が出てきた」と喜ぶのは誤りです。成長の機会が奪われたことの裏返しだからです。新しいテーマを与えれば、また研究に向かうはずです。
試験のポイント
| → |
| 能動的行動 |
| 依存的 | → | 自立的 |
| 単純な行動 | → | 多様な行動 |
| 浅い関心 | → | 深い関心 |
| 短期的展望 | → | 長期的展望 |
| 従属的地位 | → | 優越的地位 |
| 自覚の欠如 | → | 自覚と自己統制 |
7つを眺めると、自分で考えて動く人間へ向かうという一貫した方向が見えてきます。
③ 管理原則が成熟を妨げる
ここがアージリスの主張の要です。
アージリスは、管理原則に基づく行動は、組織構成員に未成熟な特質を要求することになり、成熟を求める組織構成員のモチベーションを低下させると述べています。
第7章で学んだ設計原理を思い出してください。専門化の原則、命令統一性の原則、統制範囲の原則。
これらに忠実に従うと、従業員は、
・決められた狭い範囲の仕事だけをする(単純な行動)
・上司の指示を待つ(受動的行動、依存的)
・全体のことは知らされない(浅い関心、短期的展望)
という状態に置かれます。組織が求める人間像が、未成熟の側にあるわけです。
ところが人は成熟へ向かおうとする。だから組織と個人のあいだに緊張が生まれ、モチベーションが下がるというのがアージリスの指摘です。
④ 具体的方法:職務拡大
したがって、組織構成員の自己実現欲求を満たし、組織の健全化を図るためには、組織構成員の職務拡大(ジョブエンラージメント)などを行う必要があると述べています。
職務拡大とは、職務に対する単調感などを和らげるために、職務の構成要素となる課業の数を増やして仕事の範囲を拡大する方法(職務の水平的拡大)です。
ここで水平的拡大という言葉を押さえてください。このあとハーズバーグのところで出てくる職務充実(垂直的拡大)と対にして覚える必要があります。
| 職務拡大(ジョブエンラージメント) | 職務充実(ジョブエンリッチメント) | |
|---|---|---|
| 提唱者 | アージリス | ハーズバーグ |
| 何を増やすか | 課業の数 | 責任や権限の範囲 |
| 方向 | 水平的拡大 | 垂直的拡大 |
| ねらい | 単調感を和らげる | 仕事そのものを質的に充実させる |
拡大が水平、充実が垂直。この対応は毎年のように問われるので、確実に覚えてください。
具体例
自動車部品工場の組立ラインで、職務拡大を導入した例です。
導入前の状態 ある作業者の仕事は、「ボルトを4本締める」ことだけでした。1台あたり38秒、1日700回繰り返します。
未成熟な特質が要求されている状態
・決められた動作だけをする(単純な行動)
・異常があれば班長を呼ぶ(依存的、受動的行動)
・自分が締めたボルトがどこに使われるか知らない(浅い関心)
・今日のノルマだけを見ている(短期的展望)
まさに、管理原則に基づく行動が未成熟な特質を要求している姿です。
この職場では、離職率が年34%、「仕事に意味を感じない」という回答が7割を超えていました。
職務拡大を導入した 1人の担当範囲を、「ボルト締め」から「部品の受け取り → 位置決め → ボルト締め → 締付トルクの確認 → 次工程への引き渡し」の5工程に広げました。
課業の数を増やして仕事の範囲を拡大する、つまり水平的拡大です。
何が変わったか
・1サイクルが38秒から3分10秒になり、単調感が和らいだ
・前後の工程が見えるようになり、「この部品はブレーキ系統に使われる」と分かった(深い関心)
・自分でトルクを確認するので、異常に自分で気づけるようになった(自覚と自己統制)
離職率は18%に下がりました。
ただし限界もあった 1年後、再び「仕事に意味を感じない」という声が出始めます。範囲は広がったものの、
・作業手順は依然として上から与えられる
・改善の提案権はない
・不良が出たときの原因究明は技術部門がやる
やることが増えただけで、責任と権限は増えていないのです。
ここから先は、次に学ぶ職務充実(垂直的拡大)の話になります。この工場は最終的に、作業手順の見直し権限と、不良原因の一次調査を作業者に委ねました。
試験のポイント
| 人間は自分が進んで身を委ねた目標のためには、それを達成して獲得する報酬次第で、献身的に働く |
