事例I(組織・人事管理)攻略テキスト
事例Iとはどんな事例か
中小企業の組織・人事上の課題を診断し、改善策を助言する事例です。「経営戦略(なぜその判断をしたか)」「組織体制(どんな構造にすべきか)」「人事管理(採用・育成・定着・権限委譲)」の3軸で構成されており、毎年5問・各20点の配点が基本です。与件文から「何が弱みで、なぜそうなっているか」を正確に読み取る読解力と、組織・人事管理のフレームワークを当てはめる知識の両方が問われます。難易度は中〜高で、例年合格答案と不合格答案の差が大きい事例です。
事例Iを理解する3つの軸
事例Iの設問は「①経営戦略」「②組織管理」「③人事管理」の3軸のどれかに必ず分類できます。与件文を読む前に設問文を一読してこの分類をメモしておくと、与件文の読み方が格段に効率化されます。
【軸①:経営戦略】「なぜその戦略を選んだか(理由)」「強みと弱みは何か(SWOT分析)」「どんな利点・欠点があるか」を問います。与件文からファクトを拾い、因果関係で繋いで答えます。一般論で書くと大幅減点。令和3年度第1問(ファブレス化の理由)・令和4年度第1問(法人化前の強み・弱み)が典型例です。
【軸②:組織管理】「どんな組織構造にすべきか(機能別 vs 事業部制)」「どう指揮命令系統を整えるか」「権限委譲・後継者への移行をどう進めるか」を問います。組織論の用語(機能別組織・分権化・スパン・オブ・コントロールなど)を使いこなす必要があります。令和4年度第4問設問1が典型例です。
【軸③:人事管理】「採用・定着・育成・評価・モチベーション」に関する施策を問います。OJT/Off-JT・公平な評価制度・役割分担の明確化・帰属意識の醸成といったキーワードを文脈に合わせて使います。令和4年度第2問(新規就農者の獲得・定着)が典型例です。
与件文の読み方マスタープラン(段落別役割マップ)
事例Iの与件文は平均10〜12段落・1,000字前後で構成されます。段落ごとに「読む目的」が異なるため、行き当たりばったりに読んでいると時間が足りなくなります。以下の「段落の役割マップ」を意識して2回読みましょう。
【冒頭1〜2段落:企業プロフィール】業種・規模・立地・創業の経緯。ここで会社の"顔"をつかみます。「X県の農業法人」「創業○○年の老舗」という記述でビジネスモデルのイメージを固めます。強みの文脈になりやすい段落です。
【中盤3〜7段落:歴史的展開と変化】どんな事業展開をしてきたか、外部環境の変化にどう対応してきたかが描かれます。強みの根拠・弱みの根拠・問題の背景がここに集中しています。「しかし」「一方で」「ところが」という逆接の後に弱みが続くパターンが頻出。マーカーを引きながら読みましょう。
【終盤8〜12段落:現状・課題・展望】現在の組織体制・人員構成・後継者問題・新事業の動向など。「施策を助言せよ」「今後の課題は何か」という設問の答えが集中するゾーンです。特に「現経営者が△△を検討している」「後継者候補が入社した」という記述は権限委譲問題の根拠になります。
★実践テクニック
1回目は60〜90秒でざっと全体を通読してストーリーをつかみます。2回目は設問を意識しながら段落ごとに根拠をマーキング。「この段落はQ2の根拠」「この逆接はQ1の弱みの根拠」という対応関係を頭に入れてから解答を書き始めましょう。
設問タイプの見分け方と解答の型
設問文を最初に読んだとき、「このタイプだ」と瞬時に判断できれば解答の型が決まり、迷わず書き始められます。事例Iの設問は以下の4タイプのいずれかです。
【タイプA:理由・原因を問う問題(Why問題)】「なぜ〜したのか」「〜の理由を述べよ」という形式。解答の型は「理由は①〜ため、②〜ため」または「〜という環境変化に対し、〜を目的として〜を行ったため」という因果関係の文型。令和3年度第1問(ファブレス化の理由)、第2問(3代目に部門統括を任せた理由)が典型。
