人的資源管理
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プレミアムで見る人に仕事をつけるのか、仕事に人をつけるのか。この順番の違いが、日本と欧米の人事制度を分けてきました。日本企業が長く採ってきたのは前者で、それを支えてきたのが職能資格制度です。この節では、日本的経営の特徴を確認したうえで、職能資格制度がどう動き、どんな行き詰まりを抱えたのかを押さえます。次節の成果主義が登場した理由も、ここを理解していないと見えてきません。
簡単にいうと
終身雇用・年功序列・企業別労働組合の3つ。かつて日本企業の強さの源とされたけど、バブル崩壊以降は揺らいでいる。長所と短所を対で覚えよう!
① 3つの慣行
日本企業の人事制度を語るとき、三種の神器と呼ばれてきた3つの慣行があります。
・終身雇用制
・年功序列制
・企業別労働組合
いずれも日本企業の強さを支えたとされてきましたが、1990年代初頭のバブル経済の崩壊以降、大きく揺らいでいます。
② 終身雇用制
採用した従業員を、できるだけ長く、原則として定年まで雇い続けるという慣行です。
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 従業員の生活が安定する | 仕事に対するマンネリ化を招きやすい |
| 企業への忠誠心が高まる | 景気の動きに合わせた雇用の調整がしにくい |
| 長期の人材育成ができる | 労働市場が育ちにくい一因とも指摘される |
具体例
同じ年に入社した2人の技術者の30年を、三種の神器がまだ機能していた時代で追ってみましょう。
入社時(22歳) 2人とも同じ初任給です。配属も、本人の希望より会社の都合で決まりました。
10年目(32歳) 1人は設計一筋、もう1人は製造現場と品質保証を経験しました。能力の中身はかなり違ってきましたが、賃金はほぼ同じです。年功序列制のもとでは、勤続年数が同じなら処遇も同じになります。
この仕組みが機能した理由
・定年まで雇われることが分かっているので、「いまは差がつかなくても、長い目で見れば報われる」と思える
・会社も、10年かけて育てた人が辞めない前提だから、回収できない教育投資に踏み切れる
・2人とも同じ組合に属し、賃上げは全員一律で交渉される
20年目(42歳) 1人が課長に昇進し、もう1人は専門職に留まりました。ここで初めて差がつきますが、基本給の差はわずかです。
崩れ始めたとき
1990年代後半、会社は初めて希望退職を募りました。定年まで雇うという前提が崩れた瞬間です。
すると、若手からこういう声が出ます。「定年まで面倒を見てもらえないなら、なぜいま同期と同じ給料で我慢しなければならないのか」
終身雇用が崩れると、年功序列の根拠も消える。3つが互いを支え合っていたとは、こういうことです。
この会社はその後、評価に応じて賃金に差をつける仕組みへ移行しました。次節で扱う成果主義の流れです。

職能資格制度と職務等級制度の比較
試験のポイント
簡単にいうと
欧米は「先に仕事があって、そこに人をつける」。日本は「人に職務をつける」。この順番の違いが、職務等級制度と職能資格制度に分かれるよ!
① 2つの人事制度の考え方
日本と欧米の人事制度の違いは、何を基準に人事を行うかという一点に帰着します。
| 欧米企業 | 日本企業 | |
|---|---|---|
| 呼び方 | 職務(仕事)主義的人事制度 | 能力主義的人事制度 |
| 何を基準にするか |
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③ 年功序列制
賃金や昇進、昇格の基準を、学歴・年齢・勤続年数といったものに置く仕組みです。勤続年数が延びるほど、職位も賃金も上がっていきます。
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 従業員が生活設計を立てやすい | 若く優秀な人材の士気を下げてしまう |
| 長期の定着を促す | 能力・成果と賃金とのあいだにずれが生じる |
④ 企業別労働組合
企業ごとに組織された労働組合です。欧米に多い産業別組合とは、組織の単位が違います。
労使が協調する体制の土台を提供してきた一方で、御用組合と揶揄されることもあり、経営に対する健全なチェック機能を果たしていない、という指摘もあります。
⑤ 3つは互いを支え合っていた
ここが理解のしどころです。3つはばらばらの慣行ではなく、噛み合って一つの仕組みを作っていました。
・定年まで雇うと決めているから(終身雇用)、長い時間をかけて育てることに意味が出る
・長く居ることが前提だから、勤続年数で処遇を決めることに納得が生まれる(年功序列)
・全員が同じ会社に長く属するから、組合も会社ごとにまとまる(企業別労働組合)
逆にいえば、どれか一つが崩れると他も崩れます。バブル崩壊後に終身雇用が揺らいだとき、年功序列の根拠も同時に失われました。次節で成果主義が出てくるのは、その後の話です。
| 個々の従業員が持つ職務遂行能力 |
| 順番 | まず先に仕事があり、その仕事に人をつける | 人に職務をつける |
| 導入される制度 | 職務等級制度 | 職能資格制度 |
日本型は人間中心主義の人事制度だ、と説明されます。仕事の側ではなく、人の側を基準に置いているからです。
② 職能とは何か
職能とは、職務を遂行するために必要な能力、つまり職務遂行能力のことです。何をどこまでできるかを抜き出す作業を職務分析(職務調査)といいます。
③ 職能資格制度の仕組み
