企業戦略(成長戦略)
下の動画はこの節の解説ではありません。 解説動画の雰囲気を知っていただくための見本として、「PPM」の動画を再生します。
この節の解説動画はプレミアム限定です。プレミアムなら全科目・全節が見放題!
プレミアムで見る複数の事業を抱えている企業は、どの事業にいくら資源を配るかを決めなければなりません。声の大きい事業部長が予算を取っていく、では困ります。そこでBCGが作ったのが、市場成長率と相対的市場占有率という2つの軸だけで全事業を1枚の図に並べるPPMです。花形・金のなる木・問題児・負け犬という4つの呼び名は有名ですが、試験で問われるのは資金の流れと、それぞれの定石、そしてこの枠組みの問題点です。そこまで踏み込んで押さえましょう。
簡単にいうと
縦軸が市場成長率、横軸が相対的市場占有率。横軸は右にいくほど低くなる(左が高い)という点に注意!図の向きを間違えると全部ひっくり返るよ。
① PPMとは
PPM(Product Portfolio Management)は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって開発された戦略策定支援ツールであり、企業が多角化により複数の事業を展開するときの総合効果を分析し、各事業への資源配分を決定するときに利用されるものです。
第1章で学んだ「大テイラー主義」、つまり数字と分析にもとづいて徹底的に判断していく姿勢を代表するツールでもあります。
② SBU(戦略事業単位)
PPMで分析の単位となるのがSBU(Strategic Business Unit:戦略事業単位)です。
SBUとは、特定の事業を中心として構成される戦略策定のための単位です。個々のSBUは、1つあるいは複数の事業部で構成され、各SBUは独自の目標をもち、戦略と計画の策定を行います。
ここで注意したいのは、SBUは必ずしも既存の事業部と1対1で対応するわけではない、という点です。複数の事業部をまとめてひとつのSBUとすることもあります。「組織図の箱」ではなく「戦略を立てる単位」として切り出すのがSBUです。
③ 2つの軸
PPMでは、市場成長率を縦軸に、相対的市場占有率(相対的市場シェア)を横軸にとったチャートを作成し、事業のバランスを視覚的にとらえていきます。
縦軸:市場成長率
前節の製品ライフサイクルと次のように対応しています。
| PLCの段階 | 市場成長率 |
|---|---|
| 導入期 | まだ低い状態 |
| 成長期 | 高い状態 |
| 成熟期・衰退期 | 鈍化し横ばい |
つまり、縦軸の市場成長率が高いということは、PLC上の成長期に位置していることを表し、市場成長率が低いということは、成熟期・衰退期に位置していることを表しています。
横軸:相対的市場占有率
横軸の相対的市場占有率が高いということは、同業他社との相対的な比較において、多くの売上を獲得していることを表しています。
計算式は次のとおりです。
相対的市場占有率 = 自社シェア ÷ 自社を除く最大競争相手のシェア
自社が業界1位なら2位の会社と比べ、自社が2位以下なら1位の会社と比べる、ということです。値が1.00を超えていれば自社が首位、下回っていれば首位ではない、と読めます。
④ 図の向きに注意
PPMのチャートで最も間違えやすいのが横軸の向きです。
横軸は、左にいくほど相対的市場占有率が高く、右にいくほど低くなります。(目盛りでいえば左が10.00、中央が1.00、右が0.10といった形です。)
したがって4象限の配置は次のようになります。
| 占有率:高(左) | 占有率:低(右) | |
|---|---|---|
| 成長率:高(上) | 花形 | 問題児 |
| 成長率:低(下) | 金のなる木 | 負け犬 |
なお、チャート上に描かれる円の大きさは売上規模を表しています。位置だけでなく、その事業がどれくらいの規模なのかも同時に見られるわけです。
具体例
食品メーカーO社の5つのSBUを、実際にPPMに置いてみましょう。数字は各事業のシェアと、自社を除く最大競争相手のシェアです。
| SBU | 自社シェア | 最大競争相手 | 相対的市場占有率 | 市場成長率 | 位置 |
|---|---|---|---|---|---|
| 醤油事業 | 38% | 19% | 2.00 | 1% | 金のなる木 |
| 減塩調味料事業 | 31% | 15% | 2.07 |

製品ライフサイクル(PLC)
試験のポイント
簡単にいうと
4つそれぞれについて「資金流入」「資金流出」を押さえるのがコツ。キャッシュフローの源になるのは金のなる木だけ。花形は意外と現金を生まないよ!
