組織構造論
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プレミアムで見る組織のかたちを決めるとき、よりどころになる原則がいくつかあります。仕事をどう分けるか、権限と責任をどう対応させるか、1人の上司が何人の部下を見るか、命令を誰から受けるか、そして経営者が何に専念すべきか。この5つの設計原理は、次節以降で学ぶ組織形態の土台になります。1次試験の頻出領域でもあるので、それぞれの中身を丁寧に押さえましょう。
簡単にいうと
専門化=分業化とほぼ同じ意味。得意なことに集中すれば速くなるし、うまくなる。公式化・標準化とセットで「活動の構造化」と呼ばれるよ!
① 組織構造とは(復習)
組織構造とは、階層および職能における位置関係であり、言い換えれば、事業部や部門などの下部組織が担うべき機能、人的資源の配分と権限、指揮命令系統を定めたものです。
組織構造にはいくつかの基本形態がありますが、それらを説明する前に、組織構造を決定するときに適用される設計原理を取り上げます。
② 専門化の原則
専門化とは、組織の活動が特殊化された役割に分割された状態を指し、分業化とほぼ同じ意味です。
専門化により、特定の業務(職務)に専念することになり、各部門(担当者)は次のような効果を生み出すことが可能になります。
| 効果 | 中身 |
|---|---|
| 得意とする知識・能力の集中利用 | 自分の強い分野だけに力を向けられる |
| 反復による迅速な業務(職務)の習熟 | 同じ作業を繰り返すことで速く正確になる |
| 専門化した手段と方法の使用 | その業務に適した道具ややり方を使える |
専門化に基づけば、各部門の業務(あるいは組織構成員の担当する職務)は、技術、知識、経験について類似した業務(職務)によって構成されることになります。
具体例
従業員40人の弁当製造会社が、専門化を進めた例です。
専門化する前 全員が日替わりで、仕込み、調理、盛り付け、配送を担当していました。飽きがこない反面、
・人によって仕上がりが違う
・段取りを毎回思い出しながらやるので遅い
・道具も共用で、その都度入れ替えが必要
専門化した後 仕込み班、調理班、盛り付け班、配送班に固定しました。
・知識・能力の集中利用……調理班は火加減だけを覚えればよくなった
・反復による習熟……盛り付けの所要時間が1食あたり32秒から19秒に
・専門化した手段と方法……仕込み専用の大型スライサーを導入できた
公式化を進めた それまで口頭で伝えていた調理手順を、写真つきの作業標準書にしました。これが命令や指示、手続きが文書化される程度を上げるということです。
標準化を進めた 「中火で3分」ではなく「180度で2分40秒」と数値で定め、タイマーを使うことにしました。
結果として何が起きたか 仕上がりのばらつきが小さくなり、検品ではじく不良品が1日平均14食から3食に減りました。標準化によってアウトプットの分散が小さくなり、検査コストが減ったという、まさに教科書どおりの結果です。
この3つをまとめて活動の構造化

組織構造の設計原理(5つの原則)
試験のポイント
簡単にいうと
与えられた権限と、負わされる責任は等しくなければならない。権限だけ大きくても、責任だけ重くても組織は回らないよ!
① 権限責任一致の原則とは
権限責任一致の原則とは、各組織構成員に与えられる権限の大きさが、担当する職務に相応しているとともに、それと等量の責任が負わされなければならないというものです。
3つがつり合っている必要があります。
職務 = 権限 = 責任
② 権限と責任の定義
権限とは、意思決定を行い、その内容を実現するうえで、他の人々をこの意思決定に従わせることを公に認められている権利です。
責任とは、割り当てられた職務に対して期待されている成果をあげる義務です。
簡単にいうと
1人の上司が見られる部下の数には限界がある。広げると階層は減るけど管理効率が落ちる。広げるための4つの工夫がよく問われるよ!
① 統制範囲の原則とは
統制範囲(管理の幅、あるいはスパンオブコントロール)とは、1人の上司が有効に指揮監督できる直接の部下の人数のことです。
従業員の数が同じなら、統制範囲を広げるほど階層は浅くなり、管理者の数も減らせます。ただし、1人が実際に管理できる部下の数には上限があります。そこを超えて部下を抱えると、管理の効率はかえって落ちる。これが統制範囲の原則です。
② 統制範囲と階層数の関係
ここは図で理解しておきたいところです。
同じ従業員数でも、統制範囲を変えると組織のかたちが変わります。
| 統制範囲が狭い |
|---|
簡単にいうと
命令を受けるのは、いつも特定の1人の上司から。2人から違う指示が来たら、現場は動けなくなるからね!
① なぜこの原則が必要になるのか
1部門に置ける人数に上限があるなら、会社が大きくなるほど部門の数が増え、階層も深くなります。そうなると、組織としてひとつにまとまって動くことが難しくなるのです。
このときの組織の上下関係を決めるのに適用されるのがこの原則です。
前のテーマの統制範囲の原則により、1部門の人数には限界がありました。だから会社が大きくなると、部門の数が増え、階層が深くなります。そうなると、誰が誰に命令するのかが曖昧になりやすいのです。
② 命令統一性の原則とは
命令統一性の原則は、組織の秩序を保つための決まりです。職位(職務を果たすのに必要な権限と責任を割り当てられた、組織上の地位)の上下関係のなかで、一人ひとりが命令を受ける相手をつねに特定の1人の上司に限る、というものです。
定義の中に出てくる職位の説明も押さえておきましょう。
簡単にいうと
経営者は日常業務を部下に任せて、例外的な判断に専念すべき。そのために意思決定を3つに分けて考えるよ。定型業務に追われて計画が消える「グレシャムの法則」も要注意!
① 意思決定の3類型
例外の原則を理解する前提として、組織における意思決定を3つに分けて押さえます。アンゾフによる分類です。
❶ 業務的意思決定
業務的意思決定とは、ロワーマネジメントが主に従事する意思決定であり、日常的な経営活動の能率や収益性を最大にするための短期的、定型的な意思決定です。
❷ 管理的意思決定
主にミドルマネジメントが担う意思決定です。戦略的意思決定で定まった経営戦略を実行に移すために、必要な資源を調達するといったことがこれにあたります
また、戦略的意思決定と業務的意思決定の間に位置するものであるととらえることができます。
❸ 戦略的意思決定
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似た仕事どうしをまとめるのが専門化だ、ということです。
③ 活動の構造化
なお、専門化は公式化、標準化と相互に関連が強く、これらをまとめて活動の構造化(従業員の活動に対する公式の規制の程度)といいます。
3つの言葉を整理しておきましょう。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 専門化 | 組織の活動が特殊化された役割に分割された状態 |
| 公式化 | 命令や指示、手続きなどが文書化される程度 |
| 標準化 | 標準的なルールおよび手続きによって作業が処理される程度 |
| 活動の構造化 | 上の3つをまとめたもの。従業員の活動に対する公式の規制の程度 |
公式化は「文書化される程度」、標準化は「ルールや手続きによって処理される程度」。この2つは混同しやすいので、定義のまま覚えてください。
④ 標準化の効果
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『職務のプロセスを標準化すると、従業員の専門能力を向上させるとともに、アウトプットの分散が大きくなり検査コストが増える』
標準化により専門能力は向上しますが、アウトプットの分散は小さくなります。
標準化とは、誰がやっても同じ手順で同じ結果が出るようにすることです。だから出来上がりのばらつき(分散)は小さくなり、検査にかかるコストも減ります。この因果は直感どおりなので、落ち着いて読めば判断できます。
| 性格 |
|---|
| 権限 | 意思決定を行い、他の人々を従わせることを公に認められている権利 | 与えられるもの |
| 責任 | 割り当てられた職務に対して期待されている成果をあげる義務 | 負わされるもの |
権利と義務という対比で覚えると混同しません。
③ 階層性の原則
権限と責任は一般的に組織内の階層構造に基づいて付与されるため、階層性の原則とよばれることもあります。
上の階層ほど大きな権限を持ち、同時に大きな責任を負う。この対応が階層に沿って並んでいるということです。
④ つり合いが崩れるとどうなるか
この原則が破られると、次のような問題が起きます。
| 崩れ方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 権限 > 責任 | 結果に責任を負わないまま決定できるので、無責任な判断が生まれる |
| 権限 < 責任 | 結果を問われるのに手段を持たないので、担当者が疲弊し、成果も出ない |
実務では後者が起きやすいといわれます。「任せたから結果を出せ」と言いながら、予算も人員も決裁権も与えない、という状態です。
⑤ 権限委譲との関係
このあと学ぶ例外の原則は、経営者が日常業務を下位に委譲すべきだというものでした。その際、委譲するのは権限であって、責任は委譲されないという点に注意が必要です。
部下に権限を与えても、その結果に対する最終的な責任は委譲した側に残ります。この点は実務上も重要な考え方です。
具体例
同じ「店舗の仕入れを店長に任せる」という施策が、2つのチェーンでまったく違う結果になった例です。
A社(権限と責任がつり合っていた)
・店長に月200万円までの仕入れ決裁権を与えた(権限)
・同時に店舗の粗利益率を評価指標に加えた(責任)
・仕入先の選定も、発注量の決定も店長が行える
店長は、売れ筋を見ながら仕入れを調整できるようになりました。廃棄ロスが減り、粗利益率は2年で1.8ポイント改善しています。
B社(責任だけが重かった)
・店長に店舗の粗利益率の責任を負わせた(責任)
・しかし仕入れは本部の一括発注のまま(権限がない)
・仕入先も数量も店長には変えられない
店長にできることは、値引きのタイミングを調整することだけでした。権限 < 責任の状態です。
結果として、
・数字が悪くても打つ手がないので、店長が疲弊した
・「本部の発注が悪いせいだ」という空気が広がった
・店長の離職率が年間28%に達した
C社(権限だけが大きかった)
・店長に仕入れ決裁権を与えた(権限)
・しかし評価は売上高のみで、粗利益は問わなかった(責任がない)
店長は売上を伸ばすために高原価の目玉商品を大量に仕入れました。売上は伸びましたが、粗利益率は3ポイント悪化しています。権限 > 責任の状態です。
権限と責任は、どちらかが大きくても組織は回らない。等量でなければならない理由がここにあります。
試験のポイント
| 階層数 | 多くなる(縦に長い組織) | 少なくなる(横に広い組織) |
| 管理者の数 | 多い | 少ない |
| 情報の伝達 | 階層が多く、伝わるのに時間がかかる | 速い |
| 1人あたりの管理負担 | 軽い | 重い |
統制範囲を広げれば管理者の人件費は減りますが、限界を超えると管理効率が低下するというのがこの原則です。
③ 統制範囲を広げるための4つの工夫
なお、管理者の統制範囲を拡大するには以下のような工夫が必要になります。
| 工夫 | |
|---|---|
| ❶ | 管理者の例外処理能力を高める |
| ❷ | 下位メンバーの知識や熟練を高め、例外事項への適切な判断力をもたせる |
| ❸ | 作業の標準化を進める |
| ❹ | スタッフ部門の創設など、管理者の例外処理能力を補強する構造を構築する |
4つを見ると、いずれも管理者が処理しなければならない事柄を減らすか、処理能力そのものを増やす方向を向いています。
・❶と❹は、管理者側の処理能力を上げる
・❷と❸は、そもそも管理者まで上がってくる案件を減らす
❸の作業の標準化は、前のテーマで学んだ標準化そのものです。手順が決まっていれば、いちいち上司に聞かなくても部下が判断できます。
④ 管理の幅が狭くなる条件
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『部下間の職務の相互依存度が高く、環境が不規則に変化する場合には、「管理の幅」を広くとることができる』
この場合、上司の管理・調整負担が重くなるので、管理の幅は狭くなります。
部下どうしの仕事が絡み合っていれば、上司が調整しなければなりません。環境が不規則に変われば、その都度判断を求められます。どちらも管理者の負担を増やす条件なので、管理の幅は広げられないわけです。
逆にいえば、部下の仕事が独立していて、環境が安定しているほど、管理の幅は広く取れるということになります。
⑤ 制約された合理性との関係
この原則の根拠は、前節で学んだ制約された合理性です。人間の情報処理能力には限界があるからこそ、1人が見られる部下の数にも限界が生じます。
同じ理由から、次に学ぶ例外の原則も出てきます。この2つはセットで理解しておくとよいでしょう。
具体例
コールセンターを運営する会社が、同じ人数で2つの体制を試した結果を比べてみましょう。オペレーターは120人です。
体制A(統制範囲が狭い)
・スーパーバイザー1人あたり部下6人
・スーパーバイザー20人、その上にマネージャー4人、その上に部長1人
・階層は4段、管理者は25人
体制B(統制範囲が広い)
・スーパーバイザー1人あたり部下15人
・スーパーバイザー8人、その上に部長1人
・階層は3段、管理者は9人
管理者が16人減るので、人件費は年間約9,600万円下がります。
ところが問題が起きた この会社が扱っていたのは、契約内容が複雑で、問い合わせのたびに判断が要る商材でした。環境が不規則に変化する状態です。
体制Bでは、1人のスーパーバイザーに15人から次々に質問が上がり、・回答待ちの保留時間が平均48秒から2分10秒に延びた
・オペレーターの誤案内が月12件から41件に増えた
管理効率が低下したわけです。
4つの工夫を入れた 会社は体制Bを維持したまま、次の手を打ちました。
・❸ 作業の標準化……よくある200の問い合わせについて、回答スクリプトを整備した
・❷ 下位メンバーの知識を高める……オペレーター全員に3週間の追加研修を行い、判断してよい範囲を広げた
・❹ スタッフ部門の創設……契約内容の照会だけを専門に扱う後方支援チームを3人置き、スーパーバイザーを介さずに質問できるようにした
半年後、保留時間は52秒まで戻り、誤案内も月9件に減りました。
管理の幅は、何もせずに広げられるものではない。広げるには、それを支える工夫が要るということです。
試験のポイント
職位=職務の遂行に必要な権限と責任を割り当てられた組織上の地位
前のテーマで学んだ権限と責任が、ここで「職位」という形にまとめられています。
③ 破られるとどうなるか
複数の上司から異なる命令を受けると、次のことが起きます。
・どちらに従えばよいか分からず、現場が止まる
・都合のよい命令だけを選んで従うようになる
・失敗したとき、責任の所在が曖昧になる
だから「つねに特定の1人の上司からだけ」という厳しい言い方になっています。
④ この原則が守られない組織形態
ここが試験で問われるつながりです。
第8節で学ぶマトリックス組織は、職能別の上司と製品別の上司という2人の上司を持つ形態です。つまり、命令統一性の原則に反している組織形態ということになります。
マトリックス組織のデメリットとして「命令系統が混乱しやすい」が挙げられるのは、この原則との関係からです。
また、次のテーマで学ぶラインとスタッフにおいて、スタッフがラインへの直接的な命令の権限をもたないとされるのも、この原則を守るためです。スタッフが直接命令を出せば、ラインの従業員は直属の上司とスタッフの2方向から命令を受けることになってしまいます。
⑤ 4つの原則の関係
ここまでの4つを並べると、組織設計の筋道が見えてきます。
| 原則 | 何を決めるか |
|---|---|
| 専門化の原則 | 仕事をどう分けるか |
| 権限責任一致の原則 | 分けた仕事にどれだけの権限と責任を与えるか |
| 統制範囲の原則 | 1人の上司が何人を見るか |
| 命令統一性の原則 | 命令が誰から来るか |
分けて、権限を与えて、まとまりの大きさを決めて、指揮系統を通す。この順で読むと、4つがばらばらの知識ではなくなります。
具体例
ある建設会社で、命令統一性が崩れて起きた事故の例です。
組織の状態 現場の作業員は、
・直属の現場監督
・本社の安全管理部
・発注元から派遣された工事担当者
の3方向から指示を受けていました。
ある日の出来事 工期が押していたため、
・現場監督は「今日中に型枠を外せ」と指示
・安全管理部は「養生期間が足りないので待て」と指示
・発注元の担当者は「明日の検査に間に合わせろ」と指示
作業員はどれに従うべきか分からず、結局その場にいた現場監督の指示で型枠を外しました。強度が不足しており、一部が崩落します。
事故後の調査で分かったこと ・安全管理部には作業を止める権限があると本社は考えていた
・しかし現場では、安全管理部は「助言する立場」と理解されていた
・発注元の担当者には、そもそも指示の権限がなかった
誰が命令を出せるのかが定まっていなかったことが、根本の原因でした。
改善したこと
・作業員への命令は現場監督のみが出すと明確にした
・安全管理部は現場監督に対して助言と是正要求を行い、作業員に直接指示は出さないこととした
・発注元からの要望は、すべて現場監督を経由させることにした
これはスタッフがラインへの直接的な命令の権限をもたないという次のテーマの内容そのものです。命令統一性の原則を守るための、標準的な整理の仕方です。
試験のポイント
戦略的意思決定とは、トップマネジメント(経営者)が主に従事する意思決定であり、今後の戦略についての長期的、非定型的な意思決定です。
② 3類型の対応表
| 類型 | 主に従事する階層 | 時間の視野 | 定型性 | 中身 |
|---|---|---|---|---|
| 戦略的意思決定 | トップマネジメント | 長期的 | 非定型的 | 今後の戦略について |
| 管理的意思決定 | ミドルマネジメント | 中間 | 中間 | 戦略の実行に必要な資源の調達 |
| 業務的意思決定 | ロワーマネジメント | 短期的 | 定型的 | 日常的な経営活動の能率や収益性の最大化 |
階層と時間の視野と定型性が、きれいに対応しています。上に行くほど長期的で非定型的、下に行くほど短期的で定型的です。
③ 例外の原則
経営者は、業務的意思決定や管理的意思決定から解放され、戦略的意思決定に専念できるようにする必要があります。
例外の原則は、経営者の時間の使い方を定めたものです。日々繰り返される業務の処理は下位の者に委ね、経営者は例外的な業務、つまり戦略的意思決定と非定型的意思決定に専念すべきだ、という考え方です。
権限委譲の原則といわれることもあります。
なぜこれが必要かというと、前節で学んだ制約された合理性があるからです。経営者の処理能力にも限界がある以上、何に使うかを選ばなければなりません。
④ 計画におけるグレシャムの法則
例外の原則が守られないと、何が起きるか。それを表したのがこの法則です。
定型的意思決定に忙殺され、非定型的意思決定が後回しになることによって、将来の計画策定が事実上消滅してしまうことを、計画におけるグレシャムの法則といいます。
もとの「グレシャムの法則」は「悪貨は良貨を駆逐する」という貨幣の話ですが、ここでは定型業務が非定型業務を駆逐するという意味で使われています。
日常の処理には締切があり、やらなければ誰かが困ります。一方、将来の計画づくりには明確な締切がなく、今日やらなくても誰も困りません。だから、つねに日常業務が優先され、計画策定は永遠に後回しになるのです。
⑤ 第1章とのつながり
第1章で学んだ分析麻痺症候群を思い出してください。分析に時間をかけすぎて動けなくなる状態でした。
グレシャムの法則はその逆で、動きすぎて考える時間がなくなる状態です。どちらも、経営者が何に時間を使うべきかという同じ問題の、両極にある失敗だといえます。
具体例
従業員70人の部品メーカーの社長が、グレシャムの法則に陥っていた状態から抜け出した例です。
陥っていたときの1日
・朝 昨日の出荷トラブルの対応(業務的意思決定)
・午前 仕入先の値上げ交渉(管理的意思決定)
・昼 取引先への謝罪訪問(業務的意思決定)
・午後 採用面接3件、経費精算の決裁40件(業務的意思決定)
・夕方 翌日の生産計画の確認(業務的意思決定)
戦略的意思決定の時間はゼロです。
社長は「来期の事業の方向を考えなければ」と3年間言い続けていましたが、一度も着手できていませんでした。将来の計画策定が事実上消滅している状態です。
なぜそうなるのか 出荷トラブルには今日中の期限があり、対応しなければ顧客が怒ります。一方、来期の事業構想は今日やらなくても誰も困りません。締切のあるものが、締切のないものを駆逐するわけです。
例外の原則に沿って直したこと
・経費精算の決裁……10万円未満は部長決裁に委譲(40件→3件)
・出荷トラブル対応……対応手順を文書化し、製造部長が一次対応する体制にした
・採用面接……一次・二次は人事と部門長に委譲し、社長は最終面接のみ
・生産計画の確認……日次から週次に変更
委譲できなかったもの 仕入先の値上げ交渉のうち、主要3社との交渉は社長が続けました。これは例外的で、前例がなく、影響が大きい案件だからです。
結果 毎週水曜の午後を「翌期以降を考える時間」として確保できるようになり、1年後には新しい事業分野への参入が決まりました。
日常反復的な業務を下位に委譲し、例外的な業務の処理に専念する。例外の原則が実際に効くのは、こういう場面です。

意思決定の3類型(アンゾフ)
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