職能資格制度は、次の順で組み立てられます。
1. 仕事の難易度や責任度をもとに、資格の区分を設ける
2. 各区分に該当する職務遂行能力の種類と程度を、等級定義として明確にする
3. その基準に照らして、従業員の人事処遇を決める
実際の資格区分は、たとえば次のような形になります。上に行くほど求められる能力が高度になり、対応する役職位の目安も上がっていきます。
| 層 | 等級の例 | 等級定義の例 | 対応する役職位の目安 |
|---|---|---|---|
| 管理専門職能 | M3・M2・M1 | 管理統率、高度専門業務/上級管理、高度企画/管理指導、企画業務 | 部長・副部長・課長 |
| 指導監督職能 | S3・S2・S1 | 上級指導監督、高度判断業務/指導監督、判断業務/初級指導監督 | 課長補佐・係長・主任 |
| 一般職能 | G3・G2・G1 | 複雑定形および熟練業務/一般定形業務/単純定形業務 | - |
④ 資格は役職と一対一ではない
ここが職能資格制度の大事な特徴です。
役職(部長、課長など)と資格(理事、参事、主事など)は、別々の体系として運用されます。同じ資格でも役職に就いている人といない人がいますし、その逆もあり得ます。
なぜ分けるのか。理由は単純で、役職のポストには数に限りがあるからです。課長の椅子が5つしかない会社で、課長の能力を持つ人が8人いたらどうするか。
役職と資格を分けておけば、ポストに就けなくても資格は上げられます。賃金も資格に連動するので、処遇で報いることができるわけです。
⑤ 賃金との関係
賃金も、役職ではなく資格との関係で決まります。
職能資格制度のもとでの基本給は職能給と呼ばれ、従業員の職務遂行能力を基準に決められます。詳しくは第9節の賃金体系で扱います。
ただし、同じ資格なら全員同じ額、というわけではありません。レンジ・レートといって、資格ごとに一定の幅を持たせた金額帯が設定されるのが一般的です。
⑥ 職能資格制度の4つの問題点
この制度には、次のような行き詰まりが指摘されてきました。次節で成果主義が出てくる理由が、ここにあります。
❶ 昇格基準が曖昧になりやすい
職能の要件は、多くの場合、全社で一律に決められます。そのため内容が抽象的になりがちで、「誰が上の資格にふさわしいか」の線引きが難しくなります。結果として、昇格の運用が年功的になりやすいのです。
❷ 画一性・同質性を強めてしまう
この制度は、下位の職能から上位の職能へ内部昇格していくことを前提に設計されています。全員が同じ階段を上っていく形になるため、人事管理が単一の物差しに寄り、従業員の価値観やキャリア志向が多様になったとき、本来は対応できません。
❸ ポスト不足が起きやすい
資格は上げられても、役職の数は増えません。昇格した人に見合うポストが足りなくなります。
❹ 外部から人を採るときに使えない
この制度は、社内での人材育成(ジョブローテーションを通じたゼネラリストの養成)を前提に組み立てられています。そのため、中途採用などで外から人を迎えるときにそのまま当てはめることができません。
⑦ 4つの問題点の共通点
4つを並べると、根は同じだと分かります。
全員が新卒で入り、同じ階段を上り、定年まで居続けるという前提の上に作られた制度だ、ということです。
だから、その前提が崩れたとき、つまり三種の神器が揺らいだときに、制度そのものが立ち行かなくなりました。
具体例
電機メーカーで、職能資格制度がどう運用され、どこで行き詰まったかを見てみましょう。
仕組みが効いていた場面
Aさんは技術者として高い能力を持っていましたが、人をまとめるのは得意ではありませんでした。
・役職……課長にはしない
・資格……M1(管理指導・企画業務および専門業務)に昇格
・賃金……課長と同水準
役職と資格が別の体系だから、こういう処遇ができます。管理職にせずに、能力に見合う賃金を払えたわけです。
問題点❶ 昇格基準の曖昧さ
M1の等級定義は「管理指導・企画業務および専門業務」でした。全社共通の基準なので、抽象的にならざるを得ません。
・営業部門の「企画業務」と、研究所の「企画業務」は中身がまるで違う
・結局、誰を上げるかの判断材料が「そろそろ年次的に」になっていった
昇格の運用が年功的になりがちという指摘のとおりです。
問題点❸ ポスト不足
1990年代、この会社では団塊世代が一斉に管理職の資格に達しました。課長相当の資格を持つ人が280人いるのに、課長のポストは140しかありません。
「資格はM1だが役職なし」という人が急増し、人件費だけが膨らんでいきました。
問題点❹ 外部から採れない
同じころ、ソフトウェア技術者を中途で採る必要が出てきました。ところが、
・この制度は、新卒から段階を踏んで上がることを前提にしている
・35歳の中途入社者を、勤続ゼロだからとG3に置けば、賃金が市場水準を大きく下回る
・かといってM1に置けば、社内の同年代から不満が出る
内部育成を前提とした設計だから、外から来た人を位置づけられないのです。
問題点❷ 多様なキャリアに対応できない
この会社には、専門を極めたい技術者も、管理職を目指す人も、育児と両立したい人もいました。
しかし制度は、全員が同じ階段を下から上へ昇ることを前提にしています。「上を目指さない」という選択が、制度上は想定されていませんでした。
結果 この会社は2000年代に入り、職務等級制度の要素と成果主義を取り入れた制度へ移行しています。
試験のポイント
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