| 人間は命令されることを好み、責任を回避したがる | 人間は条件次第で自ら責任をとろうとする |
③ それぞれに適した管理
X理論の人間観に基づけば、人は低次の欲求しかもたないことになり、この場合には命令と統制による管理が必要であるとしました。
ところが現実には、構成員の低次の欲求はすでに満たされていることが多いのです。だから意欲を引き出すには、Y理論の人間観に立って高次の欲求を満たしにいく必要がある、とマグレガーは述べました。
マズローの欲求段階説とのつながりが明確です。
・X理論……低次の欲求しかもたない → 命令と統制による管理
・Y理論……高次の欲求を満たす → 自主性を活かす管理
そして現代では低次の欲求はすでに満たされていることが多いので、Y理論に基づくべきだというのがマグレガーの主張です。
④ Y理論に基づく具体的方法
| 方法 | 中身 | |
|---|---|---|
| ① | 目標管理制度(MBO:Management By Objectives) | 個人目標を主体的に設定し、自己統制によってその実現を図っていく制度 |
| ② | 権限委譲 | 決定する権利を下位に渡す |
| ③ | 職務拡大 | アージリスの職務拡大と同じもの |
目標管理制度(MBO)の定義は、そのまま覚えてください。ポイントは2つです。
・個人目標を主体的に設定する(上から与えられるのではない)
・自己統制によってその実現を図る(監視されるのではない)
この2つがY理論の人間観そのものです。「人間は条件次第で自ら責任をとろうとする」という前提に立つからこそ、本人に目標を立てさせ、本人に管理させるわけです。
なお、目標管理制度は第9章の人的資源管理でも登場します。そちらでは人事評価の仕組みとして扱われます。
⑤ X理論が間違っているわけではない
誤解しやすい点を補っておきます。
マグレガーは「X理論は誤りだ」と言ったのではありません。低次の欲求が満たされていない状況では、X理論的な管理も成り立ちます。
問題は、低次の欲求がすでに満たされている人々に対してX理論的な管理を続けることです。その場合、命令と統制はかえって意欲を下げます。
アージリスが「管理原則が未成熟な特質を要求する」と指摘したのと、同じ構造の問題を別の言葉で述べていることになります。
具体例
同じ営業部門で、2人の課長がまったく違う管理をしていた例です。
P課長(X理論に基づく管理)
・訪問件数を1日8件と決め、毎日報告させる
・訪問先ごとに滞在時間を記録させる
・目標は課長が割り振り、部下に選択の余地はない
・未達の部下には毎朝の individual な詰めを行う
「放っておけばサボる」「命令しないと動かない」という人間観が前提になっています。
Q課長(Y理論に基づく管理)
・期首に部下と面談し、本人に目標を立てさせる
・「どの顧客に、どうアプローチするか」は本人が決める
・進捗は月1回、本人から説明してもらう
・困ったときだけ相談に乗る
個人目標を主体的に設定し、自己統制によってその実現を図る、つまり目標管理制度(MBO)の形です。
結果の違い
3年後の実績を比べると、
・P課長の課……目標達成率 94%、離職者 4名
・Q課長の課……目標達成率 118%、離職者 0名
なぜ差がついたのか この会社の営業職は、給与水準も雇用の安定も業界平均を上回っていました。つまり低次の欲求はすでに満たされている状態です。
その人たちに命令と統制で臨むと、「信用されていない」と感じて意欲が下がります。報告書を書くための訪問が増え、数字だけ整って中身が伴わない状態になりました。
ただしX理論が常に誤りではない この会社が創業間もないころ、給与の遅配が起きるような時期には、細かく指示を出し、進捗を確認する管理が機能していました。低次の欲求が満たされていない状況では、X理論的な管理も成り立つのです。
相手がどの段階にいるかを見て、管理の仕方を選ぶ。マグレガーが言いたかったのは、そういうことです。
試験のポイント
| 動機づけ要因 | |
|---|---|
| ① | 達成感 |
| ② | 承認 |
| ③ | 仕事そのもの |
| ④ | 仕事への責任 |
| ⑤ | 昇進 |
5つを見ると、いずれも仕事の中身そのものに関わるものです。
④ 衛生要因(不満をもたらす要因)