【タイプB:分析・評価を問う問題(What問題)】「強み・弱みは何か」「利点・欠点を述べよ」という形式。解答の型は「強みは①〜②〜、弱みは①〜②〜」の列挙形式。与件文から事実を抽出して当てはめるだけなので、与件文精読力が直接得点に出ます。令和4年度第1問(法人化前の強み・弱み)が典型。
【タイプC:施策・助言を求める問題(How問題)】「どのような施策をとるべきか」「助言せよ」という形式。解答の型は「①〜し、②〜することで(目的)を実現する」という手段+目的の文型。組織管理・人事管理のキーワードを文脈に合わせて使います。令和4年度第2〜4問が典型。
【タイプD:複合問題】設問の中に「(設問1)50字・(設問2)100字」という2段構えが含まれるもの。令和4年度第4問(組織構造の選択+権限委譲方法)が典型。設問1と設問2は独立して答えること。設問1が設問2の前提条件になることが多いので、設問1で決めた方針(機能別組織など)を設問2の解答でも踏まえます。
強み・弱み問題の解き方(SWOT精読術)
強み・弱み問題で合否を分けるのは「制約条件の確認」です。「法人化以前において」「当時の状況について」など時点が指定されている場合、その時点より後の情報を使うと大幅減点になります。令和4年度第1問は「法人化(第8段落以降)前」の強み・弱みを問うており、第8段落以降の情報は使えません。設問文の制約条件は赤ペンで囲むくらい意識してください。
強みの抽出法:外部(市場・顧客・認証機関)から評価・認知されている実績に注目します。「〜の評判を得た」「〜として人気を博した」「〜認証を取得した」「〜が業界で知られている」という表現が強みの根拠。令和4年度なら「有機JAS・JGAPの認証取得」「サツマイモが地域の特産品として人気」が強みの根拠です。
弱みの抽出法:与件文の逆接表現(「しかし」「一方で」「ところが」「課題があった」「苦労していた」)の後に続く記述が弱みの根拠です。組織体制の不備(「役割分担が不明確」)・人材の課題(「帰属意識が低い」「定着が悪い」)・経営の課題(「特定顧客への依存度が高い」)が典型パターンです。
解答の構成:100字問題であれば強み2点・弱み2点の列挙が基本。「強みは①〜②〜、弱みは①〜②〜」という対比構造が採点者に伝わりやすく、漏れも防ぎやすいです。50字以下なら強み1点・弱み1点の核心だけ絞り込みます。必ず「与件文のどの段落のどの記述が根拠か」を自分で確認してから書き始めてください。
人材採用・定着問題の解き方(獲得×定着の2軸)
採用・定着問題は「獲得(採用活動)」と「定着(育成・環境整備)」の2軸で解答を構成することが鉄則です。令和4年度第2問「新規就農者を獲得し定着させるための施策」はこの2軸を外すと大幅減点です。どちらか一方だけでは設問の要求を満たしません。
【獲得施策の方向性】ターゲット人材が「この会社で働きたい」と思えるような外部訴求が核心です。①会社のビジョン・コンセプトを対外発信してブランドイメージを確立する、②SNS・求人媒体での情報発信、③インターンシップや見学会で職場をリアルに体験させる、④求職者が共感できるストーリーを発信する(「人にやさしく環境にやさしい農業」というコンセプトなら、そのコンセプトへの共感者を呼び込む)。
【定着施策の方向性】入社後のモチベーション維持・帰属意識の醸成が核心です。①役割分担の明確化(誰が何をするか曖昧だと離職につながる)、②公平で透明な人事評価制度の整備(成果が正当に評価される仕組み)、③OJT/Off-JTによるスキルアップ機会の提供(成長実感を持てる環境)、④コミュニケーション機会の創出(帰属意識・職場の一体感)。
解答の構成例(100字):「獲得面で①〜のコンセプトを対外発信しブランディングを強化して共感人材を獲得する。定着面で①公平な評価制度の整備②役割分担の明確化を行い帰属意識と就労意欲を高める。」字数を意識して獲得・定着のバランスを取ってください。
組織構造問題の解き方(機能別 vs 事業部制)
組織構造問題では、まず「機能別組織」か「事業部制組織」かを明示して選択し、次にその理由(与件文根拠+組織論の知識)を述べます。事例Iで問われる中小企業は「機能別組織」が正解になることが圧倒的に多いです。令和4年度第4問設問1も機能別組織が正解でした。
【機能別組織を選ぶべき状況】①複数事業・複数商品で人材・設備・ノウハウを横断して使い回したい場合、②各機能(生産・販売・管理・研究開発)で専門性を深めて効率を上げたい場合、③規模が中小でリソースが限られており二重投資を避けたい場合。「役割分担が不明確」「組織体制が不備」「専門性を高めたい」という与件文記述がある場合は機能別組織が正解のシグナルです。
【事業部制組織を選ぶべき状況】①事業ドメインが大きく異なる複数事業(例:食品×不動産)を独立して運営する場合、②各事業の機動力・自律性が重要な場合。中小企業でこの状況になることはまれで、与件文に明確な根拠がなければ事業部制は選ばないようにしましょう。
解答の構成例(50字):「機能別組織を構築し、生産・販売・管理の役割分担を明確化することで専門性を高め経営資源を効率的に活用する。」(53字)。
権限委譲・後継者育成問題の解き方(段階的移譲の原則)
後継者への世代交代・権限委譲は事例Iの最頻出テーマです。令和4年度第4問設問2・令和3年度第5問など毎年のように出題されます。解答に入れるべき構成要素は「段階的移譲・リーダー候補の育成・仕組み化・現経営者の役割変化」の4点セットです。
【段階的移譲】「一度に全権限を移す」のではなく、「段階的に移譲する」とキーワードを入れることが重要です。まず小さな決裁権限から任せ、業績・実績を積み上げながら大きな権限を委ねていくというストーリー。「段階的」という言葉が入っていないと採点者には「ドラスティックな移行」と読まれてしまうリスクがあります。
【リーダー候補の配置と育成】後継者1人だけでなく、「各部門にリーダー候補を配置する」という視点を入れます。OJT(実務の中での教育・指導)と管理者向け研修(Off-JT)を組み合わせることで、組織全体として次世代管理者を育てる体制を描きます。
【現経営者の役割変化】「現経営者は助言者・顧問的役割にとどまる」という表現は採点で評価されやすいキーワードです。経営者が現場の意思決定から離れ、後継者が自律的に判断できる環境を作ることが世代交代の本質です。
解答の構成例(100字):「①後継者に経営権限を段階的に移譲し、②各部門へリーダー候補を配置してOJT・研修で管理者育成を図り、③現経営者は助言者的役割にとどめ後継者中心の体制へ移行する。」
外部連携・ネットワーク問題の解き方
事例企業(A社)が外部の協力企業・パートナーと関係を持っている場合、その関係をどう発展させるかを問う設問があります。令和3年度第4問(外部企業との関係の発展方法)が典型例です。現状を分析して、より強固な関係へとレベルアップさせる方向で答えます。
解答の基本方向性:「プロジェクト単位の一時的な連携 → 長期的・継続的な戦略的提携へ」というステップアップです。臨時的な外注関係から、共同開発・共同受注・情報共有を伴う戦略的パートナーシップへと昇華させるストーリーを描きます。
具体的な施策の方向性:①協力企業ごとの強みを正確に把握し、得意分野に応じた役割分担でサプライチェーンを最適化する。②双方向の情報共有と共同目標の設定でコミュニケーションを深める。③共同開発・共同提案・新市場開拓など、新たな価値創造につながる取り組みへと発展させる。
注意点:「外部依存のリスク」を指摘して関係を縮小する方向で答えることはほぼ誤答です。与件文に外部連携が強みとして書かれている場合、その関係をさらに強化・深化させる方向で答えましょう。単なる下請け・外注関係ではなく「共同創造・共創パートナー」という視点で書くと加点されます。
解答作成の実践テクニック(字数別の書き方)
事例Iは80〜100字の設問が中心で、限られた字数に複数の論点を密度高く詰め込む技術が必要です。字数に応じた解答パターンを覚えておきましょう。
【50字以下の設問】核心の施策・方針を1〜2点だけ書きます。「○○を構築し、□□を実現する」という1センテンスで完結させます。余計な修飾語は削除してシンプルに。
【80〜100字の設問】3点列挙が基本です。「①〜し、②〜することで、③〜を実現する」または「①〜②〜③〜」の形式で3つの施策・根拠を盛り込みます。接続詞を「、」や「。」に省略することで字数を節約できます。
【キーワードの使い方】採点者はキーワードで採点しています。「帰属意識」「役割分担の明確化」「公平な評価制度」「段階的に移譲」「機能別組織」「OJT」などの専門用語は積極的に使いましょう。ただし羅列すると意味不明になるため、必ず文脈に合った使い方をすること。
【制約条件の再確認】解答を書き始める前に設問文をもう一度確認する習慣をつけましょう。「中小企業診断士として」という指示があれば助言形式で書く、「〜以前において」という時点制限があれば対象段落を絞る、字数は1字もオーバーしない(超えると採点対象外になる可能性)という原則を守ってください。
事例I頻出キーワード・フレーズ集
事例Iで繰り返し登場するキーワードです。試験直前に確認して使いこなせるようにしておきましょう。これらを適切な文脈で使えると解答の説得力が大幅に上がります。
【組織管理系】機能別組織 / 事業部制組織 / 役割分担の明確化 / 指揮命令系統の整備 / フラット化 / 分権化 / 権限委譲 / 段階的移譲 / コミュニケーション経路 / 組織の一体感 / 組織文化
【人事管理系】OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング) / Off-JT(社外研修・集合研修) / 人事評価制度 / 成果主義 / 公平で透明な評価 / 帰属意識 / モチベーション向上 / 採用ブランディング / 後継者育成 / コンピテンシー評価
【経営戦略系】競争優位 / コアコンピタンス / SWOT分析 / 強み・弱み / 選択と集中 / 事業ドメイン / シナジー効果 / ファブレス化 / 差別化戦略 / アライアンス(提携) / バリューチェーン
【よく使う接続フレーズ】「〜を段階的に移譲し」「公平で透明な評価制度を整備し」「役割分担を明確化することで」「OJT・研修を通じて管理者育成を図り」「帰属意識を高め定着を促進する」「ブランドイメージを対外発信し採用力を強化する」
攻略のポイント
- ✓設問文を最初に読み、タイプ(Why/What/How/複合)と制約条件を確認してから与件文を読む
- ✓与件文は2回読む(1回目:全体のストーリー把握、2回目:設問との対応関係を確認)
- ✓与件文の逆接表現(「しかし」「一方で」「ところが」)の後に弱みが書かれていることが多い
- ✓強みは「外部評価・実績・認証」から抽出し、必ず与件文の根拠を引用する
- ✓採用・定着問題は「獲得(採用)」と「定着(育成・環境整備)」の2軸を必ず両方書く
- ✓組織構造は中小企業なら「機能別組織」が正解になることが多い(与件文の根拠を添える)
- ✓権限委譲は「段階的移譲」「リーダー候補の配置・育成」「現経営者は助言者役」の3点セット
- ✓解答は①②③の列挙形式で、専門キーワード(帰属意識・役割分担の明確化・OJTなど)を適切に使う
- ✓字数制限は1字もオーバーしない(必ず書き終わったら数える)
- ✓「助言せよ」という設問は現状分析だけでなく必ず施策・方針を書く
独学でありがちな失敗
なる子ちゃんからのアドバイス
事例Iの合格答案と不合格答案の差は「与件文の根拠を使っているかどうか」です。どんなに正しいフレームワーク知識も、与件文の事実と紐づいていなければ得点になりません。逆に、与件文の事実と組織・人事管理のキーワードを組み合わせるだけで得点できる設問が多いです。 実力をつける最速ルートは「テキストで型を理解 → 過去問に型を当てはめる練習 → AI添削でズレを修正 → 繰り返す」です。特に過去問5年分で「設問タイプの分類」と「与件文の根拠を拾う訓練」を繰り返すと、本番での読解スピードが格段に上がります。令和3〜6年度の解説は「過去問解説」ページで確認してください。