組織構造論
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プレミアムで見るここまで学んだ設計原理と、分業の2つの方向をふまえて、実際の組織がどんなかたちを取るのかを見ていきます。機能別組織、事業部制組織、カンパニー制、マトリックス組織。それぞれに向き不向きがあり、メリットの裏返しがそのままデメリットになっています。1次試験で最も出題が多い領域のひとつなので、4つの形態それぞれについて、長所と短所を対にして押さえましょう。
簡単にいうと
人事部・営業部・製造部というように、機能の名前で部門が並ぶ組織。権限が上に集まる「集権管理型」なのがポイント。中小企業でいちばんよく見るかたちだよ!
① 機能(職能)別組織とは
機能(職能)別組織とは、個々の機能を単位化した組織です。
企業の機能として代表的なのは、人事・営業・製造・購買・研究開発・経理・財務といったところです。部門の名前がそのまま機能の名前になっている組織、つまり人事部・営業部・製造部・経理部といった並びのものが、機能(職能)別組織です。
また、権限が上位階層に集中した集権管理型の組織形態です。
前節で学んだ機能(職能)分業を組織のかたちにしたものが、これにあたります。
② メリット
| メリット | |
|---|---|
| ❶ | 分業により各機能が熟練し、専門性が発揮できる(専門化の原則) |
| ❷ | 業務集中による規模の経済が発揮できる |
| ❸ | トップ権限集中型の単純な階層構造であり、組織の統制を図りやすく(命令統一性の原則)、トップは広範囲の情報を集めたうえで大局的な意思決定ができる |
具体例
従業員180人の文具メーカーの組織図を見てみましょう。
組織のかたち
・社長
・社長室(スタッフ)
・製造部(第一工場、第二工場)
・営業部(直営課、卸売課)
・管理部(総務課、会計課)
部門名がすべて機能の名称になっています。
メリットが効いている場面
・専門性……製造部の技術者は、樹脂の成形条件に習熟しています。20年やっているので、不良の原因を見ただけで当てられます。
・規模の経済……原材料の樹脂を購買機能に一本化しているため、年間の発注量がまとまり、仕入単価が他社より12%安く済んでいます。
・統制……社長の方針がそのまま3部門に伝わり、足並みが揃います。
デメリットが出ている場面
・トップの負担……新商品の発売時期をめぐって製造部と営業部の意見が割れると、必ず社長が裁定します。社長の予定が埋まっていると、決定が2週間止まります。
・部門間の垣根……営業部は顧客から「この色が欲しい」という声を聞いていますが、製造部には「手間が増えるだけ」と受け取られ、共有されません。

機能別組織の構造
試験のポイント
簡単にいうと
事業部ごとに権限を大幅に委譲する分権管理型。各事業部は「プロフィットセンター(利益責任単位)」になるよ。集権型の機能別組織と正反対だと押さえよう!
① 事業部制組織とは
事業部制組織とは、事業部とよばれる管理単位を本社のトップマネジメントの下に編成した組織形態です。
組織の下位階層に権限を大幅に委譲し、現場の状況に即応する分権管理型の組織形態です。
各事業部は資本利益率(ROI)によって管理されます。
機能別組織が集権管理型だったのに対し、事業部制組織は分権管理型です。この対比がこの節の軸になります。
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『事業部制組織は、本社の情報処理負担が軽減されるとともに、事業戦略に関する権限が本社に集中するために、事業部の再編成や既存事業の融合を通じた新規事業を創造しやすくなる』
簡単にいうと
カンパニー制は事業部制をもっと徹底したもの。でも「別会社にする」わけじゃないのが要注意!別会社にするのは持株会社のほうだよ。
① カンパニー制とは
カンパニー制とは、事業部制組織のもつ独立採算主義をさらに徹底させた組織形態です。
② 事業部制組織と比較したときの4つの特徴
| 特徴 | |
|---|---|
| ❶ | バランスシート経営を導入し、投資収益性を重視している |
| ❷ |
簡単にいうと
職能別と事業部制の利点を同時に狙った組織。でも上司が2人いるから、必ずコンフリクトが起きる。最大のねらいは「範囲の経済性の追求」だよ!
① マトリックス組織とは
マトリックス組織とは、横断型組織あるいは格子型組織のことで、職能別組織と(製品別)事業部制組織のもつ利点を同時に狙った組織形態です。
環境の不確実性の増大により、新しい課題が頻繁に発生し、プロジェクトチームを恒常化する必要が生じたときなどにこの組織形態が採用されます。
図では、タテに事業部(パソコン事業部、AV製品事業部、白物家電事業部)、ヨコに機能部門(研究開発部門、生産部門、販売部門)が並び、その交点に担当者が配置されます。
② 最大のねらい
マトリックス組織の最大のねらいは範囲の経済性の追求です。
第3章で学んだ範囲の経済性は、「多様な種類のものを作ることによって固定費を分散させる」ことでした。マトリックス組織では、1人の技術者が複数の製品に関わることで、その人の能力という資源を複数の事業で共有できます。
③ 採用の3条件
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| 機能別組織を導入する前と比べて、トップは日常的意思決定から解放され、全社的意思決定に専念しやすくなる(ただし、限界はある) |
❶は専門化の原則、❸は命令統一性の原則、❹は例外の原則と、それぞれ前節で学んだ設計原理に対応しています。
❷の規模の経済については、注意が必要です。過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『機能別部門組織の利点は、機能部門ごとの専門化の利益を最大限に発揮できる点にあり、その分、規模の経済は犠牲になる』
専門化を図ることで規模の経済が発揮しやすいのであって、犠牲になるわけではありません。たとえば購買を1か所にまとめれば、まとめ買いによって単価が下がります。専門化と規模の経済は、両立するのです。
③ デメリット
| デメリット | |
|---|---|
| ❶ | 機能間の調整などトップの負担が大きく、トップの意思決定に遅れが生じる可能性がある。そのため、環境変化や顧客ニーズへの対応が遅れる懸念がある |
| ❷ | 機能部門間で垣根が生じる可能性があり、組織内の人事交流が停滞し、部門横断的な対応や組織内の情報共有が困難になる懸念がある |
| ❸ | 機能部門管理者が担当領域に専門化してしまい、全社的なマネジメント力がある人材が育ちにくい |
| ❹ | 各機能部門の利益責任の所在が不明確である |
④ メリットとデメリットは裏表
並べてみると、同じ性質から長所と短所の両方が出ていることが分かります。
| 性質 | メリットとして | デメリットとして |
|---|---|---|
| 権限が上に集中している | 統制を図りやすい、大局的な意思決定 | トップの負担が大きく、意思決定が遅れる |
| 機能ごとに分かれている | 専門性が発揮される、規模の経済 | 部門間に垣根ができ、情報共有が困難 |
| 担当領域に専念する | 熟練が進む | 全社的なマネジメント人材が育たない |
❹の利益責任の所在が不明確になるのは、製造部だけでも営業部だけでも利益は測れないからです。この点が、次に学ぶ事業部制組織との最大の違いになります。
⑤ どんな企業に向くか
以上をふまえると、機能別組織が向いているのは、
・扱う製品やサービスが単一か少数
・市場や技術の環境変化が緩やか
・トップが全体を把握できる規模
という条件を満たす企業です。中小企業の多くがこの形態を採っているのは、これらの条件に当てはまることが多いからです。
・人材が育たない……製造部長は製造しか知らず、営業部長は営業しか知りません。社長の後継者候補がいない、というのがこの会社の最大の悩みです。
・利益責任が不明確……ある商品が赤字だったとき、製造原価が高いのか、売価が安すぎたのかで議論が平行線になります。どちらの部門の責任かを切り分けられないのです。
この最後の点が、規模が大きくなったときに事業部制組織へ移行する動機になります。
② 事業部分割の基準
事業部は、製品・サービス、地域、顧客などの基準で編成され、大幅な権限が委譲されています。
| 基準 | 事業部の例 |
|---|---|
| 製品・サービス別 | A製品事業部、B製品事業部… |
| 地域別 | 首都圏、東日本、西日本、海外 |
| 顧客別 | 官公庁、民間企業、一般消費者 |
③ プロフィットセンター
各事業部は、事業部単位の計画・統制を行い、企業全体の利益向上に貢献します。このような事業部をプロフィットセンター(利益責任単位)とよびます。
機能別組織では利益責任の所在が不明確でしたが、事業部制組織では各事業部が利益に責任を負います。ここが決定的な違いです。
④ 権限について
経営管理のかなりの分野について事業部単位で権限をもつことになり、各事業部は独立会社のように運営されることになります。
したがって、事業部間で行われる取引に対しても内部振替価格などとよばれる価格が適用されるのが一般的です。
内部振替価格とは、社内の事業部どうしがやり取りするときに使う価格のことです。たとえばA事業部が作った部品をB事業部が使うとき、ただで渡すのではなく値段をつけて取引します。そうしないと、各事業部の利益を正しく測れないからです。
⑤ 本部に留保される権限
また、一般的には以下のような権限は本部に留保されます。
| 本部に留保される権限 | |
|---|---|
| ❶ | 長期経営計画および利益計画の決定 |
| ❷ | 予算の最終決定 |
| ❸ | 一定金額を超える設備投資の承認 |
| ❹ | 事業部の業績評価 |
| ❺ | 幹部の人事権 |
5つを見ると、いずれも全社の方向と資源配分にかかわるものです。第1章で学んだ企業戦略はトップマネジメントが担う、という話がここで具体的なかたちになっています。
⑥ メリット
| メリット | |
|---|---|
| ❶ | トップマネジメントが業務的管理の仕事から解放され、戦略的意思決定に多くの時間を割けるようになる |
| ❷ | 現場の状況に即応した弾力的で迅速な意思決定が可能である |
| ❸ | 下位管理者のモチベーションが高まるとともに、管理者の能力を高め、次代の経営者の養成が可能となる |
❶は前節の例外の原則そのものです。❸は、機能別組織のデメリットだった「全社的なマネジメント力がある人材が育ちにくい」を解消しています。
⑦ デメリット
| デメリット | |
|---|---|
| ❶ | 研究開発、購買などの職能が各事業部で重複して行われ、コストがかさむ |
| ❷ | 各事業部がそれぞれの利益の達成にこだわり、視野が狭く、短期的な判断に陥りやすい |
| ❸ | 事業部間の競争が激化し、セクショナリズムをもたらしやすい |
セクショナリズムとは、自分の部門の利害ばかりを重んじて、他部門や全社のことを考えなくなることです。
❶の重複は、機能別組織のメリットだった規模の経済の裏返しです。事業部ごとに購買部門を持てば、まとめ買いの効果が薄れます。
⑧ 2つの形態の対比
| 機能別組織 | 事業部制組織 | |
|---|---|---|
| 管理の型 | 集権管理型 | 分権管理型 |
| 部門の分け方 | 機能(人事・営業・製造…) | 製品・サービス、地域、顧客 |
| 利益責任 | 不明確 | 各事業部が負う(プロフィットセンター) |
| 管理指標 | - | 資本利益率(ROI) |
| 専門性 | 高い | 事業部ごとに分散 |
| 規模の経済 | 発揮しやすい | 職能が重複してコストがかさむ |
| 意思決定の速さ | 遅れやすい | 弾力的で迅速 |
| 経営者の養成 | 育ちにくい | 次代の経営者の養成が可能 |
きれいに裏返しになっていることが分かります。どちらが優れているかではなく、何を得たくて何を諦めるかの選択だということです。
第1章で学んだチャンドラーの「組織は戦略に従う」も、多角化という戦略を採った企業が機能別組織から事業部制組織へ移行した、という歴史でした。
具体例
機能別組織から事業部制組織へ移行した総合機器メーカーの前後を比べてみましょう。
移行前(機能別組織、売上400億円)
・製造部、営業部、開発部、管理部
・扱う製品は、計測機器、医療機器、環境機器の3分野
起きていた問題 医療機器は薬事の規制対応で開発に3年かかるのに、計測機器は半年で出さないと競合に負けます。ところが開発部はひとつなので、どちらの優先度が高いかを毎回社長が決めていました。決定が遅れ、計測機器の新製品は2年連続で競合に先を越されます。
また、医療機器が赤字になったとき、それが開発部の問題か営業部の問題かを切り分けられませんでした。利益責任の所在が不明確だったのです。
移行後(事業部制組織)
・計測機器事業部、医療機器事業部、環境機器事業部
・各事業部の中に、研究開発部・購買部・製造部・営業部を置いた
・本社には、研究所、人事部、経理部、総務部を残した
メリットが出た
・計測機器事業部は、本社を通さずに新製品の投入時期を決められるようになり、開発期間が平均で4か月短縮しました(弾力的で迅速な意思決定)
・各事業部のROIが毎月出るようになり、医療機器事業部の収益性の低さが数字で見えました(プロフィットセンター)
・事業部長が一通りの機能を統括するため、3年後には2人が経営陣に昇格しました(次代の経営者の養成)
デメリットも出た
・購買部が3つに分かれたため、同じ電子部品を別々に発注するようになり、仕入単価が7%上がりました(職能の重複)
・計測機器事業部が持っていた小型化の技術を、医療機器事業部に渡したがらなくなりました(セクショナリズム)
・各事業部長が自部門のROIを守るため、5年先を見据えた基礎研究への支出を削り始めました(短期的な判断)
本社が留保した権限が効いた 最後の問題については、本社が予算の最終決定権を使い、基礎研究費を本社の研究所に集約することで対応しました。本部に権限を留保しておく意味が、ここに表れています。

事業部制組織の構造
試験のポイント
| ❸ | 従来の日本企業の事業部では機能分化が徹底していなかったのに対して、各カンパニーの機能は研究開発から販売までを包含したものとなっている |
| ❹ | 分権化されたカンパニーの発言力が強くなり、本社のコントロールが利かなくなる結果、事業間のシナジーの追求や事業再編が困難になる |
❶のバランスシート経営とは、損益計算書(売上と利益)だけでなく、貸借対照表(資産と負債)まで各カンパニーに持たせるということです。「どれだけ稼いだか」に加えて「どれだけの資産を使って稼いだか」まで問われるようになります。
❹だけがデメリットにあたる点に注意してください。独立性を高めた結果、全社としてまとめにくくなるのです。
③ 別会社にするわけではない
ここが最も問われる論点です。
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『カンパニー制は、通常、多角化戦略によって事業領域を拡大する際、不確実性の高い新事業を切り離して法人格を持つ別会社として制度的に独立させ、本業や既存事業におよぼすリスクを軽減する』
カンパニー制は法人として別会社にするわけではありません。
あくまで社内の組織であり、法人格はひとつです。「独立した企業体に近い運営をしている」のであって、本当に独立した企業になるわけではありません。
④ 持株会社
なお、カンパニー制と似て非なるものに持株会社があります。
持株会社とは、他社の株式を保有した会社のことであり、経営権を握ることを目的として株式を保有することになります。
持株会社を設立することによって、それまでは1企業の中の部門であったものを、それぞれ独立した会社にすることも可能になります。
ここが、カンパニー制との決定的な違いです。持株会社では本当に別会社になります。
⑤ 純粋持株会社
純粋持株会社とは、親会社として自らは事業を行わず、複数の事業の株式を所有し、グループ全体の戦略や企画立案を行うことに特化した組織形態です。(それぞれの事業運営については基本的に権限を委譲して任せます。)
株式を所有することで他の会社の事業活動を支配することのみを事業目的とし、子会社からの配当が売上となります。
これにより、機動的な経営戦略や、迅速な事業構造の再構築(リストラクチャリング)が可能になります。
自らは事業を行わないという点と、子会社からの配当が売上という点が特徴的です。
第3章で学んだリストラクチャリングが可能になるのは、子会社の株式を売買するだけで事業の出入りができるからです。社内の事業部を切り離すよりはるかに機動的に動けます。
⑥ 3つの違いを整理する
| 事業部制組織 | カンパニー制 | 純粋持株会社 | |
|---|---|---|---|
| 法人格 | 1つ | 1つ | 親会社と子会社で別々 |
| 独立性 | 中 | 高い(独立した企業体に近い) | 完全に別会社 |
| 管理指標 | 資本利益率(ROI) | バランスシート経営、投資収益性 | 子会社からの配当 |
| 機能の範囲 | 事業部により異なる | 研究開発から販売まで包含 | 子会社ごとに完結 |
| 親会社の事業 | 本社機能あり | 本社機能あり | 自らは事業を行わない |
| 事業再編 | 可能 | 困難になりやすい | 機動的に可能 |
カンパニー制で事業再編が困難になる一方、純粋持株会社では機動的な再構築が可能という点が対照的です。この違いも出題されやすいところです。
具体例
同じ電機グループの組織が、20年で3つの形態を経た例を追ってみましょう。
第1期:事業部制組織
・法人はひとつ
・家電事業部、産業機器事業部、半導体事業部
・各事業部は損益(ROI)で管理される
・工場や設備は全社の資産であり、事業部は使うだけ
問題 半導体事業部は巨額の設備を使っているのに、損益だけで見ると黒字に見えていました。投下した資産に見合った利益が出ているかが分からなかったのです。
第2期:カンパニー制へ
・法人は依然としてひとつ
・家電カンパニー、産業機器カンパニー、半導体カンパニー
・各カンパニーに貸借対照表を持たせた(バランスシート経営)
・研究開発から販売までをカンパニー内に揃えた
半導体カンパニーは、使っている工場の資産まで背負うことになり、投資収益性で見ると大幅な赤字であることが明らかになりました。
ここで注意 この時点でも、法人格はひとつのままです。対外的には同じ会社であり、従業員も同じ会社に属しています。別会社にしたわけではないのです。
出てきた問題 カンパニーの独立性が高まった結果、家電カンパニーが持つ省電力技術を半導体カンパニーに使わせる話が何度も流れました。本社のコントロールが利かなくなり、事業間のシナジーの追求が困難という、まさに教科書どおりの状態です。
第3期:純粋持株会社へ
・親会社は自らは事業を行わないホールディングス
・家電、産業機器、半導体はそれぞれ別法人の子会社に
・親会社の売上は子会社からの配当
何が変わったか 赤字だった半導体子会社の株式を、海外メーカーに売却することで事業から撤退できました。事業部やカンパニーのままなら、工場と従業員を切り分ける作業に何年もかかったはずです。
株式を売るだけで事業の出入りができる。これが迅速な事業構造の再構築(リストラクチャリング)が可能になるということの意味です。
試験のポイント
マトリックス組織とするための条件としては次のようなものがあります。
❶ 少ない資源を複数の製品ライン間で共有しなければならない場合
たとえば、各製品ラインに専任の技術者を配置できるほど組織の規模が大きくなく、技術者は複数の製品やプロジェクトに兼任でかかわっているような状況です。
❷ 深い技術的知識(機能別構造)と頻繁な新製品開発(事業別構造)といった、2つ以上の重要なアウトプットを求める圧力が存在する場合
この二重の圧力は、機能別と製品別の両側面間でパワーバランスをとることを要求しているのであり、そのバランスを維持するために二重の組織構造が必要になります。
❸ 環境不確実性が高く、頻繁な外的変化や部門間の高い相互依存性が、縦・横方向の大量の調整や情報処理を必要とする場合
3つとも、片方だけの組織構造では足りないという状況を表しています。
④ メリット
| メリット | |
|---|---|
| ❶ | 職能、製品など2次元に基づいた組織的統合を図ることができる |
| ❷ | 人的資源が共有でき、また、課題に柔軟に対応できる |
| ❸ | 情報の共有により情報処理が迅速化する |
⑤ デメリット
| デメリット | |
|---|---|
| ❶ | 組織構成員が2人の上司から指示を受けるいわゆるワンマンツーボスシステムのため、組織内のコンフリクトが発生しやすい |
| ❷ | 命令系統の錯綜により、責任の所在が不明確になる |
| ❸ | 複数の管理者間での意見の対立が増大する |
⑥ ワンマンツーボスシステム
デメリットの中心にあるのが、このワンマンツーボスシステムです。1人の部下に2人の上司がいる状態を指します。
前節で学んだ命令統一性の原則は、「つねに特定の1人の上司からだけ命令を受ける」というものでした。マトリックス組織は、この原則に真っ向から反しています。
それでも採用されるのは、上の3条件のような状況では、原則を破ってでも二重の構造が必要になるからです。原則に反していることを承知のうえで選ぶ組織形態だと理解しておきましょう。
⑦ 関連多角化のときに採用される
過去問では、次の記述が誤りとして出題されています。
『マトリックス組織は、環境変化の速い複数の非関連事業に多角化した企業が、複数の事業部にまたがる横断的調整機能を導入したものである』
通常は、限られた経営資源を事業間で共有しなければならない関連多角化の際に採用されます。
非関連多角化ではなく関連多角化という点が要です。
理由を考えると納得できます。事業どうしが無関係なら、資源を共有する必要がありません。共有する必要がないのに二重構造を作れば、混乱だけが残ります。資源を共有できるからこそ、範囲の経済性が追求できるわけです。
⑧ 4つの形態のまとめ
| 機能別組織 | 事業部制組織 | カンパニー制 | マトリックス組織 | |
|---|---|---|---|---|
| 管理の型 | 集権 | 分権 | 分権を徹底 | 二重構造 |
| 上司の数 | 1人 | 1人 | 1人 | 2人 |
| 命令統一性の原則 | 守る | 守る | 守る | 反する |
| ねらい | 専門性と規模の経済 | 現場への即応と利益責任 | 独立採算の徹底 | 範囲の経済性 |
| 主な弱点 | トップの負担、利益責任が不明確 | 職能の重複、セクショナリズム | 本社の統制が利かない | コンフリクト、責任が不明確 |
具体例
中堅の医療機器メーカーが、マトリックス組織を採用した経緯を見てみましょう。従業員は420人です。
抱えていた状況
・製品は内視鏡、超音波診断装置、患者監視装置の3系統
・いずれも画像処理技術とセンサー技術を使う(関連多角化)
・画像処理の専門技術者は社内に7人しかいない
❶ 少ない資源を複数の製品ライン間で共有しなければならない 3つの製品それぞれに専任の画像処理技術者を置くには、最低でも15人が必要ですが、7人しかいません。兼任でかかわるしかない状況でした。
❷ 2つ以上の重要なアウトプットを求める圧力 ・画像処理の技術は年々高度になり、深い専門知識が要る(機能別構造の要請)
・一方、競合の新製品投入が速く、年2回のモデル更新が要る(事業別構造の要請)
機能別組織にすれば技術は深まるが製品が出ない。事業部制にすれば製品は出るが技術が薄まる。どちらか一方では足りなかったのです。
採用した組織
・タテ……内視鏡事業部、超音波事業部、患者監視事業部
・ヨコ……画像処理部門、センサー部門、生産部門
・画像処理技術者7人は、画像処理部門に所属しながら、各事業部のプロジェクトに配属される
メリットが出た
・7人の技術者を3事業で共有できた(人的資源の共有、範囲の経済性)
・内視鏡で開発したノイズ除去の手法が、3か月後には超音波にも展開された(情報の共有)
デメリットも出た
ある技術者は、
・画像処理部長から「この論文の手法を試して技術を深めろ」
・内視鏡事業部長から「来月の展示会に間に合わせろ」
と、同時に指示を受けました。ワンマンツーボスシステムです。
どちらも正しい要求ですが、両立しません。技術者は板挟みになり、2人の管理者のあいだでも対立が起きました。
会社が取った対応 ・技術者の人事評価は画像処理部長が行い、日々の業務の優先順位は事業部長が決める、と役割を明文化
・両者が対立した場合は、月次の調整会議で裁定する
コンフリクトをなくすことはできないので、起きる前提で処理する仕組みを用意したわけです。マトリックス組織を運用するとは、こういうことです。

マトリックス組織の構造
試験のポイント
プレミアムプラン
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