職務不満を防止することはできるが、組織構成員の積極的態度を引き出すにはほとんど効果のないもの=衛生要因
| 衛生要因 | |
|---|---|
| ① | 会社の方針 |
| ② | 上司の監督 |
| ③ | 給与 |
| ④ | 人間関係 |
| ⑤ | 労働条件 |
| ⑥ | 作業環境 |
こちらは、いずれも仕事の周りの条件です。
給与が衛生要因である点に注意してください。給与を上げても不満は減りますが、積極的態度を引き出すにはほとんど効果がないとされます。
人間関係も衛生要因です。良好な人間関係は不満を防ぎますが、それ自体がやる気を生むわけではない、ということになります。
⑤ 具体的方法:職務充実
動機づけ=衛生理論においては、人間の高次の欲求を満たすためには、動機づけ要因を積極的に改善していかなければならないとしています。
その具体的方法として職務充実(ジョブエンリッチメント)などをあげています。
職務充実は、いまの仕事に計画・準備・統制といった要素を足す方法です。責任と権限の範囲を広げ、仕事の中身そのものを濃くしていきます。いわば職務の質的・垂直的な拡大です。
⑥ 職務拡大との違い(最重要)
| 職務拡大(ジョブエンラージメント) | 職務充実(ジョブエンリッチメント) | |
|---|---|---|
| 提唱者 | アージリス | ハーズバーグ |
| 何を加えるか | 課業の数 | 計画、準備、統制といった内容 |
| 何が広がるか | 仕事の範囲 | 責任や権限の範囲 |
| 方向 | 水平的拡大 | 質的・垂直的拡大 |
| ねらい | 単調感を和らげる | 仕事そのものを質的に充実させる |
2つの違いは、ピラミッドの形で考えると覚えやすくなります。
・職務拡大……同じ階層のまま、横に広がる
・職務充実……同じ幅のまま、上に伸びる
拡大が横、充実が縦。図のイメージごと覚えてしまうのが確実です。
⑦ 前節の対応表との関係
第1節の対応表を思い出してください。
・動機づけ要因 = 高次の欲求(自己実現、尊重の自己確認的な面)= 内発的動機づけ要因
・衛生要因 = 低次の欲求 = 外発的動機づけ要因
この対応をつかんでおくと、「給与は衛生要因か動機づけ要因か」と問われたときに、「給与は外から与えられるもの=外発的=衛生要因」と判断できます。
具体例
従業員90人のコールセンターで、離職率の改善に取り組んだ例です。衛生要因と動機づけ要因の違いがはっきり出ました。
第1期:衛生要因の改善(1年目)
離職率が年間52%と高かったため、次の手を打ちました。
・時給を100円上げた(給与)
・休憩室を改装し、仮眠スペースを設けた(作業環境)
・シフトの希望を出しやすくした(労働条件)
・管理者向けに接し方の研修を行った(上司の監督)
結果 離職率は52%から31%に下がりました。職務不満を防止する効果は、確かにあったのです。
ところが 顧客満足度も、1件あたりの対応品質も、ほとんど変わりませんでした。従業員アンケートでも「不満はなくなったが、この仕事が好きかと言われると別」という声が多数を占めます。
組織構成員の積極的態度を引き出すには、ほとんど効果がなかったということです。
第2期:動機づけ要因への働きかけ(2年目)
今度は、仕事の中身そのものに手を入れました。
・職務充実(垂直的拡大) それまで管理者の承認が必要だった返金・交換の判断を、一定額まで本人の裁量に委ねた(仕事への責任、責任や権限の範囲の拡大)
・月次の応対品質の評価を本人にフィードバックし、優れた応対を朝礼で紹介するようにした(承認、達成感)
・希望者には、新人研修の講師を任せるようにした(仕事そのもの、昇進につながる道)
結果 離職率は31%から14%へさらに下がり、顧客満足度が12ポイント上昇しました。
ここで注目したいこと 第2期では、給与も作業環境も何も変えていません。それでも積極的態度が引き出されました。
必ずしも不満足な点(衛生要因)をすべて解消しなくても、満足をもたらす点(動機づけ要因)に働きかけることにより、モチベーションを高めることができるという主張の、そのままの実例です。
もし第1期だけで終わっていたら 「不満のない職場」にはなりましたが、「働きがいのある職場」にはなりませんでした。満足の反対は不満足ではないとは、こういうことです。
試験のポイント