❶ 問題児(Problem Child)
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 相対的市場占有率 | 低い |
| 資金流入 | 少ない |
| 市場成長率 | 高い |
簡単にいうと
お金は「金のなる木」から出て、「問題児」と「花形」へ。事業は「問題児 → 花形 → 金のなる木」と移っていく。お金の流れと事業の移動は別物だから、混同しないでね!
① 資金の流れ
資金源である「金のなる木」から得られた資金で、「問題児」の市場占有率を上げたり、「花形」の市場占有率を維持したりします。
図では、金のなる木から上に向かって花形へ、そして右上の問題児へと実線の矢印が描かれます。さらに、金のなる木から研究開発部門へも資金が向かいます。
② 望ましい移動の方向
「問題児」から「花形」へ、「花形」から「金のなる木」に移っていきます。「金のなる木」から、「負け犬」にならないように市場占有率の維持を図ります。
図では、この事業の位置の変化が点線の矢印で描かれます。
ここで大事なのは、資金の流れ(実線)と事業の移動(点線)は別のものだという点です。
動画・テキスト・過去問・AI添削まですべて網羅!
予備校代の1/10以下で、独学の不安をまるごと解決できます
| 14% |
| 花形 |
| 植物性ミルク事業 | 6% | 24% | 0.25 | 22% | 問題児 |
| 缶詰事業 | 9% | 27% | 0.33 | −3% | 負け犬 |
| 業務用スープ事業 | 22% | 20% | 1.10 | 2% | 金のなる木 |
ここから読み取れることを挙げてみます。
醤油事業と業務用スープ事業は、市場はもう伸びていませんが首位です。設備投資も宣伝もあまり要らないので、現金を生み続けています。O社の資金源です。
減塩調味料事業は、市場が年14%で伸びており、しかも首位です。ただし成長市場なのでシェアを守るための投資も必要で、生み出した現金はほぼそこに消えます。
植物性ミルク事業は、市場は年22%で急成長していますが、自社シェアは最大手の4分の1しかありません。投資を続ければ伸びる可能性がある一方、このままではお金を食うだけで終わる恐れもあります。
缶詰事業は、市場が縮小しているうえに首位でもありません。
経営会議での結論は、「醤油と業務用スープが生む現金を、減塩調味料の維持と植物性ミルクの育成に回す。缶詰は生産を委託に切り替えて縮小する」でした。PPMは、この判断を数字と1枚の図で説明できるようにする道具です。
| 成長期(初期) |
| 資金流出 | 多い |
・資金流出が多く、資金流入が少ないため、キャッシュフローがマイナスです。
・問題児に投資を行うことによって競合企業からシェアを奪い、相対的市場占有率を高めることにより、資金流入は増加し、問題児は花形に移行します。
・ただし、すべての問題児が花形に育つわけではなく、その選別が重要になります。
❷ 花形(Star)
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 相対的市場占有率 | 高い |
| 資金流入 | 多い |
| 市場成長率 | 高い |
| PLC | 成長期(中、後期) |
| 資金流出 | 多い |
・資金流入も資金流出も多く、キャッシュフローの源ではありません。ここが誤解されやすいところです。花形は華やかな響きですが、成長市場でシェアを守るための投資がかさむため、手元に現金は残りません。
・成熟期になって市場成長率が低くなると金のなる木に移行するため、花形に投資を続行し、相対的市場占有率を高く保つ努力をする必要があります。
・問題児から花形に移行する場合と、研究開発により直接花形を作り出す場合があります。
❸ 金のなる木(Cash Cow)
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 相対的市場占有率 | 高い |
| 資金流入 | 多い |
| 市場成長率 | 低い |
| PLC | 成熟期 |
| 資金流出 | 少ない |
