第4章 小規模企業白書2024年版第2部 経営課題に立ち向かう小規模事業者
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プレミアムで見る小規模事業者の人材の話は、「足りない」という一言では終わりません。むしろこの節でいちばん面白いのは、小規模事業者が女性と高齢者の受け皿になっているという事実です。
従業者4人以下の事業者では、60歳代以上の雇用者が約4割を占めます。非正規の女性従業者の割合は74.5%で、300人以上の企業(67.0%)を上回ります。正規に限っても45.5%と、やはり大企業(27.5%)を大きく超えています。小規模事業者は女性や高齢者に対して、雇用機会を提供しながら人手不足を補っているのです。
一方で構造的な弱さもあります。労働分配率が84.6%と大企業(51.2%)の1.6倍。稼いだ付加価値のほとんどが人件費に消えているため、最低賃金が上がり続けるなかで賃金を引き上げる余力が少なく、人材を確保することが難しくなる可能性があります。
そして採用と定着の鍵。転職者が勤め先を選んだ一番の理由は「自分の技能・能力が活かせるから」、自己都合で辞めた一番の理由は「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」。賃金ではなく、仕事の中身と働く環境が、人を呼び、人を留めるということです。
簡単にいうと
生産年齢人口は1995年の8,716万人がピーク。小さい事業者ほど60歳代以上と女性の割合が高い——雇用機会を提供しながら人手不足を補っているんだ。
生産年齢人口(15〜64歳人口)の推移を確認すると、1995年の約8,700万人(8,716万人)をピークに減少傾向にあり、今後も減少が進むことが見込まれます。2070年には4,535万人まで減少すると推計されています。
ピーク時の約半分。約75年で労働力の供給基盤が半減するという推計です。
総人口は減少傾向にあり、2070年までに8,700万人まで減少すると推計されています。また高齢化率(65歳以上人口割合)は上昇傾向にあり、2070年までに38.7%まで達すると推計されています。
生産年齢人口の2070年の値(4,535万人)と、総人口の2070年の値(8,700万人)がそれぞれ別の数字であることに注意してください。また生産年齢人口のピーク(1995年8,716万人)と総人口の2070年の推計値(8,700万人)が近い数字なので、混同しないようにしましょう。
2025年以降は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の
簡単にいうと
勤め先を選んだ一番の理由は「自分の技能・能力が活かせるから」。辞めた一番の理由は「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」。賃金じゃないんだ!
厚生労働省「令和2年転職者実態調査 個人調査」による、現在の勤め先の事業所規模が5〜29人である転職者の結果です。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 自分の技能・能力が活かせるから | 18.2% |
| 仕事の内容・職種に満足がいくから | 16.5% |
| 労働条件(賃金以外)がよいから |
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2022年、従業者規模別の年代構成です。
| 年代 | 4人以下 | 5〜19人 | 20〜299人 | 300人以上 |
|---|---|---|---|---|
| 20歳代以下 | 6.2% | 15.0% | 17.9% | 21.1% |
| 30歳代 | 12.2% | 15.9% | 18.0% | 19.9% |
| 40歳代 | 21.4% | 22.8% | 23.4% | 23.6% |
| 50歳代 | 22.6% | 21.3% | 21.7% | 23.3% |
| 60歳代 | 19.2% | 15.1% | 13.4% | 9.9% |
| 70歳代以上 | 18.5% | 9.8% | 5.6% | 2.2% |
従業者規模4人以下の事業者では、60歳代(19.2%)と70歳代以上(18.5%)を合わせて約4割を占めています。一方、300人以上の企業では両者を合わせても12.1%にすぎません。
逆に20歳代以下は4人以下で6.2%、300人以上で21.1%と、3倍以上の開きがあります。規模が小さいほど高齢、大きいほど若いという、きれいな傾斜がついています。
2022年、従業者規模別・正規/非正規別です。ここでいう女性従業者数の割合とは、(女性従業者数)÷(男性従業者数+女性従業者数)で算出したものです。
| 従業者規模 | 正規の職員・従業員 | 非正規の職員・従業員 |
|---|---|---|
| 4人以下 | 45.5% | 74.5% |
| 5〜19人 | 33.5% | 70.2% |
| 20〜299人 | 29.1% | 63.9% |
| 300人以上 | 27.5% | 67.0% |
従業者規模の小さい事業者ほど、女性従業者の割合が高くなっています。正規では4人以下の45.5%に対し300人以上は27.5%と、18ポイントの差があります。
⇒ 小規模事業者は女性や高齢者に対して、雇用機会を提供しながら人手不足を補っている様子が示唆されます。
この一文は、小規模事業者の社会的役割を語るうえで重要な論点です。「小規模事業者は人が採れない弱い存在」という見方に対して、大企業が採らない層を引き受けているという別の顔があることを示しています。
なお非正規では300人以上(67.0%)が20〜299人(63.9%)を上回っており、非正規に限れば単調な傾斜にはなっていない点に注意してください。「規模が小さいほど女性割合が高い」という記述は、正規については完全に成り立ちますが、非正規では300人以上が例外になります。
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値額のうち、どれだけが労働者に分配されているかを表す指標です。ここでは付加価値額に占める人件費として計算されています。
| 企業規模 | 2007年度 | 2022年度 |
|---|---|---|
| 小規模企業(資本金1千万円未満) | 85.3% | 84.6% |
| 中規模企業(資本金1千万円以上1億円未満) | 78.6% | 77.3% |
| 大企業(資本金10億円以上) | 52.9% | 51.2% |
小規模企業の労働分配率は、大企業や中規模企業と比較して高い水準で推移しています。2022年度は小規模企業84.6%に対し大企業51.2%と、1.65倍の開きがあります。
つまり、最低賃金が上がり続けるなかで、規模の小さい企業ほど賃金を引き上げる体力が残っていません。その結果、人を集めること自体が難しくなっていくおそれがあります。
労働分配率が高いということは、稼いだ付加価値のうち人件費に回っている割合が大きいということ。すでに8割以上を人件費に充てている企業に「もっと賃上げを」と言っても、原資がありません。第2章で学んだ「防衛的な賃上げ」が、小規模事業者にとってどれほど重いかがここから分かります。
なお付加価値額の定義は次のとおりです。
付加価値額 = 営業純益(営業利益 - 支払利息等)+ 人件費(役員給与 + 役員賞与 + 従業員給与 + 従業員賞与 + 福利厚生費)+ 支払利息等 + 動産・不動産賃借料 + 租税公課。金融業、保険業は含まれていません。

小規模事業者の労働力構造
試験のポイント
| 賃金が高いから | 10.4% |
| 前の会社の紹介 | 8.1% |
| その他 | 15.2% |
「自分の技能・能力が活かせるから」が最も多く(18.2%)、次いで「仕事の内容・職種に満足がいくから」(16.5%)が多くなっています。また「労働条件(賃金以外)がよいから」(13.0%)も他の理由と比較すると多くなっています。
注目すべきは、「賃金が高いから」が10.4%と4位にとどまっていることです。上位3つはいずれも仕事の中身と働く環境に関するものです。
⇒ 中途採用の人材を獲得する上では、能力を活かせる業務内容や労働環境が重要であると考えられます。
第3章で学んだ「働き手は自身が成長できると感じられる仕事を求めている」という傾向と、同じ方向を指しています。そして第1章で学んだ「中小企業は知名度・給与水準で大企業に劣る」という弱みに対して、給与以外の土俵で戦える余地があることを示すデータでもあります。
転職者が直前の勤め先を離職した主な理由を確認すると、「自己都合」が最も多く76.6%を占めます(次いで「契約期間の満了」5.8%)。
倒産・整理解雇・人員整理による勧奨退職や定年ではなく、自ら辞めているというのが圧倒的多数だということです。
では、その「自己都合」の中身は何でしょうか。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 労働条件(賃金以外)がよくなかったから | 28.2% |
| 満足のいく仕事内容でなかったから | 26.0% |
| 賃金が低かったから | 23.8% |
| 会社の将来に不安を感じたから | 23.3% |
| 人間関係がうまくいかなかったから | 23.0% |
| 他によい仕事があったから | 16.1% |
| いろいろな会社で経験を積みたいから | 15.9% |
| 能力・実績が正当に評価されないから | 15.3% |
| 安全や衛生等の職場環境がよくなかったから | 10.2% |
| 雇用が不安定だったため | 8.3% |
| 結婚・出産・育児のため | 6.2% |
| 病気・怪我のため | 4.0% |
| 介護・看護のため | 2.7% |
| 家族の転職・転居のため | 2.2% |
「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」が最も多く(28.2%)、次いで「満足のいく仕事内容でなかったから」(26.0%)「賃金が低かったから」(23.8%)が多くなっています。
⇒ 人材を定着させる上でも、業務内容や労働環境を整備していくことが有効と推察されます。
ここでも賃金は3位です。
入るときの理由(技能が活かせる → 仕事内容 → 労働条件)と、出るときの理由(労働条件 → 仕事内容 → 賃金)を並べると、上位を占める要素がほぼ同じであることが分かります。
| 順位 | 入社理由 | 離職理由 |
|---|---|---|
| 1位 | 自分の技能・能力が活かせるから | 労働条件(賃金以外)がよくなかったから |
| 2位 | 仕事の内容・職種に満足がいくから | 満足のいく仕事内容でなかったから |
| 3位 | 労働条件(賃金以外)がよいから | 賃金が低かったから |
| 4位 | 賃金が高いから | 会社の将来に不安を感じたから |
人が来る理由と去る理由は同じコインの裏表であり、そのコインの表面に書かれているのは賃金ではなく「仕事の中身」と「労働条件」だ、ということです。
EYストラテジー・アンド・コンサルティングの調査です(n=2,367)。人材育成の取組状況について「積極的に行っている」「ある程度行っている」と回答した事業者に聞いたものです。
| 課題 | 割合 |
|---|---|
| 育成にかける時間がない | 53.3% |
| 指導する人材の不足 | 27.2% |
| 特になし | 18.3% |
| 育成しても離職してしまう | 15.6% |
| 育成のための資金がない | 13.4% |
| 育成のためのノウハウがない | 13.2% |
| 育てがいのある人材が少ない | 9.9% |
| その他 | 2.7% |
「育成にかける時間がない」が最も多く(53.3%)、次いで「指導する人材の不足」(27.2%)「育成しても離職してしまう」(15.6%)が多くなっています。
⇒ 人材育成にかける時間や人材の不足のほか、育成した人材が離職する懸念が人材育成に取り組む上での課題となっている様子がうかがえます。
第3章で見た中小企業全体の育成課題(1位「指導する人材の不足」53.3%、2位「育成にかける時間がない」39.5%)と比べると、小規模事業者では1位と2位が入れ替わっています。
| 順位 | 中小企業全体(第3章) | 小規模事業者(この節) |
|---|---|---|
| 1位 | 指導する人材の不足(53.3%) | 育成にかける時間がない(53.3%) |
| 2位 | 育成にかける時間がない(39.5%) | 指導する人材の不足(27.2%) |
規模が小さいほど、教える人がいないこと以上に時間そのものがないという悩みが前面に出る。経理事務を代表者が兼務している(93.3%が1人・うち68.5%が代表者兼務)という実態を思い出すと、この結果は自然に理解できます。
そして「育成しても離職してしまう」が15.6%あることも重要です。育てた人に辞められるくらいなら育てない、という判断が働けば、定着の問題が育成の問題を生むという悪循環になります。だからこそ、前のテーマで見た「業務内容や労働環境の整備」が、採用・定着・育成のすべてに効く打ち手になるわけです。

小規模事業者の人材定着と育成
試験のポイント
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