❷ 自らの責任でやりたいという気持ちが強い
また、偶然や他人の行動に結果を任せず、自らの責任でやりたいという気持ちが強いのです。
運任せや他人任せを嫌う、ということです。
❸ 成功の確率が五分五分だと見たときに最上の成績をあげる
そして、成功の確率が五分五分だと見たときに最上の成績をあげます。
ここが独特で、試験でもよく問われます。
簡単すぎる課題では、達成しても意味を感じません。難しすぎる課題では、努力しても結果が運に左右されます。五分五分のときに、自分の努力が結果を左右する度合いが最も大きくなるのです。
「達成欲求が強い人は、より困難な課題を好む」という選択肢は不正確です。正しくは五分五分です。
③ 権力欲求
ほかの人々に、影響力を行使してコントロールしたいという欲求です。
この欲求をもつ人は、責任を与えられるのを楽しみます。また、競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好みます。
④ 親和欲求
友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求です。
友情を求め、競争的な状況よりも協力を促す状況を好み、相互の理解が必要な関係を築くことを望みます。
⑤ 3つの対比
| 達成欲求 | 権力欲求 | 親和欲求 | |
|---|---|---|---|
| 求めるもの | 一定の標準をしのぎ、達成し、成功すること | 他者への影響力とコントロール | 友好的かつ密接な対人関係 |
| 好む状況 | 成功の確率が五分五分 | 競争が激しく、地位や身分を重視する状況 | 競争的な状況よりも協力を促す状況 |
| 特徴 | 報酬より達成そのもの。自らの責任でやりたい | 責任を与えられるのを楽しむ | 相互の理解が必要な関係を望む |
権力欲求と親和欲求は、好む状況が正反対です。競争を好むか、協力を好むか。この対比で覚えると混同しにくくなります。
⑥ 別名
三欲求理論は、達成動機説と呼ばれることもあります。3つのうち達成欲求が最も注目されてきたためです。
具体例
新規事業の責任者を選ぶ場面で、3人の候補の反応がどう違ったかを見てみましょう。
提示された条件は次のとおりです。
・成功すれば事業部長に昇格
・失敗しても元の職位に戻れる
・社内の見立てでは成功確率は5割程度
Rさん(達成欲求が強い) 「やらせてください。ちょうどいい難易度だと思います」
・昇格そのものより、「自分がこれを立ち上げた」と言えることに関心がある(成功の報酬よりも自身がそれを成し遂げたいという欲求)
・「外部のコンサルに任せる部分は最小限にしたい」と言った(偶然や他人の行動に結果を任せず、自らの責任でやりたい)
・成功確率5割という条件を、むしろ魅力的だと感じている
もし成功確率が9割だったら Rさんは「それなら誰がやっても同じでは」と関心を示さなかったでしょう。
もし成功確率が1割だったら 「それは運の問題で、自分の力が関係ない」と考えたはずです。
成功の確率が五分五分だと見たときに最上の成績をあげるというのは、こういうことです。
Sさん(権力欲求が強い) 「事業部長になれるなら、ぜひやります。何人の部下を持てますか。予算の決裁権はどこまでですか」
・関心の中心が影響力の範囲にある
・責任を与えられるのを楽しむ
・社内の他候補との競争についても、率直に「負けたくない」と述べた(競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好む)
Tさん(親和欲求が強い) 「いまのチームを離れるのは気が進みません。新しい部署で一から関係を作るのは負担です」
・友好的かつ密接な対人関係を重んじる
・競争的な状況よりも協力を促す状況を好む
・ただし、「いまのチームで新事業を担当するなら」という条件付きで前向きになった
人選の結論 会社はRさんを選びました。ただしTさんも、社内の部門間調整を担う役として同じプロジェクトに入れています。相互の理解が必要な関係を築くという持ち味が、部門をまたぐ調整の場面で活きるからです。
3つの欲求のどれが優れているという話ではないという点も、あわせて押さえておきましょう。
試験のポイント
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