・資金流入が多く、資金流出が少ないことから、キャッシュフローの源となります。
・ここで獲得できるキャッシュフローを、花形や問題児、さらに研究開発部門へ投資します。
・市場成長率が停滞しているため、積極的な追加投資は行いません。
❹ 負け犬(Dog)
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 相対的市場占有率 | 低い |
| 資金流入 | 少ない |
| 市場成長率 | 低い |
| PLC | 衰退期 |
| 資金流出 | 少ない |
・資金流入、資金流出ともに少ないです。
・原則的には、すでに投資した経営資源を回収して撤退し、他の事業での有効利用を図ります。
・ただし、売上規模は小さくなるが、資金流出が少ないため、高収益(利益率が高い)事業になる可能性はあります。
この最後の点は試験でよく問われます。「負け犬=即撤退」と短絡してはいけません。市場成長率が低くても、資金流出が特に小さければ、利益率の高い事業として成り立つ場合があるのです。
⑤ 各カテゴリーの定石
| カテゴリー | 定石 |
|---|---|
| 問題児 | 育成・撤退 |
| 花形 | 維持・拡大 |
| 金のなる木 | 維持 |
| 負け犬 | 撤退・売却・縮小(ただし、事業を続けることで残存者利益を獲得できる場合もある) |
残存者利益とは、他社が次々に撤退していった市場に最後まで残ることで、わずかに残った需要を独占して得られる利益のことです。
⑥ 問題児は撤退すべきか
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『「プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス」において「問題児」に分類された事業からは撤退すべきである』
問題児の定石は「育成・撤退」であり、基本的には花形や金のなる木に育成していくことを志向します。すべての問題児から撤退するわけではありません。だからこそ「選別が重要」なのです。
具体例
4つのカテゴリーで、お金の出入りがどう違うのかを具体的な数字で見てみましょう。ある企業の4つのSBUの、年間のキャッシュの動きです。
問題児(植物性ミルク事業)
・営業キャッシュの流入 +3億円
・設備投資と広告宣伝 −11億円
・差し引き −8億円(キャッシュフローはマイナス)
市場が年22%で伸びているので、シェアを取りに行くには投資が要ります。ここで投資をやめれば、成長市場に置いていかれて負け犬に落ちます。
花形(減塩調味料事業)
・営業キャッシュの流入 +28億円
・設備増強と販促 −26億円
・差し引き +2億円(ほとんど残らない)
売上も利益も大きいのに、手元にはほとんど残りません。花形がキャッシュフローの源ではないとはこういうことです。それでも投資を続けるのは、市場が成熟したときに金のなる木へ移行させるためです。
金のなる木(醤油事業)
・営業キャッシュの流入 +42億円
・維持のための最小限の投資 −6億円
・差し引き +36億円
市場は伸びていないので、大きな投資は要りません。ここで生まれた36億円が、問題児と花形と研究開発に回ります。
負け犬(缶詰事業)
・営業キャッシュの流入 +4億円
・投資 −0.5億円
・差し引き +3.5億円
売上規模は小さいものの、設備は償却済みで追加投資もほとんど不要。資金流出が特に小さいため、利益率で見ると悪くありません。この会社が缶詰事業をすぐには畳まなかったのは、他社の撤退が進んで残存者利益が見込めたからでもあります。
全社で見ると、金のなる木の36億円が問題児の−8億円を支え、研究開発にも回っている。PPMは、この「社内のお金の流れ」を1枚の図で示す道具なのです。

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
試験のポイント
| 向き |
|---|
| 資金の流れ | どこからどこへお金が回るか | 金のなる木 → 花形・問題児・研究開発 |
| 事業の位置の変化 | 事業がどう育っていくか | 問題児 → 花形 → 金のなる木 |
なぜ事業がこのように移動するかというと、市場成長率は自社の努力では変えられないからです。時間が経てば市場はいずれ成熟し、成長率は下がります(縦軸が下がる)。一方、相対的市場占有率は投資によって上げられます(横軸が左に動く)。だから「問題児のうちに投資して花形にし、市場が成熟したときに金のなる木として収穫する」という流れになるのです。
③ 理想のPPM
資金源である「金のなる木」をいくつか保有したうえで、将来の資金源になる「花形」と、将来花形になるべき「問題児」がバランスよく配置されているPPMが望ましいとされます。
金のなる木ばかりでは、いまは潤っていても10年後の柱がありません。問題児ばかりでは、投資する資金が社内にありません。いま稼ぐ事業・次に稼ぐ事業・その次に稼ぐ事業が揃っている状態が理想だということです。
④ PPMの問題点
PPMは分かりやすい反面、次のような問題点も指摘されています。試験ではこちらのほうがよく問われます。
❶ 企業の経営資源を財務資源という観点からしか考えていない
ヒト・モノ・情報という他の経営資源が視野に入っていません。技術者の士気や蓄積されたノウハウは、この図には現れません。
❷ 各SBU間のシナジーといった質的な面での評価が軽視されやすい
単独で見れば負け犬でも、他の事業と組み合わせることで大きな効果を生んでいる場合があります。PPMは各SBUを独立した箱として扱うため、この関係が見えません。
❸ PPMはすでに展開したSBUの分析であり、新しい事業分野への展開の手がかりにはなりにくい
いまある事業を並べる道具であって、「次に何をやるべきか」を教えてくれるものではありません。
❹ 負け犬に配置されたSBUでは、モラールが低下する可能性がある
自分の事業が「負け犬」と名指しされて、働く人の意欲が上がるはずがありません。第8章の組織行動論で学ぶモチベーションの問題に直結します。
❺ 金のなる木への投資が行われないため、その衰退が早まってしまうおそれがある
定石どおり「維持」に徹して資金を吸い上げ続けると、その事業自体の競争力が落ちていきます。
⑤ PPMの枠組みが前提にしているもの
過去問の解説として、次の点が示されています。
・PPMの枠組みは規模の経済ではなく、経験曲線効果によって相対的市場占有率を向上させていく過程における資源配分を行うものです。
・また、外部からの資金調達ではなく、展開している事業(内部)によって生み出した(調達した)キャッシュの配分を考えるものです。
「外部から資金を調達して」という選択肢が出てきたら誤りだと判断できます。PPMはあくまで社内のお金の配り方を考える道具です。
具体例
PPMの問題点のうち、シナジーの軽視が現実に起きた例を見てみましょう。
ある精密機器メーカーP社は、PPM分析の結果、「光学レンズ研磨事業」を負け犬に分類しました。市場は縮小しており、シェアも3位。定石どおり、撤退の候補に挙がりました。
ところが、現場から強い反対が出ます。この事業が担っていた役割は、売上だけではなかったのです。
・研磨技術の熟練工が、主力のカメラ事業の試作品も磨いていた
・レンズの曲面測定のノウハウが、医療機器事業の内視鏡開発に使われていた
・大学の研究室との共同研究の窓口になっており、そこから新しい材料の情報が入ってきていた
PPMの図は、各SBUを独立した円として描きます。円と円のあいだにある関係は、図には現れません。財務資源の流れしか見ていないので、技能の共有や知識の流れが評価されなかったのです。
さらに、負け犬と名指しされた時点で、その部門の技術者から退職者が出始めました。これがモラールの低下という問題点です。
P社は最終的に、この事業を撤退ではなく「全社の技術基盤を担う部門」として位置づけ直しました。PPMは判断の出発点にはなるが、それだけで結論を出してはいけないという教訓です。
試験のポイント
プレミアムプラン
¥9,800〜/ 買い切り・自動更新なし(税込)
決済はStripe(世界最高水準・PCI-DSS準拠)で安全に処理されます。カード情報は当サービスに